アニメーション制作進行くろみちゃん
『アニメーション制作進行くろみちゃん』は『おじゃる丸』や『こどものおもちゃ』などの作品で知られる大地丙太郎が手掛けたOVA作品。全2巻で、第1作は2001年、第2作は2003年製作。
概要
本作はアニメ制作における「制作進行」という役職に焦点を当てた、いわゆる業界アニメであるが、アニメでアニメ業界という舞台を取り上げたのは、本作が初めてといわれている。アニメーターの苦しい現状や、スケジュールや作画の乱れがなぜ起こるのかといった、アニメ業界の問題点を正面から描き出している。などと書くと非常に硬い印象を受けるが、ギャグとシリアスのメリハリが利いた展開、渡辺はじめが描き出す温かみあるキャラクターたちなどのお陰で、業界に全く通じていなくても純粋にアニメ作品として楽しめる作りになっている。
第1作は2002年度 新世紀東京国際アニメフェア21 オリジナルビデオアニメ部門 優秀作品賞を、第2作は東京国際アニメフェア2005 「東京アニメアワード」 OVA部門 優秀作品賞をそれぞれ受賞している。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
あらすじ
アニメーション制作進行くろみちゃん(第1作)
アニメ学校を卒業し、念願のアニメ業界に就職することになった大黒みき子は、初めての職場「スタジオプチ」に出社、そこで「制作デスク」である追浜の手厚い歓迎を受けることになる。しかし、その追浜は大黒みき子に「くろみ」というあだ名(名字と名前の「黒み」の部分をとって命名)を勝手に付け、社内を一通り案内したあと、突然胃潰瘍で倒れて救急車で運ばれてしまう。
残されたくろみは、追浜の後釜として社長からいきなり制作デスクを任されてしまう。しかも、追浜が残した仕事、『タイムジャーニーズ』の第2話はまともに原画が上がっておらず、放送ができるかどうか微妙という最悪の状態。新人にしていきなり制作デスクを任されたくろみは、果たして無事にこの苦境を乗り切ることができるのだろうか?
アニメーション制作進行くろみちゃん 日本のアニメは私が作る!2
前作から3ヶ月が経ち、くろみのデビュー作だった『タイムジャーニーズ』も結局1クール打ち切りとなっていたが、くろみたちスタジオプチの面々は当時よりも遥かに忙しい日々を送っていた。
というのも、『タイジャニ』が打ち切られる前後に社長からかなり無茶な仕事を打診されていたからだった。それは、メンバーの数を変えず、1クールにシリーズ3本を同時に請け負うというもの。お陰でスタッフたちは一杯一杯。作画マンたちもあれやこれやと理由をつけてはサボる始末で、原画も全く上がらず、くろみは頭の痛くなるような日々を送っていた。
そんな折、社長は高島平というベテランの制作デスクを助っ人として呼び寄せる。彼は質よりも早さを徹底させることで、この難局を乗り切ることを考えていた。彼のやや強引なやり方にくろみは反発心を覚えるが、着実に結果を出す高島平のやり方に表立って反抗することができない。
しかしそんな時に、高島平のある強引なやり方に反発した四本松が失踪してしまう。くろみは彼女の失踪の理由を知らされ、急いで彼女を探しに行くことに。果たしてくろみたちは、自分の納得できる形で、この仕事をやり遂げることができるだろうか?
登場人物
- 大黒 みき子(おおぐろ みきこ)
- 声 - 麻生かほ里
- 大東京アニメチックアカデミー卒業後、追浜の後釜として新人にしていきなり入社したばかりのスタジオプチの制作デスクを任せられることになった本作の主人公。
- 高校のときに見た『ルイモンドIII世』というアニメ作品に影響を受けて、この業界に入る決意をした。
- 最初のうちは何をしていいのか分からない上に何をやっても空回りするばかりで酷く落ち込むことになるが、四本松の激励や周囲の人間のサポート、そして持ち前の明るさで見事、社長から出される無理難題を達成していくことになる。
- 追浜に出会い頭に付けられた「くろみ」というあだ名は事実上彼女の呼び名となる。最初のうちはそのことに戸惑いを見せていたが、次第にこの名前に親しみを持つように。
- 明るく何事にも一生懸命な性格で、知らず知らずのうちに周囲の人間を引き込む力を持っている。
- この「くろみ」のモデルとなった人物はゆめ太カンパニーの女性社員で、現在は退職している。
- 四本松 浜子(しほんまつ はまこ)
- 声 - 安原麗子
- スタジオプチの作画監督。
- 一見するとクールな印象を受けるが、新人で何かと戸惑う大黒にあれこれサポートしてあげたり、個性的な作画マンたちをあの手この手で纏め上げたりと、とても面倒見が良い。
- 作監としても非常に優秀だが、かつてやっていた動画マンとしての腕も相当なものがある。
- 重度のヘビースモーカーで、常に口にタバコを咥えていないと落ち着かないらしい。第2作では、禁煙を行い鉛筆やネギや花などをタバコの代わりに咥えたりして必死で耐えている様子が伺える。
- アニメーターとしての現実にぶつかり、一度挫折しかけた過去がある。
- 八月朔日 八朔(ほずみ はっさく)
- 声 - 松本吉朗
- スタジオプチの演出家。
- 演出家としては中々の腕だが、作画のチェックはざる同然である。
- 以前に制作の経験があり、そのとき学んだ「制作の封じ手」をくろみに伝授するなど、新人のくろみには何かと世話を焼く。
- 針生 誠一郎(はりゅう せいいちろう)
- 声 - 一条和矢
- フリーアニメーター(原画マン)の一人。
- 怠け癖があり、見張っていないと直ぐにサボってしまうが、一度やる気を出せばかなりの仕事をしてくれる。
- かなりのオタクであり、家はフィギュアやプラモデルで溢れている。「バミラス」という女性キャラがお気に入りらしい。
- 四本松には「宇宙鉄仮面」と言われている。
- 深水 葵(ふかみ あおい)
- 声 - 岡村明美
- フリーアニメーター(原画マン)の一人。
- 結婚しているが、あまり自活能力のない旦那に不満が溜まっているらしく、夫婦生活もうまくいっていない模様。そのお陰で、作画の進み具合も捗っていなかったが、くろみに愚痴をこぼしてからは、作画の進み具合も著しく改善された。
- 田の中 瑞穂(たのなか みずほ)
- 声 - 伊藤栄次
- フリーアニメーター(原画マン)の一人。
- 原画を上げる早さは相当なものだが、ただそれ「だけ」の原画マン。彼が手掛けたものはキャラが違うものとなっているため、手掛けた全ての原画に作監である四本松が手を入れなければならない状態である。
- 洞口 米(ほらぐち まい)
- 声 - 三澤真弓
- フリーアニメーター(原画マン)の一人。
- 非常にネガティヴな性格で、自分に自信がなく、何かにつけて仕事をサボろうとする。ただ、その性格の反動か、褒められると乗せられやすい。
- 四本松を「お姉さま」などと呼び、尊敬している模様。
- 葉山 暢気(はやま のんき)
- 声優 - 一条和矢(第1作) / 長島雄一(第2作)
- 湘南に住むアニメーター。
- バイクのシーンを描かせたら右に出る者はいないと言われている。かつて、挫折しかけた四本松を立ち直らせるきっかけを作った人物でもある。
- 湘南に住んでいるだけあって趣味はサーフィンだが、趣味に注力するあまり、仕事はあまりやっていないようだ。
- 社長
- 声 - 石井康嗣
- スタジオプチの社長。
- 常に「社長」と書かれたシャツを着ているのが特徴。
- 普段は朗らかで優しいが、仕事のこととなると一変。入社したばかりでしかも新人のくろみを制作デスクに任命したり、たった6人のスタッフで3本のアニメを成り立たせたりするなど、相当厳しい一面をのぞかせる。
- 追浜 正人(おっぱま)
- 声 - 矢部雅史
- 現制作デスクの大黒みき子の前任者であり、大黒みき子に「くろみ」というあだ名をつけた張本人。
- 制作の仕事のあまりの過酷さに胃に穴が開き、後釜であるくろみが来たことでそのまま入院した。
- 登場したのは第1作最初の僅か数分間だけだったが、それでも視聴者にかなりのインパクトを残した。
- 高島平 礼(たかしまだいら)
- 声 - 石井康嗣
- 第2作で、数少ないスタッフで3本のアニメを同時に成り立たせる、という無茶をやっていたときに、社長が助っ人として呼んだ制作デスク。
- 放送に間に合わせるためには、原画の質を落としてまで上げる早さを徹底させたり、作監を通さずに動画にまわしたりと、かなりの無茶をやる。そのせいか、「彼が通った後は草も生えない」と揶揄されている。
- 変な歩き方をするのも特徴。
- 都下原 悠(つかはら)
- 声 - 天田益男
- 高島平が連れてきたベテランアニメーター。
- ハイライト嫌いで、ハイライトを「邪道だ」と言い切る。
- 久米川 慎(くめがわ)
- 声 - 矢部雅史
- 同じく高島平が連れてきたベテランアニメーター。
- 原画のチェックがかなり甘く、田の中の別物に成り果てたキャラでも「よく描けている」として通してしまうほど。
- ばっとび
- 声 - 市川美恵子
- 作中に時々現れる謎の宇宙人?
- キャラに的確なつっこみを入れたり、視聴者に簡単な説明をしたりする。その動きは、大地・渡辺(監督・キャラクターデザイン)タッグの別作品『こどものおもちゃ』に登場した「ばびっと」と似ている。
スタッフ
- 監督・絵コンテ - 大地丙太郎
- キャラクターデザイン・作画監督 - 渡辺はじめ
- 制作進行 - 石黒直美、坪井葉子、片貝慎(第1作)、飛田野ゆか里(第2作)
- 脚本 - 永月十(第1作)、伊丹あき(第2作)
- 演出 - 玉野陽美
- 美術監督 - 柴田千佳子(スタジオカノン)
- 色彩設計 - 有尾由紀子(第1作)、高星晴美(第2作)
- 音楽 - 増田俊郎
- 音響効果 - かげやまみつる(フィズスタジオ)
- 音響制作 - ダックスインターナショナル
- 録音監督 - 蝦名恭範
- 編集 - 松村正宏
- プロデューサー - 山口聰
- 原案・企画・制作 - ゆめ太カンパニー
エンディングテーマ
- 「ひだまりの街で」
- 作詞・歌 - 麻生かほ里 / 作曲・編曲 - 増田俊郎