騎乗依頼仲介者

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

騎乗依頼仲介者(きじょういらいちゅうかいしゃ)とは、日本の中央競馬において、「調教師から騎手に対する騎乗依頼を仲介する者」として日本中央競馬会 (JRA) に届けを提出している者のことである。

ほかのスポーツにおける代理人エージェントに相当する人物であり、一般には「エージェント」の呼称で呼ばれることが多い。

概説[編集]

中央競馬において、騎乗依頼の仲介者を導入した先駆けといわれるのは岡部幸雄である。岡部は「レースに集中したい」という理由から、競馬新聞競馬研究』の記者・松沢昭夫に仲介を依頼した[1]。岡部は厩舎に所属せず、特定の厩舎や馬主に拘束されないフリー騎手の先駆けでもあった[2]が、岡部の影響を受けフリーとなる騎手が増加する[3][4]なか、仲介者を導入する騎手も増えていった[1]。こうした動きをやむなく追認する形で、2006年4月にJRAが導入したのが騎乗依頼仲介者の制度である[1]。一部では「騎手とエージェントとの間でやり取りされる手数料の金額が高額になってきており、これを放置したのでは税務処理上問題がある」という指摘が国税庁からJRAに対してなされたことが追認の背景にあると指摘されている[5]

騎乗依頼仲介者に対する報酬は、騎手がレースで得る賞金(進上金)の中から支払われるのが一般的であるため、JRAの定義において騎乗依頼仲介者は「騎手側の代理人」として位置づけられている。ただ、最近では一部の調教師が特定の騎乗依頼仲介者に騎手探しを任せるなど「調教師側の代理人」を務める仲介者も現れているともいわれており[6][7]、ますますその重要性が高まっている。

仲介者を務める人物[編集]

仲介者を務める人物としては競馬新聞の記者(トラックマン)、スポーツ新聞の競馬担当記者など、競馬マスコミに関係することで厩舎に出入りし、また騎手とも接点を持っている人物が大半を占めている。

実際には1人の仲介者が複数の騎手の代理を務めていることが多く、ある騎手への騎乗依頼に対しその騎手が都合が悪い場合にその仲介者が代理を務めるほかの騎手を優先的に紹介することもよく行われている。とくに『競馬ブック』記者の小原靖博岩田康誠福永祐一川田将雅四位洋文など多くのトップジョッキーの仲介者を務めているため、近年『競馬最強の法則』(KKベストセラーズ)など一部の競馬雑誌では小原が仲介者を務める騎手グループを指して「小原ライン」なる言葉が生まれるほどとなっている。

利点と問題点[編集]

騎乗依頼仲介者を介することで、騎手は騎乗依頼の処理に追われることがなくなり、また調教師や馬主などとのしがらみにとらわれることなく騎乗する競走馬を選択することができる。それにより「強い馬に腕のいい騎手が乗る」という原則が確立されるようになる。

一方、騎乗依頼仲介者の多くを占める競馬新聞・スポーツ新聞の記者は、みずからが所属する競馬新聞・スポーツ新聞紙上で予想を発表する立場にもあることから、「騎乗依頼を仲介しつつ馬券の予想行為を行うことは本来利益相反する行為であり、公正競馬の確保という観点から問題がある」という批判がある[5][1]。事実、公正競馬の確保という目的から、現在現役の騎手・調教師や厩舎関係者が予想行為を行うことが事実上禁止されている[8]ことを考えると、騎乗依頼仲介者による予想の公表が今後問題視される可能性も考えられる。

また厩舎(JRAの場合美浦トレーニングセンター栗東トレーニングセンター)は公正確保のために部外者の出入りが厳しく制限されているが、そのような条件下でも取材目的で出入りが許されている競馬記者が取材以外の活動を行うことはマスコミ特権の濫用・逸脱と考える向きもある[1]

従来JRAは「1仲介者につき担当できるのは騎手3人まで」との制限を設けていたが、実際には同一の競馬新聞・スポーツ新聞に所属する仲介者同士でグループを組み騎乗馬を融通しあうといった行為が行われていることから、制限が有名無実化していた。前述の小原などは大人数の騎手を請け負うことで競馬界に大きな影響力を及ぼしており、これには競馬ファンはもちろん、関係者などからの批判も多い。さらに、複数の騎手の仲介をすることは八百長などの不正行為に繋がる可能性もあるという意見もある。

このためJRAでは2012年より、1仲介者につき担当できる騎手の数を「騎手3人+減量騎手1人」に緩める代わりに、仲介者同士でグループを組んだり、ローカル開催時に別の仲介者の代理を務めたりする行為を原則として禁止する方針を打ち出し、同年6月1日より実施する[9]。また新聞記者・トラックマンと騎乗依頼仲介者の兼業を禁止することも検討していると報じられている[10]。ただこれらの規制がどの程度実効性を伴うかについては疑問視する関係者も多い[10]

騎乗依頼仲介者となるにはJRAへの届け出が必要であるが、これまで具体的に誰がどの騎手の騎乗依頼仲介者を務めているかは公表されていなかった[6]。これについても2012年6月の制度改正後は届出を義務化するとともに氏名の公表も開始する[9]。氏名は美浦トレーニングセンターと栗東トレーニングセンターの公正室に掲示されている[11]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d e 鈴木2010、262頁。
  2. ^ 『優駿』2007年9月号、140頁。
  3. ^ 競馬黄金の蹄跡、60頁。
  4. ^ 渾2007、110頁。
  5. ^ a b 『競馬最強の法則』2007年10月号、KKベストセラーズ、83頁。
  6. ^ a b 鈴木2010、263頁。
  7. ^ 『競馬最強の法則』2008年9月号 p.142
  8. ^ 詳しくは予想 (競馬)も参照。
  9. ^ a b エージェント申請義務化、氏名も公表へ - デイリースポーツ・2012年3月6日
  10. ^ a b 『競馬最強の法則』2011年12月号 p.4
  11. ^ 水上学 (2012年8月15日). “水上学のこれだけは言わせて!! (147) 「エージェント制の情報公開」” (日本語). keiba@nifty. ニフティ. 2012年8月26日閲覧。

参考文献[編集]