視神経脊髄炎

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視神経脊髄炎
分類及び外部参照情報
ICD-10 G36.0
ICD-9 341.0
DiseasesDB 29470
MeSH D009471
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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視神経脊髄炎(ししんけいせきずいえん、Neuromyelitis optica)は重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする疾患である。Devic病とも呼ばれている。

歴史的背景[編集]

1894年にDevicは「視神経炎を伴った亜急性脊髄炎」という1例を報告した。同じ年にDevicの弟子であるGaultは過去の症例報告とDevicの症例まとめて16例を集めて視神経脊髄炎(NMO)という名称を提唱した。その後、多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との異同が長らく議論されてきた。特にNMOはMSの亜型なのかそれとも独立した疾患なのかという点が長らく議論された。独立した疾患と考えられた根拠はオリゴクローナルバンドが陰性であること、急性増悪時の髄液細胞数が50/μL以上であったり、多形核白血球が優位に増加する症例があること。剖検例では脳病変が少ないこと、壊死性病変がしばしば認められるという点でMSと異なるという意見があった。またNMOでは単相性の経過をとることも知られていた。なお、東北大学などの検討では視神経と脊髄炎がともに1回のみエピソードであれば発症間隔にかかわらず単相性NMOとし、一方いずれかが2回以上の急性増悪があれば再発性NMOとしている。単相性NMOは男女ともにみられ感染後に発症する疾患であることが多く、再発性NMOは自己免疫の背景を持った女性に多い疾患という特徴がある。このような特徴が見出されていたが独立疾患として認識されにくかったのはバイオマーカーがなかったからである。

2004年にメイヨークリニックと東北大学からNMOに特異的な自己抗体NMO-IgGが発表された。2005年にその標的抗原が中枢神経の主要な水チャネルでありアストロサイトのendfeetに密に発現しているアクアポリン(AQP)4であることがわかった。以後NMO-IgGは抗AQP4抗体と呼ばれることが多くなった。抗AQP4抗体陽性症例の解析から約9割は女性であり、発症年齢は30歳代後半とMSよりも高く、再発は平均年に1回と多く、1/3の症例で片眼が失明しており3椎体以上の長い脊髄病変は9割の症例にみられるなどNMOの臨床的な特徴が明らかとなった。2006年度のWingerchunkらが新たなNMOの診断基準を作成した。診断基準では全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群など膠原病や膠原病類縁疾患の徴候があった場合はその病変はNMOではなく、膠原病や膠原病類縁疾患の中枢神経症状と考える。抗AQP4抗体陽性症例のうち視神経炎あるいは脊髄炎のいずれか一方のみがみられる症例もあり2007年にWingerchunkらはNMOスペクトラムを発表した。

NMOの急性期病変ではAQP4やGFAPといったアストロサイトの蛋白質が広範に欠失すること、NMOの急性増悪期における髄液GFP濃度の著名な上昇、実験では抗AQP4抗体はアストロサイト障害性をもつといったことが明らかとなりNMOをMSのような炎症性脱髄疾患に分類することが不適切と考えられるようになった。astrocytopathic diseaseと分類するべきという意見がある。

視神経脊髄炎の臨床像[編集]

  多発性硬化症(MS) 視神経脊髄炎(NMO)
NMO/MS全体からみた頻度 60% 30%
男女比 1:3 1:10
発症年齢 20~30歳代で好発、50歳以上はまれ 30~40歳代で好発、高齢発症有り
人種差、地域差 白人に多い なし(アジア、ラテンアメリカに多い傾向)
視力障害の特徴 中心暗点 両側性障害、重症、水平性半盲
脊髄障害の特徴 片側の感覚障害、運動障害 長大病変、横断性障害、強いしびれ、痛み
大脳病変の特徴 記憶障害など様々の症状 吃逆、嘔吐、視床下部障害、過睡眠、意識障害
主な合併症 なし シェーグレン症候群、橋本病など膠原病
血清抗AQP4抗体 陰性 陽性
髄液オリゴクローナルバンド 約80%で陽性 大抵陰性(約10%で陽性)
再発予防治療 IFNβ-1aまたは-1b、フィンゴモリド 経口ステロイド薬
疫学

NMOの発症年齢はMSよりも10歳ほど遅く30~40歳代が多い。50歳以上の初発例も珍しくない。シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、橋本病など自己免疫病を合併する例が多い。再発頻度は年に1~2回でMSよりも多い。

妊娠

MSでは妊娠中は再発頻度が低下すると考えられているがNMOではむしろ再発しやすくなるという報告がある。

視神経炎

NMOの初発症状では視力障害が多い。MSでは片側性の視力障害が多いのに対してNMOでは両側性の視力障害を呈することが多い。視野異常としてはMSではよくみられる中心暗点に加えてNMOでは両耳側半盲(視交叉病変)、非調和性同名半盲(視索病変)、水平性半盲などがみられることが特徴である。

脊髄炎

NMOの脊髄炎はMRIで3椎体以上におよぶ中心灰白質を侵す長い横断性脊髄炎を呈するのが特徴である。

大脳病変

当初、NMOでは大脳病変は認められないとされていたが、その後大脳病変はまれではないことが明らかになった。大脳基底核視床下部脳幹などはAQP4が豊富に発現している部位でありNMOでは病変を認めることも多い。これらの部位を反映して難治性吃逆、嘔吐、内分泌異常、過睡眠、意識障害といった症状示すことがある。

MRI
  多発性硬化症(MS) 視神経脊髄炎(NMO)
大脳病変 側脳室から垂直方向の半卵形病変、皮質下U-fiber病変など 第三、第四脳室周囲、脳幹(特に延髄背内側)などに分布
脳梁病変 10mm以下で浮腫なし 10mm以上で浮腫あり(大理石様パターン)
造影効果 オープンリング状 雲状
視神経病変 片側の視神経炎 両側性、視神経腫脹、視交叉病変、視索病変
脊髄病変 長さは通常2椎体未満 3椎体以上の長大病変、横断面で脊髄中心部の分布

視神経の評価としてはSTIR法が適切である。脊髄では3椎体以上の長い病変で横断面では脊髄中心部の病変が特徴的である。NMOの大脳病変の好発部位はAQP4が豊富に発現している第三脳室周囲、第四脳室周囲、中脳水道の周囲、延髄背内側、視床下部などで多い。またMSと比べると左右対称で広範な病巣をきたす傾向がある。MSで特徴的な側脳室近傍や脳梁病変を認めるNMOも存在するため鑑別は困難であるが病巣の大きさがMSでは10mm未満と小さく浮腫も伴わないがNMOの脳梁病変は10mm以上で大きく浮腫を伴いFLAIR画像では病変の周囲が高信号で内部が低信号を呈する大理石パターンを認める。造影MRIではMSはオープンリング状の造影効果をよくみられるが、NMOでは雲状造影効果を認めることが特徴であると報告されている。

髄液検査

MSで高頻度に認めるオリゴクローナルバンドが検出されることは少ない。髄液一般所見では蛋白やIgGインデックス上昇がみられることがある。また髄液細胞数も増加して多形核球優位のこともある。NMOでは血清中に抗AQP4抗体をみとめるが髄液中で認められることは少ない。髄液中のGFAP(glial fibrillary protein)がNMOの臨床所見と相関すると報告されている。

NMO spectrum disorder[編集]

NMO spectrum disorder(NMOsd)は抗AQP4抗体陽性という共通の免疫病態に対して包括的に定義された概念である。NMOsdでは4つの臨床病型が知られている。NMOでは各実例、空間的限局例(視神経炎もしくは脊髄炎のいずれかをもつ)、他の自己免疫疾患と合併した例、NMOに特徴的な大脳病変(視床下部、脳梁、脳室周囲、脳幹)を有する例に大きく分類される。

NMO確実例

NMOの診断基準をみたすものである。

空間的限局例

抗AQP4抗体陽性で、視神経炎もしくは脊髄炎を単独でもつ例はNMOsdのうち空間的限局例と呼ばれている。

自己免疫疾患を合併した例

NMOsdは全身性自己免疫疾患でみられる自己抗体を認めることが多く、一部の例では臓器特異的、非特異的な自己免疫疾患を併発することがある。

大脳・脳幹病変を伴ったNMOの特徴

抗AQP4抗体症例には大脳や脳幹病変が多いこと、脊髄炎や視神経炎ではなく大脳、脳幹症状で発症する症例が存在することが明らかとなっている。2006年度の視神経脊髄炎の診断基準では大脳や脳幹病変をもつNMOをNMOと診断できずNMOsdとなる。NMOに特徴的な大脳、脳幹部病変は延髄背側最後野周辺の病変に伴う難治性の吃逆や嘔吐、視床下部病変に伴う二次性ナルコレプシー、内分泌異常、PRESに類似した広汎な白質病変、腫瘍様大脳病変、錐体路に沿った脳病変、線状の傍脳室周囲、脳梁病変などが知られている。

NMOの治療[編集]

急性期治療[編集]

ステロイドパルス療法

急性期にはできるだけ早い時期にステロイドパルス療法を行うべきであり自然軽快は避けるべきである。パルス後はプレドニン1mg/Kg/dayで後療法を行う。数ヶ月かけて漸減し0.3mg/Kg/day(およそ15mg)程度で半年から1年間ほど維持することが多い。再発がなければ1mg/month程度の速度で漸減し最終的には0.1mg/Kg/day(目安5mg)程度の維持を目標とする。

血相交換療法

早期のステロイドパルスにもかかわらず、多くの症例で回復が思わしくない場合は急性期に血漿交換を行う。

再発予防[編集]

NMOの再発率はMSよりも高いため積極的な再発予防治療が必要である。MSとのおおきな差にステロイドに再発予防効果が示されていることである。

薬剤名 標準的な投与量 投与方法
プレドニゾロン 15mg(5~20mg)/day 1mg/Kg/dayからゆっくり漸減する
アザチオプリン 100mg(50~150mg)/day 少量のプレドニゾロンと併用する
ミコフェノール酸モフィチル 2000mg(750~3000mg)/day 少量のプレドニゾロンと併用する
リツキシマブ 375mg/m2を1週毎、4回投与。その後375mg/m2を適宜 CD27陽性B細胞を0.05%以下に保つ

トシリズマブについて国立精神・神経医療研究センターで治験が勧められている。[1][2]

抗体[編集]

抗AQP4抗体[編集]

抗AQP4抗体はNMOの特異的診断マーカーと考えられる自己抗体である。血清中に高力価で検出され、髄液での力価は低いことから抗体は末梢リンパ球で産出され、血液脳関門が破綻するような病態が生じた際に中枢神経系に移行して病変を生じると考えられている。脊髄中心灰白質、第三脳室周囲、延髄背側最後野周囲にAQP4の発現は多く、NMOの病変分布と一致している。Polmanらは血清の抗AQP4抗体測定を推奨する臨床神経徴候をまとめている。

中心灰白質主体で3椎体以上に連続する脊髄病変
両側性で重篤な視神経炎、視神経腫脹、視交叉病変、水平性半盲を伴う視神経炎
延髄中心管周囲の病変を伴い、2日以上続く難治性の吃逆、嘔吐、嘔気

抗MOG抗体[編集]

抗myelin-oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体が視神経脊髄炎の原因抗体としても注目されている。抗AQP4抗体陽性者と比較して男性に多く若年であり、視神経炎と横断性脊髄炎を1ヶ月以内に続発することが多く、脊髄円錐部が障害されやすい、頭部MRIで白質病変を認めやすいといった特徴が知られている。

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Araki M, et al. Efficacy of the anti–IL-6 receptor antibody tocilizumab in neuromyelitis optica, A pilot study. Neurology 2014; 82(15): 1302-1306. {{doi: 10.1212/WNL.0000000000000317}}
  2. ^ http://www.ncnp.go.jp/press/press_release140315.html

関連項目[編集]