名曲300選

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名曲300選』は吉田秀和の40代での著書。クラシック音楽の名曲を300選び紹介している。

もともと新潮社からは、『LP300選』の名で出版されたが、2009年にちくま文庫から出版された際に『名曲300選』となった。

出版史[編集]

  • 1959年1月から12月『芸術新潮』に、「現代人のためのLP300選」として連載された。
  • 1961年『わたしの音楽室 LP300選』として新潮社から書籍化。
  • 1975年『吉田秀和全集 7 名曲300選』白水社 の中に「私の音楽室」として収録。
  • 1981年『LP300選』新潮文庫
  • 2009年『名曲300選』ちくま文庫

各書籍ごとの特徴[編集]

わたしの音楽室 LP300選(新潮社)[編集]

  • 1961年初版、1966年再版。
  • 上下2段組み。上段にレコードの選択、下段に本文という構成。

私の音楽室(白水社全集版、1975年)[編集]

選曲の改訂[編集]

初版『わたしの音楽室』と比べて、差し替えられた曲がある。

初版『わたしの音楽室』 全集版「私の音楽室」での新選択
117 モーツァルト「クラリネット協奏曲」
117 モーツァルト「フリュート協奏曲」 117a 同「フリュート協奏曲」に格下げ
151 ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第14番 op.131」[注 1] 151 同「弦楽四重奏曲第15番 op.132」
152 同「弦楽四重奏曲第16番 op.135」[注 2]
167 シューベルト「即興曲集」 167 同「楽興の時」
167a 同「即興曲集」に格下げ
226b プッチーニ「ラ・トスカ」 227 同「トスカ」に格上げ
230 フランク「ピアノ曲プレリュード、コラール、フーガ」 参考盤 同「プレリュード・コラール・フーガ」に格下げ
269 オネゲル「交響曲第5番」 268a 同「交響曲第5番」に格下げ
288 メシアン「トゥランガリラ」

その他の改訂[編集]

  • 以下の作曲家について[追記]が加わった。

モーツァルト/ブラームス/リヒャルト・シュトラウス/フォーレ/ショスタコーヴィチ/シェーンベルク/メシアン/ブゾーニ/ケージとアイヴス/「二十世紀の音楽」の末尾文

  • 推薦レコードは巻末にまとめられた。
  • この版のみ、高橋英郎による座談会形式の「解説」、および吉田自身による「著者付記」がついている。

LP300選(新潮文庫、1981年)[編集]

  • 本文は全集版とほとんど同じ。
  • その後の吉田の考えの変化は、レコード表の増補改訂によって示された(特に最後の297-300番の選曲が再考されている)。

名曲300選(ちくま文庫、2009年)[編集]

  • 本文は全集版、新潮文庫版とほぼ同じ(「グレゴリオ聖歌」を「グレゴリウス聖歌」にするなど、人名や作品名などを一部変更)。
  • すでにレコードの時代ではなくなったため、巻末のレコード表は除かれ、本文のみとなった。

特徴[編集]

この著作の特徴は、1960年ころにはあまり日本で知られていなかった、バッハ以前の音楽に重点をおいたことである。1975年の全集版の解説に、吉田は下記のように書いている。

『名曲300選』をやり出して、最初に私のあげたのは、グレゴリアン・チャントだけれども、それがだんだんポリフォニーになっていくかたわら、トゥルバドゥールやトゥルヴェールが出てきたり、ミンネゼンガーがあったりなんてことをやっていると、おもしろくて、いつまでもそういうことをやっていたかった。 (中略) 本当のことをいえば、私としては、バッハとかモーツァルトとかベートーヴェンとかいう人たちので拾えば、それだけでどうせ300曲くらいすぐなってしまうのだから、そこへ入るまでにたくさんやっておきたいという気持ちもあったのである。そこへ入るのにどのくらいかかったろうか。入ってからは、どうせみんな知っている曲ばかりなんだからと思って、一瀉千里でどんどん片づけていった。

選択曲の通し番号[編集]

各章および、作品が複数選ばれた作曲家について、全集版以後の通し番号を挙げる。

グレゴリウス聖歌 (1,2)
セクエンティアトロープス (3,4)
オルガヌムモテット (5-9)

7,8 ペロタン

トルバドゥールトゥルヴェール、その他 (10-19)
アルス・ノーヴァポリフォニー (20-32)

20,21 ギョーム・ド・マショー、 25,26 ジョン・ダンスタブル、 28,29 ギョーム・デュファイ

ネーデルランド楽派からイタリア・ルネサンスへ (33-48)

33,34 ハインリヒ・イザーク、 35,36 ジョヴァンニ・ガブリエーリ、 38,39 ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ、 41-44 クラウディオ・モンテヴェルディ

イタリアとフランスのバロック (49-62)

55,56 フランソワ・クープラン、 57,58 ジャン=フィリップ・ラモー、 61,62 ハインリヒ・シュッツ

バッハとヘンデル (63-88)

63-83 ヨハン・セバスティアン・バッハ、 84-87 ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル

グルック、ハイドン、モーツァルト (89-125)

89,90 ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ、 93-97,99 フランツ・ヨーゼフ・ハイドン、 100-125 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

ベートーヴェン (126-157)

126-154 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

ロマン派の天才たち (158-191)

159-167 フランツ・シューベルト、 168-171 フェリックス・メンデルスゾーン、 172,173 フレデリック・ショパン、 174-177 ロベルト・シューマン、 178,179 フランツ・リスト、 182-187 ジュゼッペ・ヴェルディ、 188-191 リヒャルト・ヴァーグナー

ドイツの後期ロマン派 (192-209)

192-201 ヨハネス・ブラームス、 205-207 リヒャルト・シュトラウス、 208,209 ヨハン・シュトラウス2世

ロマン的民族主義 (210-237)

216-218 モデスト・ムソルグスキー、 219-223 ピョートル・チャイコフスキー、 225-227 ジャコモ・プッチーニ、 235-237 ガブリエル・フォーレ

ドビュッシーとその周辺 (238-252)

238-242 クロード・ドビュッシー、 243-249 モーリス・ラヴェル

二十世紀の音楽 (253-300)

253-257 バルトーク・ベーラ、 260,261 セルゲイ・プロコフィエフ、 263-267 イーゴリ・ストラヴィンスキー、 268,269 アルテュール・オネゲル、 270,271 ダリウス・ミヨー、 273-277 アルノルト・シェーンベルク、 278-282 アルバン・ベルク、 283,284 アントン・ヴェーベルン、 285,286 パウル・ヒンデミット、 287,288 オリヴィエ・メシアン

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 14番は150に記載ずみで、明らかに誤植。
  2. ^ これは初版「わたしの音楽室」でも、下段本文にはゴシック体で採用されていたが、上段のレコードリストには掲載されていなかった。

出典[編集]

外部リンク[編集]