ルジャンドル多項式

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数学においてルジャンドルの微分方程式

{d \over dx} \left[ (1-x^2) {d \over dx} f(x) \right] + \lambda(\lambda+1)f(x) = 0

(λは任意の複素数とする)は標準的な冪級数法を用いて解くことができ、その解は一般にルジャンドル函数と呼ばれる(何れもアドリアン=マリ・ルジャンドルに名を因む)。この方程式は x = ±1 に確定特異点英語版を持つから、一般に原点の周りでの級数解の収斂半径は 1 である。

n = 5 までのルジャンドル多項式のグラフ

λが非負整数n = 0, 1, 2, … のときの解は x = ±1 の両点においても正則であり、かつ級数は途中で止まって多項式となる。これに x = 1 において値 1 を取るという条件を付けると解は一意的に定まる。これを n次のルジャンドル多項式(ルジャンドルたこうしき、: Legendre polynomial)と呼び、普通は Pn(x) と記す[1]。また、全ての非負整数についてのn次のルジャンドル多項式全体が成す関数族を総称的にルジャンドル多項式と呼ぶ。ルジャンドル多項式は後述する関数空間内積に関して直交系を成す。ただし、この内積についての各 Pn(x) の大きさは 1 ではないため (これは Pn(1) = 1 という条件を課したためである)、正規直交系にはなっていない点は注意を要する。各ルジャンドル多項式 Pn(x) は n-次多項式で、ロドリゲスの公式

P_n(x) = {1 \over 2^n n!} {d^n \over dx^n } \left[ (x^2 -1)^n \right]

で表すことができる。

ルジャンドル多項式がルジャンドルの微分方程式を満たすことは、恒等式

(x^2-1)\frac{d}{dx}(x^2-1)^n = 2nx(x^2-1)^n

の両辺を n + 1 回微分して、高階微分に関する一般ライプニッツ則を適用すればわかる[2]。各ルジャンドル多項式 Pn は以下のテイラー級数

\frac{1}{\sqrt{1-2xt+t^2}} = \sum_{n=0}^\infty P_n(x) t^n\qquad (1)

の係数として定義することもできる[3]。この母函数は物理学多重極展開英語版に利用される。

帰納的定義[編集]

上記の等式 (1) で与えられたテイラー展開の最初の二項から、最初の二つのルジャンドル多項式が

P_0(x) = 1,\quad P_1(x) = x

となることがわかる。残りの多項式を得るのには、上記のテイラー展開を直截に計算するよりも、ボネの漸化式

 (n+1) P_{n+1}(x) = (2n+1) x P_n(x) - n P_{n-1}(x)

を用いるのが適当である。この漸化式は、等式 (1) の両辺を t に関して微分したものを整理して得られる等式

\frac{x-t}{\sqrt{1-2xt+t^2}} = (1-2xt+t^2) \sum_{n=1}^\infty n P_n(x) t^{n-1}

の分母に現れる平方根を等式 (1) で置き換えて、t の冪に対する係数比較英語版を行えば得られる。漸化式に初期条件としてすでに得られている P0, P1 を当てはめれば、全てのルジャンドル多項式が帰納的に生成される。

漸化式を解いて陽に表せば

\begin{align} P_n(x) 
 &= \frac 1 {2^n} \sum_{k=0}^n {n\choose k}^2 (x-1)^{n-k}(x+1)^k\\
 &= \sum_{k=0}^n {n\choose k} {-n-1\choose k} \left( \frac{1-x}{2} \right)^k\\
 &= 2^n\cdot \sum_{k=0}^n x^k {n \choose k}{\frac{n+k-1}2\choose n}
\end{align}

などのように書くことができる。後段はルジャンドル多項式を単に単項式として表して二項係数の乗法公式を使えば、漸化式から直ちに得られる。

具体的に最初のいくつかのルジャンドル多項式を挙げれば以下のようになる:

n P_n(x)
0 1
1 x
2 \textstyle\frac{1}{2}(3x^2-1)
3 \textstyle\frac{1}{2}(5x^3-3x)
4 \textstyle\frac{1}{8}(35x^4-30x^2+3)
5 \textstyle\frac{1}{8}(63x^5-70x^3+15x)
6 \textstyle\frac{1}{16}(231x^6-315x^4+105x^2-5)
7 \textstyle\frac{1}{16}(429x^7-693x^5+315x^3-35x)
8 \textstyle\frac{1}{128}(6435x^8-12012x^6+6930x^4-1260x^2+35)
9 \textstyle\frac{1}{128}(12155x^9-25740x^7+18018x^5-4620x^3+315x)
10 \textstyle\frac{1}{256}(46189x^{10}-109395x^8+90090x^6-30030x^4+3465x^2-63)

直交性[編集]

ルジャンドル多項式の重要な性質の一つは、これらが閉区間 [−1, 1] 上の L2-内積に関して直交すること:

\int_{-1}^{1} P_m(x) P_n(x)\,dx = {2 \over {2n + 1}} \delta_{mn}

である。ここで δmnクロネッカーのデルタ、即ち m = n のとき 1 で、それ以外のときは 0 を意味する。実は、ルジャンドル多項式のもう一つの導出法が、同内積に関する直交函数系 {1, xx2, …} にシュミットの直交化法を適用することなのである。この直交性により、ルジャンドル多項式系がエルミート微分作用素

{d \over dx} \left[ (1-x^2) {d \over dx} P(x) \right] = -\lambda P(x)

の固有値 λ = n(n + 1) に属する固有函数系となるようなスツルム-リウヴィル問題英語版としてルジャンドルの微分方程式を見做すことができる。

物理学における応用[編集]

ルジャンドル多項式は初め、1782年にアドリアン=マリ・ルジャンドル[4]により、ニュートン・ポテンシャル英語版


\frac{1}{\left| \mathbf{x}-\mathbf{x}^\prime \right|} = \frac{1}{\sqrt{r^2+r^{\prime 2}-2rr'\cos\gamma}} = \sum_{\ell=0}^{\infty} \frac{r^{\prime \ell}}{r^{\ell+1}} P_{\ell}(\cos \gamma)

の展開の係数として定義された。ここに、r, r′ はそれぞれベクトル x, x′ の長さであり、γ はそれらのベクトルのなす角である。上記の級数は r > r′ なるとき収斂し、この展開は点質量に対応する重力ポテンシャルもしくは点電荷に対応するクーロンポテンシャルを与える。このルジャンドル多項式を用いた展開は、例えば連続質量や電荷分布の上でこの展開を積分するときなどに有効である。

ルジャンドル多項式は、空間の無電荷領域における電位に関するラプラス方程式

\nabla^2 \Phi(\mathbf{x})=0

を軸対称な(方位角に依存しない)境界条件のもとで、変数分離法を用いて解く際にも生じる。ここで、 \hat{\mathbf{z}} を対称軸、θ を観測者の位置と \hat{\mathbf{z}}-軸との間の角(天頂角)とするとき、電位は

\Phi(r,\theta)=\sum_{\ell=0}^{\infty} \left[ A_\ell r^\ell + B_\ell r^{-(\ell+1)} \right] P_\ell(\cos\theta)

となる。AℓBℓ は各問題の境界条件に従ってきまる[5]

三次元における中心力に対するシュレーディンガー方程式を解く際にも、ルジャンドル多項式は現れる。

多重極展開におけるルジャンドル多項式[編集]

Figure 2

ルジャンドル多項式は、多重極展開で自然に現れる

\frac{1}{\sqrt{1 + \eta^{2} - 2\eta x}} = \sum_{k=0}^{\infty} \eta^{k} P_{k}(x)

なる形の函数(記号を少し変えてあるが、上で述べたものと同じ)の展開においても有用である。等式の左辺はルジャンドル多項式の母函数の閉じた形である。

例として、(球座標系での)電位 \Phi(r, \theta)z-軸上の点 z = a にある点電荷によるものとすれば、

\Phi(r,\theta ) \propto \frac{1}{R} = \frac{1}{\sqrt{r^{2} + a^{2} - 2ar \cos\theta}}

と書くことができる。観測点 P の半径 ra より大きければ、電位はルジャンドル多項式を用いて

\Phi(r, \theta) \propto \frac{1}{r} \sum_{k=0}^{\infty} \left( \frac{a}{r} \right)^{k} P_{k}(\cos \theta)

と展開することができる。ここでは η = a/r < 1 および x = cos θ と置いた。この展開は通常の多重極展開を行うのに用いられる。

逆に、観測点 P の半径 ra より小さいならば、電位を上記のようにルジャンドル多項式展開することはできるが、ar とは入れ替わる。この展開は内部多重極展開 (interior multipole expansion) の基本となる。

その他の性質[編集]

ルジャンドル多項式は対称または反対称、即ち

P_n(-x) = (-1)^n P_n(x)

を満たす[3]

微分方程式と直交性はスケール変換に依らない性質だから、ルジャンドル多項式はその定義において適当に定数倍して

P_k(1) = 1

を満たすように「標準化」される(「正規化」とも言うが、実際にノルムが 1 というわけではないので紛らわしい)。端点における微分係数は

P_k'(1) = \frac{k(k+1)}{2}

で与えられる。既に述べたとおり、ルジャンドル多項式はボネの漸化式と呼ばれる三項間漸化式

 (n+1) P_{n+1}(x) = (2n+1) x P_n(x) - n P_{n-1}(x)

と、公式

{x^2-1 \over n} {d \over dx} P_n(x) = xP_n(x) - P_{n-1}(x)

に従うが、これらから得られる等式

(2n+1) P_n(x) = {d \over dx} \left[ P_{n+1}(x) - P_{n-1}(x) \right]

ルジャンドル多項式の積分に有効である。これを繰り返し用いて

{d \over dx} P_{n+1}(x) = (2n+1) P_n(x) + (2(n-2)+1) P_{n-2}(x) + (2(n-4)+1) P_{n-4}(x) + \cdots,

あるいは同じことだが、

{d \over dx} P_{n+1}(x) = {2 P_n(x) \over \| P_n(x) \|^2} + {2 P_{n-2}(x) \over \| P_{n-2}(x) \|^2}+\cdots

が得られる。ただし、ǁPn(x)ǁ は閉区間 {{[−1, 1]}} 上のノルム

\| P_n(x) \| = \sqrt{\int _{- 1}^{1}(P_n(x))^2 \,dx} = \sqrt{\frac{2}{2 n + 1}}

である。ボネの漸化式から帰納的にような表現

P_n(x) = \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k}^2 \left( \frac{1+x}{2} \right)^{n-k} \left( \frac{1-x}{2} \right)^k

が得られる。ルジャンドル多項式に対するアスキー-ギャスパーの不等式英語版

\sum_{j=0}^n P_j(x)\ge 0\qquad (x\ge -1)

を導く。

ずらしルジャンドル多項式[編集]

ずらしルジャンドル多項式 (shifted Legendre polynomial) は

\tilde{P}_n(x) = P_n(2x-1)

で定義される。ここで、ずらし写像(実はアフィン変換x ↦ 2x − 1 は、区間 [0, 1] を区間 [−1, 1] へ写す全単射として選ばれたもので、それゆえ多項式系 \tilde{P_n}(x) の区間 [0, 1] 上での直交性

\int_{0}^{1} \tilde{P_m}(x) \tilde{P_n}(x)\,dx = {1 \over {2n + 1}} \delta_{mn}

が従う。ずらしルジャンドル多項式の明示式は

\tilde{P_n}(x) = (-1)^n \sum_{k=0}^n {n \choose k} {n+k \choose k} (-x)^k

で与えられる。ロドリゲスの公式のずらしルジャンドル多項式版は

\tilde{P_n}(x) = \frac{1}{n!} {d^n \over dx^n } \left[ (x^2 -x)^n \right]

となる。ずらしルジャンドル多項式の最初の方のいくつかは以下のようになる。

n \tilde{P_n}(x)
0 1
1 2x-1
2 6x^2-6x+1
3 20x^3-30x^2+12x-1

分数階のルジャンドル函数[編集]

ロドリゲスの公式において、(ガンマ函数によって定義される)非整数階乗と分数階微積分学で定義される意味での分数階微分を当てはめることで、分数階のルジャンドル函数の存在が示される。こうして得られたルジャンドル函数は、やはり開区間 (−1,1) においてルジャンドルの微分方程式を満足するが、区間の両端点ではもはや正則でない。分数階ルジャンドル函数 Pnルジャンドル陪多項式 P0
n
に一致する。

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 永宮健夫 『応用微分方程式論』、共立出版社、1967年、pp46-52。
  2. ^ Courant & Hilbert 1953, II, §8
  3. ^ a b George B. Arfken, Hans J. Weber (2005), Mathematical Methods for Physicists, Elsevier Academic Press, p. 743, ISBN 0-12-059876-0 
  4. ^ M. Le Gendre, "Recherches sur l'attraction des sphéroïdes homogènes," Mémoires de Mathématiques et de Physique, présentés à l'Académie Royale des Sciences, par divers savans, et lus dans ses Assemblées, Tome X, pp. 411-435 (Paris, 1785). [Note: Legendre submitted his findings to the Academy in 1782, but they were published in 1785.] Available on-line (in French) at: http://edocs.ub.uni-frankfurt.de/volltexte/2007/3757/pdf/A009566090.pdf .
  5. ^ Jackson, J.D. Classical Electrodynamics, 3rd edition, Wiley & Sons, 1999. page 103

参考文献[編集]

外部リンク[編集]