ブルシン

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(−)-ブルシン
識別情報
CAS登録番号 357-57-3
PubChem 442021
日化辞番号 J5.693F
KEGG C09084
RTECS番号 EH8925000
特性
化学式 C23H26N2O4
モル質量 394.46 g mol−1
外観 単斜晶プリズム型結晶
融点

178 °C

沸点

470 °C

への溶解度 難溶
log POW 0.98
苦味
危険性
EU分類 猛毒 T+
半数致死量 LD50 1 mg/kg (ラット、経口)
出典
ICSC 1017
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ブルシン (: brucine) はマチンなどの種子に含まれるインドールアルカロイドIUPAC許容慣用名2,3-ジメトキシストリキニジン-10-オン 2,3-dimethoxystrychnidin-10-one。苦味があり、水には難溶。二水和物、四水和物を形成する。分子式 C23H26N2O4 で、ストリキニーネのベンゼン環に2個のメトキシ基が置換した構造を持つ。CAS登録番号 [357-57-3]。性を持つが、ストリキニーネよりは弱く、ストリキニーネの約6分の1である。

1818年に、マチン (Strychnos nux-vomica) およびイグナチウス子(呂宋果、Strychnos ignatii の実)から単離された[1][2]

毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[3]

キラルアミンとしての利用[編集]

ブルシンはカルボン酸光学分割に用いられる。キナ皮由来のアルカロイドによるラセミ混合物の光学分割は、1853年にルイ・パスツールによって報告[4]されて以来知られていた。ブルシンによってアミノ酸を光学分割できることは、1899年にエミール・フィッシャーによって報告された[5]。ブルシンやストリキニーネは塩基であるため、カルボン酸のラセミ体に作用させると2種類のを与え、それらはジアステレオマーの関係にある。そこで生じる溶解性の差を利用して再結晶、あるいは再沈殿により片方のジアステレオマーを取り出し、で中和するとキラルなカルボン酸の一方のエナンチオマー(鏡像異性体)のみが得られる。

文化[編集]

ブルシンは、アレクサンドル・デュマによる小説『モンテ・クリスト伯』に登場する。

「たとえば、その毒がブルシンだったとします。あなたは初めの日にはそれを1ミリグラムを召し上がり、二日目には2ミリグラム…」(作中、ミトリダート法について述べた箇所)

水質分析における利用[編集]

工場排水中の硝酸イオン(硝酸性窒素)を測定する方法として、ブルシン水和物とスルファニル酸を混ぜたものを利用するものがある。硫酸酸性下で硝酸イオンとブルシンが反応することにより生成する黄色の化合物の吸光度を測定することにより、硝酸イオンの濃度を測定することができる。

日本工業規格の工場排水試験方法(JIS K 0102 43.2.4)や下水試験方法に定められており、通常「ブルシン法」などと呼ばれる。

脚注[編集]

  1. ^ Pelletier, J.; Caventou, J. B. (1818). “Sur la matiere verte des feuilles”. Ann. Chim. Phys. Ser. 8: 323. 
  2. ^ Pelletier, J.; Caventou, J. B. (1819). “Sur un nouvel Alcali végétal (la Strychnine) trouvé dans la fève de Saint-Ignace, la noix vomique, etc”. Ann. Chim. Phys. Ser. 10: 142. 
  3. ^ 毒物及び劇物指定令 昭和四十年一月四日 政令第二号 第二条 八十七の二
  4. ^ Pasteur, L. (1853). “Recherches sur les alcaloides des quiniquinas”. C. R. Acad. Sci. 37: 110. 
  5. ^ Fischer, E. (1899). “Ueber die Spaltung einiger racemischer Amidosäuren in die optisch-activen Componenten”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 32 (2): 2451-2471. doi:10.1002/cber.189903202191. 

関連項目[編集]