ジェミニプラネットイメージャー

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ジェミニプラネットイメージャー (英:Gemini Planet Imager,GPI)は、チリジェミニ南天文台に設置されているハイコントラスト撮像装置である。

GPIが設置されたジェミニ南天文台

概要[編集]

GPIのロゴマーク

太陽系外惑星を観測するにあたって、中心の恒星と惑星の明るさには大きな差があり、中心星の眩しい光にかき消されるため惑星を直接撮影することは困難である。そのため多くの場合、惑星の存在を確認するには間接的な手法(たとえば惑星の重力で中心の星がわずかに揺れ動く様子を捉えるなど)を用いる。しかし恒星と惑星の距離が離れている場合や、惑星が誕生したばかりで赤外線で明るく光る程高温である場合は直接惑星の光を捉えることも可能となっており、直接撮像法として確立されている。

比較的高温の離れた惑星だとしても通常の撮像装置には離角が小さく光度比が大きすぎるため撮像は困難であるが、GPIは後述の仕様により小さな離角・大きな光度比の天体の撮像を実現し、太陽系外惑星の直接撮像や面分光を可能としている[1]

GPIの開発と運用にはアメリカ自然史博物館(AMNH)、トロント大学ダンラップ天体物理学研究所英語版ジェミニ天文台ヘルツベルグ天体物理学研究センター英語版(HIA)、NASAジェット推進研究所ローレンス・リバモア研究所(LLNL)、ローウェル天文台SETI協会宇宙望遠鏡科学研究所(STSCI)、モントリオール大学カリフォルニア大学バークレー校カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC), ジョージア大学が共同で関わっている.[2]

仕様・性能[編集]

GPIのシステム図

GPIはチリセロ・パチョン山英語版のジェミニ南望遠鏡で使用されている。2013年11月ファーストライトを迎え、2014年11月に本格運用が始まった[2]。 この装置は形成から間もない若い巨大ガス惑星からの熱放射を直接撮影するために設計されている。熱放射は主に赤外線からなるためこれらの惑星は赤外線の波長で明るく光っており、GPIはY~Kバンドと呼ばれる近赤外線の波長領域を観測するようにできている[3]。地上からの赤外線の観測では地球の大気自体が発する赤外線が観測の妨げとなるが、この波長領域では大気からの放射はあまり強くなく観測への支障は小さい[3]

このシステムは高次補償光学システム、コロナグラフ、校正用の干渉計、面分光器といった複数のコンポーネントで構成される。このうち補償光学システムはLLNLによって製作され、ボストンマイクロマシン株式会社英語版製のMEMSを用いた可変鏡が大気の揺らぎによって歪んだ天体の光の波面によって変形し波面を補正することができる。そしてAMNHにより製作されるコロナグラフは、惑星系の撮影時に中心の星から来る光のみを遮蔽することでそばにある惑星の光をとらえやすくする。 GPIをジェミニ南天文台に届ける前にまず、実際の観測条件を再現した環境下でのコロナグラフの性能試験が行われた。試験は波長可変レーザーによりGPIが最も観測効率のいい波長の光で行われ、その結果、誕生から1億年が経過した太陽型星を周る木星より少し重いくらいしかない惑星の光でも捉えられることが確かめられた[4]

分光器はUCLAとモントリオール大によって開発され、恒星周囲の天体のスペクトルを分解能34~83(波長による)で捉えることができる。

これらの装置により、恒星から0.2~1.0秒角まで接近した、恒星の1000万分の1の明るさしかない天体まで捉えることができる。限界等級はHバンドで23等級に達する[5]

GPIは2020年からアップデートに入っており、キャリブレーションユニット(CAL)をCAL2.0に置き換え、FASTと呼ばれる惑星の大気を観測する装置を追加したうえで2023年に再度ファーストライトが行われる予定[6]

科学目標[編集]

現在の直接撮像法は主星からの距離が5au(太陽系における木星軌道長半径と同程度)以上離れた惑星に発見の感度がある。こういった惑星を、系外惑星探査に長年用いられている視線速度法で発見しようとすると、視線速度法では少なくとも公転軌道を1周する間観測し続ける必要があり(視線速度が惑星が公転する間、理論通り変化することを確認する必要があるため)、例えば主星から土星並みに離れた惑星を発見するには約30年を要することになる。

GPI以前の補償光学装置では離角が小さすぎると効果が無く、観測できる範囲は主星から30au以上離れた領域に限られていた。GPIはよりさらに分離角の小さいハイコントラストな天体でも発見でき、5~30auの軌道長半径を持つ巨大ガス惑星まで発見可能になることを目指して作られた[7]

GPIは年齢が100万~10億年の若い巨大ガス惑星に最も検出感度があるように開発されている。若い惑星は形成時の熱が残り、徐々にしか冷えていかないため、惑星がまだ熱いと惑星自体が近赤外線で明るく光ったままでいるため検出が容易になるからである。そのためGPIの観測対象は若い惑星に限定されてしまうが、惑星形成についての手掛かりを得ることができることも意味する。特にGPIの分光器では惑星の温度や表面重力を決定することができ、巨大ガス惑星の大気・熱的な進化についての情報を得ることができる[7]

系外惑星の撮像という主要目標に加え、GPIは若い恒星周りの原始惑星系円盤遷移円盤、ダスト円盤の研究に用いることもでき、この観測も惑星形成についての手掛かりを与えることができる。円盤の撮像にはGPI中のPDI(polarization differential imaging,偏光差分撮像)と呼ばれる装置が用いられる[8]

もう1つの利用例として、GOIの高い空間分解能と高いストレール比を用いた太陽系天体の観測がある。小惑星その衛星木星土星の衛星、天王星海王星はGPIにとっての良いターゲット天体となる[9]。そして補助的な例として、恒星風を観測することで進化の進んだ恒星からの質量流出を研究することも目標となっている。

主な成果[編集]

  • エリダヌス座51番星bはGPIによって発見された最初の惑星で、中心星の100万分の1の明るさしかないが、それまで発見された惑星の中で最も強いメタンの存在の兆候が観測されている。この発見により惑星形成理論についての手掛かりが追加された[10]
  • 2019年までに、ファーストライト以降恒星をGPIで観測したデータのうち300恒星の解析が終了し、6つの惑星と3つの褐色矮星が発見された。この時点で観測自体は531個の恒星が終了している[11]。ファーストライト以降の最初のサーベイでは600の恒星の観測が予定されている[12]
  • このほか、ダスト円盤26個と3個の遷移円盤が新しく発見された[13]

ギャラリー[編集]

参考文献[編集]

  • Graham, James R.; Macintosh, Bruce; Doyon, Rene; Gavel, Don; Larkin, James; Levine, Marty; Oppenheimer, Ben; Palmer, David; Saddlemyer, Les; Sivaramakrishnan, Anand; Veran, Jean-Pierre; Wallace, Kent (2007). "Ground-Based Direct Detection of Exoplanets with the Gemini Planet Imager (GPI)". arXiv:0704.1454 [astro-ph]。
  • Bruce Macintosh, James Graham, David Palmer, Rene Doyon, Don Gavel, James Larkin, Ben Oppenheimer, Leslie Saddlemyer, J. Kent Wallace, Brian Bauman, Julia Evans, Darren Erikson, Katie Morzinski, Donald Phillion, Lisa Poyneer, Anand Sivaramakrishnan, Remi Soummer, Simon Thibault, Jean-Pierre Veran (June 2006). “The Gemini Planet Imager”. Proceedings of SPIE. Astronomical Telescopes 6272: 62720L–62720L–12. Bibcode2006SPIE.6272E..0LM. doi:10.1117/12.672430. OSTI 898473. 

脚注[編集]

  1. ^ Macintosh et al. (2006), p. 1.
  2. ^ a b GPI: Gemini Planet Imager”. 2021年9月17日閲覧。
  3. ^ a b Graham et al. (2007), p 2.
  4. ^ S. R. Soummer (2009). Shaklan, Stuart B.. ed. “The Gemini Planet Imager coronagraph testbed”. Proc. SPIE 7440 Techniques and Instrumentation for Detection of Exoplanets IV. Techniques and Instrumentation for Detection of Exoplanets IV 7440: 74400R. Bibcode2009SPIE.7440E..0RS. doi:10.1117/12.826700. 
  5. ^ Macintosh et al. (2006), p. 3.
  6. ^ Marois, Christian (2020). “Upgrading the Gemini Planet Imager calibration unit with a photon counting focal plane wavefront sensor”. Proceedings of the SPIE 11448: 1144873. Bibcode2020SPIE11448E..73M. doi:10.1117/12.2563010. 
  7. ^ a b Macintosh et al. (2006), p. 2.
  8. ^ Bruzzone, Juan Sebastian (2018). “Mapping Debris Disks at extreme contrast: near-IR Polarimetric Differential Imaging with the Gemini Planet Imager”. The University of Western Ontario: 172. Bibcode2018PhDT.......192B. 
  9. ^ Gemini Planet Imager First Light!”. xzhang. 2021年10月15日閲覧。
  10. ^ Astronomers discover 'young Jupiter' exoplanet”. ScienceDaily. Stanford University. 2015年8月17日閲覧。
  11. ^ What Stanford researchers have learned from 300 stars”. TAYLOR KUBOTA. 2021年10月15日閲覧。
  12. ^ Wang, Jason J. (2018). “Automated data processing architecture for the Gemini Planet Imager Exoplanet Survey”. Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems 4: 018002. Bibcode2018JATIS...4a8002W. doi:10.1117/1.JATIS.4.1.018002. 
  13. ^ Esposito, Thomas M. (2020). “Debris Disk Results from the Gemini Planet Imager Exoplanet Survey's Polarimetric Imaging Campaign”. The Astronomical Journal 160 (1): 24. arXiv:arXiv:2004.13722. Bibcode2020AJ....160...24E. doi:10.3847/1538-3881/ab9199. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]