ショベルウェア

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ショベルウェアShovelware)は、質や利便性よりも量を追求した、バンドルのソフトウェアに対する否定的な表現[1]

概要[編集]

ソフトウェアの品質を気にかけず見境なくかき集める様を、ショベルで雑多なものをかき集めて山積みにする行為にたとえており、「〜ウェア」はコンピューター用語としては他の語と組み合わせてコンピューター製品の類型を指すために使われる接尾辞である。

たとえば一部のPCに見られるような、最初から「おまけ」として多数プリインストールされている質の低いソフトウェアを指す[1]。この言葉が使われ始めたのは1980年代末ころで、当時はシェアウェアデモプログラムを多数収録したCD-ROM雑誌広告に掲載されたりコンピュータのフリーマーケットで売られていた[1](ので、それを指した)。この言葉は、ソフトウェアが多数集めて売られているものや、質の低いゲームソフトを多数集めて売られているものも指す[1]

低品質のソフトウェアを集めたコレクションはBBSの頃から存在していたが、ショベルウェアという単語が特に使われるようになったのは、シェアウェアやパブリックドメインのソフトウェアを収録したCD-ROMが出回るようになった1990年前後からである。

CD-ROMにおけるショベルウェア[編集]

ゲーム雑誌Computer Gaming Worldは1990年に掲載した「新しいCD-ROMフォーマットを使ったソフトウェアを待ちきれない利用者」に向けた記事の中で、ソフトウェア・ツールワークス英語版アクセス・ソフトウェア英語版が名作を詰めたコレクションの発売を計画していると紹介した[2]。 同誌は1993年にはすでに過去のソフトウェアをCD-ROMに収録して再発売する手法を「ショベルウェア」と呼んでおり、アクセスから発売されたコレクションについて「思ったよりもほこりっぽいラインナップ」という評価を下した[3]。また、The Software Toolworksのコレクションについては「再販手法の大王」と呼び、その収録作品については、当時最強とされたチェスゲーム「Chessmaster 2000」を除けば「最も売れた時期でも陳腐な存在」とした[3]

CD-ROMの容量(約600MB~700MB)はフロッピーディスクの約450倍(2DD比)~700倍(2HD比)であり、1990年代のパソコン向けハードディスクの容量の10倍から30倍あり、当時の水準では大容量といえる部類だった。容量が拡大したことにより、ディスクの中身を全てインストールする余裕がほとんどなかったため、ソフトウェアの販売者は質より量を優先し、ディスクの中に可能な限り多くのソフトウェアを詰め込むようになった。

ソフトウェアのレビュワーたちは品質もばらばらなソフトウェアをただ集めただけのコレクションに落胆し、このような手法で集めたソフトウェアを「ショベルウェア」と呼んだ。

クラウドソーシングによって作成されたプログラムがダウンロードできるようになったことや、ソフトウェア配布の形態として一般的なアプリケーションストアのキュレーションが進んだこともあり、このようなショベルウェアは減少した。

しかし、バンドルプリインストールという形で、品質や利便性が疑わしいソフトウェアがハードウェアにあらかじめ入っているケースも存在する。

コンピュータゲームにおけるショベルウェア[編集]

低品質で大量に制作されたゲームソフトもまたショベルウェアとして扱われる。

ゲームソフトの粗製乱造の方法としては、アセット(キャラクタ、背景などのゲーム素材)を差し替えて別物として販売するアセット・フリップがある[4]

また、2022年には画像生成AIが粗製乱造に拍車をかけているのではないかという指摘もされるようになっている[5]

PS Storeではアセット・フリップでソフトを粗製乱造する "ゲームメーカー" がいくつもある。ショベルウェアの数があまりに増えるようだと、オンラインストアなどで作品を検索しても低品質ソフトが大量に表示されることになってしまい、ユーザーの体験が悪化する。また、他のまともなゲーム制作会社の体験も悪化する可能性(良質なソフトがゴミのようなソフトに埋もれて気づいてもらえず、販売が減少してしまう可能性)がある[6]

特に悪質な例としては、まったく同じコンセプトで、そもそもゲームとも呼べないようなごくシンプルな内容のソフトを大量に制作し配信している "ゲームメーカー" がPS Store上に複数存在する。たとえばThiGamesによる『The Jumping』シリーズは、内容としてはボタンを押すと料理のイラストがジャンプしその回数がカウントされるという内容しかなく、同社はジャンプする料理のイラストをハンバーガー、ピザ、ベーグル、タコスなどに変えただけで「別作品」としてリリースし、さらにジャンプのスピードを速くしただけのものも“TURBO版”と呼んで「別作品」としてリリースしている[6]。これらのソフトでは、ボタンを規定回数押すだけで、つまり容易に短時間でプラチナトロフィーが獲得できてしまう[6](このようなソフトが利用されてしまうと、プラチナトロフィのインフレーションが起き、PSプレイヤーたちの間でプラチナトロフィーの価値が極端に低下してしまう。) この状況を看過できなくなったSIEはPlayStation Store上のこのようなソフトの排除に乗り出す、と2022年に報じられた[6]

主な例[編集]

以下に出典があり内容に検証性が取れる事例を上げる。

出典[編集]

  1. ^ a b c d Definition of: Shovelware”. PC Magazine Encyclopedia. PC Magazine. 2024年4月8日閲覧。
  2. ^ The Maturation of Computer Entertainment: Warming The Global Village”. Computer Gaming World. p. 12 (1990年7月8日). 2013年11月16日閲覧。
  3. ^ a b Forging Ahead or Fit to be Smashed?”. Computer Gaming World 105. p. 24 (1993年4月). 2014年7月6日閲覧。
  4. ^ White, Kaila (2016年9月21日). “Free speech or criminal harassment? Arizona game maker sues online commenters for $18M” (英語). The Arizona Republic. 2023年1月7日閲覧。
  5. ^ 画像生成AIを利用したゲーム乱立の兆し?同一デベロッパーのタイトルが数日で多数発表”. Game*Spark - (2022年10月21日). 2023年1月7日閲覧。
  6. ^ a b c d Yamanaka, Taijiro (2022年11月23日). “PS4/PS5の「トロフィー目当ての量産ゲーム」がPS Storeから排除の方針か。新ガイドラインが制定されたとの報道”. AUTOMATON. 2023年1月7日閲覧。
  7. ^ Kohler, Chris (2008年3月5日). “Opinion: Why Wii Shovelware Is a Good Thing”. Wired. 2014年7月7日閲覧。
  8. ^ Waffles731 (2016年9月22日). “The Digital Homicide Fiasco”. GirlsAskGuys. 2016年9月23日閲覧。
  9. ^ ValveがSteam上から200以上の低品質ゲームを削除、開発会社は操業停止に”. IGN Japan (2017年10月5日). 2017年10月18日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]