コンデンシン
コンデンシン(condensin)は、染色体凝縮と分離に中心的な役割を果たすタンパク質複合体である。分裂期の染色体を構成する主要なタンパク質として、アフリカツメガエルの卵抽出液から初めて同定された。
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サブユニット構成 [編集]
高等真核細胞では、現在コンデンシン I とコンデンシン II と呼ばれる2つの複合体の存在が知られており、それぞれ5つのサブユニットから構成される。そのコアとなるサブユニット(SMC2とSMC4)は、SMCタンパク質と総称されるATPアーゼのファミリーに属する。コンデンシン I とコンデンシン II は、この2つの SMC サブユニットを共有する一方、それぞれにユニークなセットの制御サブユニット(non-SMC サブユニットとも呼ばれる)を持つ。
| 複合体 | サブユニット | 分類 | 出芽酵母 | 分裂酵母 | 線虫 | ショウジョウバエ | 脊椎動物 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| コンデンシン I & II | SMC2 | ATPase | Smc2 | Cut14 | MIX-1 | DmSmc2 | CAP-E |
| コンデンシン I & II | SMC4 | ATPase | Smc4 | Cut3 | SMC-4 | DmSmc4 | CAP-C |
| コンデンシン I | CAP-D2 | HEAT | Ycs4 | Cnd1 | DPY-28 | CG1911 | CAP-D2 |
| コンデンシン I | CAP-G | HEAT | Ycg1 | Cnd3 | CAP-G1 | cap-g | CAP-G |
| コンデンシン I | CAP-H | kleisin | Brn1 | Cnd2 | DPY-26 | barren | CAP-H |
| コンデンシン II | CAP-D3 | HEAT | - | - | HCP-6 | CG31989 | CAP-D3 |
| コンデンシン II | CAP-G2 | HEAT | - | - | CAP-G2 | -? | CAP-G2 |
| コンデンシン II | CAP-H2 | kleisin | - | - | KLE-2 | CG14685 | CAP-H2 |
| 遺伝子量補償複合体 | SMC4 variant | ATPase | - | - | DPY-27 | - | - |
局在と制御 [編集]
コンデンシン I とコンデンシン II は、細胞周期において異なる制御を受けている。コンデンシン II が、細胞周期を通じて核内あるいは染色体上に局在するのに対し、コンデンシン I は間期では細胞質に存在し、前中期で核膜が崩壊した後初めて染色体と接触する。このことから予想されるように、前期核内での染色体凝縮は主にコンデンシン II によって担われている。前中期以後の染色体凝縮には、2つのコンデンシンが必須である。蛍光抗体染色法によると、コンデンシン I とコンデンシン II は共に中期染色分体の中心軸上に局在し、その分布は重複せず軸上に交互に現れるように見える。生細胞内における発現抑制実験やカエル卵抽出液中での免疫除去実験によると、2つのコンデンシンは独自の機能をもちながらも協調して中期染色体の構築に貢献していることが示されている。
分子活性 [編集]
ツメガエル卵から精製されたコンデンシン I は、ATP加水分解活性をもち、その活性は DNA への結合によって促進される。また、ATP加水分解に依存して DNA 上にポジティブのねじれ(正の超らせん)を導入することができる。この活性は、Cdk1キナーゼを介したリン酸化によって分裂期特異的に促進されることから、染色体凝縮に直接関与する本質的な反応であると考えられている。さらに、単分子DNA操作技術を用いると、コンデンシンがATPの加水分解に依存してDNAを凝縮させることをリアルタイムで観察することも可能である。
進化 [編集]
コンデンシンに類似したタンパク質複合体は原核生物にも存在し、やはり染色体の構築と分離に関与している。 真核生物では、コンデンシン I に固有のサブユニットが酵母からヒトまで広く保存されているのに対し、コンデンシン II に固有のサブユニットは菌類(出芽酵母や分裂酵母)には存在しない。しかし、単細胞性の紅藻類シアニディオシゾン (Cyanidioschyzon merolae) では、そのゲノムは酵母とほぼ同一のコンパクトサイズであるにもかかわらず、コンデンシン I と II を共にもっている。すなわち、ゲノムの大きさとコンデンシン II の保持との間に強い相関関係はない。一方面白いことに、ホロセントリックと呼ばれる特殊な染色体構造をもつ線虫 Caenorhabditis elegans (C. elegans) では、中期染色体におけるコンデンシン I とコンデンシン II の局在パターンが大きく異なっており、両者の機能分担を探るためのよいモデル系となっている。
その他の機能 [編集]
最近の研究によれば、コンデンシンは細胞分裂期以外の時期においても多彩な機能を持つ。酵母では、コンデンシンサブユニットが遺伝子発現の抑制あるいは複製チェックポイントの制御に関与していることが示されている。また線虫では、コンデンシン I に類似した第3の複合体(5つのサブユニットのうちSMC-4がDPY-27と置き換わっている)が遺伝子量補償の主要な制御因子として働いている。高等真核細胞においては、間期核内に存在するコンデンシン II がゲノムの安定性と発現に大きな機能を果たしている可能性が高い。コンデンシンに類似のタンパク質複合体として、姉妹染色分体の接着に関わるコヒーシンがある。
関連項目 [編集]
参考文献 [編集]
- Hirano T (2012). “Condensins: universal organizers of chromosomes with diverse functions”. Genes Dev 26: 1659-1678. doi:10.1101/gad.194746.112. PMID 22855829.
- Wood AJ, Severson, AF, Meyer BJ (2010). “Condensin and cohesin complexity: the expanding repertoire of functions”. Nat Rev Genet 11: 391–404. doi:10.1038/nrg2794. PMID 20442714.