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「クマリン」の版間の差分

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クマリンは、[[シナモン]]の香り成分の[[シンナムアルデヒド]]や[[コーヒー]]の香り成分である[[コーヒー酸]]とともに天然の香り成分として知られている。
クマリンは、[[シナモン]]の香り成分の[[シンナムアルデヒド]]や[[コーヒー]]の香り成分である[[コーヒー酸]]とともに天然の香り成分として知られている。


==分離==
==分離と合成==
当初は中南米に育つ[[マメ科]]の[[クマル]](''Dipteryx odorata''、トンカともいう。クマリンの語源でもある)という樹木から得られる[[種子]](トンカマメ)から分離されていたが、[[1876年]]に[[ウィリアム・パーキン]]が[[サリチルアルデヒド]]と[[無水酢酸]]の反応([[パーキン反応]])により合成に成功。現在では[[香料]]、[[軽油]]識別剤、医薬品原料として用いられている。
当初は中南米に育つ[[マメ科]]の[[クマル]](''Dipteryx odorata''、トンカともいう。クマリンの語源でもある)という樹木から得られる[[種子]](トンカマメ)から分離されていたが、[[1876年]]に[[ウィリアム・パーキン]]が[[サリチルアルデヒド]]と[[無水酢酸]]の反応([[パーキン反応]])<ref>{{Cite journal|和書|author=熊野谿従, 桑田勉 |title=パーキン反応に依るクマリンの合成 (第1報) |journal=有機合成化学協会誌 |url=https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.11.388 |ISSN=00379980 |publisher=有機合成化学協会 |year=1953 |volume=11 |issue=10 |pages=388-390 |doi=10.5059/yukigoseikyokaishi.11.388}}</ref>により合成に成功<ref>{{PDFlink|[https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2020/05/202005_12-13.pdf 桜の香り] 大阪市立科学館}}</ref>。現在では[[香料]]、[[軽油]]識別剤、医薬品原料として用いられている。


== 化学的性質 ==
== 化学的性質 ==
常温では無色の[[結晶]]または薄片状の[[固体]]。[[アルコール]]、[[エーテル (化学)|エーテル]]、[[クロロホルム]]および揮発油に可溶。[[水]]に微溶。可燃性。[[紫外線]]の[[ブラックライト]]を照射すると、黄緑色の[[蛍光]]を発する。
常温では無色の[[結晶]]または薄片状の[[固体]]。[[アルコール]]、[[エーテル (化学)|エーテル]]、[[クロロホルム]]および揮発油に可溶。[[水]]に微溶。可燃性。[[紫外線]]の[[ブラックライト]]を照射すると、黄緑色の[[蛍光]]を発する。


土壌などに残留し、雑草を抑制する[[アレロパシー]]の性質を持つ<ref>{{Cite web |url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/grass/40/2/40_KJ00004707960/_article/-char/ja/ |title=クマリンのアレロパシー発現に及ぼす土壌条件の影響 |accessdate=2022-04-09 |last=佳孝 |first=高橋 |date=1994 |website=日本草地学会誌 |pages=223–226 |doi=10.14941/grass.40.223}}</ref>。
土壌などに残留し、雑草を抑制する[[アレロパシー]]の性質を持つ<ref>{{Cite journal|和書|url=https://doi.org/10.14941/grass.40.223 |title=クマリンのアレロパシー発現に及ぼす土壌条件の影響 |accessdate=2022-04-09 |author=高橋佳孝 |author2=大谷一郎 |author3=魚住順 |author4=萩野耕司 |author5=五十嵐良造 |date=1994 |journal=日本草地学会誌 |volume=40 |issue=2 |pages=223–226 |doi=10.14941/grass.40.223}}</ref>。


== 存在 ==
== 存在 ==

2022年7月28日 (木) 13:08時点における版

クマリン
{{{画像alt1}}}
クマリンの構造式
{{{画像alt2}}}
クマリン骨格の番号
識別情報
CAS登録番号 91-64-5 チェック
PubChem 323
ChemSpider 13848793 チェック
UNII A4VZ22K1WT チェック
J-GLOBAL ID 200907007165179824
EC番号 202-086-7
DrugBank DB04665
KEGG C05851 チェック
ChEBI
ChEMBL CHEMBL6466 チェック
RTECS番号 GN4200000
3DMet B00867
特性
化学式 C9H6O2
モル質量 146.14 g mol−1
外観 無色または白色結晶
匂い pleasant, like vanillabeans
密度 0.935 g/cm3 (20 °C (68 °F))
融点

71 °C, 344 K, 160 °F

沸点

301.71 °C, 575 K, 575 °F

への溶解度 0.17 g/100 mL
溶解度 エーテル, ジエチルエーテル, クロロフォルム, , ピリジンに易溶
エタノールに可溶
log POW 1.39
蒸気圧 1.3 hPa (106 °C (223 °F))
構造
結晶構造 斜方晶
危険性
安全データシート(外部リンク) Sigma-Aldrich
NFPA 704
1
2
0
引火点 150 °C (302 °F; 423 K)
半数致死量 LD50 293 mg/kg (rat, oral)
関連する物質
関連物質 Chromone
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

クマリン (coumarin) はの葉に代表される植物の芳香成分の一種。ラクトンの一種で、芳香族化合物である。バニラに似た芳香があり、苦く、芳香性の刺激的な味がする。桜湯や天然のオオシマザクラ塩蔵葉を用いた桜餅の香りはこれらに含まれるクマリンなどによるものである。

クマリンは、シナモンの香り成分のシンナムアルデヒドコーヒーの香り成分であるコーヒー酸とともに天然の香り成分として知られている。

分離と合成

当初は中南米に育つマメ科クマルDipteryx odorata、トンカともいう。クマリンの語源でもある)という樹木から得られる種子(トンカマメ)から分離されていたが、1876年ウィリアム・パーキンサリチルアルデヒド無水酢酸の反応(パーキン反応)[1]により合成に成功[2]。現在では香料軽油識別剤、医薬品原料として用いられている。

化学的性質

常温では無色の結晶または薄片状の固体アルコールエーテルクロロホルムおよび揮発油に可溶。に微溶。可燃性。紫外線ブラックライトを照射すると、黄緑色の蛍光を発する。

土壌などに残留し、雑草を抑制するアレロパシーの性質を持つ[3]

存在

桜の葉、シナモン、トンカマメなどに含まれている。

生きている葉の中ではクマリン酸(o-クマル酸配糖体の形で糖分子と結びついて液胞内に隔離されているので匂いはしないが、これを含むサクラヒヨドリバナなどの葉や花を半乾きにしたり破砕、塩蔵するなどすると、死んだ細胞の中で液胞内のクマリン酸配糖体と液胞外の酵素が接触し、加水分解によりクマリン酸が分離、さらに閉環反応が起こってクマリンが生成し、芳香を発するようになる。

食品添加物としては認められていないが、インターネットショッピングや業務用販売などで桜葉や桜葉パウダーが食品素材として流通している。

生合成

  1. フェニルアラニンE-桂皮酸
  2. 桂皮酸 → o-クマル酸, (2-クマル酸, trans-2-hydroxycinnamate)
  3. 2-クマル酸 → β-D-グルコシル 2-クマル酸, (β-D-Glucosyl 2-coumarate, trans-β-D-glucosyl 2-hydroxycinnamate)
  4. β-D-グルコシル 2-クマル酸 → β-D-グルコシル 2-クマリン酸, (β-D-glucosyl 2-coumarinate, cis-β-D-glucosyl 2-hydroxycinnamate)
  5. β-D-グルコシル 2-クマリン酸 → 2-クマリン酸, (coumarinic acidであって、クマリン酸とも表記されるcoumalic acidとは別のものである。)
  6. 2-クマリン酸 → クマリン (2位の水酸基カルボキシ基が分子内エステルであるラクトンを形成して環化する)

これらの反応は全て以下の一連の酵素群により触媒されておこる。

  1. フェニルアラニンアンモニアリアーゼ
  2. 桂皮酸 2-ヒドロキシラーゼ (EC 1.14.13.14)
  3. イソメラーゼ (反応)
  4. β-グルコシダーゼ (β-D-グルコシル 2-クマリン酸グルコハイドラーゼ)(反応)

摂取

抗酸化作用や抗菌作用、抗血液凝集作用がある。通常量では問題ないが過量摂取では肝毒性や腎毒性が懸念されるため、日常継続的に大量摂取することは好ましくない。

用途

香料

フランスウビガン (Houbigant) 社が人工合成のクマリンを元に1882年香水を調合することに成功し、「フジェール・ロワイヤル (Fougere Royale)」と名付けて発売し、人工合成材料による香水の製造が始まる。

タバコにも香料として用いられるが、発がん性が生じる。タバコ会社B&W社の研究開発部門副社長ジェフリー・ワイガンドが自社製品への添加をやめさせようとしたが、代替品が見つからず、本当に科学的根拠があるのかもわからないと豪語する営業畑出身の社長サンダファーはクマリン不使用を検討しなかったことで揉めた。このことを題材に1999年、映画『インサイダー』が作られた。

軽油識別剤

日本においては、クマリンは、軽油引取税脱税防止のため、1990年(平成2年)3月から識別剤として灯油及びA重油軽油周辺油種と呼ばれる)に、1 ppmの濃度で添加されている。添加は石油元売業者の製油所から出荷される際に行われ、軽油に灯油などを不正に混合しても、ブラックライトを当てると蛍光反応が出て、識別が可能となる。

イギリスにおいても1984年(昭和59年)から、灯油にクマリンを添加している(イギリスの濃度は2 ppm)。

医薬品原料

また、誘導体のワルファリンクマテトラリルフマリンビタミンKと拮抗して抗凝血作用を示すため、抗凝固剤殺鼠剤の製造原料として用いられる。

脚注

  1. ^ 熊野谿従, 桑田勉「パーキン反応に依るクマリンの合成 (第1報)」『有機合成化学協会誌』第11巻第10号、有機合成化学協会、1953年、388-390頁、doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.11.388ISSN 00379980 
  2. ^ 桜の香り 大阪市立科学館 (PDF)
  3. ^ 高橋佳孝、大谷一郎、魚住順、萩野耕司、五十嵐良造「クマリンのアレロパシー発現に及ぼす土壌条件の影響」『日本草地学会誌』第40巻第2号、1994年、223–226頁、doi:10.14941/grass.40.2232022年4月9日閲覧 

関連項目