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; 微量栄養素栄養失調
; 微量栄養素栄養失調
微量栄養素栄養失調は、自身で合成することが不可能な生命活動の維持に少量ながら必要な必須栄養素([[ビタミン]]、[[必須元素]]、[[アミノ酸]]、[[脂肪酸]])などの不足が原因で発生する。これらの欠乏は様々な疾患につながり、身体の正常な機能を損なう。[[ビタミン欠乏症]]は、かつてビタミンが知られていなかった時代においては原因が不明であり、[[ビタミンC]]欠乏症の[[壊血病]]のように航海中の船員が多くかかることで恐れられたり<ref>「人間のための一般生物学」p168 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷</ref>、[[ビタミンB1]]欠乏症である[[脚気]]のように江戸時代の都市において猖獗を極めたものもある。
微量栄養素栄養失調は、自身で合成することが不可能な生命活動の維持に少量ながら必要な必須栄養素([[ビタミン]]、[[必須元素]]、[[アミノ酸]]、[[脂肪酸]])などの不足が原因で発生する。これらの欠乏は様々な疾患につながり、身体の正常な機能を損なう。[[ビタミン欠乏症]]は、かつてビタミンが知られていなかった時代においては原因が不明であり、[[ビタミンC]]欠乏症の[[壊血病]]のように航海中の船員が多くかかることで恐れられたり<ref>「人間のための一般生物学」p168 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷</ref>、[[ビタミンB1]]欠乏症である[[脚気]]のように[[江戸時代]]から[[明治時代]]にかけての都市において猖獗を極めたものもある<ref>「新・食文化入門」p100 森枝卓士・南直人編 弘文堂 平成16年10月15日初版1刷</ref>
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2020年7月24日 (金) 15:11時点における版

栄養失調(えいようしっちょう)または栄養不良(えいようふりょう)、栄養不足(えいようぶそく)(: Malnutrition)とは、偏食や食料の不足、すなわち、多すぎたり少な過ぎる食事や1つ以上の重要な栄養の不足した食事により引き起こされる、動物が不健康になっている状態を指す一般的な用語である。動物は従属栄養生物であって、何らかの形で生体外からエネルギー産生に必要な物質を摂取せねば生きられず、飢餓が限度を超えた場合は餓死に至る。

日本の学校教育法では、身体虚弱[1]に含まれる。

要因

2006年の世界の栄養失調人口の割合。出典:世界食糧計画FAO
飢餓の状態にある女の子。

栄養失調の動物は、食事で充分なエネルギーや、必須アミノ酸ビタミン微量元素を補給できていない。

栄養失調のうち、特に体を動かすエネルギーが不足している状態を低栄養と呼び[2]、一般的には飢餓と呼ばれる。世界人口約68億人に対して、約8億1500万人が栄養を充分に摂取できない飢餓の状態にある[2]

歴史的には異常気象戦争災害による食糧生産不足や経済体制の崩壊に伴い多く発生した。

現代社会では経済的な理由で食料の調達が行えない状態(貧困)、拒食症、極端な偏食、自己流の制限食ダイエットなどに伴い発生する。特に、高齢者や自己流の制限食ダイエットによる極端な偏食に伴うものは新型栄養失調と呼ばれる事がある[3][4]。しかしながら、21世紀現在においては先進国でも、亜鉛[5][6][6]ヨウ素、およびビタミンAビタミンBなどの欠乏症は広く一般的に発生しており、公衆衛生の問題として認識されている。

新型栄養失調

例えば、高齢者で1日に3回の食事をしているが、総カロリーや蛋白質摂取量が不足し発生する[7]、これは経済的理由や買物難民(買い物弱者)[8]や、サルコペニアの要因との指摘されている[9]。また、「自己流の制限食ダイエット」などに伴い発生する[10][6]

欠乏症

ある栄養素が不足していることから起こる医学上の問題は一般的に欠乏症と呼ばれる。栄養不良の一般的な形態はタンパク・エネルギー栄養失調と微量栄養素栄養失調に分かれる。

タンパク・エネルギー栄養失調

タンパク質及びエネルギー栄養失調は、身体のエネルギーとタンパク質の不充分な利用、または、摂取不足や吸収不全による。

微量栄養素栄養失調

微量栄養素栄養失調は、自身で合成することが不可能な生命活動の維持に少量ながら必要な必須栄養素(ビタミン必須元素アミノ酸脂肪酸)などの不足が原因で発生する。これらの欠乏は様々な疾患につながり、身体の正常な機能を損なう。ビタミン欠乏症は、かつてビタミンが知られていなかった時代においては原因が不明であり、ビタミンC欠乏症の壊血病のように航海中の船員が多くかかることで恐れられたり[11]ビタミンB1欠乏症である脚気のように江戸時代から明治時代にかけての都市において猖獗を極めたものもある[12]

飢餓浮腫

血液中のアルブミンなどの多くのタンパク質は水をひきつける浸透圧作用を持っている。この場合の浸透圧は膠質浸透圧と呼ばれている。ヒトでは血漿のタンパク濃度が7.3 (g/dl)前後であるのに対して、間質液中のそれは2 (g/dl)から3 (g/dl)程度である。この時血漿の膠質浸透圧は約28 mmHgであり、間質液のそれは約8 mmHgである。この濃度差から生じる膠質浸透圧較差によって循環血液量と間質液の量が保たれている。しかし、タンパク質の不足による低アルブミン血症ではこの膠質浸透圧が低下するため、循環血漿量が維持できずに間質に水分が流出してしまう。これがむくみである浮腫の原因となっている。貧困地域の栄養失調児が極度に細い手足に反して膨らんでいる腹部の姿を示すのは、このタンパク質不足に起因する浮腫によるものである。医学的に「飢餓浮腫」と呼ばれている。

疫学

2012年の国別低栄養人口の割合
2002年における10万人あたりの栄養失調においての障害調整生命年。この図の栄養失調には、タンパク質・エネルギー栄養失調、ヨード欠乏症ビタミンA欠乏症鉄欠乏性貧血が含まれる[13]

世界飢餓指数 (GHI)は、多元的な統計により国家の飢餓状態を示すために使用される。GHIは世界的な飢餓に対する戦いの進捗や失敗の状況を測るものである。[14]。GHIは年に一度更新される。2015年報告のデータは、2000年に比べて飢餓状態にある人々がが27%減少したことを示しているものの、いまだ52カ国が深刻な飢餓レベル、あるいは警戒レベルにとどまっている。GHIは最新の飢餓および食料安全保障に加えて、毎年特別なトピックも取り上げており、2015年報告においては紛争と食糧安全保障に関する記事が含まれている。[15]

飢餓人口

国際連合は、2017年には世界に低栄養者が8億2100万人いたと推定した。この人口は国連の「低栄養者」の定義によるため、カロリー不足の状態の人口を指し、微量元素不足の人口は必ずしも含まれていないことに注意が必要である[16]。世界の農業従事者たちは同年の世界人口のほぼ2倍にあたる120億人を養うに足る食糧を生産しているにもかかわらず、栄養不良は発生した[17]

2010年時点で、栄養失調はすべての障害調整寿命のうち1.4%の原因となっていた[18]

世界の低栄養者数
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
低栄養者数(100万人)[16] 945 911 877 855 840 821 813 806 795 784 784 804
割合[16] 14.5% 13.8% 13.1% 12.6% 12.2% 11.8% 11.5% 11.3% 11.0% 10.7% 10.6% 10.8%
発展途上国における低栄養者数
1969–71 1979–81 1990–92 1995–97 2001–03 2003–05 2005–07 2010–12
低栄養者数(100万人)[19][20][21] 820 790 825 848 927 805
割合[19][20][21] 37% 28% 20% 18% 17% 16% 17% 14%

死亡率

2012年の100万人あたりの栄養不足による死亡
  0-4
  5-8
  9-13
  14-23
  24-34
  35-56
  57-91
  92-220
  221-365
  366-1,207

栄養失調の死亡率は、2006年の総死亡率のうち約58%を占めた。セーブ・ザ・チルドレンの2012年の報告書では、「世界では毎年約6200万人の人々が、栄養失調を一因として死亡している。全世界で12人に1人は栄養失調で、世界の子どもの4人に1人が慢性的な栄養失調となっている[22]。2006年には、3600万人以上の人々が微量栄養素の不足により飢えや病気で亡くなった」と報告されている[23]

1990年には883000人がタンパク・エネルギー栄養失調で死亡したが、この数は2010年には600,000人にまで減少した[24]。2010年にはヨード欠乏症鉄欠乏性貧血により、さらに84000人が死去した[24]。2010年には栄養失調によって150万人の女性と子どもが死亡した[25]

脚注

  1. ^ 病弱(身体虚弱を含む。)」のカテゴリに包括。
  2. ^ a b 飢餓をゼロに 国際連合世界食糧計画 2018年11月27日閲覧
  3. ^ 新型栄養失調って何? オムロン ヘルスケア
  4. ^ 衛藤英男、健康長寿と食品 『科学・技術研究』 2017年 6巻 2号 p.95-96, doi:10.11425/sst.6.95
  5. ^ 小坂和江、小西吉裕、山下佐知子 ほか、施設入所要介護高齢者における亜鉛摂取量と血清中亜鉛値および関連成分値に関する検討 日本食生活学会誌 2013年 23巻 4号 p.207-216, doi:10.2740/jisdh.23.207
  6. ^ a b c 司会:阪上雅史、小林正佳、耳鼻咽喉科の味覚障害治療-新たなる希望- 『口腔・咽頭科』 シンポジウム1 2017年 30巻 3号 p.289-292, doi:10.14821/stomatopharyngology.30.289
  7. ^ 中村みず季、渡辺理絵、フードデザートマップを用いた後期高齢者の買い物環境 地理空間 2014年 7巻 1号 p.33-50, doi:10.24586/jags.7.1_33
  8. ^ 薬師寺哲郎、「食料品の買い物における不便や苦労とその改善に向けての住民の意向 : 大都市郊外団地, 地方都市, 農山村における意識調査から」 農村生活研究 = Journal of the Rural Life Society of Japan 56(2), 14-24, 2013-03-01, NAID 10031196192
  9. ^ 石橋英明、「ロコモティブシンドロームの概念と現状」 理学療法ジャーナル 45巻4号 (2011年4月), p.285-291, doi:10.11477/mf.1551101917(有料閲覧)
  10. ^ 松吉秀武、蓑田涼生、林田桃子 ほか、過剰なダイエットにより生じた Wernicke 脳症例 耳鼻咽喉科臨床 2007年 100巻 5号 p.335-339, doi:10.5631/jibirin.100.335
  11. ^ 「人間のための一般生物学」p168 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  12. ^ 「新・食文化入門」p100 森枝卓士・南直人編 弘文堂 平成16年10月15日初版1刷
  13. ^ Mortality and Burden of Disease Estimates for WHO Member States in 2002” (xls). World Health Organization (2002年). 2020年3月17日閲覧。
  14. ^ “Global hunger worsening, warns UN”. BBC (Europe). (2009年10月14日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8306556.stm 2010年8月22日閲覧。 
  15. ^ K. von Grebmer, J. Bernstein, A. de Waal, N. Prasai, S. Yin, Y. Yohannes: 2015 Global Hunger Index – Armed Conflict and the Challenge of Hunger. Bonn, Washington DC, Dublin: Welthungerhilfe, IFPRI, and Concern Worldwide. October 2015.
  16. ^ a b c The State of Food Insecurity in the World 2018”. Food and Agricultural Organization of the United Nations. 2019年1月11日閲覧。
  17. ^ Jean Ziegler. "Promotion And Protection Of All Human Rights, Civil, Political, Economic, Social And Cultural Rights, Including The Right To Development: Report of the Special Rapporteur on the right to food, Jean Ziegler". Human Rights Council of the United Nations, January 10, 2008."According to the Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO), the world already produces enough food to feed every child, woman and man and could feed 12 billion people, or double the current world population."
  18. ^ Murray, CJ (Dec 15, 2012). “Disability-adjusted life years (DALYs) for 291 diseases and injuries in 21 regions, 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010”. Lancet 380 (9859): 2197–223. doi:10.1016/S0140-6736(12)61689-4. PMID 23245608. 
  19. ^ a b The State of Food Insecurity in the World 2006”. Food and Agricultural Organization of the United Nations. 2019年4月6日閲覧。
  20. ^ a b The State of Food Insecurity in the World 2008”. Food and Agricultural Organization of the United Nations. 2019年4月6日閲覧。
  21. ^ a b The State of Food Insecurity in the World 2015”. Food and Agricultural Organization of the United Nations. 2019年4月6日閲覧。
  22. ^ http://www.savethechildren.org/atf/cf/%7B9def2ebe-10ae-432c-9bd0-df91d2eba74a%7D/STATE-OF-THE-WORLDS-MOTHERS-REPORT-2012-FINAL.PDF Archived May 23, 2012, at the Wayback Machine.
  23. ^ Ziegler, Jean (2007). L'Empire de la honte. Fayard. p. 130. ISBN 978-2-253-12115-2 
  24. ^ a b “Global and regional mortality from 235 causes of death for 20 age groups in 1990 and 2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010”. Lancet 380 (9859): 2095–128. (December 2012). doi:10.1016/S0140-6736(12)61728-0. hdl:10536/DRO/DU:30050819. PMID 23245604. 
  25. ^ “A comparative risk assessment of burden of disease and injury attributable to 67 risk factors and risk factor clusters in 21 regions, 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010”. Lancet 380 (9859): 2224–60. (December 2012). doi:10.1016/S0140-6736(12)61766-8. PMC 4156511. PMID 23245609. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4156511/. 

関連項目

外部リンク