サルコペニア
| サルコペニア | |
|---|---|
| 概要 | |
| 診療科 | 老人医学 |
| 分類および外部参照情報 | |
| ICD-10 | M62.8 |
| MeSH | D055948 |
サルコペニア(sarcopenia)とは、加齢による骨格筋量の低下と定義され[1]、副次的に筋力や有酸素運動能力の低下を生じる。筋肉量の低下を必須項目とし、筋力または身体能力の低下のいずれかが当てはまればサルコペニアと診断される[2]。量を制限する食事療法はサルコペニアのリスクを高めると指摘されている[3]。
歴史的経緯
[編集]サルコペニアは、1989年にRosenbergによって「加齢による筋肉量減少」を意味する用語として提唱された。サルコペニアは造語で、ギリシア語でサルコ(sarco)は「肉・筋肉」、ペニア(penia)は「減少・消失」の意[4]。当初は骨格筋肉量の減少を定義としていたが、徐々に筋力低下、機能低下も含まれるようになった。上述の定義はEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(以下「EWGSOP」)のものであり、身体機能障害、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)低下、死のリスクを伴う包括的な内容も含まれる。同年のヨーロッパ静脈経腸栄養学会(以下「ESPEN」)のコンセンサス論文では筋肉量減少と筋力低下を認める状態を、the Society of Sarcopenia,Cachexia and Wasting Disorders(以下「SCWD」)では筋肉量減少と身体機能低下を認める状態をサルコペニアと定義している。以上のように、サルコペニアの定義は現状では確定されたものはない。現段階での各学会の定義をまとめると、狭義では筋肉量減少のみが、広義では筋力低下や身体機能低下が含まれたものが「サルコペニア」と呼ばれている。
サルコペニアの分類
[編集]EWGSOPでは、サルコペニアを加齢に伴って生じる原発性(一次性)サルコペニアと、活動、栄養、疾患に伴って生じる二次性サルコペニアに分類している。
- 原発性
- 加齢性サルコペニア - 加齢以外に明らかな原因がないもの。
- 二次性
- 活動に関連する
- 疾患に関連する
- 重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌疾患に付随するもの。
- 栄養に関係する
- 吸収不良、消化管疾患、および食欲不振を起こす薬剤使用などに伴う摂取エネルギーおよび/またはタンパク質の摂取量不足に起因するもの。
また、サルコペニアのステージ分類として、下記のような3段階を定義している。
| ステージ | 筋肉量 | 筋力 | 身体能力 | |
|---|---|---|---|---|
| プレサルコペニア | ↓ | |||
| サルコペニア | ↓ | ↓ | または | ↓ |
| 重症サルコペニア | ↓ | ↓ | ↓ |
日本におけるサルコペニアの課題
[編集]- 用語の混乱
- 現段階でサルコペニアの明確な定義はなく、それぞれの定義により別立てで新たな用語が使われることがある。サルコペニアを「加齢による」筋力低下・筋肉量低下とした場合、それ以外の要因の筋力低下・筋肉量低下をミオペニアと呼ぶことがある。また、加齢による「筋肉量減少」をサルコペニア、加齢による「筋力低下」をダイナペニアと定義する論文もある。ミオペニア、ダイナペニアともに各々においても定義が異なることがある。
- 診断基準
- EWGSOPが提唱したサルコペニア診断のアルゴリズムでは、歩行速度、握力、筋肉量が用いられる。サルコペニア診断におけるカットオフ値は欧米のデータによる算出が多く、日本人に適さないものがほとんどである。日本人対象のカットオフ値については、真田[1]や下方[5]らの研究で簡易基準が提唱された[6]。今後は、この診断基準が日本人のサルコペニア診断に有用であるか、検証する研究が求められる。しかし、『簡易評価法開発』の論文はデータ収集過程の不備により撤回された[1]。
その後、我が国の高齢者診療では、アジア人集団を前提にしたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の診断基準を用いることが推奨されるようになり、2021年の日本老年医学会雑誌の総説でも、日本ではAWGS2019に基づいて筋力、身体機能、骨格筋量を組み合わせて判定することが望ましいと整理されている[7]。このため、日本における診断基準の論点は、欧米データの単純移植の可否だけでなく、AWGS系基準をどの現場でどう適用し、測定条件や臨床状況による過小評価・過大評価を避けるかへ移っている[7]。
さらに2025年には日本サルコペニア・フレイル学会が、今後のサルコペニア診断ではAWGS2019ではなくAWGS2025を使用するよう案内した[8][9]。この改訂では、50〜64歳の基準値が追加され、診断アルゴリズムは低筋肉量と低筋力の併存を要件とする形に簡素化され、身体機能は診断基準ではなくアウトカムとして扱われるよう整理された[8][9]。また、地域やプライマリ・ケアの段階では握力低下を「サルコペニアの可能性あり」とみなし、確定診断ではDXAまたはBIAによる四肢骨格筋量測定へ進む流れが示され、BMI 24以上では身長の2乗補正に加えてBMI補正のカットオフ値も導入された[8][9]。したがって、現在の日本における診断実務は、「日本人に適した基準値が未整備である」という段階から、AWGS系基準を前提に症例発見、確定診断、転帰評価を分けて運用する段階へ移っているとみるのが適切である[7][8][9]。
評価方法
[編集]サルコペニアの簡易な診断方法はいくつか提唱されている。
- 「指輪っかテスト」
- 両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太いところを輪で囲む。輪のほうがふくらはぎよりも大きければサルコペニアを疑う[10]。
- 「片足立ち」[11]
- 「DEXA・CTスキャン」(身体画像イメージ法)
- 2つの画像イメージ法が筋肉量や除脂肪体重の測定に使用されてきた。コンピュータ断層撮影(CTスキャン)、二重エネルギー X線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry:DEXA)である。CTおよびMRIは、体内の他の軟部組織から脂肪を切り離すことができる。非常に正確な画像システムであると考えられており、これらの方法は、研究において筋肉量を測定するゴールド・スタンダードとされている。
- Asian Working Group for Sarcopeniaによる診断基準[12]では、DEXAで男性は≦7.0kg/m2、女性は≦5.4kg/m2でサルコペニアと診断される。
- 「生体インピーダンス分析」(bioimpedance analysis:BIA)
参考文献
[編集]- 1 2 3 真田樹義、宮地元彦、山元健太、ほか「【原著】撤回:日本人成人男女を対象としたサルコペニア簡易評価法の開発」『体力科學』第59巻第3号、2010年6月1日、291-302頁、doi:10.7600/jspfsm.59.291、2013年5月5日閲覧。
- ↑ 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者における加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究 研究班「サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A」(PDF)『日本老年医学会雑誌』第49巻第6号、2012年、788-805頁、doi:10.3143/geriatrics.49.788、2013年4月29日閲覧。
- ↑ 筋肉を作る蛋白質から食べてインスリンの分泌を促す 日経メディカルオンライン 記事:2017年12月26日
- ↑ “サルコペニアとは”. 公益財団法人長寿科学振興財団. 2018年1月28日閲覧。
- ↑ 下方浩史、安藤富士子「日常生活機能と骨格筋量、筋力との関連」『日本老年医学会雑誌』第49巻第2号、2012年3月25日、195-198頁、doi:10.3143/geriatrics.49.195、NAID 10031130913、2019年6月6日閲覧。
- ↑ 葛谷雅文、雨海照祥編集『栄養・運動で予防するサルコペニア』(初)医歯薬出版株式会社、2013年。ISBN 978-4-263-70614-5。
- 1 2 3 「サルコペニア新診断基準(AWGS2019)を踏まえた高齢者診療」『日本老年医学会雑誌』第58巻第2号、2021年、175-182頁、doi:10.3143/geriatrics.58.175。
- 1 2 3 4 “新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ” (PDF). 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会. 2026年3月18日閲覧。
- 1 2 3 4 Chen, LK (2025). “A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update” (英語). Nature Aging. doi:10.1038/s43587-025-01004-y.
- ↑ 第56回日本老年医学会学術集会での飯島勝矢の報告 - Medical Tribune.(
要登録) - ↑ 筋肉量を保持して若々しい身体を保つ! 〜サルコペニアを予防しよう〜 - タニタの健康応援ネット。
- 1 2 Chen LK; Liu LK; Woo J; et al (2014-02). “Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia”. J Am Med Dir Assoc 15 (2): 95-101. doi:10.1016/j.jamda.2013.11.025. PMID 24461239.
- ↑ 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業) 高齢者における加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究研究班「サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサス―高齢者のサルコペニアに関する欧州ワーキンググループの報告―の監訳」『日本老年医学会雑誌』第49巻第6号、2012年、788-805頁、doi:10.3143/geriatrics.49.788。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- サルコペニア - J-GLOBAL
- 河野尚平、二川健、サルコペニアの発症メカニズム−廃用性筋萎縮との類似点と相違点から 『医学のあゆみ』 Volume 236、Issue 5、535 - 539(2011)
- 下方浩史、安藤富士子、「疫学研究からのサルコペニアとそのリスク―特に栄養との関連」 『日本老年医学会雑誌』 2012年 49巻 6号 p.721 - 725、doi:10.3143/geriatrics.49.721、日本老年医学会
- 筋肉量低下の高齢男性、腸内細菌が偏る傾向 順天堂大学 (日本経済新聞、2025年6月29日)