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また、自衛艦が遭難等で沈没する際も艦長は先に退艦することが許されず、「艦長は、遭難した自艦を救護するための方策が全く尽きた場合は、乗員の生命を救助し、かつ、重要な書類、物品等を保護して最後に退艦するものとする。」(自衛艦乗員服務規則第34条第1項)とされる。 |
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==最後離船、最後退船の義務== |
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古くから商船(軍艦)が沈む際には、船長は最後に離船する、時には船と運命を共にするという事例が見られた。こうした伝統は、長年、商船の運用を行ってきた[[イギリス]]においても法令などで成文化されてはいない。[[1980年]]、[[LNG船]]が[[関門海峡]]の投錨地で[[座礁]]した際に[[アメリカ人]]船長がピストル[[自殺]]した例、[[1997年]]、[[福井県]]沖で[[ナホトカ号重油流出事故]]が発生した際に[[ロシア人]]船長が救出を拒否して後日、遺体となって発見された例など、個別事例は枚挙にいとまない。しかし一方で、[[2012年]]の[[コスタ・コンコルディアの座礁事故]]、[[2014年韓国フェリー転覆事故]](セウォル号)のように船長が救助の現場を放棄し、いち早く避難するといった極端な例も見られる。一方、日本では、過去、前述のように船員法第12条で船長の最後離船が定められていたが、1969年から1970年にかけて3件立て続けに遭難した船の船長が離船を拒否して[[殉職]]する例が見られたため、法改正が行われ、船長の最後離船、最後退船は義務ではなくなっている<ref>[http://captain.or.jp/?page_id=3828 IFSMA便りNO.21] (社)日本船長協会事務局(2017年5月13日閲覧)</ref>。 |
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== 関連項目 == |
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2017年5月13日 (土) 02:41時点における版
船長(せんちょう)とは、特定の船舶の乗組員で、船舶の指揮者であるとともに船主の代理人として法定の権限を有する者[1]。日本では軍艦(自衛艦)の長を艦長(英語: captain)と称している。ヨットにおいては艇長(ていちょう)あるいはスキッパー(英語: skipper)と称することもある。
概説
船長は船舶の運航指揮者という航行組織上の地位と海上企業主体の代理人という企業取引組織上の地位の二面性を有する[1]。
服制は、上着の袖章または肩章の四条の線をもって船長の職位を表すことが多い。
日本の法令上の船長
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
船長の選任と解任
船長は海上企業主体(船主もしくは船舶賃借人)によって選任される[2]。船舶共有の場合は船舶管理人が選任を行う(商法700条)[2]。船長には航行区域と船舶の大きさに従って船舶職員及び小型船舶操縦者法に定める有資格者のうちから選任しなければならない[2]。
船長がやむを得ない事由により自ら船舶を指揮することができないときは法令に別段の定めがある場合を除いて他人を選任して自己の職務を行わせることができ(商法707条前段)、これを代船長という[2]。この場合においては船長はその選任につき船舶所有者に対して責任を負う(商法707条後段)。
また、船長が死亡したとき、船舶を去ったとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に従事する海員は、その職掌の順位に従って船長の職務を行う(船舶法20条)。これを代行船長というが、代行船長は厳密な意味での船長ではない[2]。
船長は雇用契約の終了事由によりその地位を失うほか、船舶所有者は何時でも船長を解任することができる(商法721条1項本文)[2]。ただし、正当な理由なく解任したときは船長は船舶所有者に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(商法721条1項但書)。
船長の権限
私法上の権限
- 船長の代理権
- 積荷の供用
- 船長は航海を継続するため必要なときは積荷を航海の用に供することができる(商法719条)。
公法上の権限
- 船舶指揮権
- 指揮命令権
- 船長は指揮命令権を有し、海員を指揮監督し、かつ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができる(船員法第7条)。
- 懲戒権
- 船長は、海員が船員法21条の事項を守らないときは、これを懲戒することができる(船員法22条-24条)。
- 危険に対する処置
- 船長は、海員が凶器、爆発又は発火しやすい物、劇薬その他の危険物を所持するときは、その物につき保管、放棄その他の処置をすることができる(船員法25条)。
- 船長は、船内にある者の生命若しくは身体又は船舶に危害を及ぼすような行為をしようとする海員に対し、その危害を避けるのに必要な処置をすることができる(船員法26条)。
- 船長は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に対しても、前二条に規定する処置をすることができる(船員法27条)。
- 強制下船
- 船長は、雇入契約の終了の届出をした後当該届出に係る海員が船舶を去らないときは、その海員を強制して船舶から去らせることができる(船員法28条)。
- 行政庁に対する援助の請求
- 船長は、海員その他船内にある者の行為が人命又は船舶に危害を及ぼしその他船内の秩序を著しくみだす場合において、必要があると認めるときは、行政庁に援助を請求することができる(船員法29条)。
- 水葬
- 船長は、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、国土交通省令の定めるところにより、これを水葬に付することができる(船員法15条)。
- 司法警察権
- 遠洋区域、近海区域又は沿海区域を航行する総トン数20トン以上の船舶の船長は、他の一定の海員と共に特別司法警察職員に指定されている(司法警察職員等指定応急措置法(昭和23年法律第234号)第1条及び司法警察官吏及司法警察官吏の職務を行うべき者の指定等に関する件(大正12年勅令第528号))。
船長の義務
- 善管注意義務
- 商法上の書類備置義務
- 船長は属具目録及び運送契約に関する書類を船中に備え置くことを要する(商法709条1項)。
- 発航前の検査
- 船長は、国土交通省令の定めるところにより、発航前に船舶が航海に支障ないかどうかその他航海に必要な準備が整っているかいないかを検査しなければならない(船員法8条)。
- 航海の成就
- 船長は、航海の準備が終ったときは、遅滞なく発航し、かつ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行しなければならない(船員法9条)。
- 甲板上の指揮
- 在船義務
- 船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない(船員法11条)。
- 船舶に危険がある場合における処置
- 船長は、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない(船員法12条)。
- なお、旧船員法第12条では「船長は船舶に急迫した危険があるとき、人命、船舶および積荷の救助に必要な手段をつくし、かつ、旅客、海員、その他船内にあるものを去らせた後でなければ、自己の指揮する船舶を去ってはならない。」とあり、違反した場合は5年以下の懲役という罰則が規定されていた。
- 1970年に船員法が改正がされて、現船員法第11条・第12条に置き換えられ、自己の指揮する船舶に急迫した危険には必要な手段を尽くす一方で、やむを得ない場合には己の指揮する船舶を去ることを可能とする規定となった。
- 船舶が衝突した場合における処置
- 船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、この限りでない(船員法13条)。
- 遭難船舶等の救助
- 船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知ったときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合は、この限りでない(船員法14条)。
- 異常気象等
- 非常配置表の作成及び操練
- 国土交通省令の定める船舶の船長は、非常の場合における海員の作業に関し、国土交通省令の定めるところにより、非常配置表を定め、これを船員室その他適当な場所に掲示しておかなければならない。国土交通省令の定める船舶の船長は、国土交通省令の定めるところにより、海員及び旅客について、防火操練、救命艇操練その他非常の場合のために必要な操練を実施しなければならない(船員法14条の3)。
- 航海の安全の確保
- そのほか、航海当直の実施、船舶の火災の予防、水密の保持その他航海の安全に関し船長の遵守すべき事項は、国土交通省令でこれを定める(船員法14条の4)。
- 遺留品の処置
- 船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明となったときは、法令に特別の定がある場合を除いて、船内にある遺留品について、国土交通省令の定めるところにより、保管その他の必要な処置をしなければならない(船員法16条)。
- 在外国民の送還
- 船員法上の書類備置義務
- 船長は、国土交通省令の定める場合を除いて、以下の書類を船内に備え置かなければならない(船員法18条)。
- 船舶国籍証書又は国土交通省令の定める証書
- 海員名簿
- 航海日誌
- 旅客名簿
- 積荷に関する書類
- 船長は、国土交通省令の定める場合を除いて、以下の書類を船内に備え置かなければならない(船員法18条)。
- 航行に関する報告
- 航海中の出生及び死亡の届出
艦長
- 大日本帝国海軍
大日本帝国海軍における「艦長」とは、軍艦外務令の艦艇内において定められた狭義の軍艦の指揮官で(階級は大佐もしくは中佐)、これらの艦首には菊花紋章がつけられていた。軍艦に含まれていない駆逐艦や潜水艦などの指揮官は「長」と呼ばれ(階級は中佐もしくは少佐)、駆逐艦長や潜水艦長と言うのが正式な呼称であった。後者の場合、艦長と同列の指揮官は駆逐隊司令や潜水隊司令となった。
- 海上自衛隊
海上自衛隊における艦長について解説すると、自衛艦乗員服務規則[6]においては、「艦長は、1艦の首脳である。艦長は、法令等の定めるところにより、上級指揮官の命に従い、副長以下乗員を指揮統率し、艦務全般を統括し、忠実にその職責を全うしなければならない。」(自衛艦乗員服務規則第3条)と謳われている。
また、自衛艦が遭難等で沈没する際も艦長は先に退艦することが許されず、「艦長は、遭難した自艦を救護するための方策が全く尽きた場合は、乗員の生命を救助し、かつ、重要な書類、物品等を保護して最後に退艦するものとする。」(自衛艦乗員服務規則第34条第1項)とされる。
最後離船、最後退船の義務
古くから商船(軍艦)が沈む際には、船長は最後に離船する、時には船と運命を共にするという事例が見られた。こうした伝統は、長年、商船の運用を行ってきたイギリスにおいても法令などで成文化されてはいない。1980年、LNG船が関門海峡の投錨地で座礁した際にアメリカ人船長がピストル自殺した例、1997年、福井県沖でナホトカ号重油流出事故が発生した際にロシア人船長が救出を拒否して後日、遺体となって発見された例など、個別事例は枚挙にいとまない。しかし一方で、2012年のコスタ・コンコルディアの座礁事故、2014年韓国フェリー転覆事故(セウォル号)のように船長が救助の現場を放棄し、いち早く避難するといった極端な例も見られる。一方、日本では、過去、前述のように船員法第12条で船長の最後離船が定められていたが、1969年から1970年にかけて3件立て続けに遭難した船の船長が離船を拒否して殉職する例が見られたため、法改正が行われ、船長の最後離船、最後退船は義務ではなくなっている[7]。
脚注
- ^ a b 田村諄之輔 、平出慶道『現代法講義 保険法・海商法補訂第2版』青林書院、1996年、162頁。
- ^ a b c d e f 田村諄之輔 、平出慶道『現代法講義 保険法・海商法補訂第2版』青林書院、1996年、163頁。
- ^ a b 田村諄之輔 、平出慶道『現代法講義 保険法・海商法補訂第2版』青林書院、1996年、164頁。
- ^ a b 田村諄之輔 、平出慶道『現代法講義 保険法・海商法補訂第2版』青林書院、1996年、165頁。
- ^ 田村諄之輔 、平出慶道『現代法講義 保険法・海商法補訂第2版』青林書院、1996年、166頁。
- ^ 自衛艦乗員服務規則について(通達)
- ^ IFSMA便りNO.21 (社)日本船長協会事務局(2017年5月13日閲覧)
関連項目