「脊髄小脳変性症」の版間の差分
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== 概要 == |
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1986年の調査では10万人に5~10人の割合で発症すると推定されている。2000年現在で日本では2万人弱の患者がいると考えられている。日本では遺伝性が30%であり、非遺伝性が70%である。欧米と異なり遺伝性のSCAは大部分が優性遺伝である。主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。非常にゆっくりと症状が進行していくのが特徴。10年、20年単位で徐々に進行することが多い。だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。遺伝性のものは孤発性よりも若年発症が多いが、DRPLAを除き孤発性よりも予後はよいとされている。 |
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10万人に5~10人の割合で発症すると推定されている。人種、性別、職業による発病の差は認められていない。 |
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ただし、孤発性(非遺伝性):遺伝性の比率は6:4であるといわれており、遺伝性疾患の大部分は[[常染色体]]の[[優性遺伝]]が原因といわれている。 |
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主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。 |
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非常にゆっくりと症状が進行していくのが特徴。10年、20年単位で徐々に進行することが多い。だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。 |
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小脳、脳幹、脊髄にかけての神経細胞は破壊されるが、大脳部分は破壊されない。そのため、[[アルツハイマー病]]などとは異なり、患者は、自分の身体の運動機能が徐々に衰退していくことをはっきりと認識できる。 |
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2011年10月、[[群馬大学]]の平井宏和教授らの研究グループが、脊髄小脳変性症が発症する仕組みの一部をマウス実験で解明したと発表した<ref>{{cite news|title = 難病の脊髄小脳変性症、発症の仕組み一部解明…群馬 |url = http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=48269|publisher = [[読売新聞]]|date = 2011年10月6日| accessdate = 2011年10月6日}}</ref>。 |
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=== 孤発性 === |
=== 孤発性 === |
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非遺伝性(孤発性)脊髄小脳変性症は大きく[[多系統萎縮症]](MSA)と孤発型皮質小脳変性症(CCA)およびその他の症候性小脳変性症に分類される。多系統萎縮症はかつては[[オリープ橋小脳変性症]](OPCA)、[[線条体黒質変性症]](SND)、[[シャイドレーガー症候群]](SDS)と呼ぼれていたものであるが、患者のグリア細胞内にGCIという嗜銀性封入体が共通して認められたため疾患概念が統一された。 |
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;孤発性皮質性小脳変性症 |
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*[[多系統萎縮症]]([[オリーブ橋小脳萎縮症]]) |
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;症候性皮質小脳変性症 |
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症候性の小脳変性症の原因としては、アルコール性、薬剤性(フェニトイン、リチウム、5-FUなど)、中毒性(有機水銀)、内分泌性(甲状腺機能低下症)、傍腫瘍性小脳変性症、感染症後遺症(急性小脳炎)、ビタミン欠乏症(ビタミンE、B12)などが知られている。 |
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;多系統萎縮症 |
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=== 遺伝性 === |
=== 遺伝性 === |
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遺伝性脊髄小脳変性症は優性遺伝のものと劣性遺伝のものがあり、原因遺伝子によって分類される。欧米では劣性遺伝のものが多いが、日本では圧倒的に優性遺伝が多い。2009年現在脊髄小脳変性症は31型まで報告されている。従来、遺伝性OPCAまたはMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの多くはSCA1、SCA2、SCA3のいずれかであり、遺伝性皮質性小脳萎縮症またはHolmes型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの半数はSCA6であり、残りの多くはSCA31であったと考えられている。Hardingの分類では常染色体優性遺伝性小脳失調(ADCA)を3群に分けている。ADCAⅠ群は錐体路障害や錐体外路障害、末梢神経障害や認知症を伴い、ADCAⅡ群は網膜黄斑変性症を伴う、ADCAⅢ群は純小脳失調である。日本ではSCA3が最も多く、次いでSCA6、SCA31が多い。欧米に比べてSCA1、SCA2は少ない。劣性遺伝のものは全体に1.8%程度である。EAOHが半数をしめる。 |
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#*脊髄小脳失調症1型(SCA1) |
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:第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。 |
:第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。病理学的には肉眼所見では小脳虫部上面に萎縮が認められる他は著変はない。ミクロ所見では小脳虫部の前方部分を中心にプルキンエ細胞の脱落などの変化が著明であった。下オリーブ核を含めて脳幹や大脳には異常所見はなく、HE染色では残存したプルキンエ細胞のまわりを厚い好酸性の物質が囲んでいるのがみえる。calbindin-D28kとsynaptophysinに対する免疫染色で陽性を示す。プルキンエ細胞の成分と他の神経細胞からの神経前終末が存在すると考えられている。他の疾患ではみられないSCA31に特異的に認められる病理所見である。 |
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== 症状 == |
== 症状 == |
2013年3月7日 (木) 14:32時点における版
脊髄小脳変性症 | |
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人間の脳における小脳(青の部分) | |
概要 | |
診療科 | 神経学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | G11 |
ICD-9-CM | 334 |
DiseasesDB | 12339 |
MeSH | D020754 |
脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう、英:Spinocerebellar Degeneration (SCD))は、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称である。小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく病気であり、1976年10月1日以降、特定疾患に16番目の疾患として認定されている。また、介護保険における特定疾病でもある。
概要
1986年の調査では10万人に5~10人の割合で発症すると推定されている。2000年現在で日本では2万人弱の患者がいると考えられている。日本では遺伝性が30%であり、非遺伝性が70%である。欧米と異なり遺伝性のSCAは大部分が優性遺伝である。主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。非常にゆっくりと症状が進行していくのが特徴。10年、20年単位で徐々に進行することが多い。だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。遺伝性のものは孤発性よりも若年発症が多いが、DRPLAを除き孤発性よりも予後はよいとされている。
分類
孤発性
非遺伝性(孤発性)脊髄小脳変性症は大きく多系統萎縮症(MSA)と孤発型皮質小脳変性症(CCA)およびその他の症候性小脳変性症に分類される。多系統萎縮症はかつてはオリープ橋小脳変性症(OPCA)、線条体黒質変性症(SND)、シャイドレーガー症候群(SDS)と呼ぼれていたものであるが、患者のグリア細胞内にGCIという嗜銀性封入体が共通して認められたため疾患概念が統一された。
- 孤発性皮質性小脳変性症
- 症候性皮質小脳変性症
症候性の小脳変性症の原因としては、アルコール性、薬剤性(フェニトイン、リチウム、5-FUなど)、中毒性(有機水銀)、内分泌性(甲状腺機能低下症)、傍腫瘍性小脳変性症、感染症後遺症(急性小脳炎)、ビタミン欠乏症(ビタミンE、B12)などが知られている。
- 多系統萎縮症
遺伝性
遺伝性脊髄小脳変性症は優性遺伝のものと劣性遺伝のものがあり、原因遺伝子によって分類される。欧米では劣性遺伝のものが多いが、日本では圧倒的に優性遺伝が多い。2009年現在脊髄小脳変性症は31型まで報告されている。従来、遺伝性OPCAまたはMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの多くはSCA1、SCA2、SCA3のいずれかであり、遺伝性皮質性小脳萎縮症またはHolmes型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの半数はSCA6であり、残りの多くはSCA31であったと考えられている。Hardingの分類では常染色体優性遺伝性小脳失調(ADCA)を3群に分けている。ADCAⅠ群は錐体路障害や錐体外路障害、末梢神経障害や認知症を伴い、ADCAⅡ群は網膜黄斑変性症を伴う、ADCAⅢ群は純小脳失調である。日本ではSCA3が最も多く、次いでSCA6、SCA31が多い。欧米に比べてSCA1、SCA2は少ない。劣性遺伝のものは全体に1.8%程度である。EAOHが半数をしめる。
- 常染色体優性遺伝
- 脊髄小脳失調症1型(SCA1)
- 脊髄小脳失調症2型(SCA2)
- 脊髄小脳失調症3型(SCA3、通称:マシャド・ジョセフ病)
- 脊髄小脳失調症6型(SCA6)
- 脊髄小脳失調症7型(SCA7)
- 脊髄小脳失調症10型(SCA10)
- 脊髄小脳失調症12型(SCA12)
- 脊髄小脳失調症は2009年現在で31型まで発見されている。
- 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
- 常染色体劣性遺伝
- フリードライヒ失調症(FRDA)
- ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED)
- 眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性小脳失調症(EOAH)
- ※日本ではマシャド・ジョセフ病の患者が最も多い。
各病型の特徴
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- SCA31
- 第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。病理学的には肉眼所見では小脳虫部上面に萎縮が認められる他は著変はない。ミクロ所見では小脳虫部の前方部分を中心にプルキンエ細胞の脱落などの変化が著明であった。下オリーブ核を含めて脳幹や大脳には異常所見はなく、HE染色では残存したプルキンエ細胞のまわりを厚い好酸性の物質が囲んでいるのがみえる。calbindin-D28kとsynaptophysinに対する免疫染色で陽性を示す。プルキンエ細胞の成分と他の神経細胞からの神経前終末が存在すると考えられている。他の疾患ではみられないSCA31に特異的に認められる病理所見である。
症状
- 運動失調の症状(=小脳失調障害)
- 歩行障害:歩行時にふらつき、転倒することが多くなる。症状が重くなると歩行困難になる。
- 四肢失調:手足を思い通りに動かせない。箸をうまく使えない。書いた字が乱れる。症状が重くなるとものを掴むことが困難になる。
- 構音障害:ろれつがまわらなくなる。一言一言が不明瞭になり、声のリズムや大きさも整わなくなる。症状が重くなると発声が困難になる。
- 眼球振盪:姿勢を変えたり身体を動かしたりした時、ある方向を見た時、何もしていないのに眼球が細かく揺れる。
- 姿勢反射失調:姿勢がうまく保てなくなり、倒れたり傾いたりする。
- 上記は小脳の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
- 運動失調の症状(=延髄機能障害)
- 振戦:運動時、または姿勢保持時に自分の意思とは関係なく、勝手に手が震える。(=錐体外路障害)
- 筋固縮:他人が関節を動かすと固く感じられる。(=錐体外路障害)
- バビンスキー反射:足の裏をなぞると指が反り返る。(=錐体路障害)
- 上記は延髄の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
- 自律神経の症状(=自律神経障害)
- 上記は自律神経の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
- 不随意運動の障害
療法
現在、完治する療法は見つかっていないため、以下に挙げる対症療法が基本となる。
- 薬物療法
- TRH(甲状腺ホルモン分泌促進ホルモン)酒石酸プロチレリン(ヒルトニン):注射。歩行障害や会話障害といった運動失調に効果があるが、改善は一時的なものにすぎない。また効果が持続する時間が短く外来で注射に通わなければならない煩雑さがあった。
- 現在は経口薬であるTRH誘導体タルチレリン水和物(セレジスト)が普及しており、通院回数が減ったため、患者の負担が軽減されるようになった。
- 薬物療法の他に、脳に磁気刺激を与える療法があるが、スクリーニング検査の結果、磁気刺激療法はSCD全体に顕著な効果は見られない事がわかった。
- パーキンソン治療薬:振戦や筋固縮の対症療法に使われる。
- また脳内に電極を埋め込み、電気刺激を与えるパーキンソン病への治療法が、SCD患者の振戦にも同じ効果があるとして振戦のひどい患者に対して手術が行われる場合もある。
- 自律神経調整薬:代表的なものとして、起立性低血圧の対症療法にジヒドロエルゴタミンやドプスなどが使われる。
- TRH(甲状腺ホルモン分泌促進ホルモン)酒石酸プロチレリン(ヒルトニン):注射。歩行障害や会話障害といった運動失調に効果があるが、改善は一時的なものにすぎない。また効果が持続する時間が短く外来で注射に通わなければならない煩雑さがあった。
- リハビリ
- 重量負荷:重りの入った靴を履いたり、ふくらはぎに重りをつけて歩くことで運動失調の進行を遅らせる目的がある。
- 弾性包帯:足を弾性包帯で巻くことにより、歩行障害や起立性低血圧を防ぐ目的がある。
原因と予後
遺伝性のものは、近年、原因となる遺伝子が次々と発見されており、それぞれの疾患とその特徴もわかりつつある。
常染色体優性遺伝のもので最も多く見られるのは、シトシン・アデニン・グアニンの3つの塩基が繰り返されるCAGリピートの異常伸長であることが判明した。CAGはグルタミンを翻訳・発現させるRNAコードだが、正常な人はこのCAGリピートが30以下なのに対し、この病気の患者は50〜100に増加している。CAGリピートの数が多ければ多いほど、若いうちに発症し、症状も重くなることが分かりつつある。この異常伸長により、脳神経細胞がアポトーシスに陥ることが近年の研究で分かりつつある。
孤発性の多系統萎縮症に関しても、オリゴデンドログリアや神経細胞内に異常な封入体が存在することが分かっていたが、その主成分が、パーキンソン病患者の脳細胞に見られるレビー小体の構成成分でもあるα -シヌクレインというたんぱく質の一種であることが判明した。現在はその蓄積システムの研究が両疾患の研究スタッフの間で進められている。
だが、具体的な原因が完全にわかるまでには相当な時間がかかることが予想される。また、現段階で根本的な治療法が確立されているのはビタミンE単独欠乏失調症のみであり、他の疾患に関しては薬物療法やリハビリテーションといった対症療法で進行を抑えるしかないのが現状である。
運動神経の変性によって転倒の危険が増すため、リハビリ、特に手足腰の筋肉を鍛えることで大きなけがを防ぐ事に繋がるので、ウォーキングや筋力トレーニングは毎日かかさない方が体がスムーズに動かせる。
病気の進行は緩慢であるため、10年、20年と長いスパンで予後を見ていく必要があり、障害が進行するにしたがって介護が必要になるケースも出てくる。
遺伝子検査を行って、遺伝性か否かを判定するには、採血による遺伝子検査方法によって2週間ほどで判定できる。しかし、発病前の遺伝子検査、また親が検査を受けることによって遺伝性が判明した場合、子供達に遺伝病のキャリアであることを宣告することになるので慎重な対応が求められる。
社会的影響
この病気を患った木藤亜也の日記を本にした『1リットルの涙』が2006年に210万部の売り上げを誇るヒットとなった。また、同作品は映画化(大西麻恵主演)、テレビドラマ化(沢尻エリカ主演)されている。
脚注