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*[http://www.ipss.go.jp/ 国立社会保障・人口問題研究所]
*[http://www.ipss.go.jp/ 国立社会保障・人口問題研究所]



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2005年10月18日 (火) 04:58時点における版

社会保障(しゃかいほしょう、social security)とは、国民の社会的リスクである、老齢・病気失業傷害などの生活上の問題に対し、国家所得医療を保障、・社会福祉サービスを提供することをいう。その根拠は基本的人権の一つである生存権(国民が人間らしく生活する権利)に求められる。失業など、社会・経済が原因で貧困に陥るような問題については、個人の対応ではなく国が社会的な施策を用意することが大事であるということが、社会保障という言葉が生まれた際に込められていた意味である。

社会保障の歴史

社会保障制度の前史は、社会が封建制から資本主義に移行する頃、イギリスで救貧税をつくり、働く能力はあるが働かない窮民を救済したのが制度的な始まりと言われている。資本主義が定着していくと資本家から、失業は個人の問題であり、国による貧民救済は有害との主張がなされた。ドイツでは、防貧のために労働者が自分たちの賃金の一部を出し合って助け合う共済組合を作ったが、不況や失業による貧困が深刻すぎ全ての人を救済しきれなかった。そこで労働者は、自分たちの生活保障を国と資本家で行うよう主張した。結果として1883年(日本では明治18)ドイツで初めて国の制度として社会保険が実現した。社会保険制度を創設しつつ社会主義運動を弾圧する鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクの政策は「飴とムチ」の政策と呼ばれる。このとき保険料には、労働者だけでなく、雇用主や国の負担が導入された。

社会保障という言葉は、1935年アメリカで制定された社会保障法(Social Security Act)で初めて使われた。イギリスでは、戦時中の1942年ベヴァリッジが「社会保険と関連サービス」と題したベヴァリッジ報告を提言、戦後の社会保障の理想的体系を示し、その後多くの国の社会保障の発展に大きな影響を与えた。

財政方式をドイツのように社会保険を中心とする国と、イギリスの医療制度のように税を用いる国などタイプは分かれるが、様々な手段を用いて社会保障制度が発展していった。

社会保障の定義

日本の社会保障制度は社会保障制度審議会(現:経済財政諮問会議・社会保障審議会)の分類によれば、社会保険公的扶助社会福祉公衆衛生及び医療・老人保健の5本の柱から成っているとされ、広義ではこれらに恩給と戦争犠牲者援護を加えている。

社会保障は「目的」と「制度」を分別して説明されることが多く、目的は多くの国で共通するが、制度の中身や仕組みは国によって相当異なり、経済的な保障のみを指す国もある。このため近年、ILOやEUなどでは、Social Security(社会保障)という言葉に代わって、Social Protection(社会保護あるいは社会的保護と訳される)という言葉を用いて、制度概念の統一化を図っている。

日本の社会保障

日本国憲法第25条において以下のように記され、生存権が確認され、社会保障が規定されている。 しかしここでは、社会保障の内容については一切触れられていない。

一、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
二、国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

社会保障の費用

  • 社会保障関係費

政府予算の一般歳出に占める医療や年金、介護、生活保護などの社会保障分野の経費のことで総額20兆円を超える。2005年度の社会保障関係費は20兆3808億円(前年度比2,9%増、5830億円増)である。

  • 社会保障給付費

政府予算とは別の統計で、国・地方自治体の歳出や社会保険等から支払われたものを含む社会保障の給付額を指し、2003年度の社会保障給付費は84兆2668億円である。

社会保障の課題

1980年代後半から出生率経済成長率の低下で「社会保障の危機」が言われ、制度改革は現在の日本における最大の課題のひとつとなっている。人口の高齢化は世界で最もスピードが速く、日本の社会保障改革は全世界が注目しており、年金・医療・介護などの制度のあり方や、財源の確保が国民的課題となっている。

給付と負担のレベルをどう設定し、制度を維持・充実していくかが問われているが、現在の社会保障給付は、7割が高齢者に充てられており、人口の高齢化が若年世代の負担を年々増やしている。少子化を食い止めるため、児童手当の充実など子育て世代への支援や、若年世代への失業対策、住宅などの関連施策の充実、男女共同参画社会の実現が急がれている。しかしこういった施策を推進するための、社会保障の明確な理念はいまだ構築されていない。

小泉構造改革は「小さな政府」を目指しており、公立保育所の民間委託や営利企業の認可保育への参入を実施し、株式会社の医療への参入を目指すなど、福祉・医療制度の「規制緩和」が議論されている。民間活力の導入という掛け声の下に、医療、福祉、教育などの公的な分野に対する政府の責任・役割を縮小し、企業を参入させ、市場原理の導入を図ろうとしている。

社会保障への関心(世論調査)

2005年9月内閣府は「国民生活に関する世論調査」の結果を発表した。「今後、政府に対して、力を入れてほしいと思うこと」(複数回答可)との質問では、「医療・年金等の社会保障構造改革」を挙げた人が61.3%(昨年調査より6.4%減)で最も多く、ここ数年トップだった「景気対策」を2年連続で上回った。以下「景気対策」(53.5%)、「高齢社会対策」(45.5%)、「雇用・労働問題」(37.0%)などの順となっている。

年金改革

年々増加する給付費に加えて、国民年金保険料の未納率の上昇や、国会議員の国民年金未納問題、社会保険庁の無駄遣いが取りざたされた結果、公的年金制度への不信感が強まっている。職業や制度によって異なる保険料や給付内容の問題を解消すべく「年金制度の一元化」が課題となっている。また、働く女性に比べて「サラリーマンの妻(専業主婦)」が制度上優遇されていると言われているが、問題の解決を見ていない。

2004年12月に政府・与党がまとめた「税制改革大綱」では、2005,2006年度には各種の増税とともに「年金、医療、介護等の社会保障給付全般に対する費用の見直し等」を考慮し、2007年度には「消費税を含む抜本的税制改革を実現する」案を発表している。

社会保障審議会

社会保障審議会は、厚生労働省発足に伴い、人口問題審議会や年金審議会など社会保障関連の8審議会を統合再編し、2001年(平成13年)に設置された。実質審議は、政令で決められた分科会と、必要に応じて設置される部会で行われる。分科会は、介護給付費(介護報酬改定)、年金資金運用(運用指針や実績報告)、医療(特定機能病院の承認)、統計、福祉文化、医療保険保険料率分科会の6つ。部会は2005年4月現在、介護保険部会を含め7つあり、年度内または新年度に8つ目の医療観察法部会が設置される予定である。

社会保障の財源政策

日本の社会保障は増加する財源をどこに求めるかという問題が大きい。給付と負担のレベルについて、国民的合意形成が必要である。給付を維持・充実させるためには、新たな税・保険を課すか、税・保険料率を上げなければならない。企業にますますの税・保険料負担を求めるという考え方もあるが、結果的には商品やサービスの価格が上昇することになり、消費税を上げることと似たような効果を持つ。

また、日本の社会保障の財源確保については、政治家と大企業の癒着が所得再分配の機能を低下させていると指摘される。経済の活性化のため、規制緩和や、法人税の減税など、大企業に有利な政策が実現してゆく影で、医療保険の窓口負担増・身体障害者支援費制度の利用者負担増・消費税増税などの社会的弱者の負担を増やす施策が行われてきた。企業から与党への政治献金は、このような政策形成の要因となっている。 大企業のみに税負担を強いることは、世界市場の中で日本企業が生き残るためには足枷となる。政府は、大企業の世界市場での競争力を高める政策を重視し、逆進的と言われる消費税の増税は、税収不足分の補填を社会的弱者に強いるという結果となっており、国民の所得格差が大きく開いてきている。

社会保障の経済効果

年金などの所得保障制度は、直接的に経済を活性化する政策ではない。しかし、制度が生む「安心感」は、経済を活性化させる大きな鍵となる。日本では1990年以降のバブル崩壊後、長い不況の時代に入り、今後は低成長の時代と言われている。1990年代以降に行われた政策には、不安定雇用の規制緩和、消費税増税、医療費窓口負担増など、低所得者の家計を圧迫する政策が展開されてきた。 日本の国全体の金の流れは個人消費が6割を占めその中心である。日本経済の状態は個人消費の大小にかかっている。社会保障の規模が縮小し、将来に不安を抱えたままでは国民一人ひとりの購買意欲が高くならない。社会保障のもたらす安心感や国民の健康は社会全体の購買力を保ち、経済を活性化させる。このことは、企業にとっても重要なことである。 また、社会福祉サービスの充実は直接的に雇用を創出し、消費を増やすため、経済を活性化させるもととなる。

所管省庁

社会保障の所管は厚生労働省である。同省の外局である社会保険庁は、政府の管掌する国民年金・健康保険・厚生年金・船員保険の事業の運営実施の実務を担当している。地方支分部局として各都道府県単位に地方社会保険事務局が47カ所、その出先機関として全国に社会保険事務所が265か所置かれており、年金相談などを行っている。

関連項目

外部リンク