ミディール
この記事のほとんどまたは全てが唯一の出典にのみ基づいています。 (2020年5月) |
ミディール(Midir)は、ケルト神話のトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の名。地下の神。 父はダグザ。育ての親はマナナン・マクリル。妻はファームナッハ。養子はオェングス。
概要
[編集]ミディールはマン島に美しい王宮を持っていた。そこには3頭の不思議な牛と大きな釜があった。それらのお陰で多くの食糧を得られていた。彼の王宮に3羽の鶴がおり、これらに近づく者が居れば、それぞれ「来るな」「去れ」「通り過ぎよ」と鳴いたという。
ミディールは新しい妻に、国中で一番美しい女性をと考え、養子のオェングスに相談した。彼はエーディンという女性が一番美しいと答えると、エーディンの父アイルに結婚を申し込みに行った。アイルは、12の平原、12の川、そしてエーディンの体重と同じ重さの金と銀を要求したため、オェングスはダグザの力も借りて要求通りの品物を揃えた。こうしてミディールはエーディンと結婚した。
ところが、妻ファームナッハが美貌のエーディンに嫉妬をし、エーディンを魔法で水たまりに変えてしまった。水たまりにされたエーディンは、やがて蝶へと変わった。ミディールはエーディンが消えたことを心配したが、やがて自分についてくる紫色の蝶をエーディンだと見抜いた。再びファームナッハは魔法の杖を使ってエーディンの蝶を王宮から追い払った。7年もの間荒野をさまよった蝶は、オェングスの宮殿にたどり着いた。オェングスの植えた花畑に保護されたエーディンは夜の間だけ元の姿に返った。するとファームナッハは嵐を起こしてエーディンをアルスターのエタア王のところまで吹き飛ばした。エーディンはエタアの妻の胎内に入り、エタアの娘エーディンに生まれ変わった。すでに1012年が経過していて、彼女は自分がトゥアハ・デ・ダナーンの一員だったことも忘れてしまった。
アイルランドの王エオホズ・アイレヴが、国中で一番美しい娘を王妃にしようとしたところ、選ばれたのが美貌のエーディンであった。王妃になったエーディンの元に再びミディールが現れたものの、エーディンには彼の記憶も彼への想いもすでになかった。ミディールはあきらめず、二人が暮らしたティル・ナ・ノーグ(常若の国)での思い出を語った。エーディンは、王が許すならミディールと一緒に行っていいと答えた。
ミディールはエオホズ王にフィドヘルの勝負を申し込み、負けたら相手の願いを何でもかなえると条件をつけた。最初はミディールはわざと負け、王の要求を魔法の力で次々にかなえた。ところが、最後にミディールはフィドヘルに勝ち、エーディンを連れ戻すことを要求した。エオホズ王は1ヶ月の猶予をつけさせると、1ヶ月後には、ミディールを王宮に入れまいと軍勢で囲んでしまった。しかしミディールは難なく王宮の広間に入り込み、エーディンを連れ去り、2羽の白鳥になって自分の王宮に飛んでいった。
エオホズ王はエーディンを取り戻そうとして、島にある妖精の丘を片端から破壊していった。ミディールが魔法の力で丘を直していっても間に合わず、最後の丘だけが残った。やむを得ずミディールはエーディンを帰すと申し出て、エーディンそっくりに変身させた50人の侍女の中にエーディンを紛れ込ませ、「本物のエーディンを選べたら」と言った。ところがエーディンは、「私が本当のエーディンです」と自らエオホズ王に名乗った。妖精の王より人間の王を選んだのである。ミディールの元を去ったエーディンは、エオホズ王との間に娘エーディンを得たという。
参考文献
[編集]- 井村君江 (著) 『ケルトの神話―女神と英雄と妖精と』(ちくま文庫)