船医
船医(せんい)とは、客船、遠洋航海の漁船、貨物船などに乗船して医療を行う医師のことである。
船上では1人で内科、外科、産婦人科、精神科など、多岐にわたる診療を行う必要があり、幅広い医学知識と経験を有することが期待されることから[1]、『臨床医療のスペシャリスト』とも呼ばれる[2]。また、船種によっては高い社交性や語学力が要求される場合もある[3]。
かつてはプロスペル・ガルノーのように生物学や博物学の知識を活かし、世界各地に向かう調査団に船医兼科学者として同行し、希少な動植物の調査・収集を行うなどプラントハンターのような活動も担当していた。またウィリアム・ジャーディンのように個人的な交易などのサイドビジネスを始める者もいた。
2000年代以降は、客船のクルーズが減少傾向にあることから、船医の職を得ることは難しくなりつつあるという[3]。各国海軍や日本の海上自衛隊の艦艇に乗船する医官については、通常軍医に分類される。
通常は医師と看護師のみが乗船するが、病院船やアメリカ海軍の原子力空母では広さの余裕があるため歯科医や薬剤師、放射線技師なども乗船している。
補佐のために乗り込む看護師は単に『看護師』と呼ばれる。
著名な船医
- チャールズ・ダーウィン - ビーグル号で世界一周の航海に客人として同行。先任者が途中で下船したため臨時の船医となった。
- ウィリアム・ジャーディン - イギリス東インド会社の船医で豪商。第一次アヘン戦争の開幕に関与。
- ジョージ・パス - イギリス海軍リライアンス号の船医。オーストラリアの探検に参加。バス海峡の命名者。
- ジョン・スティーブン・ハンプトン - 船医、のちに植民地への囚人輸送の責任者を経てオーストラリア総督。
- アーサー・コナン・ドイル - 大学卒業後、アフリカ航路の船医を経験。
- アーチボルト・ジョセフ・クローニン - イギリスの作家。インド航路の船医を経験。他に炭鉱医などの経験もあり。
- ルネ=プリムヴェール・レッソン - フランスの軍医。鳥類学者でもあり、世界一周航海を行ったコキーユ号でプロスペル・ガルノーと共に船医として働きながら、世界各地の動植物を集めた。
- 北杜夫 - 日本の作家。水産庁の漁業調査船照洋丸で船医として勤務したほか、登山隊の医師も務めた。
- 永井明 - 貨物船の船医
- 西丸與一 - 元横浜市立大学法医学教授、監察医。大学を退職後にぱしふぃっくびいなすの船医を務めた。
- 米山公啓 - 作家。客船の船医を務めた。
文学・エッセイ
- 小説
- ガリヴァー旅行記 - 主人公のレミュエル・ガリヴァーは船医。また正式な題名は『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』である。
- エッセイ
- コミック
- 矢島正雄/菊田洋之『クルーズ 医師山田公平航海誌』小学館/ビッグコミックス
出典
- ^ キャリア転職研究室・魂の仕事人第9回西村與一
- ^ NEWS TOKYO 都政新聞株式会社 | 仕事に命を賭けて Vol.54
- ^ a b 注目の仕事?! 客船の船医という仕事 『All About』 2008年5月31日掲載、2010年6月19日閲覧