助教
助教(じょきょう, Research Associate or Assistant Professor)は、日本の高等研究教育機関において、学生に対する教授、研究指導、または自らの研究に従事する教員のことであり、2007年4月1日より正式に導入された。大学の場合、現行の学校教育法では、教授、准教授、講師の次の職階に位置する。
導入の背景
2007年3月31日までの学校教育法上における助手は「教授の下請けになりがち」との指摘がしばしばなされていた[1]。この傾向は、文系よりも、理系、とりわけ、小講座制を採用する医学部などで顕著な傾向であった。そこで、旧来の助手のなかから、教育・研究を主たる職務とする者を「助教」として選り分け、教授から独立した職位として位置づけることで、教育・研究面での主体的な役割を明確にし、その能力を発揮させることを狙いとした、学校教育法の一部改正が行われた。
こうして、2007年4月1日以降、旧来の助手は、教授候補の研究者として位置づけられ、単独で研究室と講義を持つことのできる助教と、研究や実験の補助や事務などを専ら担う助手とに分かれることになった。
資格と職務
資格
助教の資格は、大学設置基準によって以下のように定められている。
(助教の資格)
第16条の2 助教となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。
職務
助教の職務について、学校教育法第92条の8号では、「専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」と定めている。助手とは異なり、教授や准教授の研究、講義を補助する義務はなく、講義ができる専任教員としてカウントされる[2]。ただし、理系など一部の学問分野では、単独で講義を担当できない大学もある。
待遇
2007年4月をもってそれまでの助手が助教に移行した際、大学によって、給与面での待遇が据え置かれるケースと、(将来の専任講師の職位廃止を見越して)専任講師と同等に引き上げられるケースとに分かれた[3]。
また、この移行に際しては、本来、助教の資格・能力を有する助手であっても、任期付きに同意すれば助教になれるが、同意しない場合は「新助手」とするとした大学があり、一部で問題視された[4]。この例に限らず、(いわゆる「万年助手」を防ぐために)再任1回の5年などの任期制による任用が一般的となっている。なお、一部の大学では、任期後に、研究業績に基づく昇進審査を行い、及第した者に対してテニュア(教授や准教授としての終身在職権)を与えるテニュア・トラックの制度も導入されている。
テニュア・トラックの標準モデルは、「博士号を取得した30歳前後の若手研究者を対象に大学が10~20人を選抜し、1,000万円ほどの資金を支給して自分の研究室と専任スタッフを持たせる。以後、年1,000万円ほどの研究費を5年間支給したうえで、昇進審査をする」[5]というものである。
米国との比較
米国などの場合、Assistant Professorは独立した研究室、教室を運営し、技官やポストドクを雇う権限が与えられるPrincipal investigatorである。つまり、テニュア(大学教員の終身在職権、永久教授職)を獲得していない点を除けば、Principal investigatorとしてFull Professor(教授)およびAssociate Professor(准教授)と同じ権限を持つ。またLecturer(講師)はAssistant Professorの下の職階に位置することから、日本で助教をAssistant Professorと訳すことには矛盾がある。
一般的に日本の講師、助教は教授の教室に属しており、Principal investigatorとして研究室を運営している独立講師 (Independent Lecturer)、独立助教 (Independent Research Associate) は少数である。テニュアが無く有期雇用の形態を取ること、講師の手前の職階であることなどから、外国との研究教育環境の違いなどを考慮して助教はResearch associateに相当すると考えられている。医学・歯学部に属する臨床系の教室においては、通例、教授(1人)、准教授(1人)、講師(2人)、助教(4 - 6人)、医員(3 - 6人)の構成をとっており、准教授の手前の職階は講師となる。学部運営の役職につくには講師以上の職階が通常必要である。医学・歯学部臨床系教室では、助教はさらに病院助教と学部助教に分類される。基礎系部門、学部では、通例、講師はLecturer、Instructor、助教はResearch associateとされる。
日本の大学の例
東京大学での例:助教 Research Associate[6] 大阪大学での例:助教 Assistant Professor[7] 名古屋大学の例:助教 Assistant Professor[8]
米国・カナダ大学教員の職階
- 教授 Professor
- 准教授 Associate Professor
- 助教授 Assistant Professor
- 講師 Lecturer / Instructor
- 助教 Research Associate
中国大学教員の職階
- 教授 Professor
- 副(准)教授 Associate Professor
- 助(理)教授 Assistant Professor
- 講師 Lecturer / Instructor
- 助教 Assistant
NYU Shanghaiでの例:[12]
台湾大学教員の職階
- 教授 Professor
- 副(准)教授 Associate Professor
- 助(理)教授 Assistant Professor
- 講師 Lecturer / Instructor
- 助教 Teaching Assistant / Assistant
国立台湾大学での例:[13]
過去の用例
明治期、教授、教諭などを補佐する職として助教の語が用いられていた。たとえば、設立当初の東京大学では、「教授」と「教員」の間に「助教」がおり、授業を担当していた[14]。また戦前における中学などの代用教員を助教といった。
江戸時代にも助教が見られる。熊本の藩の医学校である再春館の制度で教授の下に助教がある。その説明として、医学助教 凡掌館内代教授先生之事故、疾病。以助講説教育之事。とある。助講ともいったようである[15]。
さらにさかのぼると、助教は、古代律令制期の大学寮明経道において、明経博士(みょうぎょうはかせ。定員1名)を補佐して経書を講義する令外官の名称である(定員2名)。なお、この明経博士・助教を補佐するものとして、直講(定員2名)という令外官も置かれていた。
軍学校における助教
軍学校(士官学校、飛行学校など)における助教とは、教官(基本的に将校(士官)が拝命)を補佐し生徒を指導する立場を指し、曹長や軍曹といった長い軍歴を有するベテランの下士官が主に拝命した。基礎訓練や野戦演習などの実践的な部分での教育を担当した。なお、士官学校(本科)の生徒は下士官の階級が与えられる士官候補生や幹部候補生であり、時期によっては階級の上では生徒の階級が助教よりも上となることもある。
警視庁における助教
脚注
注釈
- ^ アメリカ合衆国は大学によってかなり異なる。一般的には、卓越教授、教授、準教授、助教授、客員助教授(アメリカでは大学によって呼称が全く異なる)、研究員(アメリカでは全く教えないポスドクはまれ)、指導助手(ティーチング・アシスタントなので、助手では正確な訳出ではない)の7段階制であるが、卓越教授を設けないことも可能であり、助教授と指導助手の間は、俗称としてPost-Docと呼ばれている。
出典
- ^ 「大学に「准教授」「助教」という新ポスト―4月から」『読売新聞』2007年4月1日
- ^ 大学設置基準改正要綱
- ^ 「大学の新ポスト「助教」はつらい? 待遇面で不満も」『産経新聞』7月11日
- ^ 「助教への任期導入問題等に関する要望書」(全国大学高専教職員組合・中央執行委員長 大西広、2006年10月4日)
- ^ 「研究者昇進『ガラス張り』に 9大学」『朝日新聞』2006年6月12日
- ^ 東京大学農学部事務部
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/008/gijiroku/03112101/004/017/002.pdf
- ^ “assistant professor - 助教授”. terms.naer.edu.tw. 2019年4月11日閲覧。
- ^ “助教英文_助教英语怎么说_翻译_例句”. www.ichacha.net. 2019年4月11日閲覧。
- ^ 其他任课教师| NYU Shanghai
- ^ 國立臺灣大學人員職稱類中英雙語詞彙
- ^ 『東京大学医学部年報. 第6年報』1881年。NDLJP:901635。
- ^ 肥後医育史 山崎正菫 1929 鎮西医海時報社 p85