空飛ぶ新玉ネギ

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空飛ぶ新玉ネギ(そらとぶしんたまネギ)とは、宮崎県のJA延岡の玉ネギのブランド作物[1]。出荷された玉葱の一部が航空機(航空便)で消費地(大都市)に運ばれることから、この名がついた[2]。“空飛ぶ新玉ネギ”の品種は真冬でも成長が早いトップゴールドが用いられていたが、現在では品種選抜を行い食味の優れた品種を指定し栽培を行っている。日本国内でも有数の早さの1月中に出荷が始まる[注釈 1][6][7]

「空飛ぶ新玉ネギ」とは[編集]

“空飛ぶ新玉ネギ”は宮崎県延岡市で生産されるが、延岡市は冬場でも日照時間が長いため、これを利用して他地域よりも約1か月早く1月下旬に出荷される極早生種の玉ねぎが生産され[注釈 2]、初物を関西東京などの消費地へ航空便で送ることから「空飛ぶ新玉ネギ」と名付け[10]、そのブランド名で宮崎県の認定を受けた[2][11]

“空飛ぶ新玉ネギ”とは、極早生(ごくわせ)の品種「トップゴールド」を指していたが、現在は品種選抜を行い特定の品種で、葉付き(葉付き玉ネギ)のまま出荷するものを呼び[12][13]、JA延岡からの出荷品であり、A品のM玉以上とされる[14]

用途

“空飛ぶ新玉ネギ”は貯蔵用ではなく、水分の多い生食用である[15][16]サラダなどの用途に用いられ[11]、生のままでも[13]甘くて柔らかいのが特徴で、JA延岡は、水にさらさなくても刺激臭が少ないとし[17]、また、「辛みが少なくて食べやすい」[注釈 3]と紹介する[2]。また、“空飛ぶ新玉ネギ”は葉付き玉ネギであるため、その葉や茎はネギ(長ネギ)と同じように鍋物すき焼き、或いは湯がいても利用できる[16]

保存

“空飛ぶ新玉ネギ”は貯蔵用の玉ネギよりも長期保存はできないが、新聞紙などにくるめば冷蔵庫の野菜室で比較的長く保管することができる[16][注釈 4]

栽培[編集]

“空飛ぶ新玉ネギ”の栽培は、土作りから行う。太陽の光を熱にして、土壌の消毒を行う「太陽熱土壌消毒」という方法(太陽熱消毒法)を用いる[6]。JA宮崎経済連によると、真夏の日差しを利用して、畑の(うね)に太陽の熱を集めるようにビニールを被せて、2か月間ほど放置し、ビニールの下の土壌を 70度ほどの高温の状態にし続けて病害虫発生の原因要素を駆除する方法である[6]

の収穫が終わった頃の水田などに、9月初めごろに播種(種まき)し[21]、苗が25センチメートルぐらいまでに育った10月中旬ごろに畑(稲の生産が終わった水田など[22])に植え替え(定植)する[17]堆肥は、有機肥料で、などの糞、魚の内臓や骨、及び残飯から生産した「有機ヘルパー万能」を用いる[6]露地栽培であるため、日照不足や雨が多いと出来が悪くなったり、が太る時期に、気温が急に下がる“寒”(かん)に会わないと肥りがにぶいという[6]。 また、ある生産農家は、農薬をほとんど使わない。除草剤を用いず、手作業で雑草を除草するという[22]

出荷

出荷は1月下旬から3月中旬までである[2]。 “空飛ぶ新玉ネギ”(葉付き玉ネギ)は葉先まで30センチに切りそろえるなど厳格な規格があり[22]、4割ほどがブランド商品にならない[23]

なお、産地では、全国有数の残留農薬検査体制が整えられている[15]

歴史[編集]

“空飛ぶ新玉ネギ”は1996年に幾つかの農家が試験栽培を行ったことに始まる[7]1998年から全国販売し[17]1999年にJA延岡が「日本一の超早出しタマネギ」と商標登録した[11]1998年より太陽熱の土壌消毒に取組み、2001年産より宮崎県より商品ブランド産地に認定[17]。安全・安心で信頼される産地作りが評価され、2003年産よりJA宮崎経済連特別栽培農産物を取得し、2004年より減農薬減化学肥料栽培に取り組む[17]。これらの成果が認められ、2007年には農林水産大臣賞、県知事賞、経済連会長賞の3つの賞を獲得した[17][24]

2008年4月22日には“空飛ぶ新玉ネギ”のを供給していた農業資材商社・久保田種苗園の事業が悪化し破産し、場合によっては、“空飛ぶ新玉ネギ”の今年の生産が危ぶまれたが[25]、翌日、“空飛ぶ新玉ネギ”を加工する食品加工会社がプレスリリースで、(種の供給は行われるので)今年の作付けに影響はないとJA延岡の担当者が述べたと公表した[26]

2014年現在の市場では、大きいものが1玉300円ほどで競り落とされた[2]。例年、良品が300-400円となるが、過去には2011年2013年に初物の良品が一個600円の最高値を記録するご祝儀相場ということもあった[12][13]

派生した商品

“空飛ぶ新玉ネギ”は、品質確保のため、出荷規格に厳正さが求められており、青果物として流通できない商品が、全体の約4割にのぼる[23]。このため、2006年ごろから蒟蒻に混ぜて、「空飛ぶ新玉ネギこんにゃく」を業者が生産するなど無駄にならない工夫が行われる[23][27]

2007年ごろから、“空飛ぶ新玉ネギ”を用いた「空飛ぶ玉ネギドレッシング」が食品加工会社から販売された[28][29]。ほか、野菜ジュースに加工された[30]

コンビニエンスストアセブン-イレブン2008年春から“空飛ぶ新玉ネギ”を用いた「宮崎育ちの空飛ぶ新玉ネギのサラダ」のパック詰め商品などを九州の一部で販売した[31]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2014年現在、日本一早い出荷は、静岡県浜松市の玉ねぎとみられる。ここでは「白たまねぎ」(ホワイトオニオン、別名:サラダオニオン[3])が生産され、毎年正月明けの1月4日に出荷が始まる[4]。 また、熊本県天草市には、1月中旬ごろに出荷をする早どりサラダタマネギの「天草一番」がある[5]
  2. ^ 極早生種の「貴錦」(たかにしき)や「博多こがねEX」、「浜笑」(はまえみ)などの品種は宮崎で2月中旬からの出荷である[8]。普通の地域は3月から出荷が始まるため[9]、1月下旬には出荷する“空飛ぶ新玉ネギ”(トップゴールド)は、1か月以上早い。
  3. ^ トップゴールドは、品種改良で辛みが少なくなっている[18]。また、玉ねぎは砂地で栽培すると辛みが減ると言われるが[19]、“空飛ぶ新玉ネギ”の産地は海岸沿いの砂地である[20]
  4. ^ 冷蔵庫保管はビニール袋にくるんでもよい。一般に新玉ネギは2-3日で使い切るようにする。

出典[編集]

  1. ^ 荒木勲 (2013年3月14日). “空飛ぶ新玉ネギ:「うわっ大きい」 南方小3年生135人、収穫を体験 延岡/宮崎”. 教育・受験. 毎日新聞 地方版. 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  2. ^ a b c d e NHK宮崎放送局 (2014年1月21日). “「空飛ぶ新玉ネギ」の初競り”. NHK宮崎県のニュース. 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  3. ^ 白たまねぎ 浜松情報BOOK
  4. ^ 春呼ぶ新タマネギ、4日から出荷 浜松・西区”. 地域ニュース・西部. 静岡新聞 (2014年1月4日). 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  5. ^ 渡辺松雄 (2014年1月16日). “熊本)早どりサラダタマネギ出荷 天草:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2014年1月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  6. ^ a b c d e JA宮崎経済連、2008年、「太陽のくに アグリみやざき 情熱産地紀行 「太陽と風をまるかじり 超極早出し“空飛ぶ新玉ネギ”情熱産地 -JA延岡-」」、『Mモーション』2008年2月号、宮崎県経済農業協同組合連合会(JA宮崎経済連)
  7. ^ a b JA延岡【地域に生きる】 - 食・農 共感(県内農協シリーズ) - 空飛ぶ新玉ネギ 生産向上へ管理徹底2013年02月12日、みやビズ(宮崎日日新聞)
  8. ^ 1玉300円で落札-空飛ぶ新玉ネギの初競り 延岡”. 0982テレビ (2014年1月21日). 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  9. ^ 商品のご案内 野菜の種 タマネギ カネコ種苗
  10. ^ 宮崎)超早出しの新玉ネギが初出荷 延岡市:朝日新聞デジタル2014年1月22日
  11. ^ a b c 朝日新聞デジタル:甘さ人気も上々 「空飛ぶ新玉ネギ」収穫始まる 宮崎 - 地域”. 朝日新聞 (2013年1月24日). 2013年1月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  12. ^ a b 過去最高値で初出荷 空飛ぶ新玉ネギ”. 0982テレビ (2011年1月21日). 2014年1月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  13. ^ a b c 高値スタート−初出荷空飛ぶ新玉ネギ”. 夕刊デイリーWeb(夕刊デイリー新聞社). p. 3面 (2013年1月25日). 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  14. ^ 宮崎の旬 バックナンバー|宮崎県青果市場連合会|とれたてもぎたて九州みやざき、空飛ぶ新玉ねぎ 2010年2月掲載宮崎県青果市場連合会
  15. ^ a b 空飛ぶ新玉ネギ Q&A JAのべおか 延岡農業協同組合
  16. ^ a b c 旬鮮食材-空飛ぶ新玉ネギ 本紙掲載日:2012-01-31 4面 夕刊デイリーWeb(夕刊デイリー新聞社)
  17. ^ a b c d e f 空飛ぶ新玉ネギ”. 延岡の農業. JAのべおか 延岡農業協同組合. 2013年7月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  18. ^ トップゴールド305 株式会社タカヤマシード
  19. ^ 農のくに再発見 白タマネギ(下) 先行愛知産の株奪う 形よく病気に強い苗研究企画・連載 : 静岡 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
  20. ^ 今月の主なニュース(PDF) 2012年2月、JAのべおか
  21. ^ タマネギトップゴールド種まきピーク”. 夕刊デイリーWeb(夕刊デイリー新聞社). p. 1面 (2012年9月14日). 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  22. ^ a b c 延岡の農林水産物「食は延岡にあり」延岡市役所(※『広報のべおか』2011年7月号9頁
  23. ^ a b c 宮崎県延岡市の空飛ぶ新玉ネギを活用した 販売力のある新たな商品の開発(こんにゃくとのコラボレート) -未利用資源の有効活用-” (PDF). 食料産業クラスター推進事業(平成18年度). 農林水産省 (2008年10月10日). 2013年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  24. ^ 好調、空飛ぶ新玉ネギ-延岡綜合市場 夕刊デイリーWeb(夕刊デイリー新聞社)本紙掲載日:2010-01-21 3面
  25. ^ 「空飛ぶ新玉ネギ」ピンチ? 種業者 破産手続きへ 延岡市 (2008年4月22日7時7分配信 西日本新聞 from Yahoo!) - 農材ドットコム,(47news
  26. ^ 「空飛ぶ玉ネギ」について|プレスリリース2008-4-23 ヤマエ食品工業株式会社
  27. ^ 主任研究員 長谷川潤一. “宮崎県における食料産業クラスターの条件分析(平成19年度 現地調査結果)” (PDF). 社団法人 食品需給研究センター. p. 116. 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。
  28. ^ 「空飛ぶ玉ネギ カルパッチョ ドレッシング」発売(ヤマエ食品工業)”. 日本食糧新聞・電子版 (2009年2月9日). 2014年1月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月22日閲覧。
  29. ^ 東京で「ふるさと食品フェア」 県内3社がPR2007/11/02 10:53 宮崎日日新聞 - 47NEWS(よんななニュース)
  30. ^ 玉ネギを使った商品 - JAのべおか 延岡農業協同組合
  31. ^ 生でもあまーい!宮崎県産“空飛ぶ新玉ネギ”を使用 宮崎県産“空飛ぶ新玉ネギ”を使用した商品を新発売! -3/25(火)より地元宮崎県、福岡県一部地区にて順次発売-” (PDF). ニュースリリース. 株式会社セブン-イレブン・ジャパン (2008年3月21日). 2014年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月21日閲覧。

外部リンク[編集]