「金沢海みらい図書館」の版間の差分

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|英名 = Kanazawa Umimirai Library
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'''金沢海みらい図書館'''(かなざわうみみらいとしょかん)は、[[石川県]][[金沢市]]寺中町にある金沢市立の[[公共図書館]]。[[2011年]][[平成]]23年)[[5月21日]]に開館し金沢市図書館としては4番目の図書館である。
'''金沢海みらい図書館'''(かなざわうみみらいとしょかん)は、[[石川県]][[金沢市]]寺中町にある[[公共図書館]]。2011年(平成23年)5月21日開館。金沢市図書館としては[[金沢市立玉川図書館]]や[[金沢市立泉野図書館]]などに続いて4番目に開館した。金沢市図書館はほぼ同規模の館が複数あることを特徴としており{{sfn|堀場|工藤|2014}}、海みらい図書館3番目の大規模図書館である。金沢市の代表的な観光地には[[兼六園]]や[[金沢21世紀美術館]]が挙げられるが、本図書館も金沢市の新名所になりつつある{{sfn|日経ビジネス|2014-01-27}}


== 施設概要 ==
== 歴史 ==
[[File:Libraries in Kanazawa OSM.png|thumb|left|300px|金沢市の主要3図書館の位置関係]]
金沢市の西部地区では初めての市立図書館で、[[金沢外環状道路]]の海側幹線と[[石川県道17号金沢港線]](金石街道)が交差する寺中町交差点の角に位置している。


[[金沢外環状道路]]海側幹線を整備する過程で、機械メーカーの[[別川製作所]]の工場が他所へ移転している。この土地は金沢外環状道路と[[石川県道17号金沢港線]](金石街道)が交差する寺中町交差点の西側角にあり{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}、金沢市は1999年(平成11年)に約12,000m<sup>2</sup>の土地を買収した<ref name=asahi20110614/>。周辺は閑静な住宅街であるものの<ref name=access>[http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/access/index.html アクセス] 金沢海みらい図書館</ref>、工場や田畑が点在している{{sfn|建築技術|2011-09|p=39}}。金沢市には規模の大きな図書館として[[金沢市立玉川図書館]]と[[金沢市立泉野図書館]]があったが、いずれも[[西日本旅客鉄道|JR]][[金沢駅]]より東側にあり、人口が増加中の金沢市西部地区には図書館が存在しなかった<ref name=asahi20110614/>。2006年(平成18年)には西部地区の7校下町会連合会が金沢市に対して図書館建設を求める要望書を提出、金沢市はこの要望に応える形で図書館の建設を計画した<ref name=asahi20110614/>。
地上3階建の一方約45[[メートル|m]]・高さ約18mの[[直方体]]<ref>[http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20110512104.htm 広々、郷土学ぶ新拠点 金沢海みらい図書館] - 北國・富山新聞 2011年5月12日</ref>を形取った建築物で、外壁には約6千個の丸窓を埋め込んだ白色一色の特徴があるものとなっている<ref>[http://kanazawa.keizai.biz/headline/1442/ 金沢西部の海側幹線沿いに「金沢海みらい図書館」開館] - 金沢経済新聞 2011年5月30日</ref>。丸窓からは自然の太陽光を取り入れる構造のほかに、2階の天井高は12メートルと大型の吹き抜け空間を採用した。


金沢市は都市景観を守るために建物の高さ規制を実施しているが、当地は環状道路に面しているために規制が緩く、高さ20mまでの建物の建設が可能となった{{sfn|新建築|2011-07|p=91}}。金沢市は2008年(平成20年)6月に[[プロポーザル]]コンペを実施し、40社の中から[[シーラカンスK&H]]を設計者に選定した{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。シーラカンスK&Hは北陸地方で[[坂井市立丸岡南中学校]](福井県)と[[富山市立芝園中学校]](富山県)などを設計したことがあったが{{sfn|堀場|工藤|2014|p=92}}、本格的な図書館の設計は初めてだった{{sfn|堀場|工藤|2014}}。10月には基本設計が完了し、2009年(平成21年)3月には実施設計が完了した。[[戸田建設]]を中心とする[[共同企業体]](JV)によって10月に着工され、2011年(平成23年)3月に竣工した。総事業費は約45億円<ref name=asahi20110614/>。
設計は[[シーラカンスK&H]]で、[[戸田建設]]を中心とした[[共同企業体]]によって施工された。


利用者数の年間目標は40万人に設定された{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。2011年5月21日に開館し、開館当日には5,461人が訪れた{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。開館1か月後時点では平日でも一日あたり3,000人以上が訪れている{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。開館から1年4か月後の2012年(平成24年)9月には利用者数が100万人を突破し{{sfn|堀場|工藤|2014}}<ref name=asahi20121129/>、延べ3万人以上が交流ホール・集会室などの貸しスペースを利用した<ref name=asahi20121129/>。2012年11月時点で入場者数は想定の1.5倍を記録しており、30代以下の若者の利用が多い。2012年には[[レノボ]]のノートパソコンのCMの撮影地となった。このCMにはタレントの[[中田英寿]]が出演しており、洗練された図書館として海みらい図書館自身も話題を呼んだ。
=== 受賞歴 ===
* 2013年9月 - 国際インテリアデザイン協会「アジア太平洋デザイン・建築賞」最優秀賞<ref name="hokkoku20130929104">{{Cite news|url=http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130929104.htm|title=高まる世界的評価 金沢海みらい図書館|newspaper =[[北国新聞]]|date=2013-09-29|accessdate=2013-10-31}}</ref>
* 2013年9月 - [[英国放送協会|BBC]]「世界の素晴らしい公立図書館4館 (世界のスーパーライブラリー)」<ref name="hokkoku20130929104"/>


== 施設詳細 ==
== 特色 ==
{|class="wikitable" style="float:right; font-size:smaller"
* 敷地面積:11,763.43[[平方メートル|m<sup>2</sup>]]
|-
* 建物面積:2,111.89m<sup>2</sup>
! フロア !! colspan=2| 用途
* 延床面積:5,438.94m<sup>2</sup>
|-
* 構造:[[鉄骨構造]](一部[[鉄筋コンクリート構造]])
| style="text-align:right" | 3階 || 地域情報フロア<br>(ものづくり情報コーナー・日本海情報コーナー) || width=180| 吹き抜け
* 蔵書数:約17万冊(蔵書能力は約40万冊)
|-
* 駐車場:108台
| style="text-align:right" | 2階 || colspan=2| 一般図書コーナー、生涯学習コーナー、レファレンスカウンター、インターネット席
*駐輪場:100台
|-
| style="text-align:right" | 1階 || colspan=2| 総合カウンター、児童図書コーナー、交流ホール、ギャラリー、グループ活動室、集会室
|}


[[File:Kanazawa Umimirai Library 1F hall ac.jpg|thumb|left|1階の交流ホール]]
== 館内施設 ==

* 1階:児童図書コーナー、交流ホール
図書館のほかに、交流ホール、集会室、グループ活動室などがあり、地域の交流施設としての機能も有する{{sfn|建築技術|2011-09|p=28}}。1階の交流ホールは約250席を備えており、200インチの巨大スクリーンや可動ステージも有する<ref name=shisetsu>[http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/facility/index.html 施設案内] 金沢海みらい図書館</ref>。集会室は約30席、3つあるグループ活動室はそれぞれ約20席である。ギャラリーでは絵画展・写真展・作品展などを行うことができる<ref name=shisetsu/>。
* 2階:一般図書コーナー、生涯学習コーナー、インターネットコーナー

* 3階:地域情報フロア(ものづくり情報コーナー・[[日本海]]情報コーナー)
3階の地域情報フロアにはものづくり情報コーナーと日本海情報コーナーが設置されている。ものづくり情報コーナーでは金沢のものづくりに関する文献などを収集しており、日本海情報コーナーでは環[[日本海]]の交流史に関する文献などを収集している。最大約40万冊まで収容可能であり、開館時の蔵書数は約17万冊である<ref name=asahi20110614/>。

[[File:Kanazawa Umimirai Library exterior ac (2).jpg|thumb|芝生広場となっている建物北側]]

壁際には閲覧席が設けられており、すべての書架はパンチングウォールから距離を置いて自立している{{sfn|近代建築|2011-08|p=92}}。シーラカンスK&Hの工藤和美と堀場弘は設計にあたって「空気のボリュームと質感」を重視しており、開放感と落ち着きを兼ね備えたワンルーム型の図書館として[[フランス国立図書館]](BnF)リシュリュー館(旧館)を引き合いに出している{{sfn|近代建築|2011-08|p=95}}。敷地全体が公園のような環境であり、建物北側には約4,100m<sup>2</sup>の芝生広場が広がっている{{sfn|建築技術|2011-09|p=28}}<ref name=asahi20110614/>。寺中町交差点からは建物に向かって弧を描いた歩行者用アプローチが伸びており、芝生広場に設けられた[[谷戸]]は[[調整池]]を兼ねている{{sfn|近代建築|2011-08|p=92}}。夜間には円窓から光が漏れ、巨大な行燈のように輝く{{sfn|建築技術|2011-09|p=28}}。

石川県内の公立図書館としては初めて自動化書庫を導入した<ref name=asahi20110614>「金沢海みらい図書館 金沢市 待望の拠点」朝日新聞, 2011年6月14日</ref>。1階の総合カウンターには自動貸出機を設置しており<ref name=asahi20110614/>、貸出冊数の約90%は自動貸出機で貸し出されている<ref name=asahi20121129>「図書館の未来開く 斬新設計『金沢海みらい』 若者に人気、地域交流も」朝日新聞, 2012年11月29日</ref>。館外貸出対象者は[[金沢市]]在住・在勤・在学者に加えて、[[白山市]]・[[かほく市]]・[[内灘町]]・[[津幡町]]・[[野々市市]]在住者にも認められている<ref name=goriyou/>。

日本国内のみならず、日本国外から訪れる建築愛好家も多い{{sfn|日経ビジネス|2014-01-27}}。[[アメリカ建築家協会]]の会員約80人が日本ツアーの一環として訪れたほかに、2012年12月までにはノルウェーや香港など日本国外から約10団体が視察に訪れた<ref name=hokkoku20121129>「金沢海みらい図書館 住民集う『異空間』 斬新デザイン、内外から注目」北國新聞, 2012年11月29日</ref>。撮影許可を撮れば館内での写真撮影が可能である{{sfn|日経ビジネス|2014-01-27}}。
<!--<gallery>
File:France, Paris, Bibliothèque nationale de France, site Richelieu, salle ovale.jpg|[[フランス国立図書館]](BnF)リシュリュー館(旧館)
</gallery>-->
{{-}}
== 建築 ==
{{建築物
|名称 = 金沢海みらい図書館<br><small>Kanazawa Umimirai Library</small>
|旧名称 =
|画像 = no
|画像説明 =
|用途 = 図書館・集会所
|旧用途 =
|設計者 = [[シーラカンスK&H]]
|構造設計者 =
|設備設計者 =
|施工 = [[戸田建設]]・[[兼六建設]]・[[高田建設]]特定共同企業体(JV)
|建築主 = [[金沢市]]
|事業主体 =
|管理運営 =
|構造形式 = 鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造
|敷地面積 = 11,763.43 |敷地面積ref = |敷地面積備考 =
|建築面積 = 2,111.89 |建築面積ref = |建築面積備考 =
|延床面積 = 5,438.97 |延床面積ref = |延床面積備考 =
|階数 = 地下1階、地上3階
|高さ = 18.09m
|エレベーター数 =
|戸数 =
|駐車台数 =
|着工 = 2009年10月
|竣工 = 2011年3月
|開館開所 =
|改築 =
|解体 =
|所在地郵便番号 = 920-0341
|所在地 = 石川県金沢市寺中町イ1-1
|位置=
|座標右上表示 =
|文化財指定 =
|指定日 =
|備考 =
}}

建物は地下1階・地上3階建であり、平面は約45m×45m、高さ約19mの直方体である<ref>「広々、郷土学ぶ新拠点 金沢海みらい図書館」北國新聞, 2011年5月12日</ref>。約6,000個の円窓を埋め込んだ白色の外壁が特徴である<ref name=keizai>[http://kanazawa.keizai.biz/headline/1442/ 金沢西部の海側幹線沿いに「金沢海みらい図書館」開館] 金沢経済新聞, 2011年5月30日</ref>。1階から3階までの3層の床に巨大な箱をかぶせたような形を、設計者のシーラカンスK&Hは「ケーキのハコ」と表現している{{sfn|近代建築|2011-08|p=95}}。2階・3階部分には大きな吹き抜け空間が生まれるため、全館避難安全検証を行って[[国土交通大臣]]認定を取得している{{sfn|堀場|工藤|2014|p=124}}。

=== パンチングウォール ===
[[File:Kanazawa Umimirai Library 2F bookshelves ac (1).jpg|thumb|left|高さ12mの吹き抜け空間を実現した閲覧室]]

金沢市は積雪が多いため、[[天窓]](トップライト)で採光するのは困難である{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=38}}。シーラカンスK&Hは100パターン以上の円窓をシミュレーションし、大きさや透過度に差がある天窓を配置することで統一感のある光が入ることを突き止めた{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=38}}。大胆な吹き抜けを取り入れた閲覧室には水平加重を負担するものがないため、垂直の柱に斜材を配した鉄骨フレームで外壁を組み立て、この鉄骨フレームと重ならないように円窓を配している{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=38}}。

外壁は縦400cm×横204cm×厚さ1.5cmの[[ガラス繊維補強セメント]](GRC)パネル520枚で構成されており、1枚のパネルに18個の円窓が設けられている{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=38}}。室内側には厚さ0.6cmのスチールパネルが用いられている。双方のパネルの間にラッパ型のアルミ枠がはめ込まれており、アルミ枠の外側は円形のガラスブロックで、内側はポリカーボネイト板で閉じられている。

このようにアルミ枠とガラスブロック/ポリカーボネイト板で円窓が生み出されており、6,000個にも上る円窓の大きさは20cm、25cm、30cmの3種類がある{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=38}}。円窓の内側は38cm、41cm、44cmの3種類であり、外側から見た場合よりも大きさの差異を感じさせないようになっている{{sfn|建築技術|2011-09|p=36}}。ガラスブロックには紫外線を和らげるための熱線吸収ガラス、[[金網入りガラス|網入りガラス]]、[[磨りガラス|すりガラス]]など数種類が用いられ、円窓の設置場所によって種類が変えられている{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=39}}。円窓は「海の泡」に例えられることもある<ref name=asahi20110614/>。

=== 内部 ===
[[File:Kanazawa Umimirai Library 2F reading seats ac (2).jpg|thumb|[[藤江和子]]による什器]]

一般閲覧室は2階と3階にあるが、建物北側の約6割は吹き抜け空間となっており、吹き抜けの天井高は12mである{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。直径30cmと細い鋼管25本が鉛直荷重を保持している{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=36}}。円窓を通じて直射日光が入るのは開館前と夕方の数時間のみであり、ガラスにセラミックプリント処理を施すことで室内に水玉模様が浮かび上がるのを防いでいる{{sfn|建築技術|2011-09|p=36}}。円窓を採用したことで窓の開閉が困難となったため、屋根には大工場が用いるような自然換気装置が設けられている{{sfn|建築技術|2011-09|p=28}}{{sfn|新建築|2011-07|p=99}}。

吹き抜けの天井部分には照明器具が設置されていない{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=39}}。2階の中央部には円筒型の螺旋階段室があり、階段室上部には時間帯や天候に応じて四面を照らす照明を配置して自然光を補っているが{{sfn|新建築|2011-07|p=92}}、円窓からの採光と階段室の補助照明以外には書架と床面を照らす書架照明のみである{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=39}}。これらによって照度は280-430ルクスに達しており、天井部分に照明がないことによる問題は特に起こっていない{{sfn|日経アーキテクチュア|2011-06-25|p=39}}。

書架は[[日本ファイリング]]製の既製品をカスタマイズして使用している{{sfn|堀場|工藤|2014|p=143}}。書架照明には[[山田照明]]が新たに開発した器具を用いている{{sfn|堀場|工藤|2014|p=144}}。書架の間隔は170cm、通路幅は190cmである{{sfn|近代建築|2011-08|p=92}}。テーブルやカウンターなどは既製品も使用しているが、[[藤江和子]]によるデザインのものも使用しており、ホワイトバーチ合板に白色のウレタンで統一されている{{sfn|新建築|2011-07|p=94}}。金沢産の広葉樹を使用した椅子もある<ref name=keizai/>。円形蛍光灯を使用したスタンド照明は[[ヤマギワ]]製である{{sfn|堀場|工藤|2014|p=145}}。空調システムは[[オンドル]]のように床下を利用しており、冷暖房ともに気流感を感じさせないようなごく低速で噴出させている{{sfn|新建築|2011-07|p=99}}。

<gallery>
File:Kanazawa Umimirai Library 2F ac (1).jpg|天井を支持する直径30cmの鋼管
File:Kanazawa Umimirai Library 3F study seats ac (1).jpg|2階を見下ろせる3階の学習席
File:Kanazawa Umimirai Library 3F reading seats ac (1).jpg|2階の外壁に配された閲覧席
File:Kanazawa Umimirai Library punching wall ac (2).jpg|近づいて見た円窓
</gallery>


== 交通 ==
== 交通 ==
金沢市中心部や[[金沢駅]]付近と日本海に面する[[金石 (金沢市)|金石地区]]を直線的に結ぶ[[石川県道17号金沢港線]](金石街道)では、[[北陸鉄道#バス事業|北鉄バス]]の路線が運行されている。図書館の最寄りのバス停は「金沢海みらい図書館前」バス停である<ref>[http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/access/bus.pdf バスのご案内(金沢駅~金沢海みらい図書館)] 金沢市図書館</ref>。
北陸鉄道バス「観音堂」バス停下車徒歩5分。


石川県道17号金沢港線で運行されている[[北陸鉄道]]バスグループの路線(上記)があるが、これまで金沢外環状道路の海側幹線ではバス路線が運行されなかった金沢市と北陸鉄道は図書館開館に合わせて2011年5月21日から金沢市みどりの「みどり二丁目」バス停と北陸鉄道本社のある「西割出」バス停を結ぶ[[路線バス]]を期間限定で運行していた<ref>[http://www.hokkoku.co.jp/subpage/E20110521001.htm 金沢海みらい図書館、開館 地域の新たな学習、交流の場に] - 北國・富山新聞 2011年5月21日</ref><ref>{{PDFlink|[http://www.hokutetsu.co.jp/news/2011_0521-umigawa.pdf 海側幹線バス運行実験]}} - 北陸鉄道</ref>。2011年[[11月30日]]まで毎日運行され、金沢海みらい図書館や[[アピタタウン金沢ベイ]]など臨時設置のバス停4か所は海側幹線を走る路線であった。
金沢市郊外を環状に結ぶ[[金沢外環状道路]]の海側幹線ではバス路線が運行されていなかったが、金沢市と北陸鉄道は図書館開館に合わせて2011年5月21日から金沢市みどりの「みどり二丁目」バス停と[[北陸鉄道]]本社のある「西割出」バス停を結ぶ路線バスを期間限定で運行した<ref>[http://www.hokkoku.co.jp/subpage/E20110521001.htm 金沢海みらい図書館、開館 地域の新たな学習、交流の場に] 北國新聞 2011年5月21日</ref><ref>{{PDFlink|[http://www.hokutetsu.co.jp/news/2011_0521-umigawa.pdf 海側幹線バス運行実験]}} 北陸鉄道</ref>。この路線バスは2011年11月30日まで毎日運行され、金沢海みらい図書館」バス停が臨時設置された。


== 関連項目 ==
== 受賞歴 ==
* 2011年 金沢都市美実行委員会「金沢都市美文化賞」
* [[金沢市立玉川図書館]]
* 2011年 石川県建築士会「石川建築賞」
* [[金沢市立泉野図書館]]
* 2012年 フレーバーピル「世界で最も美しい公共図書館ベスト25」<ref name=iine>[http://www4.city.kanazawa.lg.jp/11003/kanazawa/ 世界と日本が認めた金沢] 金沢市</ref>
* 2012年 {{仮リンク|シカゴ・アテネウム|en|Chicago Athenaeum}}&ヨーロッパ建築アートデザインセンター「{{仮リンク|国際建築賞|en|International Architecture Awards}}」
* 2012年 [[日本デザイン振興会]]「[[グッドデザイン賞]]」<ref>[http://www.g-mark.org/award/describe/39384 図書館 金沢海みらい図書館] グッドデザイン賞</ref>
* 2012年 [[日本建築家協会]]「[[日本建築大賞]] 日本建築家協会賞」
* 2012年 [[建築設備綜合協会]]「環境・設備デザイン賞 建築・設備統合デザイン部門 最優秀賞」」
* 2012年 中部建築賞協議会「中部建築賞」
* 2013年 国際インテリアデザイン協会「アジア太平洋デザイン建築賞」文化・学術・教育分野最優秀賞<ref name=iine/><ref name="hokkoku20130929104">{{Cite news|url=http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130929104.htm|title=高まる世界的評価 金沢海みらい図書館|newspaper =[[北国新聞]]|date=2013-09-29|accessdate=2013-10-31}}</ref>
* 2013年 [[英国放送協会|BBC]]「世界の素晴らしい公立図書館4館」(世界のスーパーライブラリー)<ref name=iine/><ref name="hokkoku20130929104"/>
* 2013年 オープンエデュケーションデータベース「世界の近未来的図書館10」<ref name=iine/>
* 2013年 [[日本建設業連合会]]「第54回[[BCS賞]]」<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK19041_Z10C13A7000000/ 金沢海みらい図書館など17件にBCS賞、日建連] 日本経済新聞, 2013年7月20日</ref>
* 2013年 [[日本図書館協会]]「[[日本図書館協会建築賞]]」
* 2014年 旅行ガイド・{{仮リンク|フォダーズ|en|Fodor's}}「世界の魅力的な図書館ベスト20」<ref name=iine/>
* 2015年 [[日本建築学会]]「日本建築学会作品選奨」<ref>[https://www.aij.or.jp/2015/2015prize.html 2015年各賞受賞者] 日本建築学会</ref>

== 基礎情報 ==
* 開館時間 : 平日は午前10時から午後7時、土曜・日曜・祝日は午前10時から午後5時<ref name=goriyou>[http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/info/index.html ご利用案内] 金沢海みらい図書館</ref>
* 休館日 : 水曜日、特別整理期間、年末年始<ref name=goriyou/>
* 館外貸出対象者 : [[金沢市]]在住・在勤・在学者、[[白山市]]・[[かほく市]]・[[内灘町]]・[[津幡町]]・[[野々市市]]在住者<ref name=goriyou/>
* 貸出制限 : 最大10冊・最大2週間<ref name=goriyou/>
* アクセス : [[北陸鉄道#バス事業|北鉄バス]]「金沢海みらい図書館前」バス停から徒歩1分<ref name=goriyou/>


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{reflist|2}}
<references />

== 参考文献 ==
* {{cite journal
|author=
|title=金沢海みらい図書館 設計・監理/堀場弘+工藤和美/シーラカンスK&H 施工/戸田・兼六・高田特定建設工事共同企業体
|journal=近代建築
|publisher=近代建築社
|volume=65
|issue=8
|year=2011-08
|ref={{sfnref|近代建築|2011-08}}
}}
* {{cite journal
|author=
|title=architectural design 金沢海みらい図書館 シーラカンスK&H
|journal=建築技術
|publisher=建築技術
|volume=
|issue=740
|year=2011-09
|ref={{sfnref|建築技術|2011-09}}
}}
* {{cite journal
|last=堀場 |first=弘
|last2=工藤 |first2=和美
|last3=新谷 |first3=眞人
|last4=高間 |first4=三郎
|title=金沢海みらい図書館(2015年日本建築学会作品選奨)
|journal=建築雑誌
|publisher=建築雑誌
|volume=
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* [http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/ 金沢海みらい図書館]
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* [http://www.toda.co.jp/monodukuri/zoom_up/kanazawa/index.html 金沢海みらい図書館建設工事] - 戸田建設
* [http://www.toda.co.jp/monodukuri/zoom_up/kanazawa/index.html 金沢海みらい図書館建設工事] - 戸田建設

2016年8月9日 (火) 22:57時点における版

金沢海みらい図書館
施設情報
管理運営 金沢市教育委員会
開館 2011年5月21日
所在地 920-0341
石川県金沢市寺中町イ1番地1
位置 北緯36度35分39.6秒 東経136度36分15.4秒 / 北緯36.594333度 東経136.604278度 / 36.594333; 136.604278座標: 北緯36度35分39.6秒 東経136度36分15.4秒 / 北緯36.594333度 東経136.604278度 / 36.594333; 136.604278
ISIL JP-1005327
統計情報
蔵書数 約228,000点(2014年度時点)
公式サイト http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/
地図
地図
プロジェクト:GLAM - プロジェクト:図書館
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金沢海みらい図書館(かなざわうみみらいとしょかん)は、石川県金沢市寺中町にある公共図書館。2011年(平成23年)5月21日開館。金沢市図書館としては金沢市立玉川図書館金沢市立泉野図書館などに続いて4番目に開館した。金沢市図書館はほぼ同規模の館が複数あることを特徴としており[1]、海みらい図書館は3番目の大規模図書館である。金沢市の代表的な観光地には兼六園金沢21世紀美術館が挙げられるが、本図書館も金沢市の新名所になりつつある[2]

歴史

金沢市の主要3図書館の位置関係

金沢外環状道路海側幹線を整備する過程で、機械メーカーの別川製作所の工場が他所へ移転している。この土地は金沢外環状道路と石川県道17号金沢港線(金石街道)が交差する寺中町交差点の西側角にあり[3]、金沢市は1999年(平成11年)に約12,000m2の土地を買収した[4]。周辺は閑静な住宅街であるものの[5]、工場や田畑が点在している[6]。金沢市には規模の大きな図書館として金沢市立玉川図書館金沢市立泉野図書館があったが、いずれもJR金沢駅より東側にあり、人口が増加中の金沢市西部地区には図書館が存在しなかった[4]。2006年(平成18年)には西部地区の7校下町会連合会が金沢市に対して図書館建設を求める要望書を提出、金沢市はこの要望に応える形で図書館の建設を計画した[4]

金沢市は都市景観を守るために建物の高さ規制を実施しているが、当地は環状道路に面しているために規制が緩く、高さ20mまでの建物の建設が可能となった[7]。金沢市は2008年(平成20年)6月にプロポーザルコンペを実施し、40社の中からシーラカンスK&Hを設計者に選定した[3]。シーラカンスK&Hは北陸地方で坂井市立丸岡南中学校(福井県)と富山市立芝園中学校(富山県)などを設計したことがあったが[8]、本格的な図書館の設計は初めてだった[1]。10月には基本設計が完了し、2009年(平成21年)3月には実施設計が完了した。戸田建設を中心とする共同企業体(JV)によって10月に着工され、2011年(平成23年)3月に竣工した。総事業費は約45億円[4]

利用者数の年間目標は40万人に設定された[3]。2011年5月21日に開館し、開館当日には5,461人が訪れた[3]。開館1か月後時点では平日でも一日あたり3,000人以上が訪れている[3]。開館から1年4か月後の2012年(平成24年)9月には利用者数が100万人を突破し[1][9]、延べ3万人以上が交流ホール・集会室などの貸しスペースを利用した[9]。2012年11月時点で入場者数は想定の1.5倍を記録しており、30代以下の若者の利用が多い。2012年にはレノボのノートパソコンのCMの撮影地となった。このCMにはタレントの中田英寿が出演しており、洗練された図書館として海みらい図書館自身も話題を呼んだ。

特色

フロア 用途
3階 地域情報フロア
(ものづくり情報コーナー・日本海情報コーナー)
吹き抜け
2階 一般図書コーナー、生涯学習コーナー、レファレンスカウンター、インターネット席
1階 総合カウンター、児童図書コーナー、交流ホール、ギャラリー、グループ活動室、集会室
1階の交流ホール

図書館のほかに、交流ホール、集会室、グループ活動室などがあり、地域の交流施設としての機能も有する[10]。1階の交流ホールは約250席を備えており、200インチの巨大スクリーンや可動ステージも有する[11]。集会室は約30席、3つあるグループ活動室はそれぞれ約20席である。ギャラリーでは絵画展・写真展・作品展などを行うことができる[11]

3階の地域情報フロアにはものづくり情報コーナーと日本海情報コーナーが設置されている。ものづくり情報コーナーでは金沢のものづくりに関する文献などを収集しており、日本海情報コーナーでは環日本海の交流史に関する文献などを収集している。最大約40万冊まで収容可能であり、開館時の蔵書数は約17万冊である[4]

芝生広場となっている建物北側

壁際には閲覧席が設けられており、すべての書架はパンチングウォールから距離を置いて自立している[12]。シーラカンスK&Hの工藤和美と堀場弘は設計にあたって「空気のボリュームと質感」を重視しており、開放感と落ち着きを兼ね備えたワンルーム型の図書館としてフランス国立図書館(BnF)リシュリュー館(旧館)を引き合いに出している[13]。敷地全体が公園のような環境であり、建物北側には約4,100m2の芝生広場が広がっている[10][4]。寺中町交差点からは建物に向かって弧を描いた歩行者用アプローチが伸びており、芝生広場に設けられた谷戸調整池を兼ねている[12]。夜間には円窓から光が漏れ、巨大な行燈のように輝く[10]

石川県内の公立図書館としては初めて自動化書庫を導入した[4]。1階の総合カウンターには自動貸出機を設置しており[4]、貸出冊数の約90%は自動貸出機で貸し出されている[9]。館外貸出対象者は金沢市在住・在勤・在学者に加えて、白山市かほく市内灘町津幡町野々市市在住者にも認められている[14]

日本国内のみならず、日本国外から訪れる建築愛好家も多い[2]アメリカ建築家協会の会員約80人が日本ツアーの一環として訪れたほかに、2012年12月までにはノルウェーや香港など日本国外から約10団体が視察に訪れた[15]。撮影許可を撮れば館内での写真撮影が可能である[2]

建築

金沢海みらい図書館
Kanazawa Umimirai Library
情報
用途 図書館・集会所
設計者 シーラカンスK&H
施工 戸田建設兼六建設高田建設特定共同企業体(JV)
建築主 金沢市
構造形式 鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造
敷地面積 11,763.43 m²
建築面積 2,111.89 m²
延床面積 5,438.97 m²
階数 地下1階、地上3階
高さ 18.09m
着工 2009年10月
竣工 2011年3月
所在地 920-0341
石川県金沢市寺中町イ1-1
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建物は地下1階・地上3階建であり、平面は約45m×45m、高さ約19mの直方体である[16]。約6,000個の円窓を埋め込んだ白色の外壁が特徴である[17]。1階から3階までの3層の床に巨大な箱をかぶせたような形を、設計者のシーラカンスK&Hは「ケーキのハコ」と表現している[13]。2階・3階部分には大きな吹き抜け空間が生まれるため、全館避難安全検証を行って国土交通大臣認定を取得している[18]

パンチングウォール

高さ12mの吹き抜け空間を実現した閲覧室

金沢市は積雪が多いため、天窓(トップライト)で採光するのは困難である[19]。シーラカンスK&Hは100パターン以上の円窓をシミュレーションし、大きさや透過度に差がある天窓を配置することで統一感のある光が入ることを突き止めた[19]。大胆な吹き抜けを取り入れた閲覧室には水平加重を負担するものがないため、垂直の柱に斜材を配した鉄骨フレームで外壁を組み立て、この鉄骨フレームと重ならないように円窓を配している[19]

外壁は縦400cm×横204cm×厚さ1.5cmのガラス繊維補強セメント(GRC)パネル520枚で構成されており、1枚のパネルに18個の円窓が設けられている[19]。室内側には厚さ0.6cmのスチールパネルが用いられている。双方のパネルの間にラッパ型のアルミ枠がはめ込まれており、アルミ枠の外側は円形のガラスブロックで、内側はポリカーボネイト板で閉じられている。

このようにアルミ枠とガラスブロック/ポリカーボネイト板で円窓が生み出されており、6,000個にも上る円窓の大きさは20cm、25cm、30cmの3種類がある[19]。円窓の内側は38cm、41cm、44cmの3種類であり、外側から見た場合よりも大きさの差異を感じさせないようになっている[20]。ガラスブロックには紫外線を和らげるための熱線吸収ガラス、網入りガラスすりガラスなど数種類が用いられ、円窓の設置場所によって種類が変えられている[21]。円窓は「海の泡」に例えられることもある[4]

内部

藤江和子による什器

一般閲覧室は2階と3階にあるが、建物北側の約6割は吹き抜け空間となっており、吹き抜けの天井高は12mである[3]。直径30cmと細い鋼管25本が鉛直荷重を保持している[3]。円窓を通じて直射日光が入るのは開館前と夕方の数時間のみであり、ガラスにセラミックプリント処理を施すことで室内に水玉模様が浮かび上がるのを防いでいる[20]。円窓を採用したことで窓の開閉が困難となったため、屋根には大工場が用いるような自然換気装置が設けられている[10][22]

吹き抜けの天井部分には照明器具が設置されていない[21]。2階の中央部には円筒型の螺旋階段室があり、階段室上部には時間帯や天候に応じて四面を照らす照明を配置して自然光を補っているが[23]、円窓からの採光と階段室の補助照明以外には書架と床面を照らす書架照明のみである[21]。これらによって照度は280-430ルクスに達しており、天井部分に照明がないことによる問題は特に起こっていない[21]

書架は日本ファイリング製の既製品をカスタマイズして使用している[24]。書架照明には山田照明が新たに開発した器具を用いている[25]。書架の間隔は170cm、通路幅は190cmである[12]。テーブルやカウンターなどは既製品も使用しているが、藤江和子によるデザインのものも使用しており、ホワイトバーチ合板に白色のウレタンで統一されている[26]。金沢産の広葉樹を使用した椅子もある[17]。円形蛍光灯を使用したスタンド照明はヤマギワ製である[27]。空調システムはオンドルのように床下を利用しており、冷暖房ともに気流感を感じさせないようなごく低速で噴出させている[22]

交通

金沢市中心部や金沢駅付近と日本海に面する金石地区を直線的に結ぶ石川県道17号金沢港線(金石街道)では、北鉄バスの路線が運行されている。図書館の最寄りのバス停は「金沢海みらい図書館前」バス停である[28]

金沢市郊外を環状に結ぶ金沢外環状道路の海側幹線ではバス路線が運行されていなかったが、金沢市と北陸鉄道は図書館開館に合わせて2011年5月21日から、金沢市みどりの「みどり二丁目」バス停と北陸鉄道本社のある「西割出」バス停を結ぶ路線バスを期間限定で運行した[29][30]。この路線バスは2011年11月30日まで毎日運行され、「金沢海みらい図書館」バス停が臨時設置された。

受賞歴

基礎情報

脚注

  1. ^ a b c 堀場 & 工藤 2014.
  2. ^ a b c 日経ビジネス & 2014-01-27.
  3. ^ a b c d e f g 日経アーキテクチュア & 2011-06-25, p. 36.
  4. ^ a b c d e f g h i 「金沢海みらい図書館 金沢市 待望の拠点」朝日新聞, 2011年6月14日
  5. ^ アクセス 金沢海みらい図書館
  6. ^ 建築技術 & 2011-09, p. 39.
  7. ^ 新建築 & 2011-07, p. 91.
  8. ^ 堀場 & 工藤 2014, p. 92.
  9. ^ a b c 「図書館の未来開く 斬新設計『金沢海みらい』 若者に人気、地域交流も」朝日新聞, 2012年11月29日
  10. ^ a b c d 建築技術 & 2011-09, p. 28.
  11. ^ a b 施設案内 金沢海みらい図書館
  12. ^ a b c 近代建築 & 2011-08, p. 92.
  13. ^ a b 近代建築 & 2011-08, p. 95.
  14. ^ a b c d e f ご利用案内 金沢海みらい図書館
  15. ^ 「金沢海みらい図書館 住民集う『異空間』 斬新デザイン、内外から注目」北國新聞, 2012年11月29日
  16. ^ 「広々、郷土学ぶ新拠点 金沢海みらい図書館」北國新聞, 2011年5月12日
  17. ^ a b 金沢西部の海側幹線沿いに「金沢海みらい図書館」開館 金沢経済新聞, 2011年5月30日
  18. ^ 堀場 & 工藤 2014, p. 124.
  19. ^ a b c d e 日経アーキテクチュア & 2011-06-25, p. 38.
  20. ^ a b 建築技術 & 2011-09, p. 36.
  21. ^ a b c d 日経アーキテクチュア & 2011-06-25, p. 39.
  22. ^ a b 新建築 & 2011-07, p. 99.
  23. ^ 新建築 & 2011-07, p. 92.
  24. ^ 堀場 & 工藤 2014, p. 143.
  25. ^ 堀場 & 工藤 2014, p. 144.
  26. ^ 新建築 & 2011-07, p. 94.
  27. ^ 堀場 & 工藤 2014, p. 145.
  28. ^ バスのご案内(金沢駅~金沢海みらい図書館) 金沢市図書館
  29. ^ 金沢海みらい図書館、開館 地域の新たな学習、交流の場に 北國新聞 2011年5月21日
  30. ^ 海側幹線バス運行実験 (PDF) 北陸鉄道
  31. ^ a b c d e 世界と日本が認めた金沢 金沢市
  32. ^ 図書館 金沢海みらい図書館 グッドデザイン賞
  33. ^ a b “高まる世界的評価 金沢海みらい図書館”. 北国新聞. (2013年9月29日). http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130929104.htm 2013年10月31日閲覧。 
  34. ^ 金沢海みらい図書館など17件にBCS賞、日建連 日本経済新聞, 2013年7月20日
  35. ^ 2015年各賞受賞者 日本建築学会

参考文献

  • “金沢海みらい図書館 設計・監理/堀場弘+工藤和美/シーラカンスK&H 施工/戸田・兼六・高田特定建設工事共同企業体”. 近代建築 (近代建築社) 65 (8). (2011-08). 
  • “architectural design 金沢海みらい図書館 シーラカンスK&H”. 建築技術 (建築技術) (740). (2011-09). 
  • 堀場, 弘; 工藤, 和美; 新谷, 眞人; 高間, 三郎 (2015-08-20). “金沢海みらい図書館(2015年日本建築学会作品選奨)”. 建築雑誌 (建築雑誌) (1674). 
  • 堀場, 弘; 工藤, 和美 (2014). 図書館をつくる. 彰国社 
  • “金沢海みらい図書館 堀場弘+工藤和美/シーラカンスK&H”. 新建築 (新建築社) 86 (7). (2011-07). 
  • “金沢海みらい図書館(金沢市) 6000個の円窓で四周を囲む 光を透過するパンチングウオールが水平力も負担”. 日経アーキテクチュア (日経BP社) (954). (2011-06-25). 
  • “最新の図書館を知っていますか”. 日経ビジネス (日経BP社). (2014-01-27). 

外部リンク