水素水

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水素水(すいそすい)は、水素ガスを溶解させた水であり、無味、無臭、無色である。

工業用の水素水は超純水を元に生成され、炭酸水やオゾン水と同様に半導体や液晶の洗浄に用いられる[1]。その他、飲料としても販売されているが、明確な定義は存在せずメーカー自称である。

生成[編集]

洗浄用水素水の製造方法のひとつとして、水は通過しないがガスは通り抜ける高性能の中空糸状の気体透過膜を内臓したモジュールによる方法がある。これは、高純度の水素水を安全かつクリーンに経済的に製造することを目的としたものである[2]

アルカリ電解水を生成する過程で水中に水素が過飽和に溶解しており、一部はコロイド状の微小の水素気泡となって存在し、微小の水素気泡は1日放置後にも安定して存在する[3]。飲用アルカリ性電解水安定したpHの生成が主眼に置かれていたが、後に溶存水素量にも着目され、研究開発が進んできた[4]

洗浄[編集]

超純水に水素ガスを溶解させることで、高濃度の水素水が生成され、洗剤を使うよりもコストと環境負荷が低い洗浄液として利用でき、半導体工場や液晶工場で用いられている[1]。水素が微小気泡として存在すればキャビテーションの核となり、キャビテーションが発生するため、洗浄効果は高まる[3]。超音波やアルカリと組み合わせて使用される事が多い[2]

水素による生体研究[編集]

水素水を含めた水素医学について概説する。

1671年にはロバート・ボイルによって、水素ガスが生成され水素はガスであると認識され、生理的に不活性なガスだと考えられ注目されなかった[5]。1975年に、Doleらは水素ガスが動物の皮膚腫瘍が退縮するという研究結果を報告したが[6]、注目はされなかった[5]

2007年には太田成男が、動物実験において脳虚血などによって生成されるOHに対して、水素がもつ抗酸化、抗アポトーシス作用によって選択的に保護できることを報告し[7]、これ以降、水素の研究が進展している[5]

ビブリオメトリックスという手法を用いて、水素医学に関する2007年から2014年までの文献を探索した二次資料によれば、この間に357の論文が出版されており、2007年には3論文、2009年には25論文、2013年には71論文と経時的に増加し、地域では中国で190論文、日本で112論文、アメリカで58論文、投与方法としては注射が多く、水素水として経口から、またガスとして吸入する手法がそれぞれ25%前後を占めており、対象としては動物を用いた生体(in vivo)研究がもっとも多く、研究への出資は日本の文部科学省、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、中国国家自然科学基金(NSFC)からが上位3つである[5]

体内の活性酸素の過剰発生は、動脈硬化や心筋梗塞、がんなどに原因となっているのではないかとも考えられている[8]

日本医科大学の中村成夫によれば、水素水は

という3つの特徴が期待され、2013年から臨床研究がはじめられている[9]

医療研究[編集]

東北大学病院のNakayamaと整水器メーカー日本トリムは、血液透析用水に水素水を使用することで透析患者の慢性炎症、酸化ストレスを抑制することを見出した[10][11]

梶山内科クリニックの梶山靜夫らは、ランダム化二重盲検法で、高LDL血症または耐糖能異常の患者30人に1日900mLの水素水を飲ませたところ、LDL値の顕著な減少がみられ、脂質代謝異常の改善や耐糖能異常の予防に有益であった[12]

山梨大学教育人間科学部とパナソニック電工株式会社の共同研究で、二重盲検法によるランダム化比較試験において、水素を溶存させたとされる水素高溶存電解アルカリ水は、単に浄水を飲んだ場合と比較して活性酸素による生体内酸化ストレス値を40%と有意に低下させた[13][14]

基礎研究[編集]

日本医科大学の太田成男らは、ストレスを与えたラットの脳細胞の増殖がストレスによって抑制された状態を改善した[15] 九州大学パナソニック電工の研究グループは水素入りの水がマウスの脳細胞の破壊を抑え、細胞を壊す原因とされる活性酸素も減ったことを確認し、パーキンソン病などの予防の治療につながるのではないかとコメントした[16]

保存[編集]

水素の溶け込んだ水をペットボトル等のプラスチック容器に封印したとしても、水素の分子は小さいため、プラスチックや、金属でも単層の蒸着膜程度なら通り抜けてしまう。水素水を保存・保管するには、ガラス瓶や金属缶、金属積層フィルムのパックなどが必要になる。健康食品として販売されているものは、金属積層フィルムのパッケージに充填されている。

販売[編集]

企業によって種々の名称で販売されている。上記のようにプラスチックや金属の単層膜程度では水素分子が通り抜けるはずであるが、ペットボトルやプラスチック容器によって販売されている商品もある。伊藤園は2015年7月に、高濃度水素水を封入した商品を販売し、物議をかもした[17]。一方で、水道水から機械的操作を経て直接水素水を生成する装置も商品展開されている。

健康を謳う水素水を扱った商品は、小売の他、「ネットワークビジネス」と呼ばれるマルチ取引を中心にした訪問販売業などで一般に流通している。

業務停止命令[編集]

2016年3月、水素水で心筋梗塞や動脈硬化が治る等、事実に基づかない虚偽の説明をしたとして特定商取引法違反で販売業者に業務停止命令が出されている[18][19]

なお国民生活センターは、活性酸素の量を抑制するとどうなるのか明確化するよう事業者に要望した[8]

脚注[編集]

  1. ^ a b 『よくわかる水素技術』 日本工業出版、2008年、173頁。ISBN 978-4819020015
  2. ^ a b 平成17年度 標準技術集 水処理技術2-2-3 機能性洗浄水
  3. ^ a b 峠有利子「アルカリ電解水の特性とその製法」、『防錆管理』第53巻第12号、2009年12月、 468-475頁。
  4. ^ 田中喜典ほか「飲用アルカリ性電解水のpH・水素溶解特性と効率」、『松下電工技報』第56巻第11号、2008年3月、 72-77頁。
  5. ^ a b c d 李強、田中良晴、田中博司、三羽信比古「水素医学研究概況及び関連文献のビブリオメトリックス解析」、『大阪物療大学紀要』第3巻、2015年3月、 31-40頁、 NAID 110009914847 二次資料
  6. ^ Dole M, Wilson FR, Fife WP. (1975). “Hyperbaric hydrogen therapy: a possible treatment for cancer”. Science 190 (4250): 152-4. PMID 1166304. 
  7. ^ Ohsawa, Ikuroh; Ishikawa, Masahiro; Takahashi, Kumiko; et al. (2007). “Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals”. Nature Medicine 13 (6): 688–694. doi:10.1038/nm1577. ISSN 1078-8956. 
  8. ^ a b 「水素水生成器」の効果は? 国民生活センター、明確化を要望” (2016年3月11日). 2016年3月12日閲覧。
  9. ^ 中村成夫「活性酸素と抗酸化物質の化学」、『日本医科大学医学会雑誌』第9巻第3号、2013年、 164-169頁、 doi:10.1272/manms.9.164
  10. ^ 日本トリム 研究開発
  11. ^ Nakayama M, Nakano H, Hamada H, Itami N, Nakazawa R, Ito S. (2010). “A novel bioactive haemodialysis system using dissolved dihydrogen (H2) produced by water electrolysis: a clinical trial.”. Nephrol Dial Transplant 25 (9): 3026-33. PMID 20388631. 
  12. ^ Kajiyama S, Hasegawa G et al. "Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance." Nutr Res. 2008 Mar;28(3), pp137-43. PMID: 19083400
  13. ^ 水素を含んだ電解アルカリ水の飲用により、運動による体内ストレスを抑制する効果を検証[リンク切れ](2009年7月17日、パナソニック電工株式会社)
  14. ^ パナソニック、電解アルカリ水が運動によるストレスを抑制すると発表(2009年7月17日、家電Watch)
  15. ^ Nagata K, Nakashima-Kamimura N, et al. "Consumption of molecular hydrogen prevents the stress-induced impairments in hippocampus-dependent learning tasks during chronic physical restraint in mice." Neuropsychopharmacology. 2009 Jan;34(2):Epub 2008 Jun 18, pp501-8. PMID: 18563058
  16. ^ Mami Noda, Yusaku Nakabeppu et al. "Hydrogen in Drinking Water Reduces Dopaminergic Neuronal Loss in the 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine Mouse Model of Parkinson's Disease" PLoS ONE 4(9): e7247. September 30 2009, doi:10.1371/journal.pone.0007247
  17. ^ “伊藤園「高濃度水素水」販売で物議 ネットでは「伊藤園はもう買わない」など“不買表明”も”. ねとらぼ (アイティメディア株式会社). (2015年11月25日). http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1511/24/news118.html 2015年12月9日閲覧。 
  18. ^ 水素水などを販売する会社に9カ月間の一部業務停止命令 - FNN”. FNN (2016年3月10日). 2016年3月11日閲覧。
  19. ^ マルチ取引大手に一部業務停止命令へ 消費者庁が方針朝日新聞デジタル 2016年3月8日