加藤翼 (アーティスト)

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加藤 翼(かとう つばさ、1984年 - )は、日本出身の現代アーティスト。

来歴[編集]

埼玉県出身。武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業[1]東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画で修士号(美術)を取得した後、2017年までワシントン大学客員研究員としてシアトルをベースに活動する。村上隆が主催する現代アートイベントGEISAI#12(2009年)において坂田和實賞を受賞[2]森美術館の展覧会「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?[3]」において隈研吾賞を受賞[4]

過去のインタビューで、開成東大出身の兄に抱いていたコンプレックスが美術の道を選ぶ誘因になったと語っている。2010年の「第13回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」において自身と兄の部屋を再現した構造体を横倒しにした作品を発表した[5]。油画を専攻していた美大では、絵を描くよりもそのキャンバス自体を制作する木工作業の方が面白かったと振り返っている。当時、Chim↑Pomのメンバーとなるエリイと同じアパートに住んでおり[6]、そのアパートは作品のモチーフとなっている[7]

探検家の関野吉晴のプロジェクトに参加しインドネシアのロンブレン島、ラマレラ村へ同行。現地でのクジラ漁について「村は何個かのグループに分かれているんですが、初めは一つのグループがクジラを独占したがるんです。でも、クジラが巨大なので途中で手に負えなくなって、だんだん村全体で漁をするようになっていく」ことに着目しインスパイアされたと語っている[8]。また同じく関野吉晴に同行しドキュメンタリー映画を撮影した江藤孝治[9][10]、2013年に、アメリカのスタンディング・ロックインディアン居留地での加藤のプロジェクト「ミタケオヤシン」のドキュメンタリー映画も制作している[11][12]

2021年7月17日より、加藤にとって日本初の美術館個展「縄張りと島」を東京オペラシティアートギャラリーにて開幕した[1]

代表作[編集]

引き興し(Pull and Raise
大勢がロープを引っぱり巨大な構造体を動かすというプロジェクト。2011年3月12日に大阪城公園で予定されていたパフォーマンスを東日本大震災が発生したため中止し、構造体を勢いよく引き倒していた従来のものから静かに引き起こす手法に変更した。[13][14]
  • 11.3 PROJECT(2011年)--2011年4月から加藤は福島県いわき市で被災地支援活動を始め、瓦礫撤去の現場に入りながら瓦礫木材を収集した。被災した地域のモニュメントである塩屋埼灯台をモチーフに構造体を制作し、2011年11月3日に500人の参加者たちがそれを引き起こすパフォーマンスを行った。[15][16]
言葉が通じない(They do not understand each other
加藤と一人の韓国人男性が、言葉が通じないながらもどうにか協力しながら、QRコードが描かれたポールを対馬の片隅の無人島に打ち立てるプロジェクト。 鑑賞者はその記録写真に写ったQRコードを美術館でスキャンし、無人島の位置をGoogleマップで知ることができる。[17][18]
拘束の演奏
複数人の演奏者がロープで繋がれ、互いに拘束された状態で国歌を演奏する作品。演奏者はお互いに演奏の障壁となり、演奏者の数が多いほど音はかき消され、演奏を達成することは難しくなる。[19]

作品に対するコメント・解釈[編集]

  • 美術ライター・キュレーターのエミリー・ウェイクリングはオーストラリアのアートマガジン「eyeline 76」において、加藤のプロジェクトとアーミッシュやお神輿との類似点や「リンゲルマン効果(社会的手抜き)」で知られるフランス人エンジニア、マクシミリアン・リンゲルマンの実験との関連性を指摘しながら、「共同作業というテーマが人間性と文明の本質を切り開いており、加藤の作品は2011年に特別な意味合いと新しい次元を獲得した。」と評している。[20]
  • 美術編集者・評論家の楠見清は「引き倒し/引き興すことで、その場の光景を転倒/倒立させ、ものの見え方や価値観を倒立させる。対象を倒壊させると同時に倒立させる──破壊と創造が表裏一体になった立体のかたちを造形的につくりだす能力には驚嘆させられる。」とコメントしている。[21]
  • 音楽家・ダンス批評家の桜井圭介は『一連の加藤「作品」は、藤田直哉が批判するような、誰のための・如何なる価値が果実となったのか判定出来ない「地域アート」と一線を画している。』とツイート。[22]

展覧会、カタログ[編集]

所蔵[編集]

その他[編集]

新宿バルト9でのドキュメンタリー映画『ミタケオヤシン』の公開前夜プレミアイベントにおいて、入籍を発表した。[33]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b “加藤翼、初の美術館個展。「縄張りと島」が東京オペラシティ アートギャラリーで開幕”. 美術手帖. (2021年7月17日). https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/24331 2021年9月10日閲覧。 
  2. ^ GEISAI#20”. www.geisai.net. 2020年2月19日閲覧。
  3. ^ MORI ART MUSEUM [六本木クロッシング2010展]”. www.mori.art.museum. 2020年2月19日閲覧。
  4. ^ クロッシング・プライズ 受賞者決定! - 森美術館公式ブログ”. www.mori.art.museum. 2020年2月19日閲覧。
  5. ^ 平成16年度企画展”. 2020年2月19日閲覧。
  6. ^ EPSON806”. 2020年2月19日閲覧。
  7. ^ 「不完全の映像美」八幡亜樹さんと「一体感アート」加藤翼さん ~インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(3) - 森美術館公式ブログ”. www.mori.art.museum. 2020年2月20日閲覧。
  8. ^ TS64 : 加藤翼 - Tokyo Source”. www.tokyo-source.com. 2018年5月1日閲覧。
  9. ^ Suzuki, 関野吉晴 Junichi. “上映情報&トークショー:映画『僕らのカヌーができるまで』、共同監督/総合演出をつとめた江藤孝治のドキュメンタリー映画『ミタケオヤシン』が渋谷アップリンクで上映&関野吉晴トークショー 2015年1月3日(土)2015年1月3日(土)18:50〜”. 関野吉晴公式サイト. 2020年2月19日閲覧。
  10. ^ 江藤孝治 | 横浜シネマリン” (日本語). 2020年2月19日閲覧。
  11. ^ 映画情報詳細 | ミタケオヤシン” (日本語). 映画「ミタケオヤシン」のオフィシャルサイト. 2020年2月19日閲覧。
  12. ^ 加藤翼の「引き興し」通じてアメリカ先住民族の歴史をたどる映画『ミタケオヤシン』” (日本語). CINRA.NET. 2020年2月19日閲覧。
  13. ^ H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)” (日本語). おおさかカンヴァス推進事業 Osaka Canvas Project. 2020年2月19日閲覧。
  14. ^ 大阪城公園で「家をゆっくり引き起こす」アート-震災発生で企画変更”. 京橋経済新聞. 2020年2月19日閲覧。
  15. ^ 加藤翼「11.3project」:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape” (日本語). 美術館・アート情報 artscape. 2020年2月19日閲覧。
  16. ^ 11.3 PROJECT―加藤翼・引き興しイベント「The Light Houses」 – アートNPOエイド” (日本語). 2020年2月19日閲覧。
  17. ^ 独立行政法人国立美術館・所蔵作品検索”. search.artmuseums.go.jp. 2020年2月19日閲覧。
  18. ^ Group Show, They Do Not Understand Each Other 言語不通 at Tai Kwun Contemporary, Hong Kong on 15 Feb–17 May 2020 | Ocula” (英語). ocula.com (2020年2月19日). 2020年2月19日閲覧。
  19. ^ 加藤 翼(A34a)” (日本語). あいちトリエンナーレ2019. 2020年2月19日閲覧。
  20. ^ Tsubasa Kato | eyeline contemporary art magazine australia” (英語). www.eyelinepublishing.com. 2018年5月1日閲覧。
  21. ^ “すべてのものは連環する - I Get Around The Media 楠見清のメディア回游”. はてなダイアリー. http://d.hatena.ne.jp/donburaco/20150217/p1 2018年5月1日閲覧。 
  22. ^ 桜井圭介 on Twitter」『Twitter』。2018年5月1日閲覧。
  23. ^ Explore 복합 6관 in 3D” (英語). Matterport. 2021年1月20日閲覧。
  24. ^ Explore They Do Not Understand Each Other - 1st floor in 3D” (英語). Matterport. 2021年1月20日閲覧。
  25. ^ Trasformarsi in un corpo collettivo” (イタリア語). MAXXI (2020年1月14日). 2020年2月19日閲覧。
  26. ^ 災難的靈視” (トウィ語). www.mocataipei.org.tw. 2020年2月19日閲覧。
  27. ^ 開催・企画概要” (日本語). あいちトリエンナーレ2019. 2020年2月19日閲覧。
  28. ^ 六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展 カタストロフと美術のちから展” (日本語). www.mori.art.museum. 2020年2月19日閲覧。
  29. ^ Korea, National Museum of Modern and Contemporary Art. “Reenacting history_ Collective Actions and Everyday Gestures” (英語). www.mmca.go.kr. 2020年2月19日閲覧。
  30. ^ Uprisings” (英語). Le Jeu de Paume. 2020年2月19日閲覧。
  31. ^ 2015年度 | 2010年代 | 過去の展覧会 | 展覧会 | NMAO:国立国際美術館”. www.nmao.go.jp. 2020年2月19日閲覧。
  32. ^ DAEJEON MUSEUM OF ART”. www.daejeon.go.kr. 2020年2月19日閲覧。
  33. ^ “現代美術家が映画の舞台あいさつで入籍を発表! - シネマトゥデイ” (日本語). シネマトゥデイ. https://www.cinematoday.jp/news/N0068776 2018年5月1日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]