兵庫船

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

兵庫船(ひょうごふね)は古典落語の演目のひとつ。原話は、文化年間に出版された笑話本『写本落噺桂の花』の一遍である「乗り合い船」。

別題は『五目講釈』や『鮫講釈』など。主な演者として、東京の5代目三遊亭圓楽上方6代目笑福亭松鶴などがいる。

あらすじ[編集]

仲良しの江戸っ子二人(三人の場合も)組が旅に出た。お江戸日本橋七ツ立ち、京都大阪を見物し、四国へ向かって金比羅参り。
その帰り道、兵庫と神戸の境にある、鍛冶屋町の浜というところに来て舟に乗ることになった。

『船は沈むから嫌いだ』という半次を説き伏せ、舟へ引っ張り込む八五郎。
船は無事、船着き場から出発して沖へ出た。こうなると船頭も乗客も心が落ち着き、勝手な話をやり始める。

「兄さんは江戸っ子でしたな」
「ええ、八五郎と申します。何でしょうか?」
「いやぁ、あまりにも退屈ですからな、ひとつ、謎かけでもやろかと思いましてな」

まずは難波っ子から出題。

「まずは、伊呂波の『イ』からいきまほか」
「『イ』のじ。へぇ、あげましょう」
「これをもろて、茶の湯の釜ととく」
「その心は?」
「炉の上にあり…どうでっしゃろか?」
「面白いですなぁ」

八公はそれを受けて、朝露と解いた。

「ほぅ、その心は?」
「葉の上にあり、どうでしょうか?」

こんな感じで『ニ』・『ホ』と謎かけをやっているうちに、なぜか船がぴたっと止まった。

「船頭さん、如何したんだい?」
「いやぁ、あんさんがた、えらい事になりましてな」

なんと、このあたりの船には悪い鮫が大量におり、そいつが船を見込んで止めたというのだ。

「何とかしろ!」
「船の中のどなたかが、海の中に飛び込んでもらうしか…」

その『哀れな犠牲者』を見分けるには、乗客のめいめいが持ち物を海へ投げ込んでいくしかないらしい。
その、投げ込んだ物が流れていけば助かり、沈めば魅入られたと諦めてドボン…という訳である。

「八っつぁん、沈んだ!!」
「何!? 半次、何を放り込んだんだ?」
「煙管」
「馬鹿!! 鉄を放り込んだら沈むだろ!」

みんなが持ち物を順々に放り込んでいった。そんな中、みよし端に座っていた、40がらみの男が投げた扇子がブクブクと沈んでしまう。

「これも災難だと諦めて、皆さんのために沈みましょう。しかし…その前に、ひとつお願いがあるんです」
「お願い? 何?」

話を聞いてみると、男は一龍斎貞山の弟子で一龍斎貞船という講釈師らしい。

「テイセン? 船が止まるわけだ」

どうせ死ぬなら、最後に一席語ってから死にたいと言う。船端を釈台にみたて、貞船先生の講釈が始まった。

「では、『五目講釈』という物をやらせていただきます」
「五目? 何だよ」
「いろいろな講釈を張り混ぜにしたものです」

ころは元禄十五年、極月中の十四日打ち立つ時刻丑三つの軒の棟木に降り積もる…とやりはじめたが、途中からおかしな事になってくる。
突然吉良邸が安宅関になって武蔵坊弁慶が登場し、扉が開いたら赤間源左衛門が出てきたり…。

(パパン・パン!)「初音の鼓たずねんと、はるばる来るは紀伊の国。(パパン・パン!)粋な黒塀見越しの松に(パパン・パン!)あだな姿の洗い髪(パパン・パン!)、やぁやぁ宮さん何処行くの?(パパン・パン!)」

五右衛門が出てきて辞世の句を『石川や 浜の真砂は尽きるとも むべ山風を 嵐というらむ』…。

「凄い講釈だねぇ。本当に張り混ぜになってるよ。あれ? 鮫がいねぇぞ!!」

船はスーッと動き出した。そのまま安治川へ入って、陸に上がってみんなで祝杯…と、人間様のほうはこれで住んだが、済まないのが鮫のほう。

「何で逃げたんだ!? たかだか講釈師の一人で情けない!!」
「あれ、講釈師!?」

あんまり講釈師がバタバタ叩いたので、鮫は蒲鉾屋と間違えたらしい。

概略[編集]

この噺は、初代の一龍斎貞山エピソードが元になったとされている。
貞山が船に乗っていると、桑名の沖でに囲まれてしまい、半ば自棄で一席やったところ鮫が逃げてしまったらしいのだ。
これは貞山の講釈に鮫が気おされた為の出来事だが、それを『講釈師がやたらと船端を叩いたから=下手糞な講釈』としてしまったのは落語らしい。

もともとは上方落語で、『西の旅』という長編落語の一部が独立したもの。

鮫のすり身は蒲鉾の主原料となるため、鮫が逃げたのも無理はない。

バリエーション[編集]

ドタバタ満載の旅噺である本作品には、いくつかの落ちが存在している。

蒲鉾屋[編集]

鮫のおかげで船が停止し、『生贄』を決めるために乗客が持ち物を投げ込むあたりは同じ。

沈んだのは、親子の巡礼の、娘が投げ込んだ編み笠だった。 「えらいこっちゃ、鱶が巡礼の娘に魅入ったで」「うん、わいも最前から魅入ってんねん」
親子が泣く泣く別れをしていると、それまで眠っていた親父が騒ぎで目を覚まして「俺が何とかしてやろう」と提案。

船端に進み出ると、大口開けて待っている鮫の口に煙草の吸殻を投げ込んだ。

鮫はびっくりして海中に逃げ込み、船は再び動き出した…。

「凄いですなぁ! 貴方、いったい何なんですか!?」
「なーに、唯の蒲鉾屋の親父でして」 (上方では「雑魚場の蒲鉾屋や」)

  •  原話は、明和六年に出版された笑話本『写本珍作鸚鵡石』の一遍である「弘法大師御利生」。

[編集]

鮫のおかげで船が停止し、『生贄』を決めるために乗客が持ち物を投げ込むあたりは同じ。

沈んだのは、親子の巡礼の、娘が投げ込んだ編み笠だった。
親子が泣く泣く別れをしていると、横で見ていた侍が「俺が何とかしてやろう」と提案。

娘の着物を借りると、碇を巻きつけて海にザブン!

娘と間違えた鮫が碇を飲み込むと、侍の合図で乗客が力を合わせて碇を引っ張り出す。

やがて、鮫の内臓が碇といっしょに上がってきた…。

「鮫はどうなった?」
「袷になって流れて行ったよ…」

  • 原話は、明和5年に出版された笑話本『軽口春の山』の一遍である「フカの見入り」。

備考[編集]

『五目講釈』という別題は、勘当され、目下居候中の若旦那が講釈師に挑戦する『調合』の別題しても使われている。