二酸化塩素

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二酸化塩素
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識別情報
CAS登録番号 10049-04-4 チェック
PubChem 24870
ChemSpider 23251 チェック
UNII 8061YMS4RM チェック
EC番号 233-162-8
MeSH Chlorine+dioxide
ChEBI
RTECS番号 FO3000000
特性
化学式 ClO2
モル質量 67.45g/mol
外観 黄色がかった気体、または液体
密度 3.04g/cm3
融点

-59.5°C

沸点

11°C

への溶解度 0.8g/100mL(20°C
溶解度 塩基性水溶液、硫酸に可溶
酸解離定数 pKa 2.5-3.5
熱化学
標準生成熱 ΔfHo + 104.60kJ/mol
標準モルエントロピー So 257.22J K-1 mol-1
危険性
安全データシート(外部リンク) ICSC 0127
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード 警告(WARNING)
EU分類 酸化剤 O酸化剤
腐食性 C腐食性
猛毒 T+猛毒
環境への危険性 N環境への危険性
EU Index 017-026-00-3
経口摂取での危険性 不明。
呼吸器への危険性 あり。
への危険性 刺激による危険性あり。
皮膚への危険性 不明。
NFPA 704
0
3
4
OX
Rフレーズ R6 R8 R26 R34 R50
Sフレーズ S(1/2) S23 S26 S28 S36/37/39 S38 S45 S61
半数致死量 LD50 292mg/kg(ラット、経口)
半数致死濃度 LC50 260ppm (ラット、 2時間)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

二酸化塩素(にさんかえんそ、Chlorine dioxide)とは塩素酸化物で、化学式 ClO2で表される無機化合物である。塩素の酸化数は+4。

性質[編集]

常温常圧では塩素やオゾンのような刺激臭のある橙色から黄色で空気より重い気体であるが、濃度等により臭気・色調は異なる。光や熱に対しては不安定。液体は赤褐色で比重 1.64(0°C)、固体は橙黄色、溶解度 0.8g/100mL(20°C[1]。塩素原子上に不対電子をもつ分子(ラジカル)であり、反応性が高い。

塩素酸に、その他の酸を溶かして得られる。

二酸化塩素の構造に関する論文[2]によると液体二酸化塩素の構造は右図の通り。

用途[編集]

殺菌作用があり、殺菌目的として水を消毒するだけでなく消臭目的の消臭材などにも使われる。それだけではなくメタンの酸化目的にも使われる。

パルプを製造するとき、繊維の漂白に用いられる。かつて塩素ガスが用いられていたものが、セルロースの酸化によるパルプの機械的強度の低下を低減させるために置き換えられたものである。ゲル化剤等を混合させた組成物を隙間のある容器に入れた季節性の商品が流通している。

空間除菌用途での有効性と安全性[編集]

2008年(平成20年)、強毒性H5N1型鳥インフルエンザの人型変異とそれに起因する世界的大流行(パンデミック)への懸念から、空間消毒薬として二酸化塩素ガスが注目され、日本の経済報道番組[3]でも紹介された。それ以後も日本のプロ野球団で使用されているとスポーツ紙で取り上げられる[4]などしている。また、2010年には、インフルエンザ様疾患の発生を減じる可能性が報告された[5]

しかし、二酸化塩素の安全性は経口摂取では確認されているものの[6]、長期間低濃度雰囲気での暴露に係る安全性の検証(毒性試験)は不安定で反応性の高いガスである為か、世界的にみても十分とはいえない状況である。

このような状況ではあるが、アメリカ産業衛生専門家会議英語版イタリア語版(ACGIH)が定める作業環境基準においては、二酸化塩素の酸化力は塩素よりも小さな値[7]とされており、また、ラットの吸入による急性毒性を表す半数致死濃度(LC50)も塩素より低濃度であり[疑問点]、二酸化塩素の方が塩素よりも毒性が弱いと考えられている[8]

アメリカでは、労働安全衛生局(OSHA)は1日8時間暴露(TWA:時間加重平均値)で0.1ppmを暴露限界として設定[9]しており、日本では製造事業者側がこれを二酸化塩素に依る空間消毒薬の暫定的な安全基準として提示することがある[10]。他に、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が1日8時間又は週40時間暴露(TLV-TWA)で0.1ppm、かつ常に15分間のTWAが0.3ppm以下でなければならない(TLV-STEL:短時間暴露限界)[11][12]と暴露限界を設定しており、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)も別の条件下における暴露限界を設定している[12]。これらの基準値は一般家庭ではなく、工場などでの成人の職業性曝露を念頭に設定された値であることに注意をしなくてはならない。

日本においては、労働安全衛生法[13]で「名称等を通知すべき危険物及び有害物」の一つとして指定されているほか、一部地方自治体の生活環境保全条例や化学物質環境安全管理指針等で排出が規制されている。暴露限界に関する基準は存在しない。

業界団体である「一般社団法人 日本二酸化塩素工業会」は空間除菌製品に係る室内濃度指針値(自主基準)を0.01ppmに設定している[14]が、目安値であり、「定常状態における濃度水準を示したものであり、最大許容濃度や二酸化塩素ガスの有効濃度を示したものではない」[15]

身体装着型の有効性[編集]

2017年、国立病院機構仙台医療センターの研究者らは、身体装着型二酸化塩素放散製剤にメーカーが標榜する様な病原体の抑制効果は無かったと報告した[16]

公的機関による調査・措置命令[編集]

日本の独立行政法人国民生活センターが、据置芳香剤型の空間除菌を謳った商品(空間除菌グッズ)に対して行った調査[8]では、二酸化塩素を有効成分と謳っているにもかかわらず、放出が皆無である製品の存在や、臭気が原因とみられる体調不良者の発生、自社での有効性・安全性確認がなされていない製品が殆どである実態がみられた。また、同機関が行った「首から下げるタイプの除菌用品」に対して行った調査では[17]、一部の商品に化学熱傷を引き起こす皮膚腐食性や、安全性を過信させる表示が認められるなど、今後の改善が求められる。

なお、二酸化塩素がウイルスや細菌を死滅させる事実があっても、日本においてウイルス感染を予防できる旨を商品の効果・効能として表示するには、厚生労働大臣による医薬品としての製造販売承認が必要である[18]。現状としては医薬品として販売されている製品はなく、雑貨として販売されているにもかかわらず、不適表示・広告している製品がみられる[8]と指摘されている。

これらの状況を踏まえ、業界団体「一般社団法人 日本二酸化塩素工業会」[19]が設立されているが、加盟企業(非加盟企業も含む)に対し、優良誤認及び有利誤認表示があったとして景品表示法違反による措置命令が出されている[20][21]

長期保存[編集]

二酸化塩素自体は常温において気体であり、多少の熱や光によって分解されることから長期保存に適さない。その為空間除菌をうたう製品では、長期保存を可能とする成分を加えた水溶液としたり、亜塩素酸ナトリウム[22]等を使用時に反応させて二酸化塩素を発生させるなど、各社各様の手法をとっている。なお、「安定化二酸化塩素」と称する物質は特定の化学式と対応している物質ではなく製品毎に異なり、当然に物性や安全性も二酸化塩素とは異なる。[23]

脚注[編集]

  1. ^ ICSC 0127
  2. ^ Shimakura H., Ogata N., Kawakita Y., Ohara K and Takeda S. Determination of the structure of liquid containing free radical molecules: Inter-molecular correlations in liquid chlorine dioxide. Molecular Physics vol.111, No.8, 1015-1022(2013)
  3. ^ テレビ東京ワールドビジネスサテライト』2008年5月2日放送回。二酸化塩素をガス化して噴出させるエアコンを電機メーカーが開発中であり、ホテルやオフィスからの問い合わせが増加した、との内容であった。
  4. ^ 星野監督 インフル対策の秘密兵器を大量注文、2013年1月6日8:25(UTC)閲覧。ネックストラップ付きIDカードホルダー類似の形状をしており、携帯して使用するとされる。
  5. ^ 三村敬司, 藤岡高弘, 三丸敦洋, 「二酸化塩素放出薬のインフルエンザ様疾患に対する予防効果」『日本環境感染学会誌』 25巻 5号 2010年 p.277-280, 日本環境感染学会, doi:10.4058/jsei.25.277
  6. ^ Toxiological Profile for Chroline Dioxide and Chlorite, U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 2004 経口摂取では LD50 > 100,000 mg/kg である(なお二酸化塩素水として流通している亜塩素酸ナトリウム水溶液については、亜塩素酸ナトリウムの LD50 は 105-177 mg/kg であり、その毒性は二酸化塩素の1000倍程度である)
  7. ^ TWAで、塩素が0.5ppmなのに対して二酸化塩素は0.1ppm。
  8. ^ a b c 独立行政法人国民生活センター二酸化塩素による除菌をうたった商品-部屋等で使う据置タイプについて-』、2010年11月11日
  9. ^ TABLE Z-1 Limits for Air Contaminants. - 1910.1000 TABLE Z-1、2013年1月6日9:00(UTC)閲覧。
  10. ^ 二酸化塩素とは? 日本二酸化塩素工業会、2013年1月6日9:05(UTC)閲覧。
  11. ^ 他にTLV-STELの値を超えなくとも,TLV-TWA値からSTEL値までの高濃度暴露は1日4回以下かつその間隔は60分以上空いていることが必要であるとしている。
  12. ^ a b Occupational Safety and Health Guideline for Chlorine Dioxide Archived 2012年12月4日, at the Wayback Machine.、2013年1月6日9:15(UTC)閲覧。
  13. ^ 具体的な物質名は労働安全衛生法施行令にて指定。
  14. ^ 「二酸化塩素の自主運営基準設定のための評価について-ガス製品-」
  15. ^ -二酸化塩素ガスの室内濃度指針値の公開に際して-(日本二酸化塩素工業会自主運営基準設定のための評価について)
  16. ^ 西村秀一, 「身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証」『日本環境感染学会誌』 32巻 4号 2017年 p.222-226, doi:10.4058/jsei.32.222
  17. ^ 首から下げるタイプの除菌用品の安全性-皮膚への刺激性を中心に-、独立行政法人国民生活センター、2013/12/07 20:20(JST)閲覧
  18. ^ 医薬品医療機器等法(旧薬事法)2条1項2号「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」に該当し、医薬品としての規制に服する。
  19. ^ 「一般社団法人 日本二酸化塩素工業会」を設立 (PDF) (同会Press Release)
  20. ^ 二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表示法に基づく措置命令について (PDF) - 消費者庁、2014年3月27日
  21. ^ 大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について (PDF) - 消費者庁、2022年01月20日
  22. ^ 次亜塩素酸ナトリウムとは異なる物質。次亜塩素酸ナトリウムを使用した製品の場合、発生する塩素ガスの殺菌作用を狙っているものと考えられる。
  23. ^ 二酸化塩素FAQ Archived 2005年12月17日, at the Wayback Machine.、2018年12月12日23:30(UTC)閲覧。

関連項目[編集]