乾布摩擦

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乾布摩擦をする国民学校の生徒たち(1941年10月 宮崎県延岡市

乾布摩擦(かんぷまさつ、Kanpu masatsu)とは、肌を乾いたタオルなどで直接こする代替医療・民間の健康法の一つ。自律神経鍛錬、体力向上、風邪予防、免疫力を上げる、などとメリットを謳っている。東洋医学では皮膚は肺に通ずと言われており、皮膚刺激で肺および免疫力が強くなるという理屈になる。健康によいというエビデンスを示した学術的研究は乏しい。やり過ぎると皮膚炎を起こすといわれている。 「寒風摩擦(かんぷうまさつ)」と誤記されることもある[1]

概要[編集]

基本的な格好は上半身ですることが多い。

末梢からの皮膚への刺激が延髄を介し、迷走神経に影響を及ぼし、自律神経の働きを高めると謳う民間療法[2]気管支喘息発作予防や皮膚鍛練法として有用だという主張もある[2]。その作用機序には、鍼灸治療の効果の一因とされる、軸索反射や体性-内臓反射が関わっているという説が唱えられている[要出典]

特別な器具を用いないため手軽で、日本では広く民間療法として知られている。アーユルヴェーダのガルシャナ(サンスクリット語で「摩擦」)が起源との説もあり、それによれば絹製品を用いると特に効果が高いとうたっている。

日本ではかつて風邪の予防法として、小学校中学校幼稚園保育園老人福祉施設などで行われることもあった。そのため、冬との関連を連想して「寒風摩擦(かんぷうまさつ)」と誤記されやすい。

歴史[編集]

日本では太平洋戦争前に園や小学校に導入されたのが始まりとされ、1980年代をピークに全国区規模の健康法として広まったが、不審者出没に不安を持つ保護者や、時流で体罰や虐待と取られかねないことに加え、裸になる児童個々の心や健康を鑑み、主体性を伸ばす時間に充てる風潮へと時代が代わり、一部自治体では徐々に廃れつつある[1]。例として『丹波新聞』が情報収集したところ、丹波篠山市では1989年平成元年)に乾布摩擦をしていたという最後の記録が残るが、このころを境に姿を消していったとされ、2020年令和2年)時点ではすべての小学校、保育園や幼稚園で行っていない状態であった[1]

注意[編集]

乾布摩擦は、角層や皮膚組織を傷つけ、むしろ皮膚炎を起こすということが確認されている[3]。皮膚にかゆみがある場合、乾布摩擦はかゆみを増悪させる[4]。特に乾皮症皮膚掻痒症など皮膚疾患を持っている場合は厳禁である[5]アトピー性皮膚炎がある場合も、乾布摩擦を行なってはいけない[6]

出典[編集]

  1. ^ a b c 「乾布摩擦」やったことある? 兵庫・丹波では学校園での実施ゼロ 教諭ら「全員裸ありえない」 丹波新聞 2020年2月8日
  2. ^ a b 宮城ヒデ子; 友利千賀子; 河野伸造「皮膚表面温度からみた乾布摩擦の検討」『Biomedical Thermology』第19巻、第3号、110-115頁、1999年https://ci.nii.ac.jp/naid/10029003896 
  3. ^ 田上八朗「皮膚を鍛えることはできる?」『大阪乾癬患者友の会 会報』第8巻、2001年6月http://derma.med.osaka-u.ac.jp/pso/news/news1/news0106.html 
  4. ^ 敷地孝法; 原田勝博; 広瀬憲志; 荒瀬誠治「老人性乾皮症,皮膚そう痒症,皮脂欠乏性湿疹」『四国医学雑誌』第57巻、第3号、徳島医学会、63-65頁、2001年6月25日http://www.tokushima-u.ac.jp/_files/00051460/shikokuacta57_3.pdf 
  5. ^ 敷地孝法「乾皮症,皮膚掻痒症」『四国医学雑誌』第57巻、第1号、徳島医学会、13頁、2001年2月25日http://www.tokushima-u.ac.jp/_files/00051484/shikokuacta57_1.pdf 
  6. ^ 眞弓光文 編「さあ、みんなでやってみよう!~ぜん息に負けないからだづくり」『子どものぜん息&アレルギーシリーズ』第7号、独立行政法人 環境再生保全機構、2002年3月http://www.erca.go.jp/asthma2/pamphlet/details/pdf/ap015.pdf