マクガフィン

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マクガフィン (MacGuffin, McGuffin) とは、何かしらの物語を構成する上で、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる、仕掛けのひとつである。登場人物たちの視点あるいは読者・観客などからは重要なものだが、作品の構造から言えば他のものに置き換えが可能な物であり、泥棒が狙う宝石や、スパイが狙う重要書類など、そのジャンルでは陳腐なものである。

概要[編集]

「マクガフィン」という言葉は映画監督のアルフレッド・ヒッチコックがしばしば、自身の映画を説明するときに使った言葉である。フランソワ・トリュフォーによるヒッチコックの長時間インタビュー集『映画術』には、この「マクガフィン」への言及が何度もある。同書のヒッチコックの言によれば、「マクガフィン」というスコットランド人の人名のような単語は、以下のイギリスに伝わるジョークが由来であるとしている。

ふたりの男が汽車のなかでこんな対話をかわした。「棚のうえの荷物はなんだね」とひとりがきくと、もうひとりが答えるには、「ああ、あれか、あれはマクガフィンさ」。「マクガフィンだって? そりゃ、なんだね」「高地地方ライオンをつかまえる道具だよ」「ライオンだって? 高地地方にはライオンなんていないぞ」。すると、相手は、「そうか、それじゃ、あれはマクガフィンじゃないな!」と言った……[1]

ここから転じ、イギリス文学における符牒として使われるに至ったとみられる。

ラディヤード・キプリングという小説家はインドアフガニスタンの国境で現地人とたたかうイギリス軍人の話ばかり書いていた。この種の冒険小説では、いつもきまってスパイが砦の地図を盗むことが話のポイントとなる。この砦の地図を盗むことを<マクガフィン>といったんだよ。つまり、冒険小説や活劇の用語で、密書とか重要書類を盗み出すことを言うんだ。それ以上の意味は無い。[1]

また、オクスフォード英語辞典によると、ヒッチコックは、先のインタビューより23年前の1939年コロンビア大学での講義においてもマクガフィンに言及している。

私たちがスタジオで「マクガフィン」と呼ぶものがある。それはどんな物語にも現れる機械的な要素だ。それは泥棒ものではたいていネックレスで、スパイものではたいてい書類だ。

つまり、マクガフィンとは単なる「入れ物」のようなものであり、別のものに置き換えても構わないようなものである。たとえばヒッチコックは『汚名』(Notorious、1946年)を企画していたとき、ストーリー展開の鍵となる「ウラニウムの入ったワインの瓶」に難色を示したプロデューサーに対して、「ウラニウムがいやなら、ダイヤモンドにしましょう」と提案している[2]。ヒッチコックにとって重要なのは、ウラニウムという原子爆弾の材料ではなくてそれをきっかけにして展開されるサスペンスだったのである。物語にリアリティを与えようとシナリオライターやプロデューサーはそうした小道具についても掘り下げようとするのだが、ヒッチコックはそれは単なるマクガフィンだからそんな必要は無いという態度をとった[3]。ヒッチコックによれば、マクガフィンに過ぎないものに観客が気を取られすぎるとそれに続くサスペンスに集中ができない。だから、マクガフィンについては軽く触れるだけで良いというのがヒッチコックの作劇術であった。

参考文献[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b 映画術, pp. 125-126.
  2. ^ 映画術, p. 160.
  3. ^ 映画術, p. 126 「わたしのやりかたに慣れていないシナリオライターと仕事するときには、きまって<マクガフィン>のことでもめるんだよ。相手は<マクガフィン>とは何かということにどうしても執着する。なんでもないんだ、とわたしは言うんだよ。」