マクガフィン

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マクガフィン (MacGuffin, McGuffin) とは、小説や映画などのフィクション作品におけるプロット・デバイス英語版の一つであり、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる。特にスリラー映画で多用され、泥棒が狙う宝石やスパイが狙う重要書類などがマクガフィンの典型例である。しかし物に限定されず、出来事や人物などもマクガフィンに含まれる[1]

なぜそれらを登場人物は追い求めるのか、作品内では殆どあるいは全く説明がなされないことが多い。マクガフィンはあくまで登場人物の動機付けに用いられるため、内容そのものは重要ではないことから、他のものに置き換えてもストーリーが成立する。またマクガフィンは通常、物語の序盤で言及され、物語のクライマックスで再登場するものの、その重要性が徐々に低下して最後にはその存在が忘れられることも多い。

一つの作品内に複数のマクガフィンが用いられた場合、批判的に「プロット・クーポン」(plot coupons) [注 1]と呼ばれることがある[2][3]

歴史[編集]

技法そのものは古くから用いられていたが[4]、その概念を「マクガフィン」という用語で表現したのはイギリスの脚本家アンガス・マクフェイル英語版が最初だと言われている[5]。その後、マクフェイルと協働した映画監督のアルフレッド・ヒッチコックによって、マクガフィンの概念は1930年代頃から普及した[5][6][7]

ヒッチコックによると、マクガフィンの語源は二人の男が汽車で交わした小噺に由来する[8]。荷物の中身を問われた男はマクガフィンだと答え、マクガフィンとはスコットランドのハイランド地方で使われているライオンを捕まえる罠だと説明した。これに対し、スコットランドにライオンは生息しないと指摘され、荷主の男はマクガフィンそのものが存在しないことに気づく。このことから、マクガフィンとは実態のないものの例えとして使われている[注 2]。なお、MacGaffinまたはMcGaffin (人名の場合、Gの直後はuではなくaと綴る) はイギリスおよびアイルランド系に見られる苗字である[9]

定義と用法[編集]

アルフレッド・ヒッチコック[編集]

1966年に行われたフランソワ・トリュフォーによるヒッチコックの長時間インタビューを収録した『映画術』には、マクガフィンへの言及が何度もある。

ラディヤード・キプリングという小説家はインドアフガニスタンの国境で現地人とたたかうイギリス軍人の話ばかり書いていた。この種の冒険小説では、いつもきまってスパイが砦の地図を盗むことが話のポイントとなる。この砦の地図を盗むことを<マクガフィン>といったんだよ。つまり、冒険小説や活劇の用語で、密書とか重要書類を盗み出すことを言うんだ。それ以上の意味は無い[10]

また、オクスフォード英語辞典によると、ヒッチコックは、先のインタビューより27年前の1939年コロンビア大学での講義においてもマクガフィンに言及している。

私たちがスタジオで「マクガフィン」と呼ぶものがある。それはどんな物語にも現れる機械的な要素だ。それは泥棒ものではたいていネックレスで、スパイものではたいてい書類だ。

つまり、マクガフィンとは単なる「入れ物」のようなものであり、別のものに置き換えても構わないようなものである。たとえばヒッチコックは『汚名』(Notorious、1946年)を企画していたとき、ストーリー展開の鍵となる「ウラニウムの入ったワインの瓶」に難色を示したプロデューサーに対して、「ウラニウムがいやなら、ダイヤモンドにしましょう」と提案している[11]。ヒッチコックにとって重要なのは、ウラニウムという原子爆弾の材料ではなくてそれをきっかけにして展開されるサスペンスだったのである。物語にリアリティを与えようとシナリオライターやプロデューサーはそうした小道具についても掘り下げようとするのだが、ヒッチコックはそれは単なるマクガフィンだからそんな必要は無いという態度をとった[12]。ヒッチコックによれば、マクガフィンに過ぎないものに観客が気を取られすぎるとそれに続くサスペンスに集中ができない。だから、マクガフィンについては軽く触れるだけで良いというのがヒッチコックの作劇術であった。

ジョージ・ルーカス[編集]

アメリカ合衆国の映画監督ジョージ・ルーカス (1944-) は、1977年の映画『スター・ウォーズ』に登場するロボットのキャラクターR2-D2のことを「映画のストーリの核となるもの、すなわち映画業界で言うところのマクガフィンであり、皆が追い求めるオブジェクトだ」と描写している[13]。ヒッチコックにとってのマクガフィンの定義は、プロットの進展に必要であるものの、観衆はさほど気に留めないオブジェクトであった。しかしこれに対しルーカスは、マクガフィンとは「まるでヒーローと悪役の決闘シーンのように観客を虜にするものでなければならない」と語っている[14]

参考文献[編集]

  • 山田宏一蓮實重彦訳 『映画術 ヒッチコック/トリュフォー晶文社、1981年。ISBN 978-4-79495641-5

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ スーパーマーケットの割引クーポン集めに見立てた表現である。不思議な力を持つオブジェクトを複数集めると、魔法のような効果を発揮して問題解決ができるといったストーリーがプロット・クーポンの典型。
  2. ^ 「棚の上の荷物は何だい?」と聞くと、「あれはマクガフィンさ」と答えた。「マクガフィンとは何だい?」と聞くと、「あぁスコットランドのハイランド地方で使われる、ライオンを捕まえる罠さ」と答えた。「でもハイランド地方にライオンなんていないぞ」と問うと、「じゃあ、あの荷物はマクガフィンではないな」と答えた[8]

出典[編集]

  1. ^ Definition of MacGuffin”. Merriam-Webster. 2019年1月18日閲覧。
  2. ^ Lowe, Nick (July 1986). “The Well-Tempered Plot Device”. Ansible (Berkshire, England) (46). ISSN 0265-9816. オリジナルのJuly 28, 2013時点によるアーカイブ。. http://news.ansible.co.uk/plotdev.html 2014年1月2日閲覧。. 
  3. ^ Sterling, Bruce (2009年6月18日). “Turkey City Lexicon – A Primer for SF Workshops”. Science Fiction and Fantasy Writers of America. 2014年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月2日閲覧。
  4. ^ Dr. Marjory T. Ward, "King Arthur Revisited" in Dr. Andrew Keen (ed.) "Proceedings of the Second History/Literature Conference on Medieval Literature"
  5. ^ a b Word History of MacGuffin”. American Heritage Dictionary of the English Language, Fifth Edition. 2019年1月18日閲覧。
  6. ^ Marshall Deutelbaum; Leland A. Poague (2009). A Hitchcock reader. John Wiley and Sons. p. 114. 
  7. ^ Digou, Mike (October 2003). “Hitchcock's Macguffin In The Works Of David Mamet”. Literature Film Quarterly 31 (4): 270–275. 
  8. ^ a b O'Toole, Garson (2018年2月28日). “MacGuffin Is the Term We Use To Cover All that Sort of Thing: To Steal Plans or Documents, or Discover a Secret, It Doesn’t Matter What It Is” [マクガフィンは計画や書類の盗みから秘密捜査まで -- その中身は不問で -- あらゆる事象に使われる用語である] (英語). Quote Investigator. 2019年3月8日閲覧。 “Hitchcock presented a curious tale to help explain the origin of the term.... Quote: It might be a Scottish name, taken from a story about two men in a train. One man says, “What’s that package up there in the baggage rack?” And the other answers, “Oh, that’s a MacGuffin.” The first one asks, “What’s a MacGuffin?”“Well,” the other man says, “it’s an apparatus for trapping lions in the Scottish Highlands.” The first man says, “But there are no lions in the Scottish Highlands,” and the other one answers, “Well then, that’s no MacGuffin!” So you see that a MacGuffin is actually nothing at all.
  9. ^ Macgaffin Family History”. Ancestry.com. 2019年3月8日閲覧。
  10. ^ 映画術, pp. 125-126.
  11. ^ 映画術, p. 160.
  12. ^ 映画術, p. 126 「わたしのやりかたに慣れていないシナリオライターと仕事するときには、きまって<マクガフィン>のことでもめるんだよ。相手は<マクガフィン>とは何かということにどうしても執着する。なんでもないんだ、とわたしは言うんだよ。」
  13. ^ Lucas, George (Director) (2004年). Star Wars Episode IV: A New Hope (1977) Region 2 (DVD, Audio commentary). 該当時間: 00:14:44 – 00:15:00. ""the main driving force of the movie ... what you say in the movie business is the MacGuffin ... the object of everybody's search"" 
  14. ^ “Keys to the Kingdom”. Vanity Fair. (2008-02). オリジナルの2014-02-01時点によるアーカイブ。. http://www.vanityfair.com/culture/features/2008/02/indianajones200802?currentPage=4 2014年1月2日閲覧。. 

関連項目[編集]

マクガフィン以外の代表的なプロット・デバイス: