ヒルベルトの第12問題

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クロネッカーの青春の夢(Kronecker's Jugendtraum)、あるいは(ヒルベルトの23の問題の中の)ヒルベルト第12問題(Hilbert's twelfth problem)とは代数体のアーベル拡大を具体的に構成する方法を問う問題である。有理数体にたいしては、そのアーベル拡大は円分体にふくまれるというクロネッカー・ウェーバーの定理が知られており、円分体は1のべき根により生成されるという具体的な構成法があたえられる。

虚数乗法の古典的な理論は「クロネッカーの青春の夢」として知られており、上の問題において代数体として虚二次体を選んだ場合の解答である。レオポルト・クロネッカー(Leopold Kronecker)は、気に入った青春の夢 liebster Jugendtraum として、虚数乗法の考えを次のように書き表した。

「楕円函数の変換公式による有理数の平方根をもつアーベルの方程式は、特異モジュライをもつ円分体の拡大によるアーベルの積分方程式のように、まさに拡張可能であることを証明すること、これは、私の青春の夢でありとても気に入っています。」

クロネッカーのデデキントへの1880年の手紙より、クロネッカー全集の第5巻 page 455

問題の内容と経緯[編集]

まずアーベル拡大について簡単にふれる。ガロア (Évariste Galois) によりガロア群と呼ばれる群が体の拡大を制御することが明らかになった。ガロア群が可換、すなわちアーベル群である場合をとくにアーベル拡大という。たとえば有理数体に をつけ加えてえられる拡大は、そのガロア群が {1, −1} となりアーベル群である。このような体を二次体とよび、ガウス (Carl Friedrich Gauss) はすべての二次体はある円分体に含まれることをしめした。二次体ではなくではなくより一般のアーベル拡大についても クロネッカー・ウェーバーの定理により有限アーベル拡大体はある円分体に含まれることがしめされる。

クロネッカー(とヒルベルト)の問題は、有理数体のアーベル拡大ではなく一般的な代数体 K のアーベル拡大はどのように構成できるかを問うている。この問題については、K虚二次体のとき、もしくはその一般化であるCM体のときに解答があたえられる。クロネッカー・ウェーバーの定理は次のようにいいかえることができる。指数函数の特殊値 exp(2πi/n) を全てつけ加えた拡大を考えると有理数体 Q の最大アーベル拡大を得ることができる。ヒルベルトの第12番目の問題は、指数函数をより一般化したような関数を考え、その特殊値が一般的な代数体 K の最大アーベル拡大 Kab を生成することが可能かどうかを問う問題と解釈できる。Kが虚二次体 Q(τ) の場合には虚数乗法論によりその最大アーベル拡大はモジュラ函数 j (τ) と楕円函数 ℘ (τ, z) の特殊値(対応する楕円曲線の等分点における値)と 1のべき根を全てつけ加える事で得られることがわかる。これが虚二次体に対するヒルベルトの問題への解答である。さらに虚二次体の高次元化ともいえるCM体に対する結果は志村五郎により得られた。

ヒルベルトの第12問題の元々の設定は少し不正確な点があるので、それについて注意する。彼は、虚二次体のアーベル拡大は楕円モジュラ函数の特殊値により生成されると言っているように思える。ヒルベルトは暗にこれらを示していたかもしれないが、実際には アーベル拡大を生成するには1のべき根を使うことも必要となる。これだけではなく、楕円モジュラ函数の値がヒルベルト類体英語版(Hilbert class field)を生成するとき、もう少し一般的にはアーベル的に拡大するときには、楕円函数の値を使う必要もある。例えば、アーベル拡大 は、特異モジュライと 1のべき根によっては生成されない。(ヒルベルトは、「楕円函数」という用語を使っており、楕円函数 と楕円モジュラ函数 j の双方を意味しているとはなかなか考えにくい。)

絶対アーベル拡大体 Kab の記述は類体論によって得られる。類体論はダフィット・ヒルベルト (David Hilbert) 自身と、エミル・アルティン (Emil Artin) と20世紀前半の他の人々により開拓された。特に、高木貞治は、絶対アーベル拡大体が存在することを証明した。高木の存在定理を参照。しかしながら、類体論の中で Kab を具体的に構成することは、最初にクンマー理論を使いより大きな非アーベル拡大を構成し、それからアーベル拡大へ落とし込むことでなされるので、従ってアーベル拡大のより具体的な構成方法を問うているヒルベルトの問題の解には至っていない。

その後の進展[編集]

エーリッヒ・ヘッケ英語版 (Erich Hecke) は、論文 Hecke (1912)中で、実二次体のアーベル拡大を研究するためにヒルベルトのモジュラ形式英語版を使用した。

1960年頃より、志村五郎谷山豊により一般のCM体に対する結果が得られた。CM体のアーベル拡大を記述するために、アーベル多様体の虚数乗法を用いるというのが彼らの結果である。一般には、このことはCM体のアーベル拡大を導く。アーベル多様体のテイト加群英語版によりえられるガロア表現について調べるということが、アーベル拡大を調べることになる。テイト加群は l 進コホモロジーのひとつの例で、これらの表現が深く研究されている。

ロバート・ラングランズ (Robert Langlands) は、1973年に Jugendtraum の現代バージョンである志村多様体ハッセ・ヴェイユのゼータ函数を扱うべきであると論じた。30年以上にも渡り、彼は、より広い問題を扱うラングランズ・プログラムという壮大なプログラムを想定したが、ヒルベルトの発した問題を取り込むことについては、未だに重大な問題として残っている。

これとは対照的に、別の発展では、直接、数体の特別に興味深い単元の見つけることを扱うスターク予想 (ハロルド・スターク英語版(Harold Stark)) がある。この予想は、L-函数の議論の発展にも大きな影響をもつ予想であり、また、具体的な数値結果をもたらす可能性も持っている。

脚注[編集]

参考文献[編集]