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ガロア群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ガロア群:Galois Group)とは、代数方程式または体の拡大から定義される群のことである。この名称は、代数方程式が四則演算とべき根によって解けるかどうかを判定するために代数方程式の根の置換群を研究したフランス数学者エヴァリスト・ガロアにちなむ。ガロア自身は根の置換の集合として群に相当する概念を扱ったが、ガロアの死後、ジョゼフ・リウヴィルによって1846年に論文が公刊されて以降、その研究は広く知られるようになり、リヒャルト・デデキントエミール・アルティンらによって体の自己同型群としての現代的な定式化に整備された。これらの群を用いて方程式などの数学的対象について研究する分野をガロア理論と呼ぶ。ガロア理論の基本定理はガロア群の部分群と体の中間体の間の一対一対応を与えており、ガロア群はガロア理論の中心的な研究対象をなす。

定義

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体の拡大のガロア群

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E F の拡大体とし、その体の拡大を E/F と表わすこととする[1]。ガロア群は有限次拡大および無限次拡大の双方に対して定義されるが、本節では基礎的な有限次拡大を中心に述べる。また E/F自己同型を、 F の各元を固定する E の自己同型と定義する。 このとき、 E/F の自己同型全体は群を成す。これを Aut(E/F) と表わす。

E/Fガロア拡大正規拡大かつ分離拡大)であるなら、 Aut(E/F) を拡大 E/F のガロア群と呼び、 Gal(E/F) で表わす[2]。なお、E/F がガロア拡大でない場合は、Aut(E/F) の位数は拡大次数 [E:F] より真に小さくなる。

多項式のガロア群

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多項式 f が重根を持たない(分離多項式である)とする。重根を持つ多項式の場合は、同じ根を持つ分離多項式(重根を取り除いた多項式)に置き換えて考えればよい。体 EfF 上の分解体f の根をすべて含む最小の F の拡大体)であるとき、拡大 E/Fガロア拡大正規拡大かつ分離拡大)となる。このときの Gal(E/F)fF 上のガロア群と呼ぶ。なお、標数0の体(有理数体など)上の既約多項式は常に分離的であるため、既約多項式を扱う限りにおいては重根の存在を考慮する必要はない。

ガロア群 Gal(E/F) の各元は、 f の根を別の根に写すため、根の集合の上の置換を引き起こす。これにより、多項式のガロア群は根の数 n に応じた 対称群 Sn の部分群とみなすことができる。

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下記の例において、 F は一般の体、 C, R, Qはそれぞれ複素数体実数体有理数体とする。また、 F(a) は体 F に元 a を添加した体、即ち F の全ての元と a をふくむ最小の体であるとする。

基本的な例

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  • Gal(F/F)は恒等写像のみからなる自明な群。
  • Gal(C/R)は恒等写像と複素共役写像の2つの元からなる群[3]
  • Gal(Q(2)/Q) は、恒等写像および、2-2を入れ替える写像からなる[4]
  • K = Q(32)とするとき、Aut(K/Q)は自明な群となる。これはK正規拡大でないためである。すなわち、Kx3 2 の根の一つ を含むが、他の根( および 、ただし ω は1の原始3乗根)を含まず、x3 2 の Q 上の分解体ではない。
  • ω を1の原始3乗根とするとき、拡大体L = Q(, ω)は、多項式x3 - 2のQ上の分解体となり、Gal(L/Q)は対称群 S3と同型となる。上の K = Q(32) は L の中間体であり、K/Q がガロア拡大(正規拡大)でないことに対応して、K を固定する L のガロア群の部分群 は、正規部分群とはならない。
  • p を素数とするとき、 fp 次の有理係数既約多項式で、実数でない解をちょうど2つ持つならば、f のガロア群はp 次の対称群Spに等しい[5]
  • q を素数の累乗とし、F , E をそれぞれ 位数 q と位数 qn有限体とするとき、Gal(E/F) は位数 n巡回群となる。生成元はフロベニウス自己同型 で与えられる。

有理数体上の既約多項式のガロア群

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有理数体上の既約多項式のガロア群について、次数ごとの分類と具体例は以下の通りである。以下において、4次以下の多項式のガロア群はすべて可解群となる。

2次多項式
判定条件ガロア群具体例備考
(常に該当)2次対称群 S2巡回群 Z2 に同型。解の公式における平方根の付加(2次拡大)に対応する。
3次多項式
多項式の判別式Δ とするとき、以下の表のように判定できる[6]。3つの実数解を持つ(Δ > 0)にもかかわらず有理数範囲で因数分解できない既約3次多項式は、カルダノの公式を用いる際に代数的な計算の途中で虚数を経由することが避けられない。この現象は歴史的に「還元不能」(casus irreducibilis)と呼ばれた。
判別式 Δガロア群具体例備考
有理数の平方である3次交代群 A3巡回群 Z3 に同型。3つの解はすべて実数となる。
有理数の平方でない3次対称群 S3Δ > 0 の場合は3つの実数解を持ち、Δ < 0 の場合は実数解1つと互いに共役な複素数解2つを持つ。
4次多項式
4次対称群 S4 の推移的部分群のいずれかとなる。判別式 Δ と、対応する三次分解方程式の有理数体上での因数分解の様子によって次のように分類される[7]
判別式 Δ三次分解方程式ガロア群具体例備考
有理数の平方である既約4次交代群 A4Δ > 0 であり、分解方程式の根を用いてフェラーリの公式に基づく解が構成される。
3つの1次式に分解クラインの四元群 V中間体として3つの2次拡大体()を持つ可換群。
有理数の平方でない既約4次対称群 S4最も一般的な4次方程式が持つガロア群。
1次式と既約な
2次式に分解
二面体群 D4
または 巡回群 Z4
(D4)
(Z4)
元の4次多項式が、拡大体 Q() 上において、
2つの2次式に因数分解される(可約となる)場合は Z4
既約なままである場合は D4 となる。
高次多項式
高次多項式であっても、特定の性質を持つものは簡潔なガロア群の構造を持ち、代数的に解くことが可能である。代表的な分類として以下のものが挙げられる。
多項式の種類ガロア群具体例備考
円分多項式 乗法群
n = 7 の場合)
アーベル群(可換群)となるため常に可解群である。具体例のガロア群は巡回群 Z6 に同型。
二項方程式 メタ巡回群英語版の部分群累乗根の付加そのものを表す方程式。基礎体が1の原始 乗根を含む場合、そのガロア群は巡回群となり(クンマー拡大)、そうでない場合も可解群となる。これらが代数的に解けることの基礎となる。

性質

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基本的性質

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E/F を有限次ガロア拡大とするとき、ガロア群の位数は拡大次数に等しい[4]

より一般に、アルティンの定理によれば、HAut(E) の有限部分群とするとき、EH による固定体 EH に対して [E:EH] = |H| が成立つ。これはガロア群の定義における固定体との関係を基礎付ける命題であり、上記の等式はこの特別な場合に相当する。

ガロア理論の基本定理

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L を体 K の有限次ガロア拡大とする。LK の中間体 MGal(L/K) の部分群 H について次の式が成立つ。

ただし、Gal(L/M) は拡大 L/M のガロア群であり(Gal(L/K) の部分群となる)、LHL の元のうちで H の各元による作用の下で不変であるもの全体のなす L の部分体(KL の中間体)を指す。

したがって、L の中間体 M とガロア群 Gal(L/K) の部分群 H の間の対応

は互いに逆であり、中間体全体の集合から Gal(L/K) の部分群全体の集合への全単射を与える。また、この対応は包含関係を反転させる。つまり、M1 M2 ならば φ(M1) φ(M2) であり、 G1 G2 ならば ψ(G1) ψ(G2) となる。さらに、中間体 MK 上のガロア拡大となることと、対応する部分群 Gal(L/M)Gal(L/K)正規部分群となることは同値であり、このとき Gal(M/K) は商群 Gal(L/K)/Gal(L/M) と同型となる。

この基本定理による同値性は、体の拡大という代数的な構造を、有限群の部分群のという組合せ論的な構造に対応付けている。これにより、シローの定理等の群論の手法を用いて、体の中間体の構造を決定することが可能となる。

この包含関係を反転させる対応は、圏論の言葉を用いると、中間体を対象とする順序集合(または)と、部分群を対象とする順序集合の間の反変関手を与えており、これら2つの圏が互いに反変同値(双対)であることを意味している。

また、圏同値としての定式化は理論の一般化をもたらした。アレクサンドル・グロタンディークは、この関係を「分離的な代数拡大のなす圏」と「ガロア群が連続に作用する有限集合のなす圏」との同値性へと拡張した(グロタンディークのガロア理論)。

代数方程式の可解性

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標数0の体上においては、代数方程式が四則演算及びべき根で解けることと、その方程式のガロア群が可解群となることは同値となる。方程式を代数的に解くプロセスは、基礎体に累乗根を順次添加して体を拡大していく操作(累乗根拡大)であり、これはガロア理論の基本定理を通じて、ガロア群の組成列を降りる過程に対応する。

具体的には、基礎体に1の原始 乗根が含まれている場合、基礎体に元 乗根 を添加した拡大のガロア群は巡回群となる。逆に、基礎体が1の原始 乗根を含むという仮定のもとでは、ガロア群が位数 の巡回群であるような拡大(巡回拡大)は、常に適当な累乗根の添加によって得られることが知られている。

例えば、基礎体を有理数体 とし、ガロア群が3次対称群 である3次方程式の場合、ガロア群の組成列は に対応する。まず、判別式の平方根 および1の原始3乗根 を添加して体を拡大することで、ガロア群は から3次交代群 (位数3の巡回群)へ降下する。さらに、ラグランジュ・リゾルベントを用いて構成される元の立方根を添加することにより、拡大体のガロア群は自明な群 へ到達して解が求まる。

また、4次方程式を解くフェラーリの公式などのアルゴリズムも同様に、組成列 に沿って自明な群へ降下する過程に一致する。具体的には、まず判別式の平方根の添加により から4次交代群 へ降下する。続いて、補助方程式である3次分解方程式の根を添加することでクラインの四元群 へ降下し、最後に、元の係数と分解方程式の根から定まる2次方程式を解く(平方根を順次添加する)ごとに、位数2の巡回群 、そして自明な群 へと段階的に降下していく。

このような可解群の性質と体の拡大の対応関係から、5次以上の対称群 )が可解群ではないという群論の事実に基づいて、5次以上の代数方程式にはべき根による一般的解法が存在しないことが示される(アーベル・ルフィニの定理)。

無限次ガロア拡大

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体の拡大が無限次である場合(無限次ガロア拡大)、そのガロア群は有限次部分拡大のガロア群の射影極限として定義される。このようなガロア群は射有限群となり、自然にクルル位相と呼ばれる位相が入る。無限次拡大におけるガロア理論の基本定理では、中間体と一対一に対応するのは、ガロア群のすべての部分群ではなく「閉部分群」に限定される。また、任意の体 に対し、その分離閉包 (標数0の体の場合は代数的閉包に一致する)を用いて定義されるガロア群 を、絶対ガロア群と呼ぶ。

ガロアの逆問題

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任意の有限群が、有理数体 Q 上の何らかのガロア拡大におけるガロア群として実現できるか、という問題はガロアの逆問題と呼ばれ、ガロア理論における未解決問題の一つである。対称群や交代群については実現可能であることが古くから知られており、またイゴール・シャファレヴィッチによって、すべての有限可解群Q 上のガロア群として実現できることが証明されている。しかし、すべての有限群について成り立つかどうかは依然として未解決である。

関連項目

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脚注

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  1. 雪江 2023, p. 190.
  2. 雪江 2023, p. 224.
  3. Cooke, Roger L. (2008), Classical Algebra: Its Nature, Origins, and Uses, John Wiley & Sons, p. 138, ISBN 9780470277973
  4. 1 2 雪江 2023, p. 225.
  5. David A. Cox (2004年)『Galois Theory』 Wiley-InterscienceISBN 978-0471434191
  6. 雪江 2023, p. 250.
  7. 雪江 2023, pp. 252–259.

参考文献

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外部リンク

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