スピロノラクトン
| 臨床データ | |
|---|---|
| 別名 |
Aldactone Spirotone Spirolactone |
| 胎児危険度分類 |
|
| 投与経路 | 経口 |
| ATCコード | |
| 法的地位 | |
| 法的地位 |
|
| 薬物動態データ | |
| 代謝 | 肝代謝 |
| 消失半減期 | 10 分 |
| 排泄 | 尿, 胆汁 |
| 識別子 | |
| |
| CAS登録番号 | |
| PubChem CID | |
| DrugBank | |
| ChemSpider | |
| KEGG | |
| CompTox Dashboard (EPA) | |
| ECHA InfoCard | 100.000.122 |
| 化学的および物理的データ | |
| 化学式 | C24H32O4S |
| 分子量 | 416.574 g/mol g·mol−1 |
| 3D model (JSmol) | |
| |
| (verify) | |
スピロノラクトン(spironolactone)は合成ステロイドの一種であり、カリウム保持性利尿薬のひとつ。その名の通りスピロ環構造とラクトン環構造を併せ持つ。鉱質コルチコイド受容体(アルドステロン受容体)においてアルドステロンと競合的に拮抗することによりK+保持性の利尿作用を示す抗アルドステロン薬である[1]。主に心不全、肝硬変性腹水、高血圧治療薬としてフロセミドやクロロチアジドと併用される。特に、アルドステロン分泌が異常亢進する原発性アルドステロン症では第一選択の治療薬である。副作用として高K+性アシドーシス、女性化乳房、皮膚発疹などが存在する。
アルドステロン受容体のほかアンドロゲン受容体にも結合して、テストステロン(T)およびジヒドロテストステロン(DHT)と競合的に拮抗するため、 抗アンドロゲン薬としての作用を併せ持つ[2]。副作用としての女性化乳房や性欲減退などもこの作用に由来する。そのため、高血圧治療薬としては歓迎されないものであるが、逆にこの作用を応用して、男性型脱毛症や多毛症などのアンドロゲン依存性の病態の治療薬、および女性化性別適合ホルモン療法におけるテストステロン作用の抑制目的に用いられる[3]。日本国内で承認されている効能・効果にこれらは含まれず、いずれも適応外使用にあたる[4]。
スピロノラクトンは鉱質コルチコイド受容体への選択性が高くない。アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体への親和性を下げ、鉱質コルチコイド受容体により選択的に結合するようにした第二世代のアルドステロン拮抗薬としてエプレレノンがあり、女性化乳房などの性ホルモンに関連する副作用が起こりにくい[5]。
効能・効果
[編集]高血圧症(本態性、腎性等)、心性浮腫(鬱血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、特発性浮腫、原発性アルドステロン症の診断および症状の改善、悪性腫瘍に伴う浮腫および腹水、栄養失調性浮腫
治療抵抗性の高血圧(ACE阻害薬/ARB+Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬 での収縮期血圧が診察室血圧≧140mmHg(DM合併症で≧135mmHg)または家庭血圧≧130mmHg)に対してスピロノラクトン等または偽薬を上乗せしたところ、スピロノラクトン群では収縮期家庭血圧が偽薬に比べ8.70mmHg低下し、統計学的に有意な差(p<0.001)がついた[6]。血圧コントロール良好となった患者の割合(家庭血圧<135mmHgを達成した割合)はスピロノラクトン群で58.0%であった。
鉱質コルチコイド受容体拮抗作用を外用ステロイド剤の副作用(皮膚萎縮)の低減に応用できる可能性が示唆されている[7]。
禁忌
[編集]スピロノラクトンは下記の患者には禁忌とされている[4]。
- 無尿または急性腎不全の患者
- 高カリウム血症の患者
- アジソン病の患者
- タクロリムス、エプレレノン、ミトタンを投与中の患者
- 製剤成分に対し過敏症の既往歴のある患者
副作用
[編集]添付文書に掲載されている重大な副作用は[4]、
- 電解質異常(高カリウム血症、低ナトリウム血症、代謝性アシドーシス等)とそれに伴う不整脈、全身倦怠感、脱力等、
- 急性腎不全
- 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)
である。
発疹、蕁麻疹、女性化乳房、乳房腫脹、性欲減退、陰萎、月経不順、無月経、閉経後の出血などは0.1〜5%未満に発生する[4]。
性状と安定性
[編集]スピロノラクトンは熱、酸、アルカリに触れると分解し、その過程は分子の7α位にあるチオ酢酸基(-SCOCH3)の離脱によると考えられている[8]:5。硫黄を含むこの基が外れるため、分解が進んだ製剤は硫黄に似たにおいを生じる。ラクトン環は酸に対して安定である一方、アルカリによって開裂する[8]:5。
製剤にもにおいの記載がある。アルダクトンA細粒10%は「特異なにおい及び味がある」とされる[8]:8。無包装の状態で保存した錠剤では、におい以外の品質を保ったままにおいだけが問題になる。40℃で3か月、および30℃・相対湿度75%で3か月保存した試験では、含量・溶出試験・硬度は規格内であったが、イオウ臭が強くなり製品として使用できない状態になったと報告されている[8]:9。PTP包装、気密容器、ポリエチレン袋などの包装状態では、加速試験(40℃・75%RH・6か月)および長期保存試験(室温・5年)のいずれでも規格内であった[8]:9。
なお製造販売元は、本剤を粉砕して投与することを推奨していない[8]:64。
薬理作用
[編集]スピロノラクトンは薬理活性をもつプロドラッグであり、肝臓で生じるカンレノンと7α-チオメチルスピロノラクトンが作用の多くを担う[9]。ステロイドであるためステロイドホルモンと構造が似ており、鉱質コルチコイド受容体に対する強い拮抗作用に加えて、アンドロゲン受容体とプロゲステロン受容体にも中等度の親和性をもつ[10][9]。
鉱質コルチコイド受容体拮抗作用
[編集]鉱質コルチコイド受容体は核内受容体の一つで、アルドステロンが結合すると転写因子として働く[9]。腎臓では遠位尿細管から集合管にかけて発現し、その活性化は上皮性ナトリウムチャネルとナトリウム-カリウムポンプの新規合成を促すことで、ナトリウムの再吸収とカリウムの分泌を高める[11]。
スピロノラクトンはアルドステロンと競合してこの受容体に結合し、活性化を妨げる[12]。添付文書は作用部位を「遠位尿細管のアルドステロン依存性ナトリウム-カリウム交換部位」と記載している[4]。作用が遺伝子の転写を介するため、効果の発現には時間を要する[10]。
各受容体への親和性
[編集]スピロノラクトンは鉱質コルチコイド受容体以外のステロイドホルモン受容体にも結合する。
| 鉱質コルチコイド受容体 | グルココルチコイド受容体 | アンドロゲン受容体 | プロゲステロン受容体 | |
|---|---|---|---|---|
| 結合実験 | 36 | 764 | 133 | 1,200 |
| 転写活性(ヒト) | 66 | 2,600 | 640 | 180 |
アンドロゲン受容体への結合が抗アンドロゲン薬としての作用の基礎にあたる[10]。
このほかin vitroでは17α-水酸化酵素・17,20-リアーゼをはじめとするステロイド合成酵素を弱く阻害するが、臨床で用いられる用量での影響は一定せず、ステロイドホルモンの血中濃度は通常変化しないとされる[13][14]。
エプレレノンとの比較
[編集]エプレレノンは、スピロノラクトンの17α-チオアセチル基をカルボメトキシ基に置き換えた薬剤であり、アンドロゲン受容体とプロゲステロン受容体への親和性が低い[10]。ただし鉱質コルチコイド受容体そのものへの親和性もスピロノラクトンより低く、選択性と引き換えになっている[12][9]。活性代謝物をもたない点も異なる[10]。
薬物動態
[編集]スピロノラクトンの消失半減期は2相性であり、α相:1.8時間、β相:11.6時間であるが[4]、スピロノラクトンは3つの活性代謝物(7α-チオメチルスピロノラクトン、6β-ヒドロキシ-7α-チオメチルスピロノラクトン、カンレノン)[8]:29へと変化し、その結果、活性の半減期は長くなる(13.8~16.5時間)。
参考文献
[編集]- ↑ 伊藤勝昭他『新獣医薬理学 第二版』近代出版、2004年。ISBN 4874021018。
- ↑ Hembree, Wylie C.; Cohen-Kettenis, Peggy T.; Gooren, Louis; Hannema, Sabine E.; Meyer, Walter J.; Murad, M. Hassan; Rosenthal, Stephen M.; Safer, Joshua D. et al. (2017-11-01). “Endocrine Treatment of Gender-Dysphoric/Gender-Incongruent Persons: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline”. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 102 (11): 3869–3903. doi:10.1210/jc.2017-01658. PMID 28945902.
- ↑ Coleman, E.; Radix, A. E.; Bouman, W. P. (2022). “Standards of Care for the Health of Transgender and Gender Diverse People, Version 8”. International Journal of Transgender Health 23 (sup1): S1–S259. doi:10.1080/26895269.2022.2100644. PMC 9553112. PMID 36238954.
- 1 2 3 4 5 6 “アルダクトンA細粒10%/アルダクトンA錠25mg/アルダクトンA錠50mg 添付文書” (2012年10月). 2016年5月25日閲覧。
- ↑ Hameedi, A.; Chadow, H. L. (2000-08). “The promise of selective aldosterone receptor antagonists for the treatment of hypertension and congestive heart failure”. Current Hypertension Reports 2 (4): 378–383. doi:10.1007/s11906-000-0041-z. PMID 10981173.
- ↑ “治療抵抗性高血圧の約6割がスピロノラクトンで血圧コントロール良好に”. MT Pro (2015年9月3日). 2015年9月5日閲覧。
- ↑ Eve Maubec, Cédric Laouénan, Lydia Deschamps, et al. (2015-02). “Topical Mineralocorticoid Receptor Blockade Limits Glucocorticoid-Induced Epidermal Atrophy in human Skin”. Journal of Investigative Dermatology. doi:10.1038/jid.2015.44 2015年3月29日閲覧。.
- 1 2 3 4 5 6 7 “アルダクトンA細粒10%/アルダクトンA錠25mg/アルダクトンA錠50mg インタビューフォーム”. PMDA. 2026年8月30日閲覧。
- 1 2 3 4 Kolkhof, Peter; Bärfacker, Lars (2017-07). “30 YEARS OF THE MINERALOCORTICOID RECEPTOR: Mineralocorticoid receptor antagonists: 60 years of research and development”. Journal of Endocrinology 234 (1): T125–T140. doi:10.1530/JOE-16-0600. PMID 28634268.
- 1 2 3 4 5 Sica, Domenic A. (2005-01). “Pharmacokinetics and pharmacodynamics of mineralocorticoid blocking agents and their effects on potassium homeostasis”. Heart Failure Reviews 10 (1): 23–29. doi:10.1007/s10741-005-2345-1. PMID 15947888.
- ↑ Pearce, David; Manis, Anna D.; Nesterov, Viatcheslav; Korbmacher, Christoph (2022-08). “Regulation of distal tubule sodium transport: mechanisms and roles in homeostasis and pathophysiology”. Pflügers Archiv 474 (8): 869–884. doi:10.1007/s00424-022-02732-5. PMC 9338908. PMID 35895103.
- 1 2 3 山川悟ほか「エサキセレノン(ミネブロ®錠1.25mg・2.5mg・5mg)の薬理学的特徴及び臨床試験成績」『日本薬理学雑誌』第155巻第5号、2020年、340–350頁、doi:10.1254/fpj.20016。
- ↑ Loriaux, D. Lynn (1976-11). “Spironolactone and endocrine dysfunction”. Annals of Internal Medicine 85 (5): 630–636. doi:10.7326/0003-4819-85-5-630. PMID 984618.
- ↑ Colby, Howard D. (1981-04). “Chemical suppression of steroidogenesis”. Environmental Health Perspectives 38: 119–127. doi:10.1289/ehp.8138119. PMC 1568425. PMID 6786868.