「減算方式」の版間の差分
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[[ファイル:Spectrogram of violin.png|thumb|upright|バイオリンの[[スペクトログラム]]。一般的に[[楽音]]は整数次倍音を中心に構成されるが、その分布は音色によって様々に異なる]] |
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[[ファイル:Human voice spectrogram.jpg|thumb|upright|声の[[スペクトログラム]]。ソース・フィルタモデルでは、[[声門]]が生んだ周期振動を原音として、[[声道]]というフィルタが[[フォルマント]]を形成したものとみなされる]] |
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[[ジョゼフ・フーリエ|フーリエ]]の定理によれば、任意の[[周期関数]]は[[正弦波]]の[[級数]]で表せる([[フーリエ級数]])。これは音楽の分野では任意の音色が[[基音]]と[[倍音]]で成り立つこととも換言できる。この理論を音響合成に応用すれば、どんな音色もその倍音構成と同様の[[周波数]]・[[位相]]・[[振幅]]の正弦波を加算してゆけば近似できる([[アディティブ・シンセシス|加算方式]])<ref>Julius O. Smith III, [https://ccrma.stanford.edu/~jos/pasp/Additive_Synthesis.html Additive Synthesis], ''Physical Audio Signal Processing'', W3K Publishing, 2010年.</ref>。また逆に、倍音を豊富に含む原音を用意し、そこから倍音を取り除くことで目的の音色に近似させることもでき、これが減算方式と呼ばれる。減算方式では一般的に、原音には電子的な周期音や[[ノイズ]]が用いられ、「減算」には任意の[[フィルタ回路]]が用いられる。 |
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==概要== |
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[[ジョゼフ・フーリエ]]が提唱したフーリエの定理によれば、「任意の[[関数 (数学)|関数]]は[[正弦波]]の合成で表すことができる」とされている。この理論に基づき、楽器の音色を電子的に合成するという試みがなされた。その内、1960年代に登場した[[モーグ・シンセサイザー]]を先達とする[[アナログシンセサイザー]]は、この方式を採用している。 |
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概念的には、物理的な音響モデルである[[ソース・フィルタモデル]]の類縁として説明されることもある<ref>Ed Doering, [http://cnx.org/content/m15456/latest/?collection=col10484/latest Subtractive Synthesis Concepts], ''{{仮リンク|Connexions|label=OpenStax-CNX|en|Connexions}}'', 2007年, 2014年8月1日閲覧.</ref>。ソース・フィルタモデルは音の発生メカニズムを[[声門]]など加振源と[[声道]]など[[共鳴]]器に分けて捉えるモデルであり、それぞれ減算方式での原音とフィルタに相当する。 |
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全体的な流れとしては、[[オシレータ]]と呼称される発振機能によって基準となる正弦波を作り出し、[[分周器]]によって同波の倍音を合成した後、この音声信号を、[[フィルタ回路|フィルター]]と呼ばれる音響を加工する機能に送り、[[倍音]]成分を削り取ることで目的の音に近づける。さらに [[アンプリファイアー]]に送って音量を制御する、という構成によって音響の合成がなされている。 |
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減算方式は他の音響合成方式と比較すると、新たな倍音成分は作り出せないが、大幅な加工にも[[音高]]を維持しやすく<ref group="補注">音響心理学的には、基音または一部の整数次倍音が残れば音高は維持される。<br />柏野牧夫, [http://www.kecl.ntt.co.jp/IllusionForum/a/missingFundamental/ja/ 錯聴 音の高さ ミッシング・ファンダメンタル], ''イリュージョンフォーラム'', NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 2014年8月8日閲覧.</ref>、人間にとって結果を想像しやすい特徴を持つ。またフィルタ回路で比較的簡単に実装でき、多様な[[音源]]と併用できる。実際上には多くのフィルタ回路はなだらかな特性を持つため、こうしたフィルタ回路の音色の造形能力も同様に大まかなものになる。 |
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== 減算方式の長所 == |
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音色の合成において、基本の波形をフィルターやアンプで加工するという構成(特にフィルターの制御によって音色の時間的な変化を作り出すという構成)は減算方式の基本概念であり、乗算方式等と比較して直感的な操作が容易であるとされている。 |
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== 減算方式 |
== 楽器としての減算方式 == |
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{{試聴 |
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通常、楽器の音は、持続部分の[[倍音]]成分の他、時間的変化を伴った[[倍音]]成分の存在が音色や音質の決定に影響を及ぼしているとされている。特に音の出だしは持続部分とは異なる[[倍音]]構成が存在する(不規則な倍音([[ノイズ]])を伴う例が多い)。減算方式でこういった構造を有する楽器音を模倣する為には、出だしの部分のみを別の系統で構築して混合させるといった工夫が必要となる。 |
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|filename = Galloping comedians ogg.ogg |
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|title = 道化師のギャロップ(カバレフスキー) |
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|description = {{仮リンク|Micromoog|en|Micromoog}}で演奏 |
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|filename2 = TB303.ogg |
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|title2 = 強いレゾナンス効果のあるシンセベース |
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|description2 = [[ReBirth RB-338]]で演奏([[ローランド・TB-303]]のシミュレーション)。後半は[[ディストーション (音響機器)|ディストーション]]効果オン |
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|filename3 = Sternzeit Vocoder.ogg |
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|title3 = ヴォコーダー |
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|description3 = |
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}} |
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減算方式を採用する典型的な[[シンセサイザー]]に、[[アナログシンセサイザー]]がある。アナログシンセサイザーは[[発振回路]]で基本[[波形]]を生成し、[[フィルタ回路]]で倍音成分を削り取り、[[増幅回路]]で音量調整して出力する仕組みを持つ。これら発振・フィルタ・増幅の各回路([[VCO]]・[[VCF]]・[[VCA]])は[[ADSR|エンベロープ・ジェネレータ]]や[[LFO (電子楽器)|LFO]]といった回路からの[[変調]]信号によって時変制御されることで、より楽器らしい音色変化を作り出す。 |
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アナログシンセサイザーの発振回路は任意の[[音高]]の[[正弦波]]、[[三角波 (波形)|三角波]]、[[のこぎり波]]、[[矩形波]]、[[パルス波]]、また[[ホワイトノイズ]]のような波形を生成する。こうした波形はベルのような金属音を構成する非整数次倍音<ref>{{仮リンク|ペリー・クック|label=Perry R. Cook|en|Perry R. Cook}}, [http://soundlab.cs.princeton.edu/learning/tutorials/SoundVoice/add4.htm Three Types of Spectra], ''Sound and Voice Synthesis and Analysis'', 2002年, 2014年8月16日閲覧.</ref>を含まないため、複数波形の[[アディティブ・シンセシス|加算合成]]や[[混合器 (ヘテロダイン)|リング変調]]が併用されることもある<ref>James J. Clark, [http://www.cim.mcgill.ca/~clark/nordmodularbook/nm_percussion.html#cymbal 5.3 Synthesis of Gongs, Bells, and Cymbals], ''Advanced Programming Techniques for Modular Synthesizers'', 2003年, 2014年8月17日閲覧.</ref>。 |
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* [[オシレータ]] / [[VCO]] |
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{| class="wikitable" |
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* [[フィルタ回路|フィルター]] / [[VCF]] |
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|+ アナログシンセサイザーによく用いられる波形 |
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* [[アンプ]] / [[VCA]] |
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! 名称 !! [[正弦波]] !! [[三角波 (波形)|三角波]] !! [[のこぎり波]] !! [[矩形波]] !! [[パルス波]] !! [[ホワイトノイズ]] |
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* [[ADSR]] |
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|- |
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! 含む倍音 |
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| [[基音]]のみ || 奇数次 || 奇・偶数次 || 奇数次 || 奇・偶数次 || [[噪音]](基音なし) |
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|- |
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! 振幅分布(''n''次倍音) |
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| - || 1/''n''² || 1/''n'' || 1/''n'' || sin(π''nd'')/''n'', (''d''=[[デューティ比]])<ref>[http://www.orixrentec.jp/cgi/tmsite/knowledge/know_square.html 計測に関する知識, 方形波の性質と測定上の扱い], ''測定器玉手箱'', [[オリックス (企業)|オリックス・レンテック]], 2014年8月2日閲覧.</ref> || 確率的に一様 |
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|} |
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アナログシンセサイザーのフィルタには、[[ローパスフィルタ]]や[[ハイパスフィルタ]]、[[バンドパスフィルタ]]や[[バンドストップフィルタ|ノッチフィルタ]]が用いられる。これらフィルタは[[遮断周波数]]が可変で、[[Q値]]を上げることで遮断周波数付近を任意量[[共振]]([[レゾナンス]])させることができる。レゾナンスと遮断周波数の変調を伴わせることで、独特のスイープ音が生み出される(音声サンプルの例を参照)。 |
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より特殊なタイプのシンセサイザーには、櫛形の[[コムフィルタ]]や、人間の[[声道]]共鳴([[調音]])の特性を模した[[フォルマント]]フィルタ([[母音|Vowel]]フィルタ)が用いられることもある。帯域別の並列バンドパスフィルタ([[フィルタバンク]])を用いたものに[[ヴォコーダー]]があり、ヴォコーダーは変調用のボーカル[[マイクロフォン|マイク]]等音声を解析用フィルタバンクに通して[[スペクトル]]情報を取り出し、これをシンセサイザー等音声の通る合成用フィルタバンクの増幅制御に用いることで、フォルマントや[[摩擦音]]変化を反映した減算合成を行う<ref>Mark Ballora, [http://www.personal.psu.edu/meb26/INART55/vocoder.html Speech Synthesis: The Voder and the Vocoder], ''INART 55 History of Electroacoustic Music'', 2014年8月6日閲覧.</ref>。 |
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== 利用の歴史 == |
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減算方式は古くは[[1930年代]]の{{仮リンク|トラウトニウム|en|Trautonium}}<ref>Mark Ballora, [http://www.personal.psu.edu/meb26/INART55/trautonium.html The Trautonium], ''INART 55 History of Electroacoustic Music'', 2014年7月27日閲覧.</ref>やハモンド・[[ノバコード]]<ref>[http://scienceservice.si.edu/pages/088006.htm NEW NOVACHORD], ''[[国立アメリカ歴史博物館]]ウェブサイト'', {{仮リンク|スミソニアン協会|en|Smithsonian Institution}}, 2014年8月3日閲覧.</ref>に採用された。トラウトニウムは1930年に[[ベルリン芸術大学]]の{{仮リンク|フリードリヒ・トラウトバイン|de|Friedrich Trautwein}}によって発明され、フォルマントを模した複数のフィルタを備えており、1932年に市販された。ノバコードは1939年に発売され、フィルタによる5つの帯域のミックスとブライトネスの調整、キーボード・トラッキング<ref group="補注">キーボード・トラッキングとは、鍵盤の音高を制御に用いること。ここでは音高に応じてフィルタの遮断周波数などを変動させる機能を指す。</ref>を備えていた。いずれもいくつかの[[クラシック音楽]]や映画音楽に用いられたが、商業的には成功せず、3~4年で販売期間を終了した<ref>[http://help.apple.com/logicpro/mac/9.1.6/jp/logicpro/instruments/chapter_A_section_5.html 付録:シンセサイザーの基礎, シンセサイザーの小史], ''Logic Pro 9 音源'', [[アップル インコーポレイテッド|アップル]], 2014年8月3日閲覧.</ref><ref>Steve Howell, Dan Wilson, [http://www.novachord.co.uk/ novachord.co.uk], Hollow Sun, 2014年8月3日閲覧.</ref><ref>Phil Cirocco, [http://www.discretesynthesizers.com/nova/intro.htm Novachord Restoration Project], [http://www.discretesynthesizers.com/nova/sightings.htm Hammond Novachord Sightings], Cirocco Modular Synthesizers, 2014年8月3日閲覧.</ref>。 |
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同時期の1930年代に[[ヴォコーダー]]が音声通信用に発明され、[[1940年代]]には{{仮リンク|ベルナー・マイヤー=エプラー|en|Werner Meyer-Eppler}}の提案によって[[電子音楽]]への応用が模索され始めた<ref>[http://help.apple.com/logicpro/mac/9.1.6/jp/logicpro/instruments/chapter_10_section_10.html ボコーダーの小史], ''Logic Pro 9 音源'', [[アップル インコーポレイテッド|アップル]], 2014年8月17日閲覧.</ref>が、実践的な利用は1969年に{{仮リンク|ブルース・ハーク|en|Bruce Haack}}が自作のヴォコーダーFaradを用いた『{{仮リンク|エレクトリック・ルシファー|en|The Electric Lucifer}}』が嚆矢とされる<ref name="diaz 2009">Joe Diaz, [http://ocw.mit.edu/courses/music-and-theater-arts/21m-380-music-and-technology-contemporary-history-and-aesthetics-fall-2009/projects/MIT21M_380F09_proj_mtech_3.pdf The Fate of Auto-Tune], 2009年.</ref><ref>The Crayon Incident, Tom McClean, [http://www.icrates.org/the-history-of-the-vocoder-from-spy-agent-to-lead-singer/ The History of the Vocoder: From Spy Agent to Lead Singer], ''The iCrates Magazine'', iCrates, 2012年3月21日, 2014年8月22日閲覧.</ref>。音楽用ヴォコーダーは奏でる楽器というより声を楽音に乗せる装置であり、非常に高価であったが、1978年には鍵盤・音源・マイクロフォンを一体化し演奏可能なヴォコーダーの{{仮リンク|コルグ・VC-10|en|Korg VC-10}}が登場し、15万5千円の低価格<ref group="補注">同年1978年発売の[[ゼンハイザー]]・VSM201は16,000[[ドイツマルク]](当時の為替レートで約160万円)であった。<br />Karlheinz Fischer, [http://www.radiomuseum.org/r/sennheiser_vocoder_vsm201vsm_20.html Vocoder VSM201 Misc Sennheiser Electronic Labor W; Wennebost], Radiomuseum.org, 2014年8月17日閲覧.</ref>で発売されるなど手の届くものになってゆく<ref>[http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/Museum/VC-10/ SQ-10/VC-10], ''コルグ・ミュージアム'', [[コルグ]], 2014年8月17日閲覧.</ref>。 |
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[[1960年代|1960]]~[[1970年代]]には[[半導体素子|ソリッドステート]]・電圧制御式の[[VCO]]・[[VCF]]・[[VCA]]を用いた[[アナログシンセサイザー]]が[[モーグ・シンセサイザー|モーグ]]、{{仮リンク|ブックラ|en|Buchla Electronic Musical Instruments}}、[[アープ (電子楽器メーカー)|アープ]]などから登場した<ref>Mark Ballora, [http://www.personal.psu.edu/meb26/INART55/synthesizer.html The Voltage Controlled Modular Synthesizer], ''INART 55 History of Electroacoustic Music'', 2014年7月27日閲覧.</ref>。[[ウェンディ・カルロス|ウォルター・カルロス]]の『{{仮リンク|スイッチト・オン・バッハ|en|Switched-On Bach}}』(1968年)や[[冨田勲]]の『[[月の光 (冨田勲のアルバム)|月の光]]』(1974年)といったクラシックの翻案作品に用いられて世に認知され、[[エマーソン・レイク・アンド・パーマー|ELP]]の[[キース・エマーソン]]らによって[[ロック (音楽)|ロック・ミュージック]]にも取り入れられた。1995年には[[クラビア (楽器メーカー)|クラビア]]・{{仮リンク|Nord Lead|en|Nord Lead}}によって[[デジタル信号処理]]でアナログシンセサイザーを再現する[[バーチャルアナログ音源]]が登場した<ref>Jussi Pekonen, Vesa Välimäki, [http://legacy.spa.aalto.fi/u/jpekonen/Papers/fa2011/ The Brief History of Virtual Analog Synthesis], ''Proceedings of the 6th Forum Acusticum'', pp. 461-466, European Acoustics Association, 2011.</ref>。 |
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1970~[[1980年代]]以降は[[デジタルシンセサイザー]]の分野が発展し、減算方式は音色加工機能の1つとして応用された。その多くはアナログシンセサイザーのVCFを踏襲したものである。応用例には[[RMIエレクトラピアノ|RMI]] Harmonic Synthesizer(1974年)のデジタル加算方式や、{{仮リンク|E-mu Emulator|en|E-mu Emulator}}(1981年)などの[[サンプラー]]、[[コモドール64]](1982年)の[[SID音源]]、[[コルグ]]・DW-6000(1984年)の[[D.W.G.S.音源]]、[[GSフォーマット|GS]]・[[XGフォーマット|XG]]・[[General MIDI|GM2]]規格の[[MIDI]]音源がある。[[撥弦楽器]]や[[打楽器]]の[[物理モデル音源|物理モデリング]]の一種である{{仮リンク|Karplus–Strongアルゴリズム|en|Karplus–Strong string synthesis}}も減算方式の応用とみなされることがある。 |
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ファイル:Volkstrautonium MIM.jpg|市販版トラウトニウムのVolkstrautonium(1933~1934年、{{仮リンク|ベルリン楽器博物館|en|Berlin Musical Instrument Museum}}) |
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ファイル:Novachord frontS.jpg|ハモンド・ノバコード(1939年、Hollow Sun修復) |
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ファイル:1st commercial Moog synthesizer (1964, commissioned by the Alwin Nikolai Dance Theater of NY) @ Stearns Collection (Stearns 2035), University of Michigan.jpg|最初期の市販モーグ・シンセサイザー(1964年、[[ミシガン大学]]{{仮リンク|スターンズ・コレクション|en|Stearns Collection of Musical Instruments}}) |
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ファイル:Korg VC-10 Vocoder.jpg|コルグ・VC-10(1978年) |
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ファイル:E-mu Emulator II.jpg|E-mu Emulator II(1984年) |
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== 脚注 == |
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{{脚注ヘルプ}}<references /> |
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=== 補注 === |
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== 参考文献 == |
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* 江村伯夫, [http://mail.asj.gr.jp/qanda/answer/202.html Q and A (202), Q: シンセサイザはどんな音でも作れるのですか?], [[日本音響学会]], 2014年7月23日閲覧. |
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* [http://www2.yamaha.co.jp/u/naruhodo/18synthesizer/synthesizer2.html 第二回 アナログ・シンセサイザーの音の原理], ''鳴るほど♪楽器解体全書'', [[ヤマハ]], 2014年7月23日閲覧. |
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* [http://help.apple.com/logicpro/mac/9.1.6/jp/logicpro/instruments/chapter_A_section_3.html 付録:シンセサイザーの基礎, 減算合成の仕組み], ''Logic Pro 9 音源'', [[アップル インコーポレイテッド|アップル]], 2014年7月23日閲覧. |
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* Jono Buchanan, [http://jp.residentadvisor.net/feature.aspx?1395 Subtractive synths explained], ''[[Resident Advisor]]'' 日本語版, Resident Advisor, 2011年6月29日. |
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* Martin Russ, [http://www.eetimes.com/document.asp?doc_id=1279181 Making sounds with analogue electronics - Part 2: Subtractive synthesis], ''{{仮リンク|EE Times|en|EE Times}}'', {{仮リンク|UBM plc|en|UBM plc}}, 2011年10月26日. |
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* Ed Doering, [http://cnx.org/content/col10484/latest/ Musical Signal Processing with LabVIEW -- Subtractive Synthesis], ''{{仮リンク|Connexions|label=OpenStax-CNX|en|Connexions}}'', 2007年, 2014年8月1日閲覧. |
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* [[アナログシンセサイザー]] / [[バーチャルアナログ音源]] |
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* [[アディティブ・シンセシス]] |
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* [[ソース・フィルタモデル]] |
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{{サウンド・シンセシス方式}} |
{{サウンド・シンセシス方式}} |
2014年11月20日 (木) 11:11時点における版
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/29/Spectrogram_of_violin.png/170px-Spectrogram_of_violin.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1e/Human_voice_spectrogram.jpg/170px-Human_voice_spectrogram.jpg)
減算方式(げんざんほうしき)または減算合成(げんざんごうせい、英: subtractive synthesis)は、倍音を含んだ原音から任意の倍音成分を引くことで新たな音色を作り出す音響合成の方式である。
フーリエの定理によれば、任意の周期関数は正弦波の級数で表せる(フーリエ級数)。これは音楽の分野では任意の音色が基音と倍音で成り立つこととも換言できる。この理論を音響合成に応用すれば、どんな音色もその倍音構成と同様の周波数・位相・振幅の正弦波を加算してゆけば近似できる(加算方式)[1]。また逆に、倍音を豊富に含む原音を用意し、そこから倍音を取り除くことで目的の音色に近似させることもでき、これが減算方式と呼ばれる。減算方式では一般的に、原音には電子的な周期音やノイズが用いられ、「減算」には任意のフィルタ回路が用いられる。
概念的には、物理的な音響モデルであるソース・フィルタモデルの類縁として説明されることもある[2]。ソース・フィルタモデルは音の発生メカニズムを声門など加振源と声道など共鳴器に分けて捉えるモデルであり、それぞれ減算方式での原音とフィルタに相当する。
減算方式は他の音響合成方式と比較すると、新たな倍音成分は作り出せないが、大幅な加工にも音高を維持しやすく[補注 1]、人間にとって結果を想像しやすい特徴を持つ。またフィルタ回路で比較的簡単に実装でき、多様な音源と併用できる。実際上には多くのフィルタ回路はなだらかな特性を持つため、こうしたフィルタ回路の音色の造形能力も同様に大まかなものになる。
楽器としての減算方式
減算方式を採用する典型的なシンセサイザーに、アナログシンセサイザーがある。アナログシンセサイザーは発振回路で基本波形を生成し、フィルタ回路で倍音成分を削り取り、増幅回路で音量調整して出力する仕組みを持つ。これら発振・フィルタ・増幅の各回路(VCO・VCF・VCA)はエンベロープ・ジェネレータやLFOといった回路からの変調信号によって時変制御されることで、より楽器らしい音色変化を作り出す。
アナログシンセサイザーの発振回路は任意の音高の正弦波、三角波、のこぎり波、矩形波、パルス波、またホワイトノイズのような波形を生成する。こうした波形はベルのような金属音を構成する非整数次倍音[3]を含まないため、複数波形の加算合成やリング変調が併用されることもある[4]。
名称 | 正弦波 | 三角波 | のこぎり波 | 矩形波 | パルス波 | ホワイトノイズ |
---|---|---|---|---|---|---|
含む倍音 | 基音のみ | 奇数次 | 奇・偶数次 | 奇数次 | 奇・偶数次 | 噪音(基音なし) |
振幅分布(n次倍音) | - | 1/n² | 1/n | 1/n | sin(πnd)/n, (d=デューティ比)[5] | 確率的に一様 |
アナログシンセサイザーのフィルタには、ローパスフィルタやハイパスフィルタ、バンドパスフィルタやノッチフィルタが用いられる。これらフィルタは遮断周波数が可変で、Q値を上げることで遮断周波数付近を任意量共振(レゾナンス)させることができる。レゾナンスと遮断周波数の変調を伴わせることで、独特のスイープ音が生み出される(音声サンプルの例を参照)。
より特殊なタイプのシンセサイザーには、櫛形のコムフィルタや、人間の声道共鳴(調音)の特性を模したフォルマントフィルタ(Vowelフィルタ)が用いられることもある。帯域別の並列バンドパスフィルタ(フィルタバンク)を用いたものにヴォコーダーがあり、ヴォコーダーは変調用のボーカルマイク等音声を解析用フィルタバンクに通してスペクトル情報を取り出し、これをシンセサイザー等音声の通る合成用フィルタバンクの増幅制御に用いることで、フォルマントや摩擦音変化を反映した減算合成を行う[6]。
利用の歴史
減算方式は古くは1930年代のトラウトニウム[7]やハモンド・ノバコード[8]に採用された。トラウトニウムは1930年にベルリン芸術大学のフリードリヒ・トラウトバインによって発明され、フォルマントを模した複数のフィルタを備えており、1932年に市販された。ノバコードは1939年に発売され、フィルタによる5つの帯域のミックスとブライトネスの調整、キーボード・トラッキング[補注 2]を備えていた。いずれもいくつかのクラシック音楽や映画音楽に用いられたが、商業的には成功せず、3~4年で販売期間を終了した[9][10][11]。
同時期の1930年代にヴォコーダーが音声通信用に発明され、1940年代にはベルナー・マイヤー=エプラーの提案によって電子音楽への応用が模索され始めた[12]が、実践的な利用は1969年にブルース・ハークが自作のヴォコーダーFaradを用いた『エレクトリック・ルシファー』が嚆矢とされる[13][14]。音楽用ヴォコーダーは奏でる楽器というより声を楽音に乗せる装置であり、非常に高価であったが、1978年には鍵盤・音源・マイクロフォンを一体化し演奏可能なヴォコーダーのコルグ・VC-10が登場し、15万5千円の低価格[補注 3]で発売されるなど手の届くものになってゆく[15]。
1960~1970年代にはソリッドステート・電圧制御式のVCO・VCF・VCAを用いたアナログシンセサイザーがモーグ、ブックラ、アープなどから登場した[16]。ウォルター・カルロスの『スイッチト・オン・バッハ』(1968年)や冨田勲の『月の光』(1974年)といったクラシックの翻案作品に用いられて世に認知され、ELPのキース・エマーソンらによってロック・ミュージックにも取り入れられた。1995年にはクラビア・Nord Leadによってデジタル信号処理でアナログシンセサイザーを再現するバーチャルアナログ音源が登場した[17]。
1970~1980年代以降はデジタルシンセサイザーの分野が発展し、減算方式は音色加工機能の1つとして応用された。その多くはアナログシンセサイザーのVCFを踏襲したものである。応用例にはRMI Harmonic Synthesizer(1974年)のデジタル加算方式や、E-mu Emulator(1981年)などのサンプラー、コモドール64(1982年)のSID音源、コルグ・DW-6000(1984年)のD.W.G.S.音源、GS・XG・GM2規格のMIDI音源がある。撥弦楽器や打楽器の物理モデリングの一種であるKarplus–Strongアルゴリズムも減算方式の応用とみなされることがある。
-
市販版トラウトニウムのVolkstrautonium(1933~1934年、ベルリン楽器博物館)
-
ハモンド・ノバコード(1939年、Hollow Sun修復)
-
最初期の市販モーグ・シンセサイザー(1964年、ミシガン大学スターンズ・コレクション)
-
コルグ・VC-10(1978年)
-
E-mu Emulator II(1984年)
脚注
- ^ Julius O. Smith III, Additive Synthesis, Physical Audio Signal Processing, W3K Publishing, 2010年.
- ^ Ed Doering, Subtractive Synthesis Concepts, OpenStax-CNX, 2007年, 2014年8月1日閲覧.
- ^ Perry R. Cook, Three Types of Spectra, Sound and Voice Synthesis and Analysis, 2002年, 2014年8月16日閲覧.
- ^ James J. Clark, 5.3 Synthesis of Gongs, Bells, and Cymbals, Advanced Programming Techniques for Modular Synthesizers, 2003年, 2014年8月17日閲覧.
- ^ 計測に関する知識, 方形波の性質と測定上の扱い, 測定器玉手箱, オリックス・レンテック, 2014年8月2日閲覧.
- ^ Mark Ballora, Speech Synthesis: The Voder and the Vocoder, INART 55 History of Electroacoustic Music, 2014年8月6日閲覧.
- ^ Mark Ballora, The Trautonium, INART 55 History of Electroacoustic Music, 2014年7月27日閲覧.
- ^ NEW NOVACHORD, 国立アメリカ歴史博物館ウェブサイト, スミソニアン協会, 2014年8月3日閲覧.
- ^ 付録:シンセサイザーの基礎, シンセサイザーの小史, Logic Pro 9 音源, アップル, 2014年8月3日閲覧.
- ^ Steve Howell, Dan Wilson, novachord.co.uk, Hollow Sun, 2014年8月3日閲覧.
- ^ Phil Cirocco, Novachord Restoration Project, Hammond Novachord Sightings, Cirocco Modular Synthesizers, 2014年8月3日閲覧.
- ^ ボコーダーの小史, Logic Pro 9 音源, アップル, 2014年8月17日閲覧.
- ^ Joe Diaz, The Fate of Auto-Tune, 2009年.
- ^ The Crayon Incident, Tom McClean, The History of the Vocoder: From Spy Agent to Lead Singer, The iCrates Magazine, iCrates, 2012年3月21日, 2014年8月22日閲覧.
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- ^ Mark Ballora, The Voltage Controlled Modular Synthesizer, INART 55 History of Electroacoustic Music, 2014年7月27日閲覧.
- ^ Jussi Pekonen, Vesa Välimäki, The Brief History of Virtual Analog Synthesis, Proceedings of the 6th Forum Acusticum, pp. 461-466, European Acoustics Association, 2011.
補注
- ^ 音響心理学的には、基音または一部の整数次倍音が残れば音高は維持される。
柏野牧夫, 錯聴 音の高さ ミッシング・ファンダメンタル, イリュージョンフォーラム, NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 2014年8月8日閲覧. - ^ キーボード・トラッキングとは、鍵盤の音高を制御に用いること。ここでは音高に応じてフィルタの遮断周波数などを変動させる機能を指す。
- ^ 同年1978年発売のゼンハイザー・VSM201は16,000ドイツマルク(当時の為替レートで約160万円)であった。
Karlheinz Fischer, Vocoder VSM201 Misc Sennheiser Electronic Labor W; Wennebost, Radiomuseum.org, 2014年8月17日閲覧.
参考文献
- 江村伯夫, Q and A (202), Q: シンセサイザはどんな音でも作れるのですか?, 日本音響学会, 2014年7月23日閲覧.
- 第二回 アナログ・シンセサイザーの音の原理, 鳴るほど♪楽器解体全書, ヤマハ, 2014年7月23日閲覧.
- 付録:シンセサイザーの基礎, 減算合成の仕組み, Logic Pro 9 音源, アップル, 2014年7月23日閲覧.
- Jono Buchanan, Subtractive synths explained, Resident Advisor 日本語版, Resident Advisor, 2011年6月29日.
- Martin Russ, Making sounds with analogue electronics - Part 2: Subtractive synthesis, EE Times, UBM plc, 2011年10月26日.
- Ed Doering, Musical Signal Processing with LabVIEW -- Subtractive Synthesis, OpenStax-CNX, 2007年, 2014年8月1日閲覧.