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声門

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声門
声門の模式図(C=披裂軟骨、D=声帯)
声門の様々な状態
英語 Glottis
器官 呼吸器
MeSH Glottis
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声門(せいもん、: glottis)とは、左右の声帯とそれらの間の空間(声門裂)とをまとめていう[1]

構造

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声門裂

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声門裂せいもんれつ: rima glottidis)は左右の声帯ヒダによってつくられる間隙(空間)である[2]。間隙の幅は変化する(開閉する)。声門裂を上あるいは下から見たときの総面積を声門面積という。

機能

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声門裂を空気が流れることで声帯が振動し、が産み出される。その振動音の音質を「」と呼ぶ。

声帯振動は、母音および有声子音にとって不可欠な要素である。左右の声帯が離れていれば、その間を空気が流れても振動が起きることはない。無声子音の産出時の状態がこれである。

声門だけが関わって産出される音声を「声門音」という。英語には h で綴られる無声声門摩擦音があるほか、多くの英語方言では音素 /t/ (方言によっては /k//p/ も)の異音として声門閉鎖(左右の声帯を互いに押し付けることでできる)が用いられる。いくつかの言語では声門閉鎖音を音素としてもつ。

オーストラリアの楽器ディジュリドゥーの熟達した奏者たちは、楽器のもつ音色の全域を出すために声門の開き具合を制限している[3]

声門は、バルサルバ効果においても重要な役割を果たす。

運動

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声門面積

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声門裂全体の大きさ(面積)を声門面積: Glottal Area)という。有声音の発生時には対になる声帯が離反・接近を繰り返すことで声門面積が拡大・縮小を繰り返す。

声門後部間隙

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声門後部間隙 (: Posterior Glottal Chink; PGC) は声門開閉時の部分的未閉鎖である[4]。生理[5]・病理(例: 声門閉鎖不全)ともに見られる。

前後位相差

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前後位相差(: Longitudinal phase difference[6]: Anterior-Posterior phase difference[7])は声門開閉位相の位置による位相差である[8]。後部が先行して開きながら遅れて閉じるタイプをジッパー様運動(: zipper-type glottal opening)という[9][10]

ほぼ全ての若年女性ではジッパー様運動がみられ、これは男性・壮年女性では稀である[11]

声門体積速度

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声門体積速度せいもんたいせきそくど: glottal volume velocity)は声門を通過する気流の体積速度である[12][13]

声門体積速度 は声門における気流の体積流量である。体積速度の一種であるため、単位は立方メートル毎秒 である[14]声道内で平面進行波として近似できる低い周波数において、声門体積速度は声門面積と声門での粒子速度との積になる[15]

声門体積速度 は声門の開閉状態や粒子速度に応じて変化する。開閉状態や粒子速度は短時間で変化するため、呼吸発声の理解において の時間変化に着目する場合が多い。時間の関数であることを強調あるいは区別するため、声門体積速度の時間変化波形は声門音源波形せいもんおんげんはけい: waveform of glottal sound source と呼ばれる[16]

声門音源波形は様々な別名で呼ばれる。以下はその一例である:

  • 声帯音源波形せいたいおんげんはけい: glottal source waveform[17]
  • 喉頭音源波形こうとうおんげんはけい: waveform of laryngeal sound source[18]
  • 喉頭原音こうとうげんおん: glottal sound[19]
  • 声門体積流せいもんたいせきりゅう: glottal volume flow[20][21]

病理

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声門閉鎖不全

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声門閉鎖不全は声門が正常に閉鎖せず左右の声帯に隙間が出来る症状である[22]

画像

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脚注

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  1. ^ Glottis - eMedicine Dictionary
  2. ^ 喉頭前庭ヒダの下方には, 左右の声帯ヒダによってつくられる声門裂 rima glottidis という, やや狭い三角形の裂隙がみえるグレイ解剖学 第2版. p.1005.
  3. ^ Tarnopolsky, Alex and Fletcher, Neville and Hollenberg, Lloyd and Lange, Benjamin and Smith, John and Wolfe, Joe (2005). “The vocal tract and the sound of a didgeridoo”. Nature (Nature Publishing Group) 436 (7047): 39. doi:10.1038/43639a. https://doi.org/10.1038/43639a. 
  4. ^ 声帯突起の部位が閉鎖せず声門軟骨間部から声門膜間部にかけて後方を底とした三角形の声門閉鎖不全がみられるものとに大別される. 後者は, Posterior Glottal Chink (PGC) と呼ばれ(柴.溝尻.野崎(1995))
  5. ^ Observation of the glottis during phonation has suggested that the presence of a posterior glottal opening that persists throughout a vibratory cycle is common for female speakers, but occurs much less frequently among male speakers (So¨dersten and Lindestad, 1990).Hanson, Helen M and Chuang, Erika S (1999). “Glottal characteristics of male speakers: Acoustic correlates and comparison with female data”. The Journal of the Acoustical Society of America (Acoustical Society of America) 106 (2): 1064-1077. doi:10.1121/1.427116. https://doi.org/10.1121/1.427116. 
  6. ^ 前後位相差 ... longitudinal phase difference(山内 2016).
  7. ^ anterior–posterior phase difference ... the mode of glottal opening in the anterior–posterior (A–P) direction(Murtola & Alku 2020, p. EL141)
  8. ^ (Murtola & Alku 2020)
  9. ^ ジッパー様運動と呼ばれる後方先行型開大期前後位相差と前方先行型閉小期前後位相差の組み合わせ(山内 2016, p. 39)
  10. ^ vocal fold vibrations ... in the anterior–posterior direction (the so-called zipper-effect)(Murtola & Alku 2020, p. EL141)
  11. ^ ジッパー様運動 ... が若年女性の特徴であった。 ... n=17 後方先行 100%(山内 2016, p. 39-40)
  12. ^ 声門体積速度 glottal volume velocity 声門における体積速度.(粕谷 1990, p. 346)
  13. ^ 声門を通過する気流の体積速度である声門体積速度(glottal volume velocity) Ug(t)音響音声学デモンストレーション”. Arai Laboratory. G100: 発声. 上智大学 理工学部 情報理工学科 荒井研究室. 2025年6月21日閲覧。
  14. ^ 体積速度 ν (m3/s)p.41 より引用。小山翔一「第 8 回 音響管・自由空間中の音波」『応用音響学』東京大学、2021年https://sp.ipc.i.u-tokyo.ac.jp/~koyama/teaching/appl_acoust_2021/appl_acoust_day2.pdf 
  15. ^ 声道内で平面進行波として近似できる低い周波数では,声道内のある位置での体積速度はその位置での声道断面積とそこでの粒子速度の積で表される.(粕谷 1990, p. 346)
  16. ^ 声門音源波形 waveform of glottal sound source 一般に声門体積速度の時間変化波形を言う.(粕谷 1990, p. 346)
  17. ^ "声帯音源波形 ... に起因するスペクトル概形 ... global spectral shape, which is dependent on the glottal source waveform"坂口, 諒 (2013). “歌唱音声のスペクトル形状の線形伸縮に影響する要因の検討”. 信学技報 113 (134): 9-14. https://ken.ieice.org/ken/paper/201307189BFL/. 
  18. ^ 喉頭音源波形 waveform of laryngeal sound source 声門音源波形 ... と同義で用いられる.(粕谷 1990, p. 346)
  19. ^ 喉頭原音 声門音源波形と同義で用いられる.(粕谷 1990, p. 346)
  20. ^ 声門体積流(声帯音源波形)p.6 より引用。高橋, 響子『音域が広い歌声の声帯音源波形と声道形状の推定に関する研究』(修士(情報科学)論文・先端科学研究科専攻)北陸先端科学技術大学院大学、2018年、1-40頁https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/bitstream/10119/15182/5/paper.pdf 
  21. ^ 声門体積流の時間波形 Ug ... Rosenberg による声門体積流の多項式モデル上江洲, 安史『音声生成における音源-フィルタ相互作用の影響に関する研究』(博士(芸術工学)論文)九州大学、2017年、1-107頁https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1807042/design0213.pdf 
  22. ^ 声門閉鎖不全:左右の声帯に隙間が出来る公益財団法人難病医学研究財団. 声帯溝症. 難病情報センター.

参考文献

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  • 柴裕子, 溝尻源太郎, 野崎智嗣「声帯結節の発声機能」『音声言語医学』第36巻第2号、日本音声言語医学会、1995年、184-191頁、doi:10.5112/jjlp.36.184 
  • 山内, 彰人『高速度デジタル撮像を用いた声帯振動の標準的評価法の開発とデータベースの作成』(博士(医学)論文) 東京大学、2016年。doi:10.15083/00075025CRID 1110564260221613696https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/49904 
  • 粕谷, 英樹 (1990). “音声言語医学領域の用語とその解説 (I)”. 音声言語医学. 31 (3): 344–348. doi:10.5112/jjlp.31.344.
  • Murtola, Tiina; Alku, Paavo (2020). “Indicators of anterior–posterior phase difference in glottal opening measured from natural production of vowels”. The Journal of the Acoustical Society of America. 148 (2): EL141 – EL146. doi:10.1121/10.0001722.

関連項目

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