「熱膨張率」の版間の差分

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なお、熱膨張率の異なる材料を組合せて使う場合、温度変化による熱膨張率の違いから、熱[[応力]]が生じる。この熱応力により、材料に[[クラック]]などが入って壊れることがあり、様々なものの[[故障]]原因となっている。
なお、熱膨張率の異なる材料を組合せて使う場合、温度変化による熱膨張率の違いから、熱[[応力]]が生じる。この熱応力により、材料に[[クラック]]などが入って壊れることがあり、様々なものの[[故障]]原因となっている。


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== 熱膨張率の詳細 ==
== 熱膨張率の詳細 ==
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ここで <math>l_0</math> は0℃における物体の長さである。
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と表せる。すなわち体積膨張率は密度の温度による変化率によっても表せる。
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== 関連項目 ==
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2012年5月9日 (水) 06:29時点における版

熱膨張率(ねつぼうちょうりつ、: coefficient of thermal expansion[1]CTE)は、温度の上昇によって物体長さ体積が膨張する割合を、1K(℃)当たりで示したものである。熱膨張係数(ねつぼうちょうけいすう)[1]ともいう。単位は 1/K である。

概要

列車の走行時にガタンゴトンと音がするのは、分岐器以外であれば、の線膨張によるレールの歪みを防ぐ為にレール同士のつなぎ目に設けられた隙間に起因する。そのためこの音は気温の低い時の方がより大きくなる。

温度の上昇に対応して長さが変化する割合を線膨張率(線膨張係数)といい、体積の変化する割合を体積膨張率という。線膨張率をα、体積膨張率をβとすると β=3α の関係がある。

⊿L=α・L・⊿T(⊿L:伸び、L:長さ、⊿T:温度上昇)

原子間の結合の強さで決まる物性値なので、材料の融点と相関がある。

ある温度で体積変化を伴う相転移を起こす性質を利用して、使用温度領域で、線膨張が小さくなっている合金(アンバーまたはインバー合金)もある。

なお、熱膨張率の異なる材料を組合せて使う場合、温度変化による熱膨張率の違いから、熱応力が生じる。この熱応力により、材料にクラックなどが入って壊れることがあり、様々なものの故障原因となっている。

プルトニウムタングステン酸ジルコニウムなどの一部の物質は、温度の上昇により収縮するという負膨張を起こす。身近なところでは、が0℃から3.98℃までの範囲で負膨張を起こす。近年では、理化学研究所2005年に、マンガン窒化物をベースとした負膨張率の高い新素材の開発に成功している[2]

熱膨張率の詳細

固体の線膨張率

固体の線膨張率 は、単位長さあたりにおける、温度による長さの変化率として定義されるので、物体の長さを セルシウス温度とすると、

と定義される。そして、固体の線膨張率はごく小さく、また、温度によらずほぼ一定とみなせるので、 ℃における物体の長さ は次のように表せる。

ここで は0℃における物体の長さである。

固体の線膨張率と体積膨張率の関係

固体の体積膨張率 は、物体の体積 を用いて次のように定義することができる。

ここで を用いて

と表されるので、

となる。つまり、

である。

固体・液体の体積膨張率

日常的な温度範囲では固体・液体の体積膨張率はごく小さく、温度によらずほぼ一定とみなせるため、固体・液体の体積 は次のように表せる。

ここで は0℃における物体の体積である。

気体の体積膨張率

気体の場合は体積ではなく密度でその状態を表すことが多い。ここで気体の質量を とすると、密度 は、

となる。よって は、

と表せる。すなわち体積膨張率は密度の温度による変化率によっても表せる。

主な物質の線膨張率

(×10−6/K)

物質 線膨張率
水銀 60
アルミニウム 23
黄銅 19
コンクリート 12
12.1(S30C:11.5)
無水ケイ酸 0.5
ダイヤモンド 1.1
パイレックスガラス 3.2
タングステン 4.3
炭化ケイ素 (SiC) 6.6
クロム 6.8
粘土 8
硬質ガラス 8.5
アランダム 8.7
白金 9
煉瓦 9.5
酸化マグネシウム 9.7
アンチモン 12
炭素鋼 10.8
ステンレス鋼 (SUS410) 10.4
ステンレス鋼 (SUS304) 17.3
コバルト 12.4
ニッケル 12.8
ビスマス 13.3
14.3
16.8
フッ化カルシウム 19.5
ケイ素 2.4
マグネシウム 25.4
亜鉛 30.2
スズ 26.9
カドミウム 28.8
29.1
塩化ナトリウム 40.5
(0℃) 50.7
硫黄 64
ナトリウム 75
カリウム 83
パラフィン 110
ゴム 110

主な物質の体積膨張率

(×10−4/K)

物質 体積膨張率 備考
水銀 1.8
2.1(at20℃) 4℃で膨張率0、4℃以下では膨張率は負の値となる。

脚注

  1. ^ a b 文部省日本物理学会編『学術用語集 物理学編』培風館、1990年。ISBN 4-563-02195-4http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi 
  2. ^ 独立行政法人理化学研究所; 独立行政法人科学技術振興機構 (2005年12月13日). “温度が上がると縮む新物質を発見”. プレスリリース. 理化学研究所. 2012年5月7日閲覧。

関連項目