銀河英雄伝説の戦役
銀河英雄伝説の戦役(ぎんがえいゆうでんせつのせんえき)では、田中芳樹の小説『銀河英雄伝説』、それを原作としたアニメ(OVA、DNT)に登場する、架空の戦役及び戦闘について記述する(一部非戦闘の項目を含む)。
概要
[編集]本項は、『銀河英雄伝説』の本編及び外伝で執筆された「創作上のリアルタイム」に登場する戦役、及び独立した戦闘を、原則として時系列に沿って記述する(原作発表順、アニメ製作順は時系列順とそれぞれ異なる)。戦役の中に含まれると思われる戦闘も、特記すべき戦闘に関しては別項を設けて記述する。一部戦闘/軍事行動とは呼べない事件・政争・騒動なども、物語上重要な場面であれば項目として含む。
西暦時代
[編集]一三日間戦争
[編集]主に「飛翔篇」序章において、「地球衰亡の記録」と題して語られている熱核兵器戦。西暦2129年に地球統一政府(グローバル・ガバメント)が成立するまで90年にわたりつづいた動乱の時代の端緒となった[1]。「一三日戦争」とも[2]。
地球上の二大強国であった北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム、NC)と三大陸合州国(ユナイテッド・ステーツ・オブ・ユーラブリカ、USE)により生じた戦争で、熱核兵器を互いに投射しあって両国の大都市群を「放射能の井戸」に変えただけでなく、敵国の資源利用を阻止するために無関係だった弱小国にも熱核兵器攻撃をくわえた[1]。作中では、この出来事に由来して、多量の死の灰をもたらす熱核兵器による地表攻撃がタブーとなったとされる[2]。
この戦争により両国は滅亡したが、北方連合国家の滅亡後に北米大陸に割拠した教団国家群(オーダーネイション)は、精神的にも肉体的にも人々を疲弊させる結果を招いた[1]。2129年の地球統一政府誕生までつづいた戦乱によって世界の人口は約10億まで激減、食料生産力が甚大な損害をこうむったほか、宗教の支配力もいちじるしい低下を見せることとなった[1]。
シリウス戦役
[編集]「飛翔篇」序章において、「地球衰亡の記録」と題して語られている戦役。この戦役により、人類の政治的中枢だった地球は権力と武力を喪失し、作品本篇中の時代に到るまでに存在する意義と注目される価値の双方を失っていったとされる[1]。また、この戦役で両軍に使用された私掠船戦術は、銀河連邦時代の「宇宙海賊」の祖となったとされる[3]。
地球統一政府の成立後、人類は宇宙進出をすすめて超光速航行を実現し、恒星間移民が開始され植民星を増やしていった[1]。しかし200年あまりのうちに、地球統一政府宇宙軍(地球軍)の綱紀弛緩と、資源の枯渇した地球による植民星への収奪が問題となってゆく[1]。やがて植民星側が結束して地球に是正を要求すると、策謀を弄した地球側は反地球の急先鋒シリウス星系政府に地球に代わって人類社会を支配しようとする野心があると非難し、人類共通の公敵に仕立て上げて植民星の不満を抑圧しようとしたが、工作はむしろ諸植民星を反地球のあまりシリウスにつかせる結果となった[1]。西暦2689年、地球軍は口実をつけて先制攻撃におよび、諸植民星軍に大勝してシリウスの主星ロンドリーナを制圧したが、腐敗しきった地球軍では掠奪、着服、非戦闘員の殺害といった行為が多発した[1]。
さらに地球軍は、敗残兵狩りを名目にロンドリーナの天然資源が集まるラグラン市を包囲、内外の制止を押し切って行われた攻撃により殺戮、暴行、掠奪、破壊をほしいままにし、後に行った「再掃討」とあわせて死者125万人を生じさせた[1]。地球軍は事態を矮小化して発表したうえ、反地球過激派に責任を転嫁したが、この「ラグラン市事件」に巻き込まれた生存者の中から、のちに「ラグラン・グループ」と呼ばれる4人(カーレ・パルムグレン、ウインスロー・ケネス・タウンゼント、ジョリオ・フランクール、チャオ・ユイルン)が現れる[1]。
彼らラグラン・グループは2691年に集結して以降、反地球勢力の統合、低開発惑星の飛躍的な経済発展、実戦組織「黒旗軍(ブラック・フラッグ・フォース、BFF)」の統合、反地球陣営の権力掌握と謀略工作などに従事した[1]。黒旗軍は初期には地球軍に敗北することもあったものの、ヴェガ星域会戦では地球軍の非凡な用兵能力を持つコリンズ、シャトルフ、ヴィネッティの三提督が協調と連絡を欠いた隙を突いて各個撃破により勝利を収めた[1]。さらに三提督の不和を利用した策略によって彼らがことごとく排除されたため、以降の地球軍は有能な指揮官が欠如し、第二次ヴェガ会戦では6万隻の地球軍が8000隻の黒旗軍に敗れる醜態を示した[1]。地球は資源供給を絶たれて孤立し、2704年、殺戮と破壊を伴う黒旗軍の全面攻撃によって地球の権力と権威は消滅し、人類社会におけるシリウスとラグラン・グループの覇権が確立された[1]。
しかしラグラン・グループは、「シリウス戦役」終結の2年後、反地球陣営の指導者役を担ったパルムグレンが病死したことをきっかけに内部分裂をおこし、彼らが担った新秩序は2707年のタウンゼント暗殺をもって崩壊した[1]。以後には黒旗軍の暴発と分裂がつづいた[1]。途絶した「脱地球的な宇宙秩序」の再構築には90年を要し、西暦2801年になって銀河連邦が成立したことで宇宙暦がはじまる[1]。
銀河連邦時代
[編集]宇宙海賊の掃討
[編集]「黎明篇」序章において、物語の前史として語られる銀河連邦時代の出来事。
宇宙暦初頭当時の宇宙海賊は、辺境航路を脅かして物資補給の遅滞や安全保障費用の上積みを引き起こしており、銀河連邦は統治能力への不信や辺境開発意欲の低下を防ぐため対策を必要とした[3]。銀河連邦は宇宙暦106年よりその掃討に着手し、M・シュフラン、C・ウッドといった諸提督の活躍によって2年後にはほぼ目的を達成した[3]。こうした宇宙海賊は、当時の銀河連邦にあって間断なく生じる「社会上の疾患」のひとつではあったものの、適切に対処すれば死因になるようなものではなかった[3]。やがて銀河連邦が消極と退嬰の時代に入った宇宙暦200年代後半には、中尉当時のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが、「宇宙海賊たちのメイン・ストリート」と呼ばれていたベテルギウス方面において「ウッド提督の再来」と呼ばれる辣腕で宇宙海賊を掃滅したうえ容赦なく処断し、閉塞した時代にあって英雄として迎えられるに到る[3]。
銀河帝国時代(自由惑星同盟との接触以前)
[編集]皇帝ルドルフによる弾圧
[編集]「黎明篇」序章において、物語の前史として語られる銀河帝国成立直後の出来事。
宇宙暦310年に銀河帝国の樹立を宣言して戴冠、宇宙暦を廃して帝国暦に改めたルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは、社会の綱紀粛正・弊風一掃を達成したが、強力な統制と管理を理想とする統治が、反対勢力に対する大規模な弾圧を生んだ[3]。帝国暦9年、社会的弱者の徹底排除を望んで劣悪遺伝子排除法を発布しようとしたルドルフは、その極端な内容に鼻白んだ民衆と彼らの代表者としての議会共和派の抵抗に遭遇し、即座に議会を永久解散したうえ反対者に対する徹底的な弾圧を行った[3]。社会秩序維持局が設置されて政治犯・思想犯を法に拠ることなく拘禁・懲罰し、犠牲者の数は40億人に達した[3]。
皇帝ルドルフ死後の叛乱
[編集]「黎明篇」序章において、物語の前史として語られる銀河帝国初期の出来事。
帝国暦42年のルドルフ死去をきっかけに、共和主義者が帝国各地で叛乱を続発させた[3]。しかし帝国は、ルドルフの指導力と個性を失ったとしても貴族、軍隊、官僚が強固な三位一体体制を作り上げており、叛乱軍は第2代皇帝ジギスムント1世の皇父(ルドルフの娘婿)である帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの冷静沈着な指導により鎮圧された[3]。殺害された叛乱参加者は5億人あまり、その家族で市民権を剥奪され農奴階級に落とされたものは100億人以上に達した[3]。
長征一万光年
[編集]「黎明篇」序章において、物語の前史として語られる銀河帝国初期の出来事。自由惑星同盟建国の端緒として記述されている[3]。
帝国暦164年、アルタイル第七惑星で奴隷労働を強いられていた共和主義者たち40万人が、青年アーレ・ハイネセンの発案になるドライアイスの巨大な塊を船体とした宇宙船「イオン・ファゼカス号」で脱出に成功すると、官憲の執拗な捜索をかわして別の惑星に到達、恒星間宇宙船80隻を建造して銀河系の深奥部へと逃れた[3]。のちの歴史家に「長征一万光年」と称された半世紀以上の旅ののち彼らは安定した恒星群を発見し、帝国暦218年(宇宙暦527年)、バーラト星系第四惑星を根拠に自由惑星同盟の成立を宣言し、宇宙暦を復活させる[3]。苛酷な旅の途上で指導者ハイネセンも事故死しており、初代の国民は16万人余であった[3]。
エーリッヒ2世による宮廷革命
[編集]銀河帝国の歴史上の事件。王朝史上もっとも悪逆の名が高い皇帝であるアウグスト2世(流血帝)の統治を終わらせた事件として語られる、帝国暦253年(宇宙暦562年)に生じた皇族エーリッヒ・フォン・リンダーホーフ侯爵(のちの皇帝エーリッヒ2世)による宮廷革命[4][5]。
「史上最高の暴君」アウグスト2世が即位以来数百万の人々を殺戮するなか、従弟であるエーリッヒは禍が及ぶことを恐れて領地に戻っていたが、やがて近親者をほとんど殺しつくしたアウグスト2世から出頭を命じられた[4]。エーリッヒは死を覚悟して決起したが、彼の呼びかけを受けてローエングラム伯コンラート・ハインツなど[5]すでに皇帝を見限っていた三人の提督が参じ、戦意に欠けた討伐軍をトラーバッハ星域で撃破した[4]。この戦いにおける討伐軍は降伏者が戦死者の20倍に達し、「全軍降伏の観があった」とされる[4]。同時期にアウグスト2世は側近シャンバークによって殺害され、エーリッヒが皇帝に即位して帝国を再建することとなる[4]。
帝国と同盟の接触以降
[編集]ダゴン星域の会戦
[編集]ダゴン星域の会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦640年/帝国暦331年7月14日 - 22日 | |
場所:ダゴン星域外縁部 | |
結果:銀河帝国による討伐軍の完全敗北[3] | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ヘルベルト大公 ゴットリーブ・フォン・インゴルシュタット |
リン・パオ |
戦力 | |
艦艇5万2600隻 将兵440万8000人[6] |
将兵250万人(艦艇数記載なし)[6] |
損害 | |
戦死者403万9800人[6] | 戦死者16万人[6] |
銀河帝国と自由惑星同盟とのあいだの最初の戦い。帝国による大艦隊の派遣をうけた同盟は建国以来最大の危機を迎えた[6]が、帝国軍は同盟軍に完敗を喫し[3]、ゴールデンバウム朝帝国軍の歴史において「けっして黄金の文字で記されることはない」記録のひとつに挙げられる敗戦となった[7]。「ダゴンの殲滅戦」とも[8]。本伝「黎明篇」序章において両国の慢性的な交戦状態と同盟の国力膨張の端緒となる出来事として初めて語られ[3]、アスターテ会戦の描写でも故事として扱われる[8]。外伝「ダゴン星域会戦記」において詳細に描写された。
宇宙暦640年/帝国暦331年2月[6]、両軍が初めて艦艇どうしで接触したことにより、帝国は同盟の存在を認識するに至った[3]。帝国は同盟への討伐軍をおこし、当時の皇帝フリードリヒ3世の三男ヘルベルトを司令官とした大艦隊を派遣するが、司令官人事には帝位継承者としての箔付けの意味が強く、幕僚の半数もヘルベルトが選んだ軍事経験のない「サロン仲間」にすぎず、実質的にはゴッドリーブ・フォン・インゴルシュタット中将ら残る半数の幕僚によって指導されていた[6]。対する同盟では、リン・パオ中将を司令官、ユースフ・トパロウル中将を参謀長に任じて迎撃の準備を整えたが、両者は軍事能力に関しては高い評価を受けていたものの協調性に欠ける人物であった[6]。
7月8日、同盟軍は回廊(後のイゼルローン回廊)付近で接近する帝国軍を発見し、同14日にはダゴン星域で戦闘状態に入るが、双方損害のない遭遇戦に終わった[6]。帝国軍において事実上、作戦指導の責任者となったインゴルシュタットは、不安定で複雑な戦域の地理を考慮して戦力を集中し、同盟軍を消耗させる方策を選ぶ[6]。しかし16日に帝国軍が最初の戦術的勝利を得たことで昂揚したヘルベルトは節度を失い、翌17日に全軍に攻勢を命じて部隊を分散させた[6]。インゴルシュタットの正統的な戦法を想定していたリン、トパロウルらは困惑して精彩を欠いたが、19日に至ってヘルベルトが無意味な兵力分散を選んだことを推察し、帝国軍本隊への兵力集中を選ぶ[6]。インゴルシュタットはなお最善を目指して作戦指導を続けたが、彼の指揮は戦域の地理的状況に対して精密にすぎて遊兵を生み、20日には敵味方の誤認を要因として帝国軍のパッセンハイム中将が戦死した[6]。失態に激怒したヘルベルトは全軍に拙速な再集結を命じてしまい、帝国軍は同盟軍の包囲網に落ち込んで崩壊した[6]。
帝国軍は生還率わずか8.3%という大敗を喫した[6]。帝国は戦況不利ゆえの自主的撤退として敗戦を糊塗したが、ヘルベルトは虚脱状態で精神病院に幽閉されて帝位継承への道を失い、代わりにインゴルシュタットが全責任を問われて銃殺された[6]。同盟にとっては、この戦闘以来、帝国内の異分子が亡命するようになり、国力を量的に膨張させるきっかけとなった[3]。
コルネリアス1世の親征
[編集]物語の前史として語られる、帝国と同盟との戦いのひとつ。皇帝コルネリアス1世の人となりを示す逸話として記述されている。
コルネリアス1世は、ダゴン星域の会戦の復仇を果たすために同盟への遠征を決意した(賢帝であった先帝マクシミリアン・ヨーゼフ2世を超えるための方策とも推論されている)[9]。彼は前回の遠征を教訓に戦略面で準備を徹底するとともに、良識ある君主として事前に三度にわたり臣属を要求する使者を送ったが、ダゴンの勝利に酔い続けていた同盟政府は冷笑を返してコルネリアスの矜持を傷つけた[9]。宇宙暦669年/帝国暦359年5月、司法尚書ミュンツァーの中止論を押し切って、コルネリアスは自ら前回以上の大艦隊を率いて帝都オーディンを発する[9]。傲りのあった同盟軍の迎撃は二度に渡って粉砕されたが、帝都オーディンで起きた宮廷革命のため退却を余儀なくされ、以後は再親征におよぶだけの財政的・軍事的余裕を回復できなかった[9]。
この戦いに関するコルネリアスの事績として特筆されている点として、彼には元帥号を濫発する奇癖があり、親征には58名もの元帥が従軍し、そのうち戦死者は35名に達した[9]。しかし親征の失敗後は、死ぬまであらたに元帥号を与えることはしなかった[10]。
シャンダルーア星域での敗北
[編集]ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の歴史において、「けっして黄金の文字で記されることはない」記録のひとつとして挙げられる敗戦[7]。宇宙暦696年/帝国暦387年に生じた[7]。
テレマン提督麾下の兵士叛乱事件
[編集]ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の歴史において、「けっして黄金の文字で記されることはない」記録のひとつとして挙げられる叛乱事件[7]。宇宙暦711年/帝国暦408年に生じた[7]。
フォルセティ星域での敗北
[編集]ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の歴史において、「けっして黄金の文字で記されることはない」記録のひとつとして挙げられる敗戦[7]。宇宙暦722年/帝国暦419年に生じた[7]。
ファイアザード星域の会戦
[編集]外伝「螺旋迷宮」において、ブルース・アッシュビーと730年マフィアの経歴として挙げられる戦い。
宇宙暦738年/帝国暦429年に発生し、同盟軍は完全勝利を得た[11]。この完全勝利をもたらした存在として「730年マフィア」がクローズ・アップされ、若く清新な人材集団として同盟市民を熱狂させた[11]。ヤン・ウェンリーの推論によれば、この戦いで帝国からの亡命者マルティン・オットー・フォン・ジークマイスターが730年マフィアに惹かれ、帝国内のスパイ網からの情報の利用者としてアッシュビーを選んだとする[11]。
第2次ティアマト会戦
[編集]第2次ティアマト会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦745年/帝国暦436年12月5日 - 11日 | |
場所:ティアマト星域 | |
結果:同盟軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ツィーテン コーゼル † シュリーター † ウィルヘルム・フォン・ミュッケンベルガー † ハウザー・フォン・シュタイエルマルク カイト カルテンボルン † |
ブルース・アッシュビー † フレデリック・ジャスパー ウォリス・ウォーリック ファン・チューリン ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ † ジョン・ドリンカー・コープ |
戦力 | |
艦艇5万5000-5万6000隻、将兵630万-650万人(同盟軍による推定値)[12] | 第4艦隊 第5艦隊 第8艦隊 第9艦隊 第11艦隊[12] |
外伝「螺旋迷宮」において、ブルース・アッシュビーの特に名高い経歴として挙げられる戦い。同盟軍は大勝利を収めたが、同盟軍の総司令官だったアッシュビーは戦死した。後に「螺旋迷宮」作中でこのアッシュビーの戦死について謀殺疑惑が取り沙汰され、ヤン・ウェンリーが調査を担当することとなる[13]。クリストフ・フォン・ケーフェンヒラーは、帝国軍コーゼル大将の情報参謀としてこの戦いに参加し、同盟軍の捕虜となった。
宇宙暦745年/帝国暦436年12月、ティアマト星域において、帝国軍と同盟軍の大艦隊が対峙した[12]。このうち同盟軍司令部は、宇宙艦隊司令長官ブルース・アッシュビー大将が指揮し、総参謀長アルフレッド・ローザス中将、第4艦隊司令官フレデリック・ジャスパー中将、第5艦隊司令官ウォリス・ウォーリック中将、第8艦隊司令官ファン・チューリン中将、第9艦隊司令官ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ中将、第11艦隊司令官ジョン・ドリンカー・コープ中将と、全員が「730年マフィア」から成ったが、内部には過去になく対立と不協調があった[12]。帝国軍にも一部にアッシュビーへの過剰な敵愾心があり、両軍とも内部意志の統一に問題があった[12]。
12月5日に開始された戦闘では、同盟軍が痛打を浴びながらも帝国軍ウィルヘルム・フォン・ミュッケンベルガー中将やカイト中将を戦死させる[12]。帝国軍は全軍の半数による繞回運動で同盟軍を包囲殲滅する策をとっていたが、同盟軍では12月8日から10日にかけて戦況が膠着するなかでアッシュビーが各艦隊からの抽出兵力を集成して主力部隊を編成し、戦域の外で繞回を試みる帝国軍主力を追尾した[12]。膠着に耐えられず激発的な攻勢に出た帝国軍カルテンボルン中将が反転攻勢を受けて戦死したのをはじめ一進一退の攻防が続くも、帝国軍主力は繞回運動を完成させてウォーリックとファンの後背に出現[12]。このため同盟軍は一挙に危地に陥ったが、すぐ後からアッシュビー直卒の同盟軍主力が突入し、帝国軍を挟撃するかたちに持ち込んで潰乱させた[12]。激戦のなかで同盟軍ではベルティーニが戦死したが、帝国軍は40分間の交戦で将官の戦死者60名という損害を受けた[12]。12月11日18時50分前後になって勝敗は決し、帝国軍はシュタイエルマルクの部隊を殿に敗走したが、直後アッシュビーは旗艦に流れ弾を受けて戦死する[12]。
同盟軍では、アッシュビーを元帥に任じ、国葬をもって送った[12]。なお、アレクサンドル・ビュコックはこの戦いに19歳の砲術下士官として従軍し、体験記が同盟軍の公戦史に収録されている[12]。帝国軍は完敗を喫したが、憎むべきアッシュビーの戦死の報に狂喜乱舞し、都合よく忘れ去った[14]。とはいえ戦闘終盤に生じたシュリーター大将、コーゼル大将ら将官60名という人的資源への莫大な損害から立ち直るために10年の歳月を要し、この交戦を称して「軍務省にとって涙すべき四〇分間」と呼んだ[12]。当時、まだ平民出身の大将はごく珍しかったが、この会戦で貴族出身の高級士官に多数の戦死者が出て以来、しばしば現れるようになったとされる[14]。
パランティア会戦
[編集]外伝「螺旋迷宮」において、ブルース・アッシュビー死後の「730年マフィア」の逸話として挙げられる戦い。
宇宙暦751年/帝国暦442年、「730年マフィア」のひとりジョン・ドリンカー・コープは宇宙艦隊副司令長官としてこの戦闘を指揮したが、過去になく精彩を欠いた指揮で完敗し、戦死した[15]。フレデリック・ジャスパーは救援に急行したが間に合わず、帰路にあった帝国軍に一矢報いたが、功績を独占するためコープを見殺しにしたという噂が立ってジャスパーとコープの遺族の間に亀裂を生じさせた[15]。
エル・ファシルの戦い
[編集]本伝「黎明篇」において、ヤン・ウェンリーの過去として説明される戦い。凡庸な士官だったヤンは、この戦いの結果生じたエル・ファシルからの民間人脱出を責任者として成功させる功績(「エル・ファシル脱出行」[9])を挙げ、「エル・ファシルの英雄」と称えられるとともに、初めて用兵に興味をいだいた[8]。
宇宙暦788年/帝国暦479年、同盟軍エル・ファシル星系駐在部隊は帝国軍とのあいだに両軍1000隻前後の戦力で交戦し、両軍とも二割程度の損害を受けて戦闘は終結した[8]。しかし同盟軍が帰投しようとした際、同様に帰投するよう偽装していた帝国軍が急速反転して同盟軍の後背を撃つと、同盟軍司令官アーサー・リンチ少将は恐慌をきたしたものか対処を放棄してエル・ファシル本星に逃げ帰ってしまう[8]。残された同盟軍艦艇も司令官の逃走を知ってつぎつぎと戦場を離れ、あるいは破壊されるか降伏した[8]。そのうちエル・ファシル本星に逃げ戻った兵力は艦艇200隻、将兵5万人程度であったが、帝国軍は一挙にエル・ファシルの「解放」を目指して兵力を三倍に増強し、300万人の民間人を擁するエル・ファシルは危機に陥った[8]。
このとき、駐在部隊幕僚のヤン・ウェンリー中尉が民間人全員の脱出計画の責任者とされ、混乱の中で脱出の準備を整えた[8]。やがてリンチは直属の部下とともに民間人を見捨ててエル・ファシル本星から逃亡におよんだが、ヤンはこのリンチの行動を囮としてエル・ファシル本星から民間人を脱出させる[8]。リンチの逃亡を予期していた帝国軍は彼を追い回して降伏させたが、ヤンの脱出船団についてはレーダーで探知したにもかかわらず探知防御システムを持っているはずだという先入観から自然物と思い込んで見逃してしまった[8]。民間人を後方に送り届けたヤンは、敗北と逃亡という同盟軍の不名誉を覆い隠す意味もあって軍首脳部から英雄として称えられ、大尉昇任後、数時間で少佐へ昇任するという事実上の二階級昇進をとげた[8]。
この「エル・ファシル脱出行」の際、ヤンは当時14歳の民間人だったフレデリカ・グリーンヒルと知り合ったが、その後、自身の副官として再会するまで忘れていた[16]。また、フランチェシク・ロムスキーは脱出行の民間協力者のひとりだったが、ヤンはこちらも忘れ去っていた[17]。対して、逃亡して捕らえられたリンチは帝国内の矯正区に入れられたが、後から来た捕虜の証言によって白眼視されるようになり、酒に逃避していった[18]。
エコニア捕虜収容所の騒乱
[編集]外伝「螺旋迷宮」作中で生じる、ヤン・ウェンリーの赴任先である惑星エコニアの捕虜収容所での騒乱事件。収容所の参事官だったヤンは、事件の解決に一役買うとともに、赴任前に調査していたブルース・アッシュビー謀殺疑惑に関する謎の端緒を掴む。また、ムライ、フョードル・パトリチェフといった後の幕僚との知遇を得た。
「エル・ファシルの英雄」であるヤンの赴任を軍中央による秘密監察と思い込んだ収容所長バーナビー・コステア大佐が、自身の公金横領を糊塗するためヤンの抹殺をはかり、捕虜プレスブルク中尉を使嗾して捕虜の一団による脱走を起こさせた事件である[19]。プレスブルクは夜間巡回中だった副所長ジェニングス中佐を人質として立てこもり、交渉によって交換してヤンと参事官補パトリチェフ大尉を人質とする[19]。コステアが捕虜がヤンやパトリチェフとともに立てこもる居住棟を無差別攻撃しはじめる中、彼らは自ら人質に加わった捕虜中の最上位者クリストフ・フォン・ケーフェンヒラーの誘導によって、廃棄された通信用ケージ経由で脱出に成功し、逆にコステアを拘束した[19][20]。
ヤンは上位の警備管区司令部に騒乱を報告し、参事官ムライ中佐が捜査を担当した[20]。ムライは両者を審問したうえ、コステアの不正の物的証拠を挙げて公金横領の容疑で拘禁した[20]。ケーフェンヒラーはヤンとパトリチェフの救出および収容所の不正暴露への貢献によって釈放され、ヤンとパトリチェフも転任となった[20][14]。
ラインハルトとキルヒアイスの初戦闘
[編集]外伝「白銀の谷」作中で生じる、当時15歳のラインハルト・フォン・ミューゼルとジークフリード・キルヒアイスの初陣となる地上戦闘。
宇宙暦791年/帝国暦482年7月、幼年学校を卒業し酷寒の惑星カプチェランカの帝国軍BIII前線基地に赴任したラインハルトとキルヒアイスは、基地司令官ヘルダー大佐の命令で同盟軍拠点に対する敵情視察任務に出るが、二人の乗る機動装甲車はラインハルトの姉アンネローゼを憎むベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナの密命をうけたヘルダーに細工されており、水素電池のエネルギー不足のため基地から500キロほどの地点で立ち往生を余儀なくされた[21]。ふたりは同盟軍の装甲車3台に遭遇したが、対装甲車ロケット・ランチャー、肉弾戦、液体酸素などの手段で敵兵を全滅させ、残った同盟軍の機動装甲車から水素電池、慣性航法システムのデータなどを奪取する[21]。やがてラインハルトの死を確かめるためフーゲンベルヒ大尉がやってくると、ラインハルトは演技によって陰謀の黒幕を聞き出してからフーゲンベルヒを殺害した[21]。
その後、同月中にBIII基地で帝国軍と同盟軍との間に戦闘が生じ、帝国軍が勝利したが、ヘルダーは交戦中にラインハルトを殺害しようとして逆に殺された[22]。ヘルダーの扱いは戦死となったが、外伝「黄金の翼」では、ヘルダーが味方に殺害されたのではないかという「軍にとって不名誉な疑惑」を調査するという名目でグレゴール・フォン・クルムバッハ憲兵少佐がラインハルトのもとを訪れている[22]。
ハーメルンIIの戦闘と艦内での騒乱
[編集]OVA版の独自エピソードである外伝「叛乱者」作中で描かれる。ラインハルトとキルヒアイスが航海長と保安主任として乗り組むイゼルローン要塞所属の駆逐艦ハーメルンIIの哨戒中に生じた。
所属する第237駆逐隊の僚艦とともにイゼルローン回廊の哨戒に出たハーメルンIIは、アルトミュール恒星系で同盟軍の奇襲を受け被弾する[23]。艦長アデナウアー少佐が重傷を負い、当時の艦橋で最高位だったラインハルトが指揮を引き継ぎ、同盟軍の伏兵を予測して僚艦とは別の行動を取ろうとした[23]。駆けつけた副長ハルトマン・ベルトラム大尉は上位者として僚艦に続くよう命じるが、ラインハルトが指揮権の移譲を拒否するなか、僚艦は待ち伏せに遭って全滅[23]。結局別行動を取ったハーメルンIIだけが生存したものの、ベルトラムはラインハルトの指揮権を奪い、拘禁した[23]。
ハーメルンIIは機関部が損傷した状態で隠れ、同盟軍の遊弋する宙域からの脱出の方途を探るが、同盟軍部隊の接近を受けてベルトラムが軍規に則り自沈を選ぼうとする[24]。事態を受け、平民の兵士を味方につけたキルヒアイスに解放されたラインハルトは、艦橋を制圧して指揮権を奪取すると、損傷を補うため恒星の表面爆発による加速を用いるというシュミットの提案に基づいて脱出を試みる[24]。脱出作戦のリスクを恐れた一部の士官はベルトラムのもと指揮権の再奪取を試みるが、その過程で同じ平民の兵士たちへの蔑視が露呈したベルトラムがアラヌスの弟ロルフ・ザイデル二等兵を射殺してしまう事態に至って、現れたアデナウアーのとりなしによりラインハルトが改めて艦長代理として正式な指揮権を得る[24]。
ラインハルトの指揮のもと、ハーメルンIIは加速に成功、同盟軍のそばを高速で脱出し、イゼルローン回廊へと帰投した[25]。アデナウアーは艦内での叛乱の存在を否定し、ラインハルトはハーメルンII生還と同盟軍侵入察知の功をもって大尉に昇進、転属する途を選んだ[25]。ベルトラムは脱出直前、艦外作業中に危地に陥ったアラヌスを救助して身代わりに殉職し、二階級特進となった[25]。
アルレスハイム会戦
[編集]外伝「汚名」の物語の前提となる交戦。帝国軍のミヒャエル・ジギスムント・フォン・カイザーリングが軍を追われるきっかけとなった。
宇宙暦792年/帝国暦483年、カイザーリング中将が指揮する帝国軍艦隊は、探知した同盟軍へ効果的な奇襲を行おうとしたところ、命令を無視した艦艇が過早に乱射をはじめたことで、同盟軍の逆襲をうけ潰走、追撃によって死傷者六割に達する一方的な敗北を被った[7]。ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の歴史上「けっして黄金の文字で記されることはない」記録のひとつに挙げられる、ひとえに帝国軍側の失敗によるこの敗戦によってカイザーリングは指導力の欠如した無能として軍事法廷で糾弾され、皇帝フリードリヒ4世の重病快癒の恩赦をうけて少将に降等されたうえ退役という処分を課せられた[7]。帝国軍潰乱の原因は将兵が気化したサイオキシン麻薬で急性の中毒状態となったためであり、後方主任参謀クリストフ・フォン・バーゼル少将の責任に帰すべきものだったが、カイザーリングはバーゼルの妻ヨハンナを若い頃から一方的に愛しており、彼女を不幸にしないため沈黙を貫いた[7]。
第5次イゼルローン攻防戦
[編集]第5次イゼルローン攻防戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦792年/帝国暦483年5月 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
クライスト ヴァルテンベルク |
シドニー・シトレ ドワイト・グリーンヒル |
戦力 | |
イゼルローン要塞 要塞駐留艦隊 (1万3000隻) |
第4艦隊ほか (5万1400隻、兵員600万人) |
外伝「黄金の翼」で描かれる、イゼルローン要塞を巡る帝国軍と同盟軍の戦い。少佐時代のラインハルトが駆逐艦エルムラントII号の艦長として、中尉時代のキルヒアイスが同艦の副長として参加し、執拗にラインハルトを狙うベーネミュンデ侯爵夫人の手先と対決する。イゼルローン要塞主砲「雷神のハンマー」への対処法として要塞側の艦隊と入り乱れることで使用を阻止する「並行追撃」が初めて示された戦闘であり、要塞主砲に対する以後の指揮官への教訓となった[26]。
宇宙暦792年/帝国暦483年5月、同盟軍は宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将を総司令官に大軍を動員し、並行追撃策によるイゼルローン要塞攻略を試みた[22]。同盟軍には、シトレの副官のひとりとして少佐時代のヤン・ウェンリーが参加したほか、第4艦隊司令官ドワイト・グリーンヒル中将、アレクサンドル・ビュコック(「提督」とのみ記載)が加わっていた。対する帝国軍はクライスト大将がイゼルローン要塞司令官、ヴァルテンベルク大将が駐留艦隊司令官だった[22]。
要塞主砲射程外での緒戦は同盟軍が圧倒したが、帝国軍は後退して同盟軍を要塞主砲の射程内に誘い込むのが所定の策であり、やがて後退を開始した[22]。しかし帝国軍が予定通り逃走に移ろうとした瞬間、同盟軍は全速前進して並行追撃で要塞主砲射程内に入り込み、味方の艦艇によって要塞主砲使用を封じられた帝国軍は狼狽する[22]。肉薄した同盟軍は勝敗を決するため要塞に無人艦を突入させて史上初めてイゼルローンに傷をつけたが、恐慌したクライストに味方もろとも要塞主砲を撃つことを決意させる結果となり、要塞主砲の無差別攻撃を見たシトレは継戦を断念して全軍に退却を命じた[22]。イゼルローン攻略には失敗したものの、シトレが行った並行追撃と無人艦突入作戦の組み合わせは「要塞攻略戦術において一つの頂点をきわめた」と評され、その功によりシトレはしばらくのちに元帥号を授与されている[27]。
ヘーシュリッヒ・エンチェンの同盟領潜入
[編集]OVA版の独自エピソードである外伝「奪還者」作中で描かれる。ラインハルトとキルヒアイスが艦長と保安主任として乗り組むイゼルローン要塞所属の巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンによる同盟領への単艦潜入任務。後にラインハルト麾下となるアウグスト・ザムエル・ワーレンが副長として登場するほか、ナイトハルト・ミュラー、エルンスト・フォン・アイゼナッハが関与している。
帝国貴族ヘルクスハイマー伯爵が指向性ゼッフル粒子発生装置の試作機とともに同盟への亡命を企図したことから、ラインハルトの指揮するヘーシュリッヒ・エンチェンは統帥本部から亡命阻止の密命を受け、監察官ベンドリング少佐を乗せて訓練を名目に同盟領内に潜入する[28]。フェザーン駐在武官のミュラーからの情報もあり首尾よくヘルクスハイマー伯爵の船を拿捕したものの、伯爵は一族とともに脱出ポッドの減圧事故で死亡し、伯爵令嬢マルガレータひとりが生き残りであった[29]。発見された指向性ゼッフル粒子発生装置にもプロテクトがかけられていたため、ヘーシュリッヒ・エンチェンは伯爵の船ごと行動せざるをえず、遭遇した同盟の追跡部隊は撃破できたものの、イゼルローン要塞への帰還路の封鎖が予期された[30]。そこでラインハルトは、マルガレータに伯爵の船で同盟に亡命することを認める代わりにプロテクトの解除コードを確保し、発生装置はヘーシュリッヒ・エンチェンへと移設される[31]。同盟に亡命するマルガレータや、発生装置に付随していた門閥貴族の醜聞のデータに衝撃を受けて彼女に随行する途を選んだベンドリングと別れたヘーシュリッヒ・エンチェンは、指向性ゼッフル粒子をもって同盟軍の封鎖部隊を撃破し、回廊へ侵入[31]。さらに同盟軍の追跡を受けたものの、アイゼナッハが艦長を務める補給艦が来援し、ヘーシュリッヒ・エンチェンに先行して物資を宇宙に放出するという奇策によってエネルギーを補給でき、追跡を振り切って要塞への帰投に成功した[31]。
ヴァンフリート星域の会戦
[編集]ヴァンフリート星域の会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年3月21日 -[32] | |
場所:ヴァンフリート星系 | |
結果:両軍とも勝利を主張[32] | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー | ラザール・ロボス |
戦力 | |
艦艇3万2700隻、将兵406万8200名[32] | 艦艇2万8900隻、将兵336万7500名[32] |
外伝「千億の星、千億の光」で描かれる、帝国軍と同盟軍の交戦。当時准将だったラインハルトがリヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン大将麾下のいち指揮官(指揮下の艦艇約200隻)として参加した。
戦闘は宇宙暦794年/帝国暦485年3月21日に開始され、序盤では両軍のごく一部による緩慢な撃ち合いに終始していたが、やがて両軍はたがいに相手の分断と孤立を試みて戦場を相対的な位置関係も把握しがたい混沌に陥らせるとともに、戦力の大部分を敵軍背後への繞回進撃に割き無意味な戦力分散を招くこととなった[32]。連係が期待できない帝国軍と近似して総司令部と各艦隊の連絡が途切れていた同盟軍では、繞回進撃中の第5艦隊(アレクサンドル・ビュコック中将)にシャトルで反転帰投命令を出したが、ビュコックはこの命令を無視し、無理な帰投によって戦力を危険にさらすことを避けた[32]。
老耄のグリンメルスハウゼンを戦力外とみなしていた帝国軍総司令部はグリンメルスハウゼン艦隊に第4惑星の第2衛星(ヴァンフリート4=2)への移動を命じ[32]、同艦隊は衛星北極に駐留、占拠した[33]。しかし同衛星にはすでに南半球に同盟軍の後方基地があり[33]、両軍間に地上戦が生じた(後述)。同盟軍第5艦隊は後方基地からの緊急通信を受けてヴァンフリート4=2上空に急行し、帝国軍でもこれに呼応して全軍の主力を同宙域に移動させる[34]。しかし両軍の戦力は狭い宙域に集中してなし崩し的な交戦に入ってしまい、収拾困難な状況となった[35]。その後も戦闘は漫然と継続され、両軍の完全撤収によって終結した[35]。
ヴァンフリート4=2での地上戦
[編集]ヴァンフリート4=2での地上戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年4月6日 - | |
場所:ヴァンフリート4=2 | |
結果:同盟軍後方基地の破壊 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ヘルマン・フォン・リューネブルク | シンクレア・セレブレッゼ ワルター・フォン・シェーンコップほか |
戦力 | |
グリンメルスハウゼン艦隊所属の地上部隊 | 基地守備隊 薔薇の騎士連隊 |
外伝「千億の星、千億の光」で描かれる、帝国軍と同盟軍の交戦。ヴァンフリート星域の会戦の一部であり、准将だったラインハルトが帝国軍地上部隊の副将として参加した。
衛星ヴァンフリート4=2に降下した帝国軍グリンメルスハウゼン艦隊では、地上戦の専門家ヘルマン・フォン・リューネブルク准将が地上偵察を実施して同盟軍基地を発見し、この破壊が決定された[33][34]。対する同盟軍では、帝国軍来襲の可能性に応戦の準備を整えたが、基地司令官シンクレア・セレブレッゼ中将は後方勤務の専門家であって戦闘指揮向きではなく、防御にあたる各部隊の横の連絡が不十分だった[34]。同基地の配備部隊には薔薇の騎士連隊も含まれていたが、同連隊はすでに偵察中の遭遇戦で連隊長オットー・フランク・フォン・ヴァーンシャッフェ大佐が戦死し、副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ中佐が連隊長代理を務めていた[33]。
4月6日朝、帝国軍はリューネブルク准将の直接指揮のもと同盟軍基地に大挙来襲する[34]。大兵力の展開に向かない地形であり、帝国軍の突入は三回撃退されたものの、同盟軍の善戦を圧して基地内への侵入をはたし、犠牲を出しつつも逆撃を排して基地司令部へと迫った[34]。戦況は密度の高い混戦となり、帝国軍ではリューネブルク、ラインハルトのいずれも前線戦闘に直接参加したために、上空への同盟軍艦隊接近を受けたグリンメルスハウゼン艦隊司令部からの攻撃中止・撤退命令もすぐには実行されなかった[35]。ラインハルトは基地司令部でセレブレッゼと遭遇して捕虜とし、帝国軍は基地破壊の目的を果たしたものとして撤退した[35]。
ラインハルトはセレブレッゼを捕虜にした功績が賞されて少将に昇進し、リューネブルクも少将への昇進を得た[35]。シェーンコップは司令官セレブレッゼを守れなかった責により大佐昇進による連隊長への正式就任は8月まで先延ばしされ[27]、また薔薇の騎士連隊内の強者カール・フォン・デア・デッケン中尉や、シェーンコップの当時の愛人だった基地士官ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ中尉は戦死した[35]。この戦いで前線における補給と事務処理の最高権威だったセレブレッゼが捕虜(厳密には行方不明)となった同盟軍では、機密保持の観点もあってアレックス・キャゼルヌが准将に昇進して新たなシステムで物資補給をとりしきることとなる[27]。
第6次イゼルローン攻防戦
[編集]第6次イゼルローン攻防戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年10月 - 12月10日 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ ラインハルト・フォン・ミューゼル |
ラザール・ロボス ウィレム・ホーランド ラムゼイ・ワーツ † キャボット |
戦力 | |
イゼルローン要塞 艦隊 |
艦艇3万6900隻[27] |
損害 | |
戦死者36万8800人 | 戦死者75万4900人 |
外伝「千億の星、千億の光」で描かれる、イゼルローン要塞を巡る帝国軍と同盟軍の戦い。帝国軍では少将時代のラインハルトが1000隻単位の部隊を指揮して[36]、同盟軍では大佐時代のヤンが作戦参謀のひとりとして、それぞれ参加した。この他、帝国軍ではウォルフガング・ミッターマイヤー、オスカー・フォン・ロイエンタール(ともに准将・小部隊の指揮官)、カール・グスタフ・ケンプ、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト(ともに大佐・戦艦艦長)、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ(大将)ら、同盟軍ではキャゼルヌ(准将・後方参謀)、シェーンコップ(大佐・薔薇の騎士連隊長)、オリビエ・ポプラン、イワン・コーネフ(ともに少尉・スパルタニアン・パイロット)ら、本伝における主要キャラクターの多くが参加した[27][37]。
宇宙暦794年/帝国暦485年10月、同盟軍はラザール・ロボス元帥を総司令官として艦隊を動員し、機先を制してイゼルローン回廊の同盟側入口をおさえる[27]。同盟軍の総参謀長にはグリーンヒル大将、作戦参謀にヤン大佐、アンドリュー・フォーク中佐、事実上の前線物資補給の総担当者としてキャゼルヌ准将が配され、対する帝国軍はグレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥を総司令官とした[27]。11月にかけての緒戦では、回廊入口周辺で小戦闘が繰り返され、相当の自由裁量を黙認されたラインハルトも戦闘を繰り返した[27]。同盟軍は厄介な帝国軍指揮官の存在を察知し、ヤンの作戦案によって当のラインハルトを包囲したが、同盟軍は兵力を惜しんだためラインハルトは800隻もの損害を出しつつも脱出に成功する[27]。
12月1日、同盟軍はイゼルローン要塞前面に展開し、要塞主砲の射程を避けつつ帝国軍との交戦に突入[27]。同盟軍の作戦はウィレム・ホーランド少将の発案により、フォーク中佐からも類似の献策があったことで採用されたもので、要塞主砲の射程限界線上を完璧なタイミングで出入りする艦隊運動「D線上のワルツ・ダンス(ワルツ・ダンス・オン・ザ・デッドライン)」をとる同盟軍主力で帝国軍を陽動し、ミサイル艇の大群により要塞主砲の死角から要塞に徹底した集中攻撃を行った[27]。この作戦は成功しかけたが、看破していたラインハルトがミサイル艇群を側面攻撃で蹴散らし、そのまま同盟軍主力を攻撃する[27]。要塞主砲の射程により行動を束縛された同盟軍主力はラインハルト相手に多数を活かせなかったが、遅ればせながら帝国軍の諸艦隊が側面攻撃を企図して出撃してくると、ヤンの進言によって全予備兵力を投入した同盟軍とのあいだに要塞主砲射程内での混戦が生じてしまい、両軍が当初の戦術構想を見失って収拾困難な戦況となる[27]。
やがて同盟軍はヤンの作戦案に基づいて全軍の大半を戦域の外縁部で再編することに成功し、帝国軍を挟撃して損害を与えたものの、ロイエンタール、ミッターマイヤーらの小部隊の攻撃によって阻止された[37]。ラインハルトは凡戦に耐えかねて戦闘終結への作戦案を総司令官に進言し、ミュッケンベルガーは年少者の差出口に怒りを覚えながらも内容が戦理にかなうことを認め、ラインハルト自身を責任者として作戦を実行させる[37]。ラインハルトは同盟軍の退路を断つそぶりで快速進撃し、捕捉を試みた同盟軍を逆撃し翻弄した[37]。ヤンら一部は2000隻という少数の部隊を囮と察し危惧を抱いたが、心理的な弱点を突かれた同盟軍はラインハルトを追撃してしまった一方、メルカッツの指揮した帝国軍は堅実な作戦で同盟軍と距離をとったため混戦状態が崩れ、同盟軍に対して要塞主砲が使用されるに至った[37]。同盟軍は全面退却に移り、戦闘は終熄した[38]。
この戦闘中、帝国軍ではリューネブルクが亡命前の部下シェーンコップと白兵戦をもって戦い、敗死した[27]。同盟軍のうち、後半の戦闘において柔軟で極度に機動的な艦隊運動で勇名を馳せた[37]ホーランドは、敗戦の中でも個々の戦闘で勝利して同盟軍の自尊心を救った一例となった機敏な戦闘指揮を評価されて中将に昇進した[39]。
第3次ティアマト会戦
[編集]第3次ティアマト会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年2月 | |
場所:ティアマト星域 | |
結果:勝敗不明瞭[39] | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー ラインハルト・フォン・ミューゼル |
アレクサンドル・ビュコック ウランフ ウィレム・ホーランド † |
戦力 | |
ミュッケンベルガー艦隊 ミューゼル艦隊 (3万5400隻) |
第5艦隊 第9艦隊 第11艦隊 (3万3900隻) |
損害 | |
第11艦隊の壊滅 | |
外伝「星を砕く者」で描かれる、帝国軍と同盟軍の交戦。当時中将のラインハルトが8000隻足らずを指揮[39]する艦隊司令官のひとりとして参加した。
宇宙暦795年/帝国暦486年2月、帝国軍は、名目的には先年来の同盟軍の攻勢に対する報復、また内実としては特段の治績のない皇帝フリードリヒ4世の戴冠30周年を飾る目的から遠征軍を発する[39]。対する同盟軍では第5、第9、第11の3個艦隊が迎撃に動員され、国防委員会はさらに2個艦隊の動員を約束していたが、その実施はいちじるしく遅れていた[39]。同盟軍の総司令官であるロボス元帥はこの動員の遅れもあって戦場後方に残り、前線では先任の第5艦隊司令官ビュコック中将が指揮を統括することとなったが、第11艦隊司令官ホーランド中将は自由な行動権をもとめてビュコックの指揮に不服を主張した[39]。
戦闘開始後、ホーランドは味方を無視して前進すると、帝国軍の予測をこえる、無秩序にも見える速度と躍動的な動きによって接近攻撃をかけ、帝国軍を狼狽させ、出血をしいた[39]。その動きは補給を無視し他部隊との連係を欠いたものにすぎなかったうえ、武勲を与えたくないミュッケンベルガーの判断で最初から後方に配されていたラインハルトの艦隊が戦闘を避けてさらに後退するのを見たビュコックと第9艦隊司令官ウランフ中将は、第11艦隊の制止を試み、後退と再編を勧めたが、目前の戦況に高揚したホーランドは勧告をはねつけ交戦を続ける[39]。しかし、帝国軍がホーランドに翻弄され醜態を見せるなか、第11艦隊はついに攻撃の終末点に達し、一瞬うごきを止めた瞬間、ラインハルトは主砲の三連斉射によってホーランドを戦死させ、二度目の三連斉射で第11艦隊を潰走させた[39]。ラインハルト以外の帝国軍は第11艦隊を追撃したが、同盟軍はビュコックとウランフの連係により第11艦隊の残存兵力を回収しつつ帝国軍の突進を食い止め、本国へと帰還した[39]。
グランド・カナル事件
[編集]外伝「星を砕く者」において、第3次ティアマト会戦の後に生じたとされる戦闘。
会戦後、帝国軍の再侵攻に備え辺境星区に配備された同盟軍への物資欠乏に対し、輸送船配備のミスにより近辺の民間船が100隻ほど雇用されて物資輸送にあたったが、ロボスが戦力保護のため「無理な行動」をつつしむよう訓令したために過剰反応した護衛艦艇が危険宙域の手前で引き返し、巡航艦グランド・カナルだけが残る事態となった[9]。船団は2隻の帝国軍巡航艦と遭遇し、グランド・カナルは奮戦するも破壊されたが、民間船の被害は破壊1隻、捕獲1隻にとどまり、他は脱出か目的地到達に成功した[9]。同盟軍は民間人の生命だけでなく自軍の名誉も救ったグランド・カナル乗員を称えた[9]。この事件に関し、当時准将のヤンが立体TVのインタビューに答えている[9]。
OVA版では第3次ティアマト会戦の前に時系列が変更されている[40]。
クロプシュトック事件
[編集]外伝「星を砕く者」において生じた、クロプシュトック侯爵による爆弾事件と、それに続くクロプシュトック領への討伐行。ラインハルトが爆弾事件に巻き込まれたほか、討伐に参加したミッターマイヤー、ロイエンタールの両名がラインハルトの知遇を得るきっかけとなった。
帝国暦486年3月、ブラウンシュヴァイク公爵オットーが私邸で開催した、皇帝フリードリヒ4世の臨席による高級士官の親睦パーティーの席上、かねてフリードリヒに対し逆恨みを持っていたクロプシュトック侯爵ウィルヘルムが自席に置き去りにしたケースが爆発し、多くの死傷者を出した[41]。フリードリヒは体調不良で参加せず、また出席していたラインハルトや主催者ブラウンシュヴァイク公爵は生還している[41]。領地に戻っていたクロプシュトックは大逆罪の未遂犯として爵位を剥奪され、正規軍と貴族の私兵を混成した討伐軍が派遣された[41]。身内に被害を受けたブラウンシュヴァイク公が現役復帰して討伐軍を指揮し、フレーゲル男爵など多くの門閥貴族が参加したいっぽう、戦闘技術顧問としてミッターマイヤー、ロイエンタールなど専門職の軍人が複数同行した[41]。費用を惜しまず傭兵を雇ったクロプシュトックに対し、戦闘技術顧問の指示にまともに従わず内輪もめも多発した討伐軍は苦戦した[41]が、やがて叛乱は鎮圧され、クロプシュトックは自殺する[42]。
鎮圧後、クロプシュトック侯領では住民に対する貴賤を問わぬ掠奪などの加虐的行為が横行した[42]。その中で、ミッターマイヤーが掠奪・暴行・虐殺を行った貴族士官をブラウンシュヴァイク公の係累と知りながら軍規に基づき射殺し、体面を傷つけられたブラウンシュヴァイク公によって拘禁される事件が起きる[42]。討伐軍の帝都帰還後、ロイエンタールから助けを求められたラインハルトは、引き換えに提示された両名の忠誠を受け入れたミッターマイヤーの命を救い[42]、また軍務尚書エーレンベルク元帥と交渉して公的にも不問とさせた[43]。
OVA版では時系列と展開が変更されて本伝序盤に差し込まれており[44]、ラインハルトがミッターマイヤーとロイエンタールの忠誠を得る下りはいきさつが詳述されない別の事件にともなうものとされている[45]。
グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ暗殺未遂事件 (原作時系列)
[編集]帝国暦486年5月16日、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが皇帝から愛人としての立場を解かれ、意を受けたリヒテンラーデ侯によって後宮からの退出を命じられた。皇帝に見捨てられた事にショックを受けたシュザンナは、その原因がアンネローゼにあると逆恨みして部下に襲撃を命じた。
翌17日、ピアノ演奏リサイタルから帰るアンネローゼ一行(ラインハルトとキルヒアイスを含む)を襲撃させた。だが警戒を怠らなかったラインハルトとキルヒアイス、及び救援に駆けつけたミッターマイヤーとロイエンタールによって襲撃犯は撃退され、一部は拘束されてシュザンナの意を受けた行為である事を白状した。
道原版コミックスでは、襲撃を直接指揮していたベーネミュンデ侯爵家の執事が捕まった際に「シュザンナ様と共にあることはできなくても、共に滅びることはできる」の一言と共に自害している。執事にとっては叶わぬ恋慕の感情が高じての、一種の無理心中であったかのように描写されていた。
OVA版ではシュザンナ自らが襲撃に参加、アンネローゼを手にかけようとするが、オーベルシュタインの機転によって撃退されている(後述)。
翌日、グリューネワルト伯爵夫人が暗殺されたという虚報を聞かされて歓喜したシュザンナは、皇帝からの呼び出しという不自然な通告にも疑問を抱かず、意気揚々と出かけた。だが、そこはノイエ・サンスーシではなく典礼尚書であるアイゼンフート伯爵の邸宅であった。全てを悟ったシュザンナは狂乱と悪態の限りを尽くした後、毒入りの酒を無理やり飲まされ、死亡した。
藤崎版コミックスでは本事件は発生しておらず、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナはフリードリヒ4世の葬儀にも出席しているほか、リップシュタット戦役にも加担することなくオーディンの下町で生きていた。フェザーンの工作員であるボルテックに唆される形で皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の誘拐事件に参加し、自由惑星同盟に亡命している。
惑星レグニツァ上空の戦い
[編集]惑星レグニツァ上空の戦い | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年9月4日 | |
場所:惑星レグニツァ上空 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ミューゼル大将 | パエッタ中将 |
戦力 | |
ミューゼル艦隊 | 第2艦隊 |
損害 | |
ほぼ損害なし | 艦艇の5分の4に損害 (劇場版第1作の描写) |
宇宙暦795年/帝国暦486年9月4日。帝国軍ラインハルト艦隊と同盟軍第2艦隊の戦い。第4次ティアマト会戦の前哨戦に位置されている戦い。ラインハルトがミッターマイヤー/ロイエンタールを配下として戦った最初の戦いであり、戦艦ブリュンヒルトが実戦に登場した初めての戦いでもある。
長年の悲願であるイゼルローン要塞攻略を目指す同盟軍は要塞に7度目の攻勢をかけるべく第2/第10/第12艦隊の3個艦隊を投入し、イゼルローン回廊同盟側出口の一つであるティアマト星系を進軍していた。同盟軍艦隊の内、先行していた第2艦隊が木星型惑星レグニツァの大気圏内を航行している所を帝国軍が探知し、折り悪くフレーゲル男爵と本気の口論を始めたラインハルトは、レグニツァへの出動という形で体よく要塞から追い出された。
惑星レグニツァの大気圏はレーダーがほとんど効かず、両軍共に目視で探査、航行しており、双方全く予期しない嵐の中の遭遇戦という形で砲撃戦が開始された。当初はパエッタ中将率いる同盟軍第2艦隊が優勢で完勝寸前のように思われた。だがラインハルトは惑星レグニツァの大気に核融合ミサイルを撃ち込み、水素とヘリウムからなる大気を爆発させ、巨大なガスの奔流を第2艦隊に向けて叩きつけるという奇策を用い、戦局を一瞬で逆転させた。形勢不利を悟ったパエッタは自軍を撤退させ、一方のラインハルトも逆襲を被る危険を避けるため撤退した。両軍にとって消化不良な一戦であり、両軍の被害は互いに自然環境が不利に働かなければ自軍が勝っていたと主張しうる程度のものであった。この戦いの直後、戦艦アルトマルクの艦長であるコルプト子爵が、戦乱に乗じてミッターマイヤーの乗艦に砲撃したが、撃砕はならず、逆にミッターマイヤーの反撃によって撤退する同盟軍艦隊の正面におびき出され、同盟軍の一斉砲撃を受けて艦もろとも四散している。
劇場版第1作では描写が大きく異なる。帝国軍総司令官ミュッケンベルガー元帥は同盟軍の侵攻に向け、本国からの増援として回廊内に到着したばかりの「スカートの中の大将」ラインハルトを「招かれざる客」とみなし、そんな客は要塞に着く前に消えてくれれば幸いとばかりに、惑星レグニツァに向かわせた。パエッタは数において優勢でありながら有利な戦況を作り出せず、「体当たり攻撃」などという愚劣な命令を出してヤンを呆れさせている。ラインハルトはたった1発の核融合ミサイルで同盟軍を混乱に陥らせたが、ヤンはラインハルトの策を察知し、その意を受けたアッテンボローが、旗艦パトロクロスの舵を勝手に動かして艦を離脱させ、パトロクロスとそれに追随した少数の艦を救っている。そして、パエッタは呆然と撤退を呟くだけだった。なおOVA版でのアムリッツァ星域会戦では、ヤンはこの戦いでラインハルトが使った戦法を用い、恒星アムリッツァに核融合ミサイルを撃ち込むことで恒星の核融合反応を増大させ、それにより増大した太陽風を追い風にしてミッターマイヤー艦隊に急接近し、損害を与えた。
この戦いは劇場版第1作最初の、すなわちOVA版における最初の戦いとなった。
藤崎竜の漫画版では、若干の設定変更が加えられた上で一部描写が加味されている。なお、星系名は「レグニッツァ」と表記されている。
- ブリュンヒルトを下賜されたラインハルトは、フレーゲルとの確執の末にミッターマイヤー、ロイエンタール両名の忠誠も手に入れていた。しかしラインハルトを敵視するフレーゲルはそのことを許さず、ミュッケンベルガーを強引に説き伏せて作戦参謀としてイゼルローン要塞に赴く。そしてラインハルト、キルヒアイス、ロイエンタール、ミッターマイヤーの4名と彼等の直属艦隊のみでレグニッツァ星系に展開した同盟軍を叩くように命を下していた(こうすることで、4人全員を同盟軍に始末させるのが目的であり、ラインハルトに面と向かって「これで君の戦力はおよそ1万だ。同盟軍は3万を超えているけどね」と嫌味を込めた発言をしている)。ところがラインハルト艦隊はロイエンタールの陽動とミッターマイヤーの奇襲によって同盟軍の先鋒である第2艦隊を蹂躙。これに危機感を抱いたパエッタ中将はやむを得ずレグニッツァの雷雲の中へと逃げ込んだ。
- 一方、パエッタの旗艦パトロクロスには作戦参謀として従軍するヤン・ウェンリーとジャン・ロベール・ラップの両名がおり、混乱の渦中にある艦内で冷静に状況を分析していた。レグニッツァの表面を構成するガスの危険性を察したヤンはすかさず撤退を上申するも、パエッタは状況が不利になっている事に気付かず棄却。入れ替わりにラップがガス状惑星の危険性を説明したことで、ようやく撤退を決意したのであった(乱気流のため光通信すら難しい状況であったが、パトロクロスが撤退行動をとった事で一部の艦も脱出を始めている)。
- 一方、第2艦隊の上方に構えていたロイエンタール、ビッテンフェルト、ミッターマイヤー旗下の艦隊はここぞとばかりに手持ちの核融合ミサイルを全弾投下、惑星表面に大爆発を起こして第2艦隊の艦を多数葬り去ってしまう。パトロクロス以下少数の艦は辛くも難を逃れたが、結果として同盟軍は第2艦隊の戦力の8割喪失という大敗を喫したのであった。
- 結果として帝国側では、勝利者であるラインハルトがこれまで以上に帝国軍の兵たちから「優秀な司令官」として慕われ、さらなる出世への道を切り開くこととなった。その一方で同盟側では、「敗軍の将」のごとく負傷しながらも生還したパエッタが痛みに耐えながらも総司令官のロボスに自ら報告を行い、兵力の過半数を失ったことから続く第4次ティアマト会戦には後方に回されたが、この敗北による「不名誉」はその後もパエッタについて回り、後のアスターテ会戦に際しては率いる兵力こそ原作小説と同じく、パストーレの第4艦隊やムーアの第6艦隊よりも多かったが、第2艦隊の兵たちの中には「レグニッツァでボロ負けした奴」や「トリューニヒト国防委員長に取り入って、この会戦に参加させてもらった」と陰口を発する者がおり、「率いる兵力の規模と、部下からの蔑視の度合いがどちらも大きい」という異常な状況を生み出した。
第4次ティアマト会戦
[編集]第4次ティアマト会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年9月11日 | |
場所:ティアマト星域 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥 | ラザール・ロボス元帥 |
戦力 | |
ミュッケンベルガー艦隊 ミューゼル艦隊 |
第2艦隊 第10艦隊 第12艦隊 |
損害 | |
同盟軍とほぼ同等 | 艦艇18,651隻以上 死者228万以上 (劇場版第1作の描写)[46] |
宇宙暦795年/帝国暦486年9月11日。ラインハルトが大将/左翼部隊の司令官として参加。ラインハルト率いるミューゼル艦隊の戦力は、惑星レグニッツァ上空の戦いでほぼ損害が生じていないとされているので、引き続いてすべて参加していれば12,200隻、将兵130万人ほどの規模を保っていた事になる。
惑星レグニッツァ遭遇戦後も両軍は強大な戦力を維持していた。同盟軍はレグニッツァでの失敗を取り返そうと意気込むパエッタ中将の第2艦隊を前衛として進軍を開始し、一方の帝国軍もティアマト星域で同盟軍を迎撃する作戦が立案された。なお、ミューゼル艦隊はミュッケンベルガー元帥直々に艦隊左翼部隊に指名されたが、これはラインハルトの失敗を狙う帝国上層部の罠であることが会戦当日に判明する。
ラインハルトは、ミュッケンベルガーの策謀によって単独で突出させられ、危うく囮にされるところを、「右に転進して敵の眼前を横断する」という常識外の大胆な運動で敵味方の不意をついて危機を脱した(これについてラインハルトは「こんな邪道は二度と使わぬ」と述べている)。誰もが呆然と見守る中、ミューゼル艦隊は両軍の前面を通り過ぎて同盟軍の左翼側面に回りこみ、有利な占位に成功した。一方、我に帰った両軍の主力は衝突せんばかりの距離に接近しており、そのまま芸のない正面からの乱戦にもつれこんだ。当初はラインハルトの側面攻撃が功を奏し、帝国軍が優勢に戦いを進めた。しかし、同盟軍参謀長グリーンヒル大将の提案により、同盟軍は陽動のため1部隊を派遣して帝国軍の退路を断つ動きをさせると、帝国軍は狼狽し、同盟軍が有利に戦いを進めるようになった。同盟軍の陽動部隊はラインハルトの部下のロイエンタールにより壊滅させられた。その後も同盟軍が優勢に戦いを進めたが、ラインハルトは同盟軍が疲労しているのを見てとり、部下のミッターマイヤーを先鋒として同盟軍の後方から中央突破を図った。疲労してエネルギーを消耗していた同盟軍はこの攻撃に苦戦したが、同盟軍のウランフは後背のラインハルトに対しては後退し、逆に前方に打って出て帝国軍本隊に突撃、優勢に戦いを進めた。しかしラインハルトはウランフ艦隊を追撃して帝国軍本隊を救援し、巧みな指揮で同盟軍を翻弄し大損害を与えた。
相次ぐ大損害を受けた同盟軍はついに撤退したが、帝国軍本隊もまた同盟軍に勝るとも劣らぬ損害を被り、同盟領への進撃を断念して撤退した。結局この戦いもまたなんらの戦略的意義もなく、ただラインハルトたちの株を上げ、ゴールデンバウム王朝の終わりを早めただけに終わった。
なお、劇場版第1作では一部描写が異なっている。会戦序盤、ラインハルトが敵前横断を行った際にその意図を見抜いたヤンがパエッタに攻撃を強く具申するが、罠だと踏んだパエッタは指揮権を盾に頑なに却下するというOVA特有の彼の頑迷さを表す描写が追加されている。会戦中盤~終盤の陽動作戦についても、少数の無人操縦艦で構成された陽動部隊を送り込み、その指揮をヤン・ウェンリーが執るよう変更されている。陽動部隊は大量のデコイを放出して帝国軍を動揺させるが、策を見抜いていたミッターマイヤーが指揮下の高速戦艦を送り込み、撃破されている。ヤンの乗るユリシーズはこの攻撃を切り抜けたが、陽動作戦は失敗し帝国軍は全面攻勢を開始した。その後、同盟軍が包囲殲滅され、帝国軍が勝利する寸前の所でヤンが戦艦ユリシーズで単艦敵陣に侵入、旗艦ブリュンヒルトの下方に密着してラインハルトを人質にとり、同盟軍本隊の脱出を成功させるという演出が盛り込まれた。したがってOVA版では、この戦いで二人が互いの存在を知った事になっている。
また、ウランフやボロディンは登場しない[47]。パエッタについても、この戦いにおいてヤンの献策を容れなかった不明を恥じてヤンの能力を認めることになるが、その続編となるOVA版/劇場版第2作においては原作に準じて再びヤンの進言を却下しており、彼の描写がいささか苦しくなっている[48]。
帝国軍はラインハルト、ミュッケンベルガー以外の艦隊司令官については描写がないが、ボーステック社のゲームではアイゼナッハ、シュターデン、エルラッハ、フォーゲルらが参戦している。
この戦いの後ラインハルトは上級大将に昇進し、さらに断絶していたローエングラム伯爵家の名跡を継いで、名ばかりの貧乏貴族から本当の貴族へと立身出世した。
クロイツナハIIIの麻薬密売組織捜査
[編集]宇宙暦795年/帝国暦486年11月。アルレスハイム星域の会戦の後日談。この原作小説である「汚名」は、当初は通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。外伝シリーズの中でも比較的早い時期に制作されている。なお、現行のBlu-rayリマスター版では、この「汚名」が全編の最終エピソードとなっている。
第4次ティアマト会戦とアスターテ会戦の間に、ラインハルトとキルヒアイスは休暇をとる事が出来た。ローエングラム家の家督を相続する各種手続きが必要なラインハルトの勧めで、キルヒアイスは先に一人で観光地クロイツナハIIIに赴いたが、滞在先のホテルで老人を襲う暴漢と遭遇し、これを撃退した。キルヒアイスは、その老人が帝国暦483年のアルレスハイム星域会戦で惨敗した、愚将の汚名高いカイザーリング退役少将だと知るが、伝えられるような暗愚さが相手に無い事を奇異に感じる。
その一方でキルヒアイスは、暴漢が正気を無くしている事にも気がついたが、事情聴取のため赴いた現地警察のホフマン警視から、暴漢が現役軍人でサイオキシン麻薬の中毒患者であると説明され、得心が行った。だがサイオキシン麻薬の取引があるという密告があったのでその捜査に協力しろという申し出には納得が行かずに断ろうとしたものの、警察と軍隊との軋轢の存在を訴えられ、さらに麻薬中毒患者から生まれた奇形児の写真を見せられ、義憤にかられたキルヒアイスは協力の申し出を受諾した。
カイザーリングから招待された夕食の席で、キルヒアイスはバーゼル退役中将夫妻の話を聞かされ、バーゼルの妻ヨハンナの立体写真を見せられた。老人だが美しいと感じられるヨハンナに対するカイザーリングの気持ちと明哲な態度を知ったキルヒアイスは、なおさらアルレスハイム星域会戦の敗北の理由が分からなくなった。店を出た帰り道、ホフマンの出迎えを受けたキルヒアイスは、カイザーリングを襲った麻薬中毒の暴漢が、かつてカイザーリング艦隊所属の兵士だった事を聞かされた。その夜、キルヒアイスに暗殺の手がのび、カイザーリングへの疑惑は一層増したが、その一方でバーゼル夫妻が予定より早くクロイツナハIIIに到着している事を知り、それがカイザーリングに伝わっていない事にキルヒアイスは不審を感じる。翌朝、カイザーリングの紹介でバーゼル退役中将と会ったキルヒアイスは、その人間性にやや不信を感じて到着日時の虚偽を改めて確認し、疑っている事を敢えてバーセルに気づかせた。その後、キルヒアイスは展望レストランで様子がおかしい男を見つけて尾行し、逆にフライングボールの競技場に誘い込まれてナイフを持った男達に襲われた。キルヒアイスはフライングボール特有の低重力フィールドで苦心しながらも反撃し、さらにシャッターを開けてその流血沙汰を外部にさらして野次馬に警察を呼ばせ、窮地を脱する。
その直後、ホフマンからキルヒアイスは、バーゼルがかつてアルレスハイム星域会戦の時にカイザーリングの下で艦隊の補給を担う後方主任参謀を担当しており、最初にカイザーリングを襲った麻薬中毒の暴漢がその補給部隊の兵士で、しかもバーゼル自身が会戦の直前に憲兵隊から麻薬不法所持の件で取調べを受け、カイザーリングの証言で無罪になっていた事を聞いた。そしてキルヒアイスは、バーゼルこそが帝国軍内における麻薬密売組織の元締で、その麻薬禍によって中毒患者の将兵が暴発したというアルレスハイム星域の会戦の真相に気がつき、その証拠を得る決意でカイザーリングを訪ねて証言を促したが、ヨハンナに対するカイザーリングの想いがそれを拒んだ。アンネローゼに対する自分の想いと重ね合わせたキルヒアイスは、それ以上は何も言えなかった。
ホフマンの手引きでヨハンナと面会したキルヒアイスは、密告したのがヨハンナで、しかも匿名でバーゼルにも忠告したものの、それが逆効果となってバーゼルはカイザーリングが自分を裏切ったと考えて命を狙った、という構図を聞かされた。しかしそれでもなおバーゼルを愛するヨハンナは証言を断り、キルヒアイスとホフマンは、最後の手段としてバーゼルが自白するようにしむけた。策にかかったバーゼルはキルヒアイスを買収しようと試み、それが失敗するとキルヒアイスを殺そうとしたが、一連の発言がすべてホフマンによって録音されており、バーゼルは諦めた様子でヨハンナに事情を伝えたいと電話を入れた。それが証拠隠滅を命じたものだと気がついたキルヒアイスは、ヨハンナの部屋に駆けつけた。ヨハンナはバーゼルの意に沿って資料を暖炉で燃やそうとしており、キルヒアイスの説得にも耳を貸さず、彼女を止めるには撃つより他になかったがキルヒアイスは撃てなかった。しかし、後方から現れたカイザーリングがヨハンナを撃ち、自分を撃ったのがカイザーリングだと気づいたヨハンナは微笑みながら死んでいった。事件は解決したが、キルヒアイス自身には考えるべき問題がいくつか提起された。
そして、ようやく到着したラインハルトに羽を伸ばせたかと聞かれたキルヒアイスは、「私の羽は、ラインハルト様のおそばでこそ伸ばせるのです」という感慨深い一言を述べた。
本伝作中(黎明篇~風雲篇)
[編集]アスターテ会戦
[編集]宇宙暦796年[49]/帝国暦487年2月。イゼルローン回廊から同盟領に侵攻するラインハルト率いる帝国軍艦隊と、それを迎撃する同盟軍艦隊との戦闘。ラインハルトが上級大将に昇進し、同時にローエングラム伯爵家の名跡を継いでから初めての出征で、また原作およびOVA本編の最初のエピソードである。
アスターテ会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙歴796年/帝国歴487年2月 | |
場所:アスターテ星域 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将 | パエッタ中将 パストーレ中将 ムーア中将 |
戦力 | |
ローエングラム艦隊 20,000隻 動員兵力245万人 |
第2艦隊(15,000隻) 第4艦隊(12,000隻) 第6艦隊(13,000隻) 合計40,000隻 動員兵力406万人 |
損害 | |
戦死/行方不明20万人 (OVA版では15万人) |
戦死/行方不明200万人 (OVA版では150万人) |
劇場版(第2作)においては、かなり掘り下げた改変がされている。そこでは、ラインハルトの実力を試すという帝国軍三長官の思惑、ならびにラインハルトの勝利と栄達を阻もうとするブラウンシュヴァイク公爵の策謀によって幕僚のミッターマイヤーとロイエンタール、参謀長のメックリンガー、ブリュンヒルト艦長のシュタインメッツが転属させられ、残されたのはキルヒアイスだけであった。この出征におけるラインハルトの配下はミッターマイヤーとロイエンタールの評するところ「融通の利かない」メルカッツ、「扱いづらい」ファーレンハイト、「実戦には向かん」シュターデン、「足手まといにしかならん」エルラッハにフォーゲルとなり、「手足を縛られた上に、重石までつけられた」状態であった。兵力は艦艇約2万隻。さらにフレーゲル男爵によって、出征の情報がフェザーンのルビンスキーを通じて同盟にリークされるという念の入りようであった。
一方同盟側では、情報を得た国防委員長トリューニヒトの命により、ヤンとラオの所属する第2艦隊(OVA版と劇場版、藤崎版コミックスではアッテンボローも所属している)、フィッシャーの所属する第4艦隊、そしてジャン・ロベール・ラップの所属する第6艦隊の、あわせて3個艦隊、合計4万隻が動員された(劇場版第2作はOVA第三期開始の宣伝もかねた「顔見世興行」的な要素が強い作品で、ストーリーは各陣営の主要キャラクターが多数登場する展開に改変された)。
なお、道原版コミックスでは、原作やOVA版と異なり「双璧」ミッターマイヤーとロイエンタールの両者ともラインハルト指揮下で参加している[50]。彼らはラインハルトが忠誠を尽くすに足るかをこの戦いで見定め、ラインハルトもまた彼らの戦闘指揮をこの戦いで評価する事となる(同P167。また、同作ではP236-237等で第4次ティアマト会戦のエピソードを混入しており、その描画方法からラインハルト指揮下での両者のデビュー戦と読む事ができる。第四次ティアマト会戦自体はP144で描かれているが、それに両者が参戦しているかどうかは描かれていない)。なお、二人が参戦したために提督の顔ぶれはメルカッツ・シュターデン・ファーレンハイト・ミッターマイヤー・ロイエンタールという布陣になっている(ただしエルラッハ少将もP230で登場している)。
同盟軍はこの数と地の利を使ってダゴン星域会戦と同じ包囲殲滅戦を企図したが、逆にラインハルトの各個撃破の好餌となった(藤崎版コミックスでは更に設定が掘り下げられ、同盟軍はトリューニヒト国防委員長の意向によって「第2、第4、第6艦隊にそれぞれ戦果を競わせ、最大の功を挙げた者を重用する」という約定が3人の司令官に伝えられていた。そのためパエッタ中将をはじめとした各司令官は連携を取らなかったという内容が加味されている。また、同盟軍がダゴン星域会戦と同じく包囲殲滅戦を企図したのも、ダゴン星域会戦が今なお同盟市民にとって人気のある戦いなのでそれを再現するとトリューニヒトが明言しており、この戦い自体が彼にとっての「人気取り会戦」であった)。当初はラインハルトの幕僚たちは各個撃破に徹するラインハルトの作戦を理解出来なかったが、唯一作戦に好意的印象を持ったとキルヒアイスに印象づけたファーレンハイトが先鋒となり、正面から接近していたパストーレの第4艦隊約12,000隻を最初に攻撃、先制攻撃で優位に立った。帝国軍の動きを予測していなかった第4艦隊は対応が遅れ、一方的に撃破されることとなった。
この時点で第2艦隊の次席幕僚を務めていたヤンは、直ちに第6艦隊と合流を図り戦力の集中を図るべきとパエッタに進言したが、それは第4艦隊がすでに敗退しており、彼らを見殺しにするという前提であった。第4艦隊の奮戦を期待し感情的になるパエッタは進言を却下し、間に合うはずもない第4艦隊の救援に向った。これによってラインハルトの勝利がほぼ確定した(藤崎版コミックスでは上記の追加設定のため、ヤンが第6艦隊との連携を進言したにもかかわらずパエッタは棄却している)。
戦闘開始4時間でパストーレ中将は戦死して第4艦隊は壊滅し、対するラインハルトの艦隊はほとんど損害が生じなかった。なお、第4艦隊の組織的抵抗が途絶えた時点で、メルカッツはラインハルトに対し戦術上当然である掃討戦を具申しているが、ラインハルトは戦力の温存を理由に却下。第4艦隊残存戦力を放置して第6艦隊へと進軍を開始する。この判断は吉と出、続く第6、第2艦隊との戦闘を数的にも有利に進めることができた。約4時間後、時計回りに迂回したラインハルトの艦隊は、今度はメルカッツの艦隊を先鋒にして、第6艦隊の側背(4時半の方向)から攻撃を開始した。第6艦隊司令官のムーアはその場での反転迎撃を企図し、禁忌とされる敵前回頭を指示。その結果全艦が無防備な側面をさらけ出した状態で砲撃を受けて、第6艦隊は壊滅した。ムーアは降伏勧告を拒絶して乗艦のペルガモン及びジャン・ロベール・ラップとともに戦死した。
第4・第6艦隊を撃破したラインハルト艦隊は、そのまま第2艦隊との戦いに臨んだ。両軍はほぼ正面から対峙するが、劣勢な第2艦隊はすでに逃げ腰で、ラインハルト艦隊の先制を許してしまう。戦闘開始直後に旗艦パトロクロスの艦橋が被弾し、パエッタは重傷を負って、健在な士官で最高位のヤンが指揮権を引き継いだ。ヤンは各個撃破で不利になる事態を見越して戦闘開始前に各艦の戦闘コンピュータにいくつか対応策をあらかじめ入力しておき、状況にあわせて指定したものを実施させる方法で指揮した。この時ヤンが使った「ラインハルト艦隊の中央突破を逆用して後背にまわり、引き分けに持ち込む」作戦が功を奏し、戦況はお互いの艦隊が相手の艦隊の後尾に食らいつくという、さながら2匹の蛇が互いの尾を狙って喰らい合うような形で環状状態となる。この際、帝国軍のエルラッハ少将が命令を無視して敵前回頭を行ったところで乗艦が被弾し戦死している。戦いは消耗戦となり、ラインハルトはこれ以上の戦闘は無意味であるとして撤退し、ヤンも追撃を行わなかったため、戦闘は終了した。
なお、ラインハルトの各個撃破戦術を打ち破って上記の環状状態を生み出したヤンはこれを「人類の有史以来、幾度も繰り返されてきた光景」と評する一方、己が策を破られて消耗戦へと持ち込まれたラインハルトはこれを「無様な陣形」と評した。
会戦全体で見ると、帝国軍はほぼ完勝を収めた上戦死者を約20万人に抑えたのに対し、同盟軍は迎撃に出た3個艦隊の内第4・第6の2個艦隊が壊滅、戦死者は帝国軍の10倍の約200万人という大損害を被った(OVA版では戦死者は両軍とも下方修正され、帝国軍は15万人・同盟軍は150万人となっている)。同盟はこの会戦での敗北を誤魔化すため、指揮を執ったヤンを英雄として大々的に喧伝した(藤崎版ではさらにトリューニヒトが同盟市民からの支持を得ようと、戦いを終えてハイネセン宇宙港へと戻ってきたヤンをサプライズで大勢の市民と共に出迎え、ヤンは自分が嫌っているトリューニヒトが市民の支持を得るための駒としての役目を、他でもない自分自身が担ったのに憤慨した)。
この戦いの武勲によってラインハルトは元帥に昇進し、元帥府を開いてミッターマイヤー・ロイエンタール以下有能な将兵を多数集め、さらに宇宙艦隊副司令官に任命され、事実上帝国正規艦隊の半分を己の私兵とした。
第7次イゼルローン攻防戦
[編集]第7次イゼルローン攻防戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年5月 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:同盟軍の勝利、イゼルローン要塞陥落 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将 ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将 |
ヤン・ウェンリー少将 ワルター・フォン・シェーンコップ大佐 |
戦力 | |
イゼルローン要塞 要塞駐留艦隊 (15,000隻) |
第13艦隊 (6,400隻・将兵70万人) ローゼンリッター連隊(200名程) |
損害 | |
守備隊20名弱戦死 艦艇数千隻撃沈 捕虜数50万人 |
なし |
宇宙暦796年/帝国暦487年5月。少将に昇進し、半個艦隊規模で新設された同盟軍第13艦隊の司令官となったヤン・ウェンリーに対し初の任務として命じられた、イゼルローン要塞の攻略戦。
過去のイゼルローン要塞攻略戦従軍の経験を踏まえて「イゼルローン要塞は外部からの攻撃では陥落しない」と考えていたヤンは要塞を内部から占領する事を考え、その実行役に帝国からの亡命者で組織され、同盟軍最強と名高い「薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊」を選んだ。まず、偽の救難信号によってゼークト大将の駐留艦隊を要塞から引き離し、その隙に拿捕した帝国軍の艦船を使って要塞内部に帝国軍兵士に変装したローゼンリッターを送り込んだ。
要塞内に潜入したローゼンリッターは、駆け付けた警備兵に「同盟軍がイゼルローン回廊を無事通過する手段を得ている」と嘘を伝え、要塞司令官シュトックハウゼン大将の元に案内させた。
- 原作ではID偽装もしていたが何らチェックも受けず、易々とたどり着いている。
- 『Die Neue These』では艦から司令室に至るまで相応の距離を移動する描写があり、その上でローゼンリッター隊員の身体スキャニングなど、詳細な「関門」を潜り抜けている。最後のIDチェックについては些か手こずったが[51]、しびれを切らしたシュトックハウゼンが部下に一刻も早く連れてこいと急き立てたため、うやむやのうちにクリアした。
これらの関門を上手くクリアし、最終的にシェーンコップが要塞司令室にてシュトックハウゼンを拘束、人質に取ることで要塞中枢部を制圧、要塞を無力化することに成功した。
こうして要塞への侵入・制圧に成功した第13艦隊だったが、誘い出された要塞駐留艦隊はいまだ健在であった。ゼークト側へ「要塞内部で叛乱」との偽情報を流し疑心暗鬼を誘う。これを受けて要塞へ引き返そうとする(ここで本当の敵の意図を察したオーベルシュタインは罠だと帰還するのを止めるため説得しようとするが、ゼークトはそれを聞き入れなかった。愚行に呆れた彼は軍務を放棄、要塞陥落寸前に単身シャトルで脱出している)。何も知らない帝国軍艦隊に対し、ヤンは要塞主砲を2回放って数千隻の艦艇を破壊したうえ、降伏あるいは逃亡を勧告する。しかしこれを侮辱と受け取ったゼークトは「全艦突入して玉砕し、以て皇帝陛下の恩に報いる」と返信、艦隊全艦に命令して突撃を開始した。自身の独りよがりな軍事ロマンチシズムを他の兵を巻き込んでまで展開するゼークトに対し、ヤンは要塞主砲の第3射でゼークトの旗艦ほか艦艇1000隻ほどを「消滅」させた。これを見た駐留艦隊の各艦は次々と艦首を翻し、帝国領方面へ撤退していった。
- OVA版では要塞守備隊幕僚のレムラー中佐が要塞の全システムを凍結させ、外部の艦隊との接触の切断を試みており、シェーンコップらがロック解除のため中央制御室に赴いて帝国軍守備兵と戦うシーンが追加され、それに伴いヤンが第13艦隊の小規模性を生かし要塞に主力艦隊が入港しているように見せかけて時間稼ぎを行っている。またヤンの命令による要塞主砲の発射も2回のみで、1回目の発射後にシェーンコップの指摘が入り、ゼークトに降伏勧告を行うという流れとなっている。
- コミックスでは、シュトックハウゼンの拘束とあわせて艦船内に搭載していたローゼンリッター本隊の揚陸艦を突入させている。
その後ヤンはハイネセンにイゼルローン要塞占領の通信を入れ、同盟軍は7度目にして悲願のイゼルローン要塞攻略を果たした。ヤンはこの功績により中将に昇進した他、味方に一人の犠牲も出さずにイゼルローンを陥落させたため「奇跡のヤン(ミラクル・ヤン)」「魔術師ヤン(ヤン・ザ・マジシャン)」と称されるに至った。ヤンが司令官を務める第13艦隊も、第2艦隊の残存兵力を吸収して1個艦隊に昇格している。
この歴史的敗北は帝国を揺るがし、国事に無関心な皇帝フリードリヒ4世さえもが国務尚書を通して事情の説明を要求してきたほどである。帝国軍三長官(軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官)はそろって辞表を提出し、合わせてシュトックハウゼン・ゼークト両司令部唯一の生還者であるオーベルシュタインを、自分だけ生きて帰ってきたこと自体を白眼視して詰め腹を切らせようとした。しかし、オーベルシュタインはこの危機を逆用して、ラインハルトに己もまたゴールデンバウム王朝そのものを憎んでいるという本心を吐露して自らを売り込んだ。そしてラインハルトは皇帝に提示された三長官の地位を辞退し、彼ら全員の留任と引き換えにオーベルシュタインの助命及び元帥府への編入を取り付た。
この作戦は、当初よりローゼンリッターの連隊長のシェーンコップの裏切りの可能性が指摘されており、当の本人がその事を示唆しているが、ヤンは承知の上で「対策は無意味」としてあえて作戦を決行した。失敗しても自分とシトレが責任を取るだけでリスクは少なく、成功した場合は多大な成果をもたらすとの判断による。またオーベルシュタインは、艦隊を要塞からおびき出すこと、再度艦隊を要塞へ呼び戻すこと、この二点については「同盟の罠である」と看破し、意見具申を行っており、この点でも失敗の可能性があった。
ヤンと命令者であるシトレは、「この作戦が成功すればイゼルローン要塞の武力を背景に帝国と和平協定を結び、つかの間ではあっても有意義な平和が到来する」と期待した。しかし、その思惑とは正反対に、あまりにも鮮やか過ぎる成功が民衆に更なる戦果への期待をかきたて、後の自由惑星同盟軍による帝国領侵攻という無謀な作戦につながり、ひいては同盟滅亡の原因となり、ヤンはむしろこの作戦の成功を悔やむ事になる[52]。
カストロプ動乱
[編集]カストロプ動乱 | |
---|---|
戦争:カストロプ動乱 | |
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年5月 | |
場所:カストロプ領 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | カストロプ叛乱軍 |
指導者・指揮官 | |
シュムーデ提督 ジークフリード・キルヒアイス少将 |
マクシミリアン・フォン・カストロプ |
戦力 | |
シュムーデ艦隊 (3000隻) キルヒアイス艦隊(2000隻) |
メディアによって差異あり |
損害 | |
シュムーデ艦隊壊滅 | 反乱軍盟主の死亡、反乱鎮圧 |
宇宙暦796年/帝国暦487年5月。財務尚書だった故・カストロプ公オイゲンの不正蓄財に対する調査と、財産の返還を後継者である息子のマクシミリアンに求めたところ、彼はこれを拒否して武力抵抗に及んだ。帝国はシュムーデ提督率いる艦隊を討伐軍として派遣したが敗北する(原作では2度目の敗北が存在する)。ラインハルトの工作によってキルヒアイスが次に派遣された。
そしてキルヒアイスは鮮やかに勝利し、討伐作戦は成功した。この功績によってキルヒアイスは中将に昇進し、実質的にローエングラム陣営のNo.2となった。この戦いで、マクシミリアンによって監禁されていたマリーンドルフ伯フランツが救い出されたOVAではこの時ヒルダがキルヒアイスと会った事になっている。なお、カストロプ動乱は、原作/OVA/コミックで経過が異なる。
- 原作
- キルヒアイスはまずカストロプ本領へ進軍すると見せかけマリーンドルフ領の解放及びマクシミリアン軍への陽動を行う。本領に帰還している最中のマクシミリアン軍から小惑星帯に艦隊を隠し、敵艦隊の後背を取って完勝。
- OVA版
- カストロプ領にはフェザーンを通して入手した「アルテミスの首飾り」と同じ戦闘衛星が配備され、シュムーデ艦隊を鎧袖一触で壊滅させた。キルヒアイスはシュムーデ艦隊より少ない戦力で指向性ゼッフル粒子を使って破壊している。なお、兵卒(クルト伍長)の台詞で「指向性」であることを説明しているため、この発言が正しければ、原作と異なりこの動乱鎮圧が指向性ゼッフル粒子の初の実戦使用となる。OVA外伝「奪還者」の最後のシーンで「公式記録上ではアムリッツァ会戦で初めて指向性ゼッフル粒子が使用された」という説明がなされている。
- 道原かつみ版コミック
- マクシミリアンの妹エリザベートが率いる私設艦隊5,000隻と、それを惑星上から砲撃支援するマクシミリアンの反射衛星砲という強固な防衛網を敷くカストロプ陣営に対し、キルヒアイスは小惑星を用いた攻撃をしかける。カストロプ陣営はミサイルによる軌道操作で対抗するが、相次ぐ小惑星攻撃に業を煮やし、私設艦隊を出撃させた。
- だがエリザベートの艦隊が小惑星とすれ違ったとき、キルヒアイスの真の狙いが明らかになる。小惑星に隠れた小型艇部隊が艦隊をかすめて地表に降下、地上のビーム砲を破壊する一方、別の小惑星が突如破裂。その破片によって陣形を乱された隙を突いて、キルヒアイス艦隊が急襲・殲滅。防衛網を悉く突き崩されたカストロプ軍は壊滅した。
- 藤崎竜版コミックス
- 全体としては他のメディアよりも原作小説に準拠した展開であるが、キルヒアイスが討伐軍の司令官に任じられたことや、マリーンドルフ伯フランツがカストロプ公マクシミリアンの下に説得に訪れるも囚われたことは、いずれもフレーゲル男爵の策謀の結果とされている。
- また、ヒルダがキルヒアイス艦隊の巡航艦の兵士に成りすまして乗り込むも見つかり、その後はキルヒアイスと行動を共にしている。
- Die Neue These
- キルヒアイス艦隊以前にカストロプ領に侵攻戦闘したシュムーデ艦隊についての描写はなく、防衛側マクシミリアン率いる私設艦隊10,000隻と侵攻側キルヒアイス少将率いる帝国艦隊5,000隻による純然たる艦隊決戦となる。マクシミリアンは「主君のため命を捧げるのは臣下の誉れ」という言葉とともに全艦突撃を命じるが、帝国艦隊がシールド全開で私設艦隊をほぼ不殺のまま包囲する。キルヒアイスが意図的に設けておいた包囲の穴を私設艦隊はマクシミリアンの命令で突破するが、最後尾のマクシミリアン座乗の私設艦隊旗艦のみを帝国艦隊は穴を閉じて包囲。私設艦隊旗艦直前に移動してきた帝国艦隊旗艦バルバロッサからキルヒアイスが部下の助命を前提としてマクシミリアンへ降伏勧告をする。マクシミリアンは戦闘継続を命ずるも戦闘は行われず、艦橋にいる周囲の臣下から射殺される。その後私設艦隊は降伏勧告を受諾し、マクシミリアン以外の流血がないまま戦闘は終結。なお、マクシミリアンは発言する度に周囲の幕僚に殴る蹴るなどの暴行を加えていた。
そして、四作いずれにおいても、マクシミリアンは部下に殺される形で死んでいるが、その描写もメディアごとに微妙に異なる。
- OVA版:フェザーンへの亡命を目論み、家臣の一人に焼身自殺して身代わりになれと命令を下すも、自殺を命じた家臣本人に刺されたうえ、周囲の他の部下や寵姫たちにも次々と刺されて殺される。
- 道原版:敗北確定後に執事から「どうか潔くご自害を、ヴァルハラまでは私もお供いたします」と諭されても、自分の敗北を認められず降伏も拒否して喚いていたところを、背後から執事に拳銃で射殺されたように描写されている。
- 藤崎版:キルヒアイスに敗北後、領地の財貨を根こそぎ没収して自由惑星同盟への亡命を図る(藤崎版ではフェザーンは「おとぎ話」と呼ばれるような秘密の存在であり、フェザーン商人と取引がある者でもフェザーン本星の場所は知らないため)が、見限った家臣によって金貨の詰まった袋を頭部に落とされて殺害される。
- ノイエ版:座乗艦がキルヒアイス艦隊に包囲されながらも降伏勧告を無視し、私設艦隊に戦闘継続を命じるが、一隻たりとも命令に従わずに戦闘を拒否。艦橋の部下たちに八つ当たりのように暴行を加えながら重ねて攻撃を命じるが、部下の1人の「臣下のために命を捨てるのも主君の務めと存じます」の一言と共に複数の艦橋要員から銃撃され死亡するという、フレーゲル男爵(藤崎版を除く)に似た死に方をする。
クロプシュトック事件(OVA版時系列)
[編集]同事件のOVA版。原作ではアスターテ会戦前に起こっているとされる事件だが、OVA第1期に組み込むため、発生時期や各設定を変更して、本編第9話「クロプシュトック事件」とした。
全体的な構成は原作版に近いが、以下のような差異が存在する。
- 発生時期は原作では帝国暦486年3月、OVA版では同487年の半ば。
- 原作では貧血を起こして倒れた男爵夫人を椅子に座せたのは従者だが、OVA版ではラインハルト。
- 爆弾が仕掛けられていたのは原作では黒いケース。OVA版では杖。
- 爆発後、ラインハルトに職務質問した警備担当は、原作ではメックリンガー、OVA版ではシュトライト。
- テロが失敗に終わった後、クロプシュトックは原作では領地の惑星に逃げ込み、ブラウンシュヴァイク公率いる討伐艦隊を迎撃したが、OVA版ではオーディンの屋敷に火をつけ自害した。従ってミッターマイヤーが討伐艦隊のオブザーバーとして同行し、そこでブラウンシュヴァイク公の縁者を銃殺する一件はOVA版には存在せず、第87話で描かれた軍刑務所の拘禁/暗殺未遂のくだりも、この事件の関連によるものとは説明されていない。
- 討伐を命じられた陸戦隊の指揮官として、この回でフェルナーが登場している。
グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ暗殺未遂事件 (OVA版時系列)
[編集]同事件のOVA版。原作ではアスターテ会戦前に起こっているとされる外伝の事件だが、OVA第1期に組み込むため、発生時期や各設定及び経緯を変更して、本編第11話「女優退場」として発表された。
発生時期は原作では帝国暦486年5月、OVA版では同487年の半ば。
フリードリヒ4世がアンネローゼを伴ってオペラ見物をした帰り、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが声をかけたが、皇帝は特に関心を示す様子も無くそのまま退去した。その愚痴を聞いたフレーゲルがシュザンナを煽り、アンネローゼ暗殺の意思を啓発させたうえで、フレーゲル自ら手配を行った。ただしフレーゲル自身の名前は出ないように配慮し、シュザンナに疑惑と責任を集中させるように部下に命じている。
この直後、シュザンナがアンネローゼを狙っていることを示唆する密告を受け取ったラインハルトは、キルヒアイスと相談の上オーベルシュタインに調査を命じたが、同時にシュザンナがアンネローゼの暗殺を企てているという噂が宮廷や貴族社会でも広がり始め、それが原因でシュザンナは皇帝から愛人としての立場を解かれ、意を受けたリヒテンラーデ侯によって後宮からの退出を命じられた。狼狽するシュザンナにフレーゲルが再び近づき、暗殺の決行を促した。
この直後、アンネローゼの元にラインハルトが大怪我をしたという虚報が届き、その報を届けた軍の関係者に同行した。だが、その途中でミッターマイヤーとロイエンタールを乗せた車がすれ違い、ミッターマイヤーが車の中のアンネローゼを発見した。車の様子に不審を抱いた二人はラインハルトにその事を告げようとしたが、ラインハルトはこの時イゼルローン要塞の奪回に関する会議で多忙を極めていたため、代わりにキルヒアイスにその事を告げる。キルヒアイスは暗殺の密告と照らし合わせて抜き差しならぬ事態であると気が付き、ミッターマイヤー及びロイエンタールとともに車の行方を追った。
一方、ひと気の無い場所でアンネローゼを乗せた車が襲撃され、アンネローゼは森の中の山荘に連れ込まれた。山荘の中で待ち構えていたシュザンナは、アンネローゼに殺害の意図を告げ、酒に毒を入れて飲ませようとしたが、間一髪で3人が到着した。銃撃戦に勝利して護衛を倒した3人は山荘の中に突入したが、シュザンナがアンネローゼを盾にしていたためうかつに動けなくなってしまった。だが後から到着したオーベルシュタインが山荘の電源を切って照明を落とし、混乱の中でシュザンナと手下はアンネローゼを置いて逃亡した。
会議終了後に事態の報告を受けたラインハルトは、オーベルシュタインからフレーゲルが黒幕であることを知らされるが証拠が無いため反撃が出来ず、不本意ながらもキルヒアイスの進言を容れて宮廷警察に任せるしかなかった。一方、作戦の失敗を聞いたフレーゲルは、叔父ブラウンシュヴァイク公爵の力を借りてシュザンナに全ての責任をなすりつけた。シュザンナの処置は概ね原作版と同じであるが、勅命を読み上げるのはリヒテンラーデ侯爵の役目となったほか、処刑の現場にブラウンシュヴァイク公爵は立ち会っていない。
同盟軍の帝国領侵攻
[編集]宇宙暦796年/帝国暦487年8月~。アンドリュー・フォーク准将の案が採用されて実行された作戦。ヤンの第13艦隊を含む8個艦隊が帝国領に侵攻した。
この作戦が実行に移された背景として、ヤン・ウェンリーによる第7次イゼルローン要塞攻略の成功がある。味方の血を一滴も流すことなく要塞奪取に成功したが故に、同盟市民の間にはさらなる戦果を求める声が高まった。そこへ、ヤンを超える功績を打ち立てる機会を欲していたフォーク准将が、正規の手続きによらず個人的に、最高評議会議長ロイヤル・サンフォードに帝国領への侵攻作戦案を持ち込んだ。サンフォード議長とコーネリア・ウィンザー情報交通委員長ら多くの閣僚は、この作戦を以て帝国に勝利することで低下しつつあった政権の支持率を挽回できると目論んで充分な検討をせぬままに議決に踏み切り、最高評議会構成員11名のうちジョアン・レベロ財政委員長、ホワン・ルイ人的資源委員長、ヨブ・トリューニヒト国防委員長の3名が反対した他は全員が賛成して(原作では棄権した委員が2名)、作戦実施が決議された。
しかしその作戦計画の実態は稚拙極まりないもので、立案者であるフォーク准将の説明に曰く「大軍をもって帝国本土へ侵攻する」「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」といった抽象的かつ曖昧な語句に終始し、これをビュコックは「要するに行き当たりばったり」と酷評した。また、帝国軍の迎撃についても「容易に撃退できる」、帝国民衆の人心掌握についても「同盟軍が来れば進んで協力するに違いない」などの希望的観測に満ち溢れたものであった。
これに対して迎撃を一任されたラインハルトはオーベルシュタインが提案した焦土作戦を以て応じ、当初は帝国軍が領地から物資を引き上げつつ戦わずして引いたため、同盟軍は抵抗も無く進撃して、200の恒星系を占領し、そこで暮らす5000万の帝国国民を「解放」した。だが、まもなく同盟艦隊が補給線の限界点に達し、かつ「解放した市民」が欲する物資を提供するために同盟から大規模な補給部隊が送られたが、キルヒアイスの攻撃をうけて壊滅的打撃を受ける。補給を受けられなくなった同盟軍は現地において物資を徴発(実態としては略奪)せざるを得ず「市民」の反感を買った。さらに各星域において、帝国軍が大規模な攻勢に転じたため、同盟各艦隊はことごとく惨敗。同盟軍はアムリッツァ星域付近に集結し再反撃を画策したが、ここでも帝国軍の猛攻に曝されて、さらに損害をだしてイゼルローンへ撤退を余儀なくされた。
この戦いによって同盟は参加した将兵3000万の内2000万を失うという歴史的大敗を喫し、全将兵の四割が戦死するという致命傷を負う。この敗戦により同盟軍は慢性的な兵員不足に陥り、戦力が大幅に弱体化した。
さらに損耗した戦力を回復させるために人員を軍にまわした結果、社会のあらゆる面において人的資源が枯渇し、侵攻作戦以前から社会運営に支障をきたしていたものが、この敗戦の後は運用効率が大幅に悪化したため、各種の事故も多発するようになった(原作やコミックスでは、それら社会機構の弱体化により生じた事故について触れられている)。加えて、アスターテ会戦での遺族補償とイゼルローンの捕虜に対する支出などで財政負担が増していた中で、この戦いでの2000万人分の遺族補償までが嵩んでしまい、軍事、経済、社会の全てに於いて同盟に回復不可能の打撃を与えてしまう。この一連の事態は同盟内では「アムリッツァの愚行」と呼ばれ、同盟が滅亡する決定打の一つとなる。
この責任を取って、作戦総司令官であった宇宙艦隊司令長官のロボスと統合作戦本部長のシトレは退役。総参謀長のグリーンヒルと後方担当参謀のキャゼルヌはそれぞれ査閲部長と第14補給基地司令官に左遷。作戦を立案したフォークに至っては、作戦中にビュコックに叱責された事が原因でストレス性の盲目を発症。病院に送られるという結果になった。同盟の最高評議会のメンバーも全員辞表を提出したが、出征に反対したレベロとホワンは慰留され、やはり反対したトリューニヒトは最高評議会議長の地位に昇りつめた。
一方、侵攻作戦前まで帝国平民の間では同盟軍に対する敵意がそれほどなかったが、この侵攻作戦で補給の滞った同盟軍が苛烈なまでに物資の徴発(略奪)を行ったため、帝国平民は同盟に対し敵意を抱くこととなった。これは焦土作戦を提案したオーベルシュタインや、それを採用したラインハルトの目論見通りであった。
アムリッツァ前哨戦
[編集]同盟各艦隊の侵攻星域と、10月10日に一斉に反攻に転じた帝国艦隊は以下の通り。
- 第3艦隊(ルフェーブル)は惑星レージング上空でワーレン艦隊と交戦。OVA版では戦闘中に乗艦のク・ホリンが撃破された僚艦と接触し、そのまま付近の衛星に打ち付けられて撃沈。ルフェーブルは戦死した。
- 第5艦隊(ビュコック)はビルロスト星系でロイエンタール艦隊と交戦。最初から撤退の準備を整えていたため、3割の犠牲を出しながらも離脱に成功した。
- 第7艦隊(ホーウッド)はドヴェルグ星系でキルヒアイス艦隊と交戦し、敗走した。OVAでは圧倒的な数の艦隊に包囲され、戦闘描写なく降伏している。「Die Neue These」では、キルヒアイス艦隊の攻撃により戦闘可能艦が1割程になる大損害を受け事実上無力化された。その後はキルヒアイス艦隊からは放置されたが、ホーウッドが残存部隊を再編してキルヒアイス艦隊へ捨て身の奇襲攻撃をかけた。
- 第8艦隊(アップルトン)はヴァンステイド星域でメックリンガー艦隊と交戦。早々に撤退しアムリッツァに向かったが、3割の犠牲を出した。
- 第9艦隊(アル・サレム)はアルヴィース星系でミッターマイヤー艦隊に急襲され、ほとんど反撃も出来ないまま敗走。乗艦のパラミデュースが被弾してアル・サレムが重傷を負ったため、副司令官のモートン少将が指揮権を引き継ぎ、部隊を統率して敗走した(OVA版では、同盟軍の兵士が、ミッターマイヤー艦隊の迅速さを「疾風」に例えている。ミッターマイヤーに関して疾風という言葉が時系列上初めて使用されたのはこの時。「Die Neue These」ではこれのオマージュとしてアル・サレムのセリフとして登場)。
- 第10艦隊(ウランフ)は、惑星リューゲン上空でビッテンフェルト艦隊と交戦。艦隊の4割が戦闘不能となった段階で脱出作戦に移行。結局半数が撃破され、残りは脱出。ウランフは殿軍として脱出を援護したが、旗艦盤古が撃沈され戦死。コミック版では脱出した半数(4200隻)の指揮をアッテンボローが執っており、後にイゼルローン駐留艦隊として再編成されるヤン艦隊の戦力に編入されている。外伝においても、艦隊の全滅をアッテンボローの指揮で防いだ旨の記述がある(この功績で少将に昇進)。「Die Neue These」では経緯がより詳しく描かれており、第10艦隊は星系データを利用した射程外からの攻撃という地の利を活かしたビッテンフェルト艦隊に苦戦、三方から包囲され戦闘可能艦が1000隻余りという状況に追い詰められる。ウランフは唯一生き残った分艦隊司令官であるアッテンボローに損傷艦を任せ、自らは残存戦力を率いて血路を開き、残存艦の半数を脱出させ戦死した。
- 第12艦隊(ボロディン)はボルソルン星系でルッツ艦隊と交戦。戦力のほとんどを失った後、ボロディンは自殺した。指揮権を引き継いだコナリー少将は降伏する。「Die Neue These」では、第12艦隊は超長距離狙撃を行うルッツ艦隊に接触することもできず、8割の艦艇が航行不能となりボロディンは自殺した。
- 第13艦隊(ヤン・ウェンリー)はヤヴァンハール星系でケンプ艦隊と交戦。半月陣形を活用した艦隊運用で優位に立った後、隙をついて撤退し、第7艦隊との合流点であるドヴェルグ星域に向った。この戦いでポプラン、コーネフの同僚であるシェイクリとヒューズが戦死したことを知ったポプランは戦況の悪化を実感する。ドヴェルグ星系ではホーウッドを下したキルヒアイス艦隊と交戦したが、撤退命令を受けアムリッツァに向った。連戦と無理な撤退戦にもかかわらず、損害は1割程度に収まっている。藤崎竜の漫画版ではケンプ艦隊の苦戦は帝国軍の想定の内であり、第13艦隊をキルヒアイス艦隊の方向へ誘導するための布石として利用された。「Die Neue These」では、キルヒアイス艦隊との交戦中、第13艦隊の脱出援護を目的とした第7艦隊残存部隊の奇襲攻撃によりキルヒアイス艦隊が一時的に混乱状態に陥ったところで離脱に成功した。
アムリッツァ星域会戦
[編集]アムリッツァ星域会戦 | |
---|---|
戦争:同盟軍の帝国領侵攻 | |
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年10月14日 | |
場所:アムリッツァ星域 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥 | アレクサンドル・ビュコック中将 アップルトン中将 ヤン・ウェンリー中将 |
戦力 | |
ローエングラム艦隊 キルヒアイス艦隊 合計10万隻余 |
第5艦隊 第8艦隊 第13艦隊 |
宇宙暦796年/帝国暦487年10月14日。
帝国領に侵攻した同盟軍は投入した8個艦隊の内、前哨戦で第3/第7/第12艦隊の3個艦隊が全滅し、第9/第10艦隊も司令官を失った上半数近い損害を出し、司令部が健在だった第5/第8/第13艦隊もそれぞれ損害を出していた。ノイエ版では第7/第10/第12艦隊が壊滅、第3/第8艦隊が多大な損害を被り、第5/第9/第13艦隊もそれぞれ損害を被るも第3/第8艦隊よりは損耗率を抑えており、第13艦隊は9割の戦力を有していた(第5/第9艦隊の損耗率は不明)。藤崎版コミックスでは具体的な兵力が示されており、半壊した艦隊は何れも5000隻、三割の被害を受けた部隊は9000隻(第十三艦隊のみ11000隻)であり、合計艦数49000隻、帝国軍は主力のみで74000隻に達しており、参謀長のグリーンヒル大将は撤退を具申するも、ロボス総司令官はこのままでは引き下がれないとして、確たる今後の方針もないまま残存艦艇にアムリッツァ星域への集結を命じた。これに対してラインハルトは「奴らがアムリッツァを墓に選んだのなら、その願いをかなえてやろう」と冷笑し、キルヒアイスらの別動部隊を含む10万隻余りの艦隊を投入して同盟軍を圧倒した。
同盟軍は第5/第8/第13艦隊をそれぞれ左翼、中央、右翼の軸とし、これに第9/第10艦隊の残存艦艇を合流させ恒星アムリッツァ上に布陣した。また後方からの攻撃を避けるべく後背には機雷原を敷設した。ノイエ版では旧銀河連邦時代に放棄されたアムリッツァ採掘近傍の採掘惑星を盾に布陣しており、第10艦隊の残存艦艇を指揮下に収めた第13艦隊を左翼、第5艦隊を中央、第9艦隊を右翼の軸として前面に展開させ第3/第8艦隊を採掘惑星を盾にするように布陣させている。対する帝国軍はラインハルトの直属艦隊に加え各星系から同盟軍を追撃してきたロイエンタール、ミッターマイヤー、メックリンガー、ビッテンフェルト、ケンプ各艦隊を同盟軍前方に布陣させた。
会戦開始直後、同盟軍右翼の第13艦隊が恒星アムリッツァに核融合機雷を打ちこみ、その爆風を利用して帝国軍先鋒ミッターマイヤー艦隊に急接近し、多少の損害を負わせた。第13艦隊の突出を見た帝国軍左翼のビッテンフェルト艦隊は第13艦隊側面を突くべく突進し、ヤンはこれを躱すが、これにより中央でラインハルト艦隊と戦っていた第8艦隊の側面が露わになってしまい、直進してきたビッテンフェルト艦隊の攻撃をうけて第8艦隊は壊滅、潰走した(OVA版ではこの時アップルトンは戦死、原作ではそのような描写はない)。ここでビッテンフェルトは第13艦隊に再度攻撃を加えるべくその場で全艦隊に回頭を命じるが、その隙を突いて第13艦隊がビッテンフェルト艦隊に向け回頭し、猛攻撃を加えた。この時、ビッテンフェルト艦隊はワルキューレの発進を準備していたために回頭や回避運動が遅れて十分な対応がとれず、第13艦隊はかなりの戦力を削ぐことに成功した。その後ビッテンフェルトは強引に突破を図り何とか殲滅は免れている。ノイエ版ではワルキューレ発進後に第13艦隊がシールド用のエネルギーまで全て攻撃に注ぎ込んで猛攻を加え、黒色槍騎兵艦隊は味方のワルキューレが射線上に居るため思うように反撃できず、更にビュコックの第5艦隊の横撃を受けて大損害を負った。
アムリッツァ付近にて激戦が繰り広げられている中、キルヒアイス、ワーレン、ルッツの連合艦隊3万隻が同盟軍の背後に展開されていた機雷原を指向性ゼッフル粒子で除去して進攻し、同盟軍を挟撃することに成功した。なお、帝国軍の公式記録上では、この時初めて実戦で指向性ゼッフル粒子が使われた事になっている。これにより大勢は決し、同盟軍の残存戦力は撤退を開始した。ヤンはビュコックに残存戦力の集結とイゼルローン要塞への撤退の指揮を依頼すると共に、自らの第13艦隊を殿とし帝国軍の前に立ち塞がった。帝国軍は圧倒的な兵力を以て第13艦隊を包囲するも第10/第13艦隊との連戦で戦力が弱体化していたビッテンフェルト艦隊が穴となり完全な包囲網を敷くことはできなかった。第13艦隊は同盟軍の撤退を見届けた後、ビッテンフェルト艦隊を突き崩し脱出に成功した。
コミックスでは、キルヒアイス艦隊がミニブラックホールを用いて同盟軍後背の機雷原を突破したことで、挟撃されて恐慌したアップルトンの敵前回頭もあって同盟軍は甚大な被害を受ける。しかし、開戦前にヤンが恒星アムリッツァに仕込んでおいた、レーザー砲台を積んだ無人の太陽ボートでビッテンフェルト艦隊を打ち破り、第13艦隊が確保した退路から残りの艦隊も戦場から脱出している。 ノイエ版ではヤンが無人艦隊を包囲の切れ目に接近させたことで危機感を覚えたビッテンフェルトが延翼運動を行い、ただでさえ消耗した戦力が薄く分散してしまう。ここに損傷艦が多く戦力外だったアッテンボロー麾下の第10艦隊残存部隊が廃棄された採掘場の小惑星を無人艦を使い加速させて突入、小惑星の岩盤に激突した帝国艦隊が次々に爆沈していく、混乱する黒色槍騎兵艦隊に同盟軍は残った火力を集中、壊滅しつつある艦隊の中でビッテンフェルトは最後の一兵まで死守しようとしたもののオイゲン大佐の諌めに従って退却。同盟軍は脱出に成功した。
リップシュタット戦役
[編集]帝国暦488年4月6日~。帝国の門閥貴族が結束してリップシュタットの盟約を結んだリップシュタット貴族連合と、帝国の権勢を手に入れた宇宙艦隊司令長官ラインハルトと帝国宰相リヒテンラーデ侯爵の枢軸による権力争いである。リップシュタットは、貴族連合の盟主であるブラウンシュヴァイク公の別荘が建っている場所であり、ここで盟約の調印式が行われたことからこう呼ばれる。ラインハルトは彼ら貴族連合側を「賊軍」と呼称した。
貴族連合軍の拠点はガイエスブルク要塞。その他レンテンベルク要塞やガルミッシュ要塞も貴族連合軍の拠点として利用された。参加した貴族は3,740名。正規軍と私兵の総兵力は2,560万人。総艦艇数は15万隻以上。盟主はブラウンシュヴァイク公爵。副盟主はリッテンハイム侯爵。参加した主な貴族はフレーゲル男爵、ランズベルク伯爵、ヒルデスハイム伯爵他。参加した主な貴族系の軍人はメルカッツ上級大将、シュターデン大将、アンスバッハ准将、オフレッサー上級大将、ファーレンハイト中将他。連合軍の総指揮官はメルカッツが指名されたが、ブラウンシュヴァイク公、リッテンハイム侯を始め自分勝手な艦隊運用を行うことが多かった。
貴族連合軍に対抗するのはラインハルトの元帥府に登用された提督で、ラインハルト自らが陣頭指揮を執り、ミッターマイヤー大将、ロイエンタール大将、ケンプ中将、ミュラー中将、ケスラー中将、メックリンガー中将、ビッテンフェルト中将、及び参謀のオーベルシュタイン中将が連合軍との直接対決を担当した。辺境を制圧する別働隊はキルヒアイス上級大将が指揮を執り、ルッツ中将とワーレン中将が指揮下に入り、後にシュタインメッツ中将が合流した。
4月6日に帝国政府は貴族連合軍の討伐命令を発した。最初の戦闘は4月19日からのアルテナ星域会戦である。8月には貴族連合軍は支配星域のほとんどを失いヴェスターラントの惨劇によって人心も失った。貴族連合軍は最後の戦いと称して残存戦力を投入したガイエスブルク要塞攻防戦でも惨敗し、9月にはラインハルト軍によってガイエスブルク要塞は制圧され、貴族連合盟主のブラウンシュヴァイク公爵は部下のアンスバッハによって服毒による自害を強いられた。
9月9日に行われた捕虜の謁見でブラウンシュバイク公の遺体を手土産に投降したと見せかけたアンスバッハがラインハルトの暗殺を謀るが、キルヒアイスが身を盾にして防いだため未遂に終わる。オーベルシュタインの策謀でこの事件の犯人に仕立て上げられたリヒテンラーデが排除され、ローエングラム独裁体制が確立する。
藤崎版ではリップシュタットの盟約が結ばれる直前にブラウンシュバイク、リッテンハイム両者のもとにルビンスキーが超高速通信でコンタクトを取っており、この内乱自体がフェザーンの企図したものとされている。
アルテナ星域会戦
[編集]アルテナ星域会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国の内戦(貴族連合軍と銀河帝国軍の戦い) | |
年月日:宇宙暦797年/帝国暦488年4月19日~ | |
場所:アルテナ星域 | |
結果:銀河帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
貴族連合 | 銀河帝国 |
指導者・指揮官 | |
シュターデン |
ウォルフガング・ミッターマイヤー大将 |
戦力 | |
シュターデン艦隊 1万6000隻 |
ミッターマイヤー艦隊 1万4500隻 |
損害 | |
8000隻以上,ヒルデスハイム伯爵戦死 | 損害軽微 |
帝国暦488年4月19日~。ミッターマイヤー艦隊14,500隻とシュターデン艦隊16,000隻による、リップシュタット戦役における最初の武力衝突。
アルテナ星域においてミッターマイヤーは600万個の核融合機雷を敷いて相手の心理的動揺を誘った。両軍は3日間機雷原を挟んで対峙したが、ミッターマイヤー自ら流した「本隊の到着を待って全面攻撃に移る」との通信を傍受した門閥貴族たちが動こうとしないシュターデンに堪え切れず、半ば脅迫して開戦に踏み切らせた。
シュターデンは艦隊を本隊と別働隊の2手に分けてミッターマイヤーを挟み撃ちにしようと動いたが、その動きを読んだミッターマイヤーが先に動いて別働隊8000隻を攻撃。指揮官のヒルデスハイム伯爵を含めて全滅させ、さらに機雷原を時計方向に迂回してシュターデン本隊を背後から急襲。半減した艦隊は背後から襲われて敗北し、負傷したシュターデンはレンテンベルク要塞に逃げ込んだ(石黒監督アニメ版では胃を患っており、外傷が無いまま吐血で入院した)。 道原かつみのコミック版でもミッターマイヤーの動きはほぼこの通りだが、後方から襲撃されてもシュターデンは負傷も吐血もせずに、耳をふさいで戦況から目を逸らしていた。ところが、事前ミーティングでは5日後に到着する予定だったラインハルトの本隊がこのタイミングでアルテナ星域に到着したことで、勝機を失ったことを理解したシュターデンはレンテンベルグ要塞への後退を命じている。
ノイエ版ではミッターマイヤーが機雷原を構築した際に艦隊が航行可能な「啓開航路」を設けており、これを利用して原作同様に2手に分かれた敵艦隊の内ヒルデスハイム率いる別働隊の方を攻撃する。別働隊側は完全に背後を取られた状態だったため、ミッターマイヤー艦隊から一方的に砲撃を受ける形となり、さらにこれによって発生した爆発に反応した機雷が次々と別働隊に突入していき、別働隊は壊滅した。その後、本隊を率いるシュターデンは事を知るや、艦隊戦力の半数を失ったとあっては勝ち目は無いと判断し、レンテンベルク要塞へと撤退した。この敗報はガイエスブルク要塞に届き、オフレッサーにレンテンベルク要塞へ向かうようとの命が下されることとなった。
レンテンベルク要塞攻略戦
[編集]帝国暦488年4月~。フレイヤ星域のレンテンベルク要塞(貴族連合軍)とラインハルト本隊の戦い。
ラインハルトの本隊が周辺宙域の艦隊戦を制圧した後、中心部の核融合炉を奪取するために第6通路で白兵戦が行われた。制圧部隊の指揮はミッターマイヤーとロイエンタールが担当したが、守備隊を指揮する装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将の見せる化け物じみた白兵戦技量の前に、突入部隊は9回(石黒監督アニメ版では8回)にわたって攻撃したものの撤退を強いられる。この直後にオフレッサーは通信を介してラインハルトを挑発するが、その中でアンネローゼを侮辱したことからラインハルトは激昂し、ロイエンタールとミッターマイヤーに生け捕りを命じる。正攻法では埒が明かないと考えた二人は、落とし穴という原始的な罠を仕掛けることでオフレッサーの捕獲に成功し、オーベルシュタインはただちに彼をそのまま貴族連合に引き渡した。オーベルシュタインは、オフレッサーの部下は悉く処刑したうえで本人だけを無傷で貴族連合軍に還せば、オフレッサーがラインハルトと内通して貴族たちを裏切ったという疑心暗鬼を生じせしめると考えていた。
そしてオフレッサーはオーベルシュタインの思惑通り裏切り者と決め付けられて銃殺され、ラインハルト嫌いの急先鋒として有名だったオフレッサーが裏切り者とされた事で貴族連合軍内に動揺が生まれた。なお、シュターデンは要塞内の病院で捕虜にされた。
ノイエ版ではミッターマイヤー、ロイエンタール両名が事前に仕掛けを施した橋状の通路まで誘い込み、橋を落とした上でその下に満たしていた流体金属に電流を流して固形化させることでオフレッサーを捕らえている。
なお、この戦いの時に『ミンチメーカー』の異名を持つオフレッサーによる凄惨な戦いぶりと、ロイエンタールとミッターマイヤーに「お前たちの死体を鍋に放り込んでフリカッセを作ってやる」などと挑発したため、2人とその部下である装甲擲弾兵はしばらくの間フリカッセを食べることが出来なかった。特に道原かつみ版の漫画では戦闘後の食事がフリカッセであったため、勝者であるはずの将兵を更に苦しめる結果となった。
キフォイザー星域会戦
[編集]キフォイザー星域会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国の内戦(貴族連合軍と銀河帝国軍の戦い) | |
年月日:宇宙暦797年/帝国暦488年7月~ | |
場所:キフォイザー星域 | |
結果:銀河帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
貴族連合 | 銀河帝国 |
指導者・指揮官 | |
リッテンハイム侯爵 |
ジークフリード・キルヒアイス上級大将 |
戦力 | |
リッテンハイム艦隊 5万隻 |
キルヒアイス艦隊 3万隻(コミック版) 4万隻(OVA版) |
損害 | |
完全破壊1万8000隻以上 5000隻逃亡 残存兵力の大半は拿捕ないし降伏 |
損害軽微 |
帝国暦488年7月~。盟主のブラウンシュヴァイク公爵と反目した副盟主のリッテンハイム侯爵が、50,000隻の艦艇を率いてガイエスブルク要塞を離れ、ガルミッシュ要塞を本拠地とし、辺境制圧を担当していたキルヒアイス(コミック版では30,000隻、OVAでは40,000隻)とキフォイザー星域で対決した。
相手の艦隊陣形の不備を見抜いたキルヒアイスは、これを烏合の衆と評し、斜線陣形を敷いてルッツとワーレンに正面対決を任せる一方、自分は本隊として高速巡航艦800隻を率いて相手の右側面から突入、リッテンハイム軍は総崩れとなった。混乱したリッテンハイムはガルミッシュ要塞に転進と主張するところの撤退をはじめたが、その航路上に居た自軍の補給部隊を躊躇なく攻撃し、壊滅させて航路を拓き撤退した。リッテンハイム軍のうち要塞に撤退できたのは3000隻に満たず、18000隻が完全破壊され、5000隻が何処かに逃げ去り、残りは拿捕されるか降伏した。
補給部隊の生き残りであるコンラート・リンザー中尉が貴族連合軍を見限り、要塞に降伏を呼びかける事をキルヒアイスに申し出たが、その前に要塞の司令官室で、リッテンハイムに置き去りにされた敗残兵ラウディッツ中佐がゼッフル粒子を用いて自爆し、リッテンハイムは爆死した(藤崎版では、同席していたサビーネも爆死している)。キルヒアイスはその隙を突いてガルミッシュ要塞に兵を送り込み、制圧に成功した。
この戦いで、貴族連合軍は副盟主と全兵力の3割を失った。
シャンタウ星域会戦
[編集]シャンタウ星域会戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国の内戦(貴族連合軍と銀河帝国軍の戦い) | |
年月日:宇宙暦797年/帝国暦488年7月~ | |
場所:シャンタウ星域 | |
結果:貴族連合軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
貴族連合 | 銀河帝国 |
指導者・指揮官 | |
ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将 |
オスカー・フォン・ロイエンタール大将 |
戦力 | |
メルカッツ艦隊 1個艦隊以上 |
ロイエンタール艦隊 1個艦隊以上 |
損害 | |
一定以上の損害 | 一定以上の損害 |
帝国暦488年7月~。ロイエンタール艦隊とメルカッツ率いる貴族連合軍による会戦、貴族連合軍はシャンタウ星域を獲得し開戦以来はじめて勝利した。
貴族連合軍は三波にわたってロイエンタール艦隊を攻撃し全て撃退されたが、ロイエンタール艦隊の損害も意外に大きく、ロイエンタールはメルカッツが前線に立った事を見抜いた。そしてロイエンタールはメルカッツと本気で戦うことと貴族連合軍に勝ちを譲ることのリスクを天秤にかけて後者を選び、シャンタウ星域の放棄を決断[53]、7月9日、ロイエンタールは全戦線にわたって攻勢を行い、これに対しメルカッツは迎撃ののちタイミングをとらえて反撃、ロイエンタールは中央部隊を後退させつつ全軍を凹形陣形に編成。敵の動きの不自然さからメルカッツはロイエンタールが逃走する可能性を感じたが、これ以上戦う事なくシャンタウ星域を確保できるとして、貴族連合軍は追撃のスピードをゆるめた。ロイエンタール艦隊はその後も慎重に後退を続け、星域の外縁部に達し敵味方の距離が開くと艦隊をまとめて逃走した。
ガイエスブルク要塞宙域の艦隊戦
[編集]帝国暦488年8月~。貴族連合軍を挑発によって要塞からおびき出し、ラインハルトとオーベルシュタインがつくりあげた縦深陣によって貴族連合軍の艦隊を叩いた戦い。
シャンタウ星域の獲得によって狂喜する貴族連合軍に対し、ラインハルトは古典的な決戦状(内容は非常に挑発的)を送りつけ要塞を出て戦うよう挑発。 メルカッツは出撃を禁じていたが、ミッターマイヤー艦隊のたび重なる挑発的な行動に一部の若手貴族が出撃、ミッターマイヤーは偽りの敗北を演じ、以後貴族連合軍もメルカッツの命令を軽視するようになる。そして、もともと貴族連合軍の現状に失望していたメルカッツは失望を通り越して絶望を感じるようになった。
そして、盟主であるブラウンシュヴァイク公自身が出撃してきたとき、ラインハルトは貴族連合軍を縦深陣へと引きずり込み、本気を出して包囲殲滅しようとした。貴族連合軍は大打撃を受けて実質的に壊滅し、ブラウンシュヴァイク公の旗艦までもが被弾したとき、後衛のメルカッツが来援して退路を確保、ブラウンシュヴァイク公を救った。しかし、ブラウンシュヴァイク公はメルカッツを「なぜ、もっと早く助けに来なかった!」と叱責し、恩を仇で返した。ただし藤崎竜版では、箔をつけるために同乗させていたエリザベートが、旗艦被弾時に死亡したが故のことであり、遺品の髪飾りを片手に人目もはばからず泣き崩れていた。
ガイエスブルク要塞攻防戦
[編集]帝国暦488年8月(宇宙暦797年)。敗北の連続及びヴェスターラントの惨劇による民心の離反によって追い詰められた貴族連合軍が、半ば自暴自棄でラインハルトに艦隊決戦を挑んだ。ファーレンハイトはこの案に反対し出撃を拒否したが、メルカッツは帝国に殉じ、また妻子を人質にとられていたことから出撃した。OVA版ではこの時、メルカッツはファーレンハイトに「自分よりまだ若いので生きよ」と別れを告げた。
貴族連合軍の波状攻撃をラインハルトの陣営が要撃する形で一進一退が続き、貴族連合軍の抵抗力が限界に達した時点でラインハルトが総攻撃を命令。キルヒアイスらは高速巡航艦隊を率いて短時間で貴族連合軍に大損害を与えて圧倒し、貴族連合軍を潰走させた。ほぼ同時に、オーベルシュタインが潜入させておいた工作員ハウプトマン大尉の扇動によってガイエスブルク要塞で反乱が発生、主砲室(ガイエスハーケン)を制圧した。この敗戦で貴族連合軍は恐慌を来たし、貴族連合軍陣営では貴族主体の高級士官と平民主体の兵士とに分かれての同士討ちが相次いだ。残存する貴族連合軍の多くは降伏か逃亡した。
ファーレンハイトは要塞内で捕虜となったが、後日の謁見でラインハルトに従う事を誓い、ローエングラム陣営に帰順した。メルカッツは自殺しようとしたが、副官のシュナイダーに制止された。シュナイダーは同盟への亡命を薦め、懐疑的なメルカッツにヤン・ウェンリーを頼る事を提案した。それによってメルカッツは決心し、同盟に亡命した。
対ラインハルト強硬派のフレーゲル男爵は滅びの美学を唱えて戦艦の一騎討ちを画策したが相手にされず、最後は自分を見限った参謀のシューマッハを射殺しようとして、逆に周囲の部下に射殺された。シューマッハと部下は戦艦ウィルヘルミナを駆ってフェザーンに亡命した。
藤崎竜版コミックスでは、先の戦いで一人娘のエリザベートが死亡したこともあり、他メディア[54]よりも急速に貴族連合軍の瓦解が進んだ[55]ため、その描写は大きく変化した。
最後の攻防戦は行われないまま、メルカッツ提督はシュナイダー少佐の勧めに従って亡命。さら一部の貴族が、ラインハルトへの降伏の手土産にブラウンシュヴァイク公爵の首を差し出そうとして[56]自決するよう恫喝した。ブラウンシュヴァイク公爵は他メディアと同様にアンスバッハにラインハルトの簒奪を阻止するよう命令を下した後、服毒自殺目前で命乞いをするが、「滅びの美学の完成」を唱えたフレーゲル男爵の手によって無理矢理毒入りワインを飲まされ自決させられ[57]、直後にフレーゲル男爵自身も同じ毒入りワインをあおって自決した。
リップシュタット戦勝記念式典の悲劇
[編集]帝国暦488年9月9日、ガイエスブルク要塞で発生したテロ事件。
この日に至るまでに、ヴェスターラント虐殺の黙認を巡ってラインハルトとキルヒアイスの間にすれ違いが生じ、双方の精神的関係が変化する程の感情的対立を引き起こした。これに加えて、オーベルシュタインがキルヒアイスへの特別扱いを止めるように進言していた事もあって、以前はキルヒアイスのみ許されていた銃器の携行が認められず、キルヒアイスは丸腰で式典会場に入った。
捕虜となった高級士官の引見が始まり、ファーレンハイトがラインハルト陣営への帰順を表明して提督の列に加わった後、アンスバッハが服毒死したブラウンシュヴァイク公爵の死体と供に入場してきた。提督達は最初嘲笑をもって迎えたが、その死体にはハンド・キャノンが仕込まれており、アンスバッハはそれを取り出してラインハルトを狙った。だが一瞬早くキルヒアイスが飛び掛り、狙点が狂ったハンド・キャノンはラインハルト後方の壁を爆砕した。OVA版では、更にオーベルシュタインがラインハルトの前に立ちはだかり、盾となった様子が描かれている。
ラインハルトの謀殺に失敗したアンスバッハは、それでもキルヒアイスを振りほどこうとしてもがき、指輪に仕込んだレーザー銃でキルヒアイスの胸部と頸部を撃ち抜いたが、それでもキルヒアイスはアンスバッハを離そうとせず、他の提督が二人を引き離すまでその状態が続いた。
アンスバッハは自らの失敗を笑いながら歯に仕込んだ毒で自殺し、提督達は後処理に奔走するが、ラインハルトはそれらの一切が耳目に届かない精神状態となり、半ば無意識の様子でキルヒアイスに近づいた。既に視力が失われる状態になりながらも、キルヒアイスは「宇宙を手にお入れ下さい」という、その後のラインハルトにとって神聖不可侵となる誓約の言葉と、アンネローゼへの謝罪の言葉を告げ、そのまま息を引き取った。
惑星オーディン制圧作戦
[編集]帝国暦488年9月に発生した、ラインハルトの配下の提督達による帝国首都制圧作戦。
式典から3日を経てもラインハルトが虚脱状態のままでいる事を懸念した提督達は、何らかの対策を講じる必要性を感じたが、謀略の類が苦手な彼らは効果的な手段を思いつけずにいた。ロイエンタールが意を決し、そもそもの原因であるオーベルシュタインにアドバイスを求めるように提案したが、それを待っていたかのようにオーベルシュタインが現れ、アンネローゼに説得してもらう事と、さらにこの期に乗じて帝都を制圧し、かねてから謀略をめぐらしていると情報があったリヒテンラーデをキルヒアイス殺害の主犯に仕立て、先手を打って排除する事を進言した。提督達は、その没義道な策と反省の色も見せないオーベルシュタインに不快と嫌悪を感じながらも半ばリヒテンラーデへの八つ当たりで進言を受け入れ、各艦隊から高速艦艇二万隻強を選りすぐって首都星オーディンに向かった。
通常は20日を要する行程を14日で踏破したため脱落艦艇が相次ぎ、作戦開始の時点でオーディンに到達出来たのは3,000隻程度だった。ミュラーがその内の800隻で衛星軌道を制圧し、他の艦艇は首都周辺に強行着陸して帝国中枢に向かった。ミッターマイヤーが宰相府で国璽を奪取した一方、ロイエンタールはリヒテンラーデを拘禁した。この様子を屋敷のバルコニーから眺めていたヒルダは、新しい時代の到来を予感している。なお、リヒテンラーデを処断した事が、後にロイエンタールとエルフリーデ・フォン・コールラウシュとの関係に関わってくる。
これと前後して、ラインハルトはオーベルシュタインの手配でアンネローゼと超光速通信で会話を交わし、少なくとも虚脱状態からは抜け出した様子が描かれている。また、その後のロイエンタールとの通信の内容が、後の叛乱の呼び水となっているように描かれている。
ラインハルトが一応味方であったリヒテンラーデの親族たちに下した処分は、「リヒテンラーデ本人は自決、女子供は辺境に流刑、そして10歳以上の男子は全て死罪」という過酷なものであった。これにより、ゴールデンバウム王朝を良くも悪くも支えてきた門閥貴族階級は事実上滅亡し、彼らに支えられてきたゴールデンバウム王朝も名目上の存在となった。
救国軍事会議のクーデター
[編集]宇宙暦797年3月30日~8月。後にリップシュタット戦役と呼ばれる帝国の内乱で、ラインハルトが貴族を討伐するにあたり、介入を防ぐために同盟に内乱を引き起こすべくクーデターを仕掛けた。エルファシルを巡る戦いで捕虜になっていたアーサー・リンチ元少将が工作員となって同盟に逆潜入し、救国軍事会議となるメンバーを募りクーデターの実行を促した。3月30日にアンドリュー・フォークがクブルスリー大将を襲って重傷を負わせたのを皮切りに4月3日に惑星ネプティス、4月5日に惑星カッファー、4月8日に惑星パルメレンド、4月10日に惑星シャンプールの4か所で次々に反乱が発生し、さらに4月13日、ハイネセンで演習に偽装した兵力展開が行われ、そのまま決起に至った。なお、銀河帝国では4月6日にはリップシュタット戦役に突入している。
救国軍事会議の議長はドワイト・グリーンヒル大将。スポークスマンはエベンス大佐。主な参加者は情報部のブロンズ中将、第11艦隊司令官のルグランジュ中将など。
しかしヤンが参加を拒否し、さらに救国軍事会議に敵対を表明したため、内乱状態となる。
ヤン艦隊はドーリア星域会戦で第11艦隊を全滅させ、更にハイネセンの防宙システム「アルテミスの首飾り」を完全に破壊し、救国軍事会議を無力化させた。
これに先んじて、ヤン暗殺に失敗して寝返ったバグダッシュが、ヤンの意を受け、このクーデターが帝国の謀略によるものであると放送した。リンチがそれを認めたため、救国軍事会議は大義名分を失った。グリーンヒルは降伏を決意したが、その前にリンチを始末しようとして逆に射殺される。しかしその数秒後にリンチも射殺された。エベンスはリンチと謀略の存在の秘匿を命じた後、通信でヤンに降伏を宣言・自決、クーデターは鎮圧された。
帝国と同盟で相前後して内乱が生じ、いずれも大損害を被ったとはいえ、帝国側ではラインハルト独裁の新体制で社会が活性化したのに対し、同盟側では帝国領土侵攻作戦失敗の傷を更に深めるという反対の結果となる。またヨブ・トリューニヒト政権はクーデターを経て更に権力体制が強化される事となり、同盟の弱体化は更に進むこととなった。
ドーリア星域会戦
[編集]宇宙暦797年5月18日。ルグランジュ中将の第11艦隊とヤン艦隊の戦い。
ドーリア星域会戦 | |
---|---|
戦争:自由惑星同盟の内戦(救国軍事会議と自由惑星同盟軍【ヤン艦隊】の戦い) | |
年月日:宇宙暦797年/帝国暦488年5月18日 | |
場所:ドーリア星域 | |
結果:自由惑星同盟軍(実質的にヤン艦隊)の勝利 | |
交戦勢力 | |
救国軍事会議 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ルグランジュ中将 |
ヤン・ウェンリー大将 |
戦力 | |
救国軍事会議に賛同した同盟軍第11艦隊 | ヤン艦隊 1個艦隊以上 |
損害 | |
ほぼ壊滅 | 損害軽微 |
第11艦隊がヤン艦隊を挟撃するため艦隊を二分したのに対し、この動きを察知したヤンは先行して第11艦隊本隊7000隻に左側面から接近・攻撃し、亀裂が生じた箇所にグエン・バン・ヒューの分艦隊が突入。強力な抗戦を跳ね除けて第11艦隊本隊を前後に分断し、後方を半包囲して殲滅。さらにルグランジュの率いる前方部隊を撃滅した(ルグランジュは自殺)。つづいて、フィッシャー率いる後衛部隊が抑えていた第11艦隊別働隊(最高責任者が定められておらず行動が遅れた)をフィッシャーと挟撃し撃破した。戦闘全体において、第11艦隊の各艦は絶望的な戦況に関わらず降伏を拒否して激しく抵抗し、全滅した。
石黒監督版OVAでは、ルグランジュは第11艦隊を二分しておらず、そのままグエンの中央突破を受けている。ヤン艦隊は、ルグランジュが指揮する後方部隊を半包囲して撃破したのち、アッテンボローが交戦していたストークス率いる前方部隊を殲滅した。
藤崎版では、後述のハイネセン侵攻と組み合わせる形で、独自の展開になっている。
Die Neue Theseでは、原作通り第11艦隊は本隊と別働隊に二分し、ヤン艦隊を両側面から挟撃する策を取ったが、対するヤンは別働隊の足止めをフィッシャーに委ね、本隊に戦力を集中させて数的優位を形成。グエンの突撃によって第11艦隊本隊を分断して後方集団を半包囲する一方、ルグランジュの指揮する前方集団の動きはアッテンボローが阻止した。第11艦隊は度重なる降伏勧告も拒否していたが、ルグランジュが自身の責任において降伏を命じた(直後に自殺)。
ハイネセン進攻
[編集]宇宙暦797年8月。惑星ハイネセンで発生したヤン艦隊の進攻。
ヤンが考案した作戦で「アルテミスの首飾り」を破壊して救国軍事会議を無力化し、降伏に至らしめた戦い。
バーラト星系第6惑星シリューナガルから1立方キロメートル/10億トンの氷塊を1ダース切り出してバサード・ラム・ジェット・エンジンを装着、光速に近い速度まで加速、相対性理論に添って重量を増した氷塊をアルテミスの首飾りに衝突させ破壊するという戦法が採られた。救国軍事会議メンバーの戦意を挫く心理的・政治的効果を狙い、また、元々アルテミスの首飾りの存在が首都星の傲慢の原因であると見做していたヤンは全ての衛星の破壊を命じたが、これは後に査問会に呼びつけられる口実の一つとなった。
藤崎竜のコミックス版では、首飾りとルグランジュ艦隊によるヤン艦隊への挟撃作戦が取られたが、ヤンが原作同様に1ダースの氷塊を射出して首飾りを残らず破壊。直後にルグランジュ艦隊はグエン・バン・ヒューの猛攻を受けて劣勢に追い込まれた。しかしその後、救国軍事会議が降伏を表明したために、ルグランジュ艦隊は壊滅する前に戦闘を停止している。
イゼルローン回廊帝国側宙域の遭遇戦
[編集]宇宙暦798年/帝国暦489年1月。イゼルローン駐留艦隊の内、アッテンボロー少将が率いる2,200隻の分艦隊が、回廊の帝国領方面を哨戒している最中に、ケンプ艦隊の分艦隊であるアイヘンドルフ艦隊1,630~1,790隻(OVA版において艦内放送で告知された推定艦艇数の最小値~最大値)と遭遇し、戦闘状態に突入した。アッテンボローの分艦隊は兵士の多くが補充されたばかりの新兵であり、その中に、軍曹待遇に昇進してスパルタニアンの搭乗資格を得たばかりのユリアン・ミンツも含まれる。原作ではアッテンボローの初登場の場面である。
アイヘンドルフ艦隊は当初ヤン艦隊の名前を恐れて積極的な攻勢を躊躇ったが、8~9時間後、相手の多くが素人であると気づき攻勢に転じようとした。しかし前後してヤン艦隊のほぼ全軍1万隻以上(OVA版でのラインハルトへの報告では帝国軍の10倍の戦力)が援軍に駆けつけたため、急遽撤退に転じた。ヤンは帝国軍が戦意を失って逃走したため、無用な流血を避けるためと元来の性格のため追撃戦は行われなかった。シェーンコップは、これを「戦わずして勝つ」と評した。
ユリアン・ミンツは軍曹待遇で初陣となったこの戦いでワルキューレ3機撃墜と巡航艦1隻を完全破壊し、曹長待遇に昇進した。
第8次イゼルローン攻防戦
[編集]第8次イゼルローン攻防戦 | |
---|---|
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い | |
年月日:宇宙暦798年/帝国暦489年4月~5月 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:同盟軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
カール・グスタフ・ケンプ大将 † ナイトハルト・ミュラー大将 |
アレックス・キャゼルヌ少将 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ客員中将 ヤン・ウェンリー大将 |
戦力 | |
ガイエスブルク要塞 要塞駐留艦隊 (16,000隻) 動員兵力200万人 |
イゼルローン要塞 要塞駐留艦隊 増援艦隊 5,000隻 |
損害 | |
総司令官戦死 ガイエスブルク要塞喪失 艦艇15,000隻 戦死/行方不明180万人 |
艦艇5,000隻弱 |
宇宙暦798年/帝国暦489年4月~5月。帝国軍科学技術総監シャフト技術大将の提案した「ガイエスブルク要塞をイゼルローン回廊にワープさせ、イゼルローン要塞との戦いに利用する」というプランに基づいて実行された戦い。投入された艦艇は16,000隻。動員された将兵は200万人。作戦司令官はケンプ大将。副司令官はミュラー大将。ワープ装置の設置と実験も両者が行い、3月19日にワープ実験に成功、ラインハルトによって作戦が正式に承認される。
これに先立ち、フェザーンのアドリアン・ルビンスキーとルパート・ケッセルリンクの工作によってヤンに叛乱の意図ありという情報が同盟内に流され、ヤンはハイネセンに呼び戻されて同盟政府の査問会にかけられた。その最中の4月10日、ガイエスブルク要塞がイゼルローン回廊に出現し、戦闘が開始された。この知らせにより、査問会は不承不承ヤンを解放し、4つの寄せ集めの独立艦隊約5000隻を援軍として救援に向わせた。到着は最短で4週間後であった。
宇宙暦798年/帝国暦489年4月10日、哨戒に出ていた同盟軍ギブソン艦隊(OVAではニルソンのユリシーズに変更されている)がイゼルローン回廊にてガイエスブルク要塞のワープアウトに遭遇し、イゼルローン要塞司令部に敵来襲を報告した。ヤン不在のイゼルローン要塞は、司令官代理のキャゼルヌ少将が指揮を執り、キャゼルヌはハイネセンに敵襲の報を知らせると共に、ヤンが要塞に帰還するまで防御に徹する戦略を採る事にした。ガイエスブルク要塞は互いの要塞主砲の射程内に入るまで、イゼルローン要塞に接近を続け、数時間後、ガイエスブルク要塞の主砲ガイエス・ハーケンとイゼルローン要塞の主砲トゥールハンマーの撃ち合いという派手な砲撃戦によって開戦の火蓋が切られた。
次に、帝国軍は強襲揚陸艦を進行させて装甲擲弾兵による要塞の占領を試みるが、要塞外壁にてシェーンコップ率いるローゼンリッター連隊の迎撃にあい、揚陸作戦は失敗した。しかし、ケンプにとってはこれは序の口に過ぎず、帝国軍は数日の膠着期間を挟んで次の作戦を開始した。ケンプは駐留していたミュラー艦隊を出撃させ、要塞後方に配置したうえで、ガイエスブルク要塞をさらにイゼルローンへと接近させた。再び要塞主砲による撃ち合いが始まったが、やがて引力によって両要塞の流体金属層が前面に引き寄せられて厚みを増したことで、イゼルローン要塞の側はトゥールハンマーが流体金属に没して使用不可となってしまうと同時に後方の流体金属層が干上がり、外壁が露出し、そこにミュラー艦隊が猛攻を仕掛け、史上初めて艦砲によってイゼルローン要塞の外壁が破られた(イゼルローン要塞の流体金属層はOVA独自の設定であり、これを利用した戦法も同様にOVA独自のものである)。
ミュラーは外壁に開いた穴からワルキューレと強襲揚陸艦を突入させ、要塞内部の制圧を図るも、要塞から緊急発進した戦闘機隊によって防がれた。その最中、メルカッツ客員提督が駐留艦隊の指揮を提案し、キャゼルヌもそれを承認した。要塞より出撃した艦隊はミュラーの裏をかいて敵艦隊を各分艦隊と浮遊砲台のクロスファイアポイントに誘導し、包囲攻撃をかけた。ミュラーの必死の防戦と要塞のケンプがアイヘンドルフ/パトリッケン両少将に予備兵力5,000隻を与え救援に向かわせたため、ミュラー艦隊はかろうじて脱出に成功した。しかし、帰還したミュラーはケンプから叱責を受け、後方に下がるよう命令されている。これを受けミュラーは今回の任務に際して功を焦った様子が見られるケンプ[58]が功を独占するつもりではと疑念を抱き、帝国軍内部に不協和音が生じることとなった。
同盟軍はキャゼルヌ司令官に実戦指揮の経験が少ない事と、彼がヤンの到着を待つという戦略を採ったため、常に後手に回る展開となった。しかし、幕僚の努力に加えて客員提督であるメルカッツの助言や艦隊指揮を得て、帝国軍をよく防いだ。また、ヤンの不在が帝国軍には知られず、前遭遇戦のアイヘンドルフ同様ケンプが自重した事もあって、攻略されるには至らなかった。ミュラーは後方に回されると同時期に捕虜からの情報と相手の様子からヤン不在とイゼルローンへの援軍を予測し、約3000隻を索敵と警戒の網として回廊全体に張り巡らしたが、ケンプが意見を却下したため確認と待ち伏せが出来なかった。
その後は膠着状態が続き、5月に帝国の偵察部隊が同盟の援軍を発見した。ケンプは時間差による各個撃破を立案したが、ユリアンがその作戦を見抜いて逆手に取る事を提案した。これにより、帝国軍は挟撃されて殲滅されかかったが、窮地に追い込まれたケンプがガイエスブルク要塞をイゼルローン要塞にぶつけて破壊する事を思いついた。そもそもラインハルトとヤンはいずれもガイエスブルク要塞による特攻を考慮しており、もし最初にその戦術を採られれば対処のしようがないとヤンは述べている。しかしヤンはガイエスブルク要塞が特攻に向けて全力加速する為の全力推進中の12基の通常航行用エンジン中1基を艦隊全体のピンポイント砲撃で破壊した。結果、ガイエスブルク要塞はバランスを崩して艦隊を巻き込みながらスピンを始め、そこをイゼルローン要塞がトゥールハンマーで砲撃し、ガイエスブルクは爆発・崩壊に至った。ケンプは要塞内で死亡。要塞内及び周辺宙域の帝国軍残存部隊のほとんどが爆発に巻き込まれる形で損害を被り、ミュラーは旗艦リューベックの艦橋で肋骨4本(OVAでは、肋骨が数本と診断されている)の骨折を含む全治3ヶ月の重傷を負いながらも、艦橋に医療ベッドを据え付けさせて敗残兵を纏めて撤退の指揮を執り続けた。こうして、ジークフリード・キルヒアイス終焉の場でもあるガイエスブルク要塞は、宇宙から消え失せた。
その後援軍の一隊であるアラルコン少将と駐留分艦隊のグエン少将以下約5,000隻がヤンの意思に反して追撃に向ったが、援軍として途中まで来ていたミッターマイヤー上級大将とロイエンタール上級大将の両艦隊に逆撃され全滅。それを知ったヤンは撤退し、帝国側も引き上げたため、戦いは終了した。
帝国軍は15000隻以上の艦艇と180万人の将兵を失ったが、ケンプは敗死しながらも上級大将に特進。ミュラーも罰は受けなかった。シャフトは敗戦の責任こそ問われなかったものの、用済みと判断したフェザーン側の密告により汚職が暴露され、ケスラー率いる憲兵隊に逮捕された。
OVA版では、この戦いの裏には「アムリッツァ、クーデターで同盟が傷ついたのに合わせ、今度は帝国に傷ついてもらってパワーバランスを維持しよう」というルビンスキーの意図があった、という設定が付け加えられ、移動要塞の技術もシャフトが開発したのではなく、フェザーンからの横流しということになっている。
しかし、ラインハルトの改革によって立ち直った帝国と、アスターテ会戦・アムリッツァ会戦・クーデターの傷が癒えぬ同盟との国力差は、すでに「調整不能」なまでに開いてしまっていた。それを知ったルビンスキーは、フェザーン伝統の勢力均衡策を放棄。同盟を切り捨てて「勝ち馬」ラインハルトに全面的に乗り換える、そしてフェザーンではなくルビンスキー個人が「馬」を御して銀河を制することを決意する。
なお、道原版コミックではこの戦闘とヤンの査問会は全面カットされ、ケンプは明確な描写もなくいつの間にか登場しなくなっている。
神々の黄昏(ラグナロック)作戦
[編集]宇宙暦798年/帝国暦489年8月~翌年5月。ラインハルトの魔手から救出した皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁して銀河帝国正統政府の樹立を画策したレムシャイド伯らと、彼らの亡命を受け入れた同盟政府を皇帝誘拐の共犯者として懲罰を与える、という名目でラインハルトが発令した同盟への侵攻作戦。この誘拐は「ラインハルトに同盟討伐の口実を与えて取引しよう」と画策したルビンスキーの策であったが、ラインハルトはその策を見抜いて恫喝を加えたうえで、一気にフェザーンをも制圧した。宣戦布告は8月20日(銀河帝国正統政府の樹立宣言と同日)。軍内部への具体的な説明と作戦名の発表は9月19日。最終的な人事の発表は11月8日。最初の戦闘は11月20日(第9次イゼルローン要塞攻略作戦)。戦闘終了は翌年5月5日(バーミリオン星域会戦)。公式の書類上の終結は5月25日(バーラトの和約)。
フェザーン回廊に向う本隊の布陣は、
- 第1陣:ミッターマイヤー上級大将
- 第2陣:ミュラー大将
- 第3陣:ローエングラム元帥(オーベルシュタイン上級大将とヒルダ中佐待遇もブリュンヒルトに同乗)
及び直属艦隊:アルトリンゲン中将、カルナップ中将、ブラウヒッチ中将、グリューネマン中将、トゥルナイゼン中将
- 第4陣:シュタインメッツ大将
- 第5陣:ワーレン大将。遊撃隊はビッテンフェルト大将とファーレンハイト大将。
イゼルローン要塞への陽動作戦は、司令官がロイエンタール上級大将。指揮下にルッツ大将とレンネンカンプ大将、後詰めとしてアイゼナッハ大将が配された。なお、ケスラー大将とメックリンガー大将はそれぞれ首都防衛司令官/後方担当として残留した。
ルビンスキーの逃亡はゆるしたもののフェザーンの制圧、イゼルローン要塞の奪還、そしてランテマリオ会戦での同盟軍主力の撃破までは、ほぼラインハルトの思惑通りに進んだ。しかし、同会戦の終了間際から、イゼルローン要塞を放棄したヤンが艦隊を自由に運用して対抗し始めたため、帝国軍は圧倒的な戦力を持ちながらも補給に不安をきたして次第に不利になっていく。ラインハルトはヤンとの決戦を行うため、自分をおとりにしてヤンを誘い出し、包囲する作戦に出た。ラインハルトを戦場で倒す事が同盟存続の唯一の道であると考えていたヤンは、罠である事を承知の上でラインハルトとの艦隊決戦に赴き、バーミリオン星域で対戦した。戦闘自体は途中でミュラーの来援があったものの、ヤンが事実上の勝利をおさめたが、ブリュンヒルトが砲撃される直前、ヒルダの提案を受けたミッターマイヤーとロイエンタールがハイネセンの同盟政府を降伏に至らしめたため、戦闘は停止した。
戦闘停止後の混乱時に、ヤンはメルカッツに「動くシャーウッドの森」を託して逃亡させた。艦艇は60隻。同行者は副官のシュナイダーやポプラン、リンツ及び将兵11,820人。なお、この中にカーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長が含まれている事が後日判明する。また、戦闘終了から24時間後の5月6日23時に、ヤンとラインハルトは史上唯一の会談に臨んでいる。
この作戦の後の6月22日、オーディンに戻ったラインハルトは皇帝に即位し、ローエングラム王朝が成立した。ミッターマイヤーは宇宙艦隊司令長官に、ロイエンタールは統帥本部総長に、オーベルシュタインは軍務尚書に就任。3者とも元帥号を授与された。それ以外の主要提督もそれぞれ上級大将に昇進したが、特にバーミリオン会戦での功績が認められたミュラーは3元帥に次ぐ上級大将の主席とされた。同盟では、ヤンが退役して念願だった年金生活に入り、フレデリカと結婚した。ビュコック、アッテンボロー、シェーンコップも退役したがキャゼルヌは辞表を却下され後方本部長代理に任じられた。ムライ、パトリチェフ、フィッシャーは辺境勤務に任じられた。ユリアンはボリス・コーネフやルイ・マシュンゴ、途中で合流したポプランらと供に親不孝号で地球に向った。
第9次イゼルローン攻防戦
[編集]宇宙暦798年/帝国暦489年10月9日~翌年1月19日。
神々の黄昏作戦中の陽動として行われた戦闘。しかしロイエンタールが指揮する帝国軍三個艦隊約3万6000隻はヤンをイゼルローンに拘束し、今後の策を立てる余裕を与えぬために、ルッツ曰く「嫌がらせの攻撃」、ロイエンタール曰く「あらゆる布石を惜しまない」、陽動といえども手を抜かぬ攻勢をかけた。
第9次イゼルローン攻防戦 | |
---|---|
戦争:神々の黄昏作戦 | |
年月日:宇宙暦798年/帝国暦489年10月9日~翌年1月19日 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:銀河帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟ヤン艦隊 |
指導者・指揮官 | |
オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将 |
ヤン・ウェンリー大将 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ客員提督(中将待遇) ダスティ・アッテンボロー少将 |
戦力 | |
ロイエンタール艦隊 ルッツ艦隊 レンネンカンプ艦隊 3万6000隻 |
ヤン艦隊 1個艦隊以上 |
損害 | |
一定の損害 | 一定の損害 意図的なイゼルローン要塞の放棄 |
最初の戦闘では、ヤンは旗艦ヒューベリオンを囮とすることで帝国軍の突出を誘い、その隙にローゼンリッターがロイエンタールの旗艦トリスタンへの突入に成功、シェーンコップとロイエンタールとの一騎討ちに至った。
その後も戦闘は断続的に続き、レンネンカンプがアッテンボローの罠にかかって3割(約2000隻)の損害を出した。12月9日にロイエンタールは援軍の要請(に見せかけたフェザーン侵攻作戦の開始要請)をラインハルトに上申した。フェザーンが占領された後の1月19日に、ヤンが放棄したイゼルローン要塞にロイエンタールが無血で進駐。本戦闘は終了した。
なお、ロイエンタールはヤン艦隊の追撃を進言したベルゲングリューンに対し、「野に獣がいなくなれば猟犬は無用になる。だから猟犬は獣を狩りつくすのを避ける…(「狡兎死して走狗煮らる」)」という、極めて意味深な返答をして却下している。
フェザーン侵攻作戦
[編集]宇宙暦798年/帝国暦489年12月。イゼルローン要塞への陽動攻撃に乗じて、神々の黄昏作戦の本隊が行った侵攻作戦。
第一陣のミッターマイヤー艦隊が出陣したのは12月9日と推定。当初はイゼルローン方面への援軍という名目で出陣し、兵士にもそう説明されていた。ミッターマイヤー艦隊の全兵士にフェザーン占領が目的であると伝えられたのは12月13日。艦隊がフェザーンの衛星軌道に到達したのは同24日。フェザーンには対抗するだけの軍事力が無いため、第1陣のミッターマイヤー艦隊二万隻強のみで即日無血占領が完了したが、ルビンスキーはいち早く逃走し、拘束には失敗した。第2陣のミュラー到着は同月28日、ラインハルトの本隊到着は同月30日16時50分。
この時、駐在武官としてフェザーンに赴任していたユリアンは、ヤンとの事前の打ち合わせでこの事態を予想しており、マシュンゴ及び弁務官のヘンスローとともに逃亡。翌年1月24日に、マリネスクの手引きにより、ベリョースカ号でフェザーンを脱出した。なお、ドミニク・サン・ピエールの手配でデグスビイ司教が同乗しており、フェザーンと地球教に繋がりがある事をユリアンに話した後、薬物中毒で死亡した。
ランテマリオ星域会戦
[編集]ランテマリオ星域会戦 | |
---|---|
戦争:神々の黄昏作戦 | |
年月日:宇宙暦799年/帝国暦490年2月8日 | |
場所:ランテマリオ星域 | |
結果:帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥 | アレクサンドル・ビュコック元帥 |
戦力 | |
ラインハルト艦隊 シュタインメッツ艦隊 ミッターマイヤー艦隊 ミュラー艦隊 ワーレン艦隊 ファーレンハイト艦隊 ビッテンフェルト艦隊 戦闘用艦艇11万2700隻 支援用艦艇4万1900隻 将兵1,660万 |
第1艦隊 第14艦隊 第15艦隊 艦艇3万2900隻 将兵520万6000人 |
宇宙暦799年/帝国暦490年2月8日。フェザーンを占領して同盟領に侵攻した帝国軍本隊と同盟軍本隊の戦い。
帝国軍は1月30日にポレヴィト星域に集結し「双頭の蛇」の陣形に編成を変えた。第1陣=ラインハルト、第2陣=シュタインメッツ、第3陣(事実上の先陣)=ミッターマイヤー、第4陣=ミュラー、第5陣=ワーレン、予備兵力=ファーレンハイト/ビッテンフェルト。戦力は戦闘用艦艇11万2700隻、支援用艦艇4万1900隻、将兵1,660万人。
同盟軍は2月4日にバーラト星系から進発した。司令官がビュコック、総参謀長がチュン・ウー・チェン、副官がスーン・スールズカリッター。参加艦隊はパエッタ中将の第1艦隊に加えて、同盟中から集めた艦艇で新設された第14艦隊と第15艦隊。新設された二つの艦隊の司令官には、第14艦隊にはモートンが、第15艦隊にはカールセンが、それぞれ中将に昇進して任命された。兵力は艦艇数3万2900隻、将兵520万6000人。この戦いに先立ってビュコックは元帥に、チュン・ウー・チェンは大将に昇進している。
2月8日13時40分、同盟軍は帝国軍ミッターマイヤー艦隊の側面5.1光秒の距離に位置し、その5分後に攻撃を開始した(OVAでは13時に5.2光秒の距離に位置し、攻撃開始のタイミングを計っていたが、味方の一部が勝手に砲撃を始めてしまうという混成艦隊の弱みが出てしまったため、そのまま全軍に攻撃を命令し、戦闘状態に突入した)。ビュコックは慎重に戦闘を進めるつもりだったが、帝国軍の示威行動に驚いた同盟軍の一部が動揺し、半狂乱になって攻撃を行った。この攻撃がミッターマイヤー艦隊に亀裂を生むという意外な戦果をあげ、そのまま押し込む形で同盟軍前衛部隊は前進し、帝国軍に少なからぬ損害を与えた。だが、ほとんどヒステリーに近い状態になって行った攻撃により、同盟軍の陣形は乱れ、統制も失われかけていた。またビュコックは、ミッターマイヤー艦隊がすぐに体勢を立て直すであろう事を察し、同盟軍全軍に後退と陣形の再編を命じた。同盟軍が後退するタイミングで、体勢を立て直したミッターマイヤー艦隊が反撃に転じ、さらに他の帝国軍艦隊が同盟軍の左右両翼に攻撃を開始したため、同盟軍は一転して守勢に立たされる。同盟軍はビュコックの指揮の下、地の利を生かして戦線を立て直すが、攻勢に出ることは望めなくなる。翌2月9日、同盟軍は守勢に徹してヤン艦隊の到着に望みをつなぐ作戦に転じて恒星風のエネルギー流を挟んで反対側に布陣しなおした。ミッターマイヤーも負けない事に徹したビュコックの戦術に手こずる事となる(原作小説では具体的な戦術の描写は無いが、OVA版においては、チュンの献策により、帝国軍前衛部隊の艦艇の機関部だけを破壊し漂流させて「盾」することで帝国軍主力からの攻撃を防いでいる)。だが、消耗戦の末に戦力差は明確となってくる。9日11時、同盟軍にとどめを刺す事を決めたラインハルトは、待機していたビッテンフェルトに出撃を命じた。ビッテンフェルトは帝国軍と同盟軍の間のエネルギー流を強行突破すると、同盟軍の集中攻撃に耐えながら反撃して同盟軍主力を粉砕、勝敗が決した。だがその時、帝国軍の背後からヤン艦隊が接近している事が判明したため、帝国軍は一時パニックを起こした。その隙に同盟軍本隊の残存戦力は戦線離脱に成功した。ラインハルトは体勢を立て直すため一時撤収し、戦場から2.4光年離れたガンダルヴァ星域の第2惑星ウルヴァシーを占領して侵攻の拠点とした。ヤンはビュコックの本隊と合流し、バーラト星系に撤退した。
なお、この時、帝国軍の駆逐艦ハーメルンIVを乗っ取ったユリアン達が、最後尾のフィッシャー艦隊に接触し、合流を果たしている。
ライガール・トリプラ両星域の会戦
[編集]宇宙暦799年/帝国暦490年3月1日~。ヤン艦隊と、帝国軍のシュタインメッツ/レンネンカンプ艦隊との連戦。
この直前にゾンバルト少将が護衛する補給艦隊がヤン艦隊によって全滅させられたため、ラインハルトはウルヴァシーの恒久基地化の邪魔になるヤン艦隊を排除するべく、シュタインメッツ艦隊に探査を命じた。そして3月1日、ライガール・トリプラ両星域の中間にあるブラックホールの安全領域ぎりぎりに(危険宙域である半径9億6千kmから僅かに外れた半径10億kmに)ヤン艦隊が凸形陣で布陣している事を知り、本隊に連絡した。これをうけて本隊からはレンネンカンプ艦隊が援軍に赴いた。
同日21時にヤン艦隊とシュタインメッツ艦隊が戦闘状態に突入。当初は背水の陣を敷いたヤン艦隊をシュタインメッツ艦隊が半包囲する形での砲撃戦を展開していたが、翌日5時30分にヤン艦隊が中央突破・背面展開戦法を使ってシュタインメッツ艦隊の包囲陣を破り、後方に回ってブラックホールに追い込み始めた。罠にかけられたことを知ったシュタインメッツは果敢に応戦(OVA版では、「態勢を入れ替えられたのなら、また入れ替えればいい」と同じく中央突破・背面展開による反攻まで試みている)するがついに力尽き、ある程度の犠牲が出る事は覚悟して4時方向に転進(つまりヤン艦隊に横腹を見せ)、シュバルツシルト半径ギリギリをかすめて高速を得るブラックホールを利用したスイングバイ航法で脱出に成功した。しかし、その間延々と狙い撃ちにされた上にブラックホールに多くの艦艇を呑まれ、最終的に8割の損害を出した。
なお、この戦いの後、亜光速の氷塊や移動要塞やブラックホールといった、SFならではのガジェットを用いた戦いは行われていない。
シュタインメッツ艦隊との戦いの後逃走する事を考えていたヤンは、援軍がレンネンカンプ艦隊だと知り予定を変更。「戦うことなく自分からわざと後退する」という艦隊運用で心理戦を仕掛け、タイミングを計って攻勢を仕掛けた。先のイゼルローン攻略戦で後退するヤン艦隊を追撃して罠にはまったレンネンカンプ艦隊は、ヤンの読みどおり疑心暗鬼に陥って今度は後退してしまい、そこにヤンの先制攻撃を受けて潰走。同日13時にようやく秩序を回復したものの、その時既にヤン艦隊に逃げられてしまっていた。
この戦いに先立って、ヤンは元帥に昇進し、勤労意欲に目覚めたアイランズ国防委員長の承認により、ヤン及びヤン艦隊がほぼ自由に戦術と戦略を組み立てる事が出来るようになった。帝国駆逐艦乗っ取りという功績で中尉に昇進したユリアンと銀河帝国正統政府を事実上見限ったメルカッツが復帰し、キャゼルヌも中将に昇進してイゼルローンから引き続き同行、シェーンコップは中将に、フレデリカは少佐に昇進した。さらにOVA版ではモートンとカールセン、及び第14/15艦隊の残存部隊が合流している。
タッシリ星域の会戦
[編集]宇宙暦799年/帝国暦490年3月。ヤン艦隊とワーレン艦隊の戦い。
ゾンバルト少将が護衛していた補給艦隊が全滅したため、ウルヴァシーの物資が不足し始めた。この事態を打開するため、ワーレンが自分自身の艦隊で同盟の補給基地を襲って物資を奪う案を上申し、ラインハルトの消極的な承認を得て進発した。これを察知したヤンはタッシリ星域で護衛が不十分に見える補給コンテナ群を配置し、故意にワーレン艦隊に奪わせた。ワーレン艦隊の中央部分に取り込まれた補給コンテナ群が、自動射撃装置による僅かな反撃を開始したため、ワーレンは物資を奪う事を断念して補給コンテナ群を攻撃した。しかしその補給コンテナ群は液体ヘリウムを満載していたブービートラップであり大爆発が発生(原作では言及されていないが、OVA版において「ヘリウム爆発」との表現がある)。そこにヤン艦隊が砲火を浴びせたため、ワーレン艦隊は大きな損害を出しつつ敗走した。また会戦の後にワーレンは星域から離脱するヤン艦隊を偵察、同盟各地の補給基地を転々として特定の拠点を設けない、いわば同盟領全域を利用したゲリラ戦を展開している事、すなわち正攻法での捕捉撃滅が不可能であることを突き止めた。
バーミリオン星域会戦
[編集]宇宙暦799年/帝国暦490年4月24日~5月5日。ヤン艦隊とラインハルトが直接指揮する艦隊の戦い。当初から参加した兵力は、帝国軍が艦艇18,800隻/将兵229万5400人。同盟軍が艦艇16,420隻/将兵190万7600人。ただし帝国軍は途中からミュラー艦隊約8,000隻が参戦した。
バーミリオン星域会戦 | |
---|---|
戦争:神々の黄昏作戦 | |
年月日:宇宙暦799年/帝国暦490年4月24日~5月5日 | |
場所:バーミリオン星域 | |
結果:諸説あり | |
交戦勢力 | |
銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム | ヤン・ウェンリー |
戦力 | |
ラインハルト艦隊 ミュラー艦隊 |
ヤン艦隊 第14・15艦隊の残存戦力 |
損害 | |
艦艇14,820隻 戦死/行方不明159万4400名 |
艦艇7,140隻 戦死/行方不明89万8200名 |
ヤン艦隊をおびき出すため、ラインハルトは全艦隊を同盟領各地の占領のために分散させて本陣を手薄にした。ここまではヤンの読み通りだったが、ラインハルトはヤンの読みをも超えて自ら直属艦隊を率いてハイネセンに向かい、「分散させた諸艦隊が最も遠ざかった時、ラインハルト自身はハイネセンに突入している」という状況を作り出した。それによって、ヤンはそれより前に、諸艦隊が近くにいるうちにラインハルトと戦わざるを得なくなった。罠である事を承知の上でヤンはラインハルトとの「決闘場」となるバーミリオン星域に向かった。
正面から対峙した両艦隊が砲撃を開始したのは4月24日14時20分。双方とも相手の奇策に対応しようと考えていたため、結果として平凡な正面攻撃の応酬で始まった。砲戦が続くなかトゥルナイゼンが功をあせって突出、帝国軍の艦列を乱しヤン艦隊の集中砲火を浴びる事となった。一方の帝国軍も反撃し、主砲を撃ち合う消耗戦の様相を呈していく。ラインハルトもヤンも互いに予期せぬ乱戦状態のまま3日も戦い続けた。
帝国軍の援軍が到着する事を予想したヤン艦隊は、27日に艦隊の再編成を行い速攻に転じた。いち速くラインハルトの旗艦を撃破して、勝敗を決しようという作戦である。最初からこうなる事を見越していたラインハルトは、時間稼ぎを目的としてペティコートのように24段に及ぶ防御陣を敷いて対応した。そして突破された防御陣は再結集して最後尾の防御陣となり、ヤン艦隊は永遠に防御陣を突破できない物心両面から疲労と損傷を蓄積させていくという作戦である。ヤンは帝国軍の防御壁を第8陣まで突破したがラインハルトの戦術を見抜くことが出来なかった。その後ユリアンが見抜いてその見解を披露した。
その見解に基づき、ヤンは4月30日に一旦後退して小惑星帯に入る。そこで艦隊を二分し、まず帝国軍の左翼から攻勢をかける。帝国軍ではラインハルトが囮艦隊を使った作戦であることを見抜くも、この左翼に突出してきた艦隊が囮か本隊かの判断に迷う。総参謀長オーベルシュタインに促される形で、ラインハルトはこの攻勢部隊が本隊であるとし、24段の防御隊形を解除しての攻撃を命令した。しかしこの部隊は、マリノ率いる2,000隻の分艦隊と牽引した隕石で1万隻程度の艦艇に見せかけた擬似艦隊であり、完全にラインハルトは裏をかかれた。各分艦隊が囮に引き寄せられてブリュンヒルトから離れた瞬間、ヤンの本隊が小惑星帯から進発してブリュンヒルトに向った。帝国軍の各分艦隊はブリュンヒルトの方向へ引き返し、同盟軍本艦隊の縦列に側面から攻勢をかけることで分断を図った。それを予期していたヤンは本艦隊を凹型(右舷90度に会頭)に再編、囮艦隊は隕石群を帝国軍に撃ち込み、本艦隊と挟撃して完全な包囲下に収める。帝国軍分艦隊はラインハルト座乗の総旗艦ブリュンヒルトと完全に分断されてしまう。
この時、同盟軍は帝国軍の艦隊ほとんどを包囲下に置く事に成功したため、同時にヤン艦隊の一部艦隊が、わずかな護衛に伴われるのみのブリュンヒルトに接近した。だが同盟軍が砲撃を開始する寸前に、ミュラー艦隊8,000隻(OVAでは強行軍に脱落艦が相次いで当初は6割ほど)がバーミリオン星系に到着しブリュンヒルトの防御にあたる。このミュラー参戦が5月2日のことである(時刻は不明)。ミュラーが最初に反転してきたのは、占領したリューカス星域の補給基地で抵抗が起きなかったためである。ミュラーの参戦により戦線は再び膠着し、戦艦アキレウスが撃沈しモートンが戦死した。
その後、ヤンはカルナップが包囲網を突破しようとしている事に気がついてその部分の包囲網を解き、ミュラーが逆に味方を救出するため包囲網に入るように仕向けた。ミュラーとカルナップが逆方向から殺到して混乱状態になった瞬間、ヤン艦隊は一点集中砲火を仕掛けてカルナップを戦死させ、さらにミュラーの旗艦リューベックをも大破、撃沈に至らしめた。ミュラーは辛うじて脱出に成功し戦艦ノイシュタットを旗艦としたが、これも撃沈され、更に移乗した戦艦オッヘンブルクまでも撃沈される。なおも戦艦ヘルツェンに移乗し、計4度司令部を移して奮戦するものの、ヤン艦隊の進撃を完全に食い止める事は出来なかった。それでもこの抗戦で稼いだ時間が大きな意味を持つこととなり、ミュラーはこの戦いぶりから後に「鉄壁ミュラー」と勇名を讃えられることとなる。
5月5日22時40分、ヤン艦隊は再びブリュンヒルトを射程内にとらえようとしていた。しかし、事前にヒルダの策を受けたミッターマイヤー・ロイエンタールの別働隊約3万隻がハイネセン上空を制圧。自らの命が危うくなったヨブ・トリューニヒトは、日頃の大口を忘れて時間稼ぎさえせずに無条件停戦命令を下し、戦闘は終結した。足掛け12日にも及んだバーミリオンの戦いの最終的な参加将兵と損耗率は帝国軍が26,940隻/326万3100人、艦艇損傷率87.2%、死傷率72%。同盟軍が16,420隻/190万7600人、艦艇損傷率81.6%、死傷率73.7%、となっており両軍合わせて約250万もの犠牲者が出た。
なお、この戦闘に先立つ4月11日、ヤン艦隊は小惑星ルドミラの補給基地で半日休暇を取ったが、その際ヤンはフレデリカにプロポーズし受諾されている。また、フレデリカに密かな恋心を抱いていたユリアンは、二人の結婚を祝福しつつもそれを忘れるためという一面もあって、戦闘後に生き残ったら地球教の調査に向う事をキャゼルヌに伝えている。
- このバーミリオン星域会戦においてどちらが勝利したかについては、作中における後世の歴史家の意見は分かれている。公正さを主張したい歴史家は「戦術では同盟の勝利。戦略では帝国の勝利」「戦場では同盟の勝利。戦場の外では帝国の勝利」などと主張している。当事者であるヤンは戦術より戦略を重視する立場から、ラインハルトは勝利を得たのでなくて譲られたという事から、ともに自らを勝利者とは認めず、互いに相手に対して劣等感を抱いていたと説明されている。なおヤン艦隊の一部幕僚は、自分たちの負けを認めず、ラインハルトに勝利を譲ってやっただけと考えていた(回廊の戦いにおけるアッテンボローの扇動より)。
ハイネセン制圧作戦
[編集]宇宙暦799年/帝国暦490年5月5日。ミッターマイヤーとロイエンタールによる同盟首都星ハイネセンの侵攻作戦。
バーミリオン会戦におけるラインハルトの危機を感じたヒルダが、5月2日に独断でエリューセラ星域にいたミッターマイヤーと面談し、「今から救援に行くよりそちらの方が早い」と「同盟首都ハイネセンを占領し、同盟政府にヤンに戦闘停止を命じるよう強要する」策を促した(これはヒルダの持論でもあった)。当初は懐疑的だったミッターマイヤーも説得を受けて同意し、隣のリオヴェルデ星域にいるロイエンタールに連絡して同行を要請した。ロイエンタールは様々な想いを抱きながらも同意し、ミッターマイヤーとともにバーラト星域に急行した。両艦隊とも5月4日にバーラト星系に到着。翌5日にはハイネセンの衛星軌道に達し、同盟政府に無条件降伏を勧告、国防委員長のアイランズとビュコックは最後まで抵抗することを主張した。しかし、それまで職務放棄し、また日頃国民を扇動、最後の最後まで抵抗しろと主張していたトリューニヒトが反対派の抵抗を地球教徒の手を借りて排除し、時間稼ぎ一つしようとせずに降伏勧告を受諾。ブリュンヒルトを眼前に捉えていたヤン艦隊に即時停戦することを命令した。そしてトリューニヒトは苦悩も反省の色もなく、厚顔にも自分と家族の安全の保証、帝国での地位までもを自分から要求した。「アルテミスの首飾りがヤンによって全て破壊されていなければ抗戦できた。ヤンが何だ」というのが、本人の弁であった(ただしOVA版においては、既に帝国軍は過去のカストロプ動乱時にアルテミスの首飾りとまったく同じ防衛兵器を完全に破壊している)。
この作戦によって帝国軍はハイネセンを無血開城する事が出来、神々の黄昏作戦は帝国軍の勝利に終わった。また、この作戦を考案したヒルダの戦略/政略センスが非凡なものである事が知られる事となった。ただしバーミリオン星域の戦闘で負けたまま勝利を譲られた形になったラインハルトのプライドは大きく傷つき、しばらくの間はヒルダに対して複雑な感情を抱かずにいられなかった事を自ら口にしている。
ゴールデンバウム王朝の終焉と、ローエングラム王朝の開闢
[編集]宇宙暦799年/帝国暦490年6月20日。
エルウィン・ヨーゼフ二世が「救出」されたあとの帝位は、生後わずか八ヶ月の女児カザリン・ケートヘンが(形の上で)継いでいた。そのカザリン・ケートヘンの父親であり親権代行者でもあるペクニッツ公ユルゲン・オファーは、オーベルシュタインに呼び出され、「女帝」カザリン・ケートヘンの退位宣言書と「帝位をラインハルトに禅譲する」宣言書を突きつけられた。立ち尽くして冷汗と脂汗を流すユルゲン・オファーに対し、オーベルシュタインはペクニッツ家の安泰およびカザリン・ケートヘンへの生涯年金支給の保証書をも提示した。それで冷汗と脂汗は安堵の汗に変わってユルゲン・オファーは二通の宣言書に署名し、かくしてゴールデンバウム王朝は人知れず滅亡した。
宇宙暦799年[59]/新帝国暦1年6月22日。
ラインハルトは新無憂宮において大々的に即位式及び戴冠式を行い、自ら帝冠を戴いた。ローエングラム王朝が、ここにはじまった。だがその場には、ラインハルトが最も求める二人の姿はなかった。
本伝作中の戦役(飛翔篇~落日篇)
[編集]キュンメル事件~地球教支部での戦闘
[編集]宇宙暦799年[60]/新帝国暦1年7月6日、ハインリッヒ・フォン・キュンメル邸で発生したラインハルト暗殺未遂事件及び憲兵隊による地球教支部の制圧。
7月1日、フランツ・フォン・マリーンドルフが、余命いくばくも無い甥のキュンメル男爵が自邸への行幸を望んでいる事を新皇帝となったラインハルトに打ち明けた。同情したラインハルトはその願いを聞きいれ、6日、16名の随行者を伴ってキュンメル邸を訪ねた。中庭に通された一行は、地下にゼッフル粒子が充満し、スイッチ一つで起爆できる事をキュンメルから聞かされ、騒然となった。だがラインハルトは平然とした様子を崩さず、それがキュンメルの苛立ちを誘った。
その一方で、帝国に「保護」されていたトリューニヒトが憲兵隊司令部のケスラーと面会し、キュンメルの計画と背後の地球教の存在を暴露した(この理由については諸説あるが、それを踏み台に帝国の政治に関わろうとした、という説が有力)。ケスラーはトリューニヒトを実質的に拘禁した後キュンメル邸に連絡を入れ、通話不能と分かると、近隣の武装憲兵隊の責任者であるパウマン准将以下2400名を現場に向かわせた。更にラフト准将の隊に、カッセル街19番地の地球教オーディン支部の出動を命じた。支部では戦闘となり、憲兵隊と信者の双方に犠牲者が出たが、最終的に憲兵隊が制圧に成功し、ゴドウィン大司教を逮捕した。
この時、膠着状態となっていたキュンメル邸にようやくパウマン准将の隊が到着した。キスリング達はその気配に気づき、機会をうかがっていた。だがその間に、キュンメルはラインハルトが胸の(キルヒアイスの遺髪と写真が入っている)ペンダントを無意識に触っている事に気が付き、それを見せるように命令した。それによって自分の無意識の行動に気が付いたラインハルトは、その命令を拒絶した。シュトライトやキスリング達がラインハルトに時間稼ぎの説得を試みたが、譲れない内容を秘めたラインハルトは頑として応じなかった。逆上したキュンメルは無理に奪おうとし、ラインハルトはキュンメルの横面を殴りつけてそれを防いだ。その空白を突いてキスリングがキュンメルにタックルして起爆スイッチを奪い、身体が衰弱していたキュンメルはその衝撃に耐えられずに危篤状態になり、ヒルダの腕の中で死亡した。さらに邸内に隠れていた地球教の信者がラインハルトを銃撃しようとするが失敗し、ラインハルトは無事に引き上げた。
この事件の後、マリーンドルフ親娘は自主的に謹慎したが、ラインハルトは短期間で復帰を命じ、また「殺人犯の凶器まで処罰する必要はない」と、地球教に扇動されたキュンメルの罪も不問に付した。その一方、10日の御前会議で真の「殺人犯」である地球教討伐を決定し、ワーレンにその任を命じた。
ヤン・ウェンリーを巡る惑星ハイネセンの戦い
[編集]宇宙暦799年/新帝国暦1年7月16日~24日。
7月16日、マスカーニ少将指揮下の同盟軍工作部隊がレサヴィク星系において、バーラトの和約によって保有を禁止された戦艦と宇宙母艦(空母)の爆破処分の準備作業を行っていた時、素性を隠して「義勇兵集団」と名乗った動くシャーウッドの森の一党が作業部隊を襲撃し、破壊される寸前だった艦艇の内戦艦464隻/宇宙母艦80隻を「入手」した(された側は「強奪」と表現した)。また「義勇兵集団」の呼びかけに応じたハムディー・アシュール少佐以下4,000名もの「お調子もの」が合流した。
「この一件はヤンが企ててメルカッツが実行した」という密告が同盟要人によって帝国の高等弁務官府にもたらされ、レンネンカンプはそれを根拠にフンメル首席補佐官と話し合い、同月20日、同盟政府に対してヤンを逮捕するように勧告した(その直後、オーベルシュタインから超光速通信が入り、レンネンカンプに「これを利用してヤン一党を一網打尽にすべき」と更なる陰謀が吹き込まれている)。帝国の勧告を受けたジョアン・レベロは窮地に立たされ、ホワン・ルイのアドバイスでさらに決断に迷ったが、(OVA版では密告者の一人である)オリベイラの提案を受け入れて逮捕した。
22日、自宅にいたヤンが中央検察庁の使者(と名乗った半ダースほどのダークスーツの男達)に逮捕された。フレデリカは事前にその危険性を感じていたが、ここに至って我慢の限界を感じ、ヤンを奪回すべく、シェーンコップとアッテンボローに連絡をとった。同盟政府の意を受けた警察が二人を追尾し始めたが、ローゼンリッターの迎撃に遭い壊滅、二人はローゼンリッター(及びバグダッシュ)と合流してジョアン・レベロを拉致し、同盟軍にヤンとレベロの身柄交換を要求した。この時、統合作戦本部長の任にあったロックウェルが応対し、この件が広まれば帝国につけこまれると考え、レベロを見殺しにしてヤンを謀殺することを決断したが、この事を予期していたシェーンコップ達がヤンの監禁場所に向かっていた。間一髪で救い出されたヤンは、シェーンコップやフレデリカ達とともにレベロを監禁している場所に行き、自分達がレンネンカンプを人質にしてハイネセンを離れるので、策謀に加わらなかったキャゼルヌやムライ、フィッシャー、パトリチェフの責任を追及しないでほしいと提案、レベロは不承不承ながら受諾した。
翌早朝、高等弁務官府がおかれているホテル・シャングリラをローゼンリッターが急襲、レンネンカンプの拉致に成功したが、自分がヤンに負け、さらにレベロに売られた事を悟ったレンネンカンプは、監禁された部屋で首吊り自殺を遂げた。ヤン達はレンネンカンプがまだ生きている事にして交渉を続行、同盟軍から巡航艦レダIIを手に入れ、24日にハイネセンを脱出している。なお、脱出直前に事態を知らされたキャゼルヌは、迷うこと無く後方勤務本部長代理の職を捨て、家族とともにヤン一党と合流している(後日、冗談の範囲であるが、キャゼルヌ夫人がこの時のことを口にしている)。
地球教討伐作戦
[編集]宇宙暦799年/新帝国暦1年7月27日。ワーレン艦隊による地球教本部(地球・ヒマラヤ山脈のカンチェンジュンガ山)への討伐作戦。発端となったキュンメル事件の発生は7月6日。出征を決定した御前会議は10日。ワーレン艦隊が太陽系外縁部に到達したのは24日。同日艦隊旗艦サラマンドルの艦橋で討伐を阻止するためにワーレンを狙ったテロが発生。27日に昏睡から脱したワーレンはコンラート・リンザー中佐及び2個大隊に地球教本部の偵察と進路設定を命令。30日までに作戦が終了。8月1日にはワーレン艦隊第1波はオーディンへの帰路に着いた。
御前会議においてビッテンフェルトは主戦論を展開し、自分をその任に就けてほしいと願い出たが、ラインハルトはその願いを却下し、ワーレンに討伐を命じた。これは神々の黄昏作戦でヤンに敗北した3提督の内、ワーレンだけが名誉挽回の機会を得ていなかった事による。命令を受けたワーレンがオーディンを出立した日は明記されていないが、日を置かず高速艦艇だけ(5440隻)で出立し、航行途中で艦隊編成をしている点から、御前会議の翌日もしくは翌々日ではないかと推測される。太陽系外縁部に到達した24日、艦隊旗艦サラマンドルの艦橋で行われた作戦会議の後、ワーレンは兵士に扮した地球教徒に毒を塗ったナイフで襲われた。一命を取り留めたが、毒に侵された左腕を失ったワーレンは、その事から右腕の無いリンザーを思い出し、先行を命じた。
これに先立つ7月10日、ユリアン一行が地球に到着し、14日に地球教本部に潜入している。先行の命令を受けたコンラート・リンザーは本部内でフェザーンの商人達であると名乗ったユリアン一行の協力を得て各所を制圧し、地球教本部の内部構造を突き止めた。ワーレンはその情報をもとに一箇所を除く各所出入り口をミサイル攻撃でふさぎ、サラマンドルを強行着陸させて装甲擲弾兵を送り込んだ。戦いは最初から帝国軍が圧倒したが、命を投げ出して反撃してくる教徒の異様な振る舞いに神経が耐えられない兵士が続出した。やがて地球教徒自身による本部の爆破が発生し、戦いは終了した。総大主教が脱出せず生き埋めになった事は、脱出したド・ヴィリエ大主教が後日ユリアンに射殺される寸前に語って判明した。
これと平行して、ユリアン達は地球教本部の資料室を発見し、コンピュータに記録されていたデータを一枚の光ディスクにコピーしている。戦闘後に、リンザーから「協力してくれたフェザーンの商人」としてワーレンに紹介されたユリアンはオーディンへの同行を願い出ており、8月1日の艦隊第1波帰還の時に親不孝号で同行している。
大親征
[編集]宇宙暦799年/新帝国暦1年11月~。ヤンの逮捕に始まるハイネセンの混乱の報告を受けたラインハルトが、バーラトの和約を破棄して同盟を併呑するために決定した作戦。ただし回廊の戦いを本作戦の一部とする説もある。
11月1日、レンネンカンプの密葬が行われた後の会議で自由惑星同盟への再侵攻が決定され、ビッテンフェルト艦隊に先発しての出撃命令が出された(11月10日出撃)。
11月10日、ラインハルトが全宇宙のFTL通信を利用して自由惑星同盟の非を打ち鳴らす演説を行い、同時にバーラトの和約の破棄と再度の宣戦布告を宣言した。
11月11日の会議で発表された艦隊陣容は以下の通り(隊列順)。
- ビッテンフェルト艦隊(進発済み)
- ミッターマイヤー艦隊
- クナップシュタイン及びグリルパルツァー各艦隊(旧レンネンカンプ艦隊)
- グローテヴォール、ヴァーゲンザイル、クーリヒ、マイフォーハー各艦隊
- アイゼナッハ艦隊
- ファーレンハイト艦隊
- ラインハルトの直属艦隊(シュトライト、リュッケ、キスリング、ヒルダ、エミール、加えてロイエンタールが統帥本部総長としてブリュンヒルトに乗艦。ロイエンタール艦隊の運用はベルゲングリューンが担当)
- ミュラー艦隊
また、イゼルローン要塞のルッツ艦隊にも出動命令が下される事になった。オーベルシュタインはフェザーンに残留し留守を預かった。
一方、同盟では一旦退役していたビュコックが自主的に復帰し、宇宙艦隊司令長官代理であったチュン・ウー・チェンが正式な手続きもなしに長官の座を返却し、補佐役として艦隊編成を行っている。
また、ビュコックは次の戦いを「大人だけの宴会」だと称し、スーン・スールをはじめとする、30歳以下の将来ある将兵の志願を認めなかった。チュン・ウー・チェンは同時にムライ、パトリチェフ、フィッシャーを辺境任務から呼び戻し、5,560隻の艦艇と供にヤンの元に送り出した。
12月、イゼルローン再奪取の実行部隊がエル・ファシルから進発した日に、ビュコック率いる自由惑星同盟軍最後の宇宙艦隊もハイネセンから進発した。
イゼルローン再奪取作戦(第10次イゼルローン攻防戦)
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年1月2日~14日。エル・ファシル革命予備軍となったヤン一党によるイゼルローン要塞の攻略、及びイゼルローンに駐留しているルッツ艦隊との交戦。行動部隊の陣容は、艦隊指揮がメルカッツ、突入部隊がシェーンコップとローゼンリッター、ユリアン、ポプラン、マシュンゴ、及び参加希望者。情報操作担当がバグダッシュ。ヤンが直接指揮を執る事に対して独立政府が難色を示したため、ヤン及びアッテンボローがエル・ファシルに残留した。また、カリンが自分の娘だと知ったシェーンコップが、カリンの参加希望を却下した。その理由は明確には示されていない。
情報操作のための最初の通信がバグダッシュから発せられたのは1月2日。ラインハルトの名前で、艦隊が大親征に参加する事を命じていた。だが翌3日に、前日とは逆に出撃禁止及び内通者捜索の命令が届き、捜索の結果、幾人かの逮捕者が出た。この事で、ルッツは後者の通信の方を信用し、これ以降に届いた出撃を促す通信を無視するようになった。
1月7日、5本目に届いた出撃命令(これがラインハルトからの本当の命令)が届いてもルッツが動かない事を知ったバグダッシュは、脅迫めいた通信を送ってルッツの幕僚を戦慄させた。さまざまな思慮の末、これがヤンの罠だと結論づけたルッツは、逆に罠にかけるべく出撃、要塞を留守にすると見せかけて反転し、要塞と挟み撃ちにする作戦を立案した。ルッツ艦隊の出撃は12日、翌13日にはその報がヤン一党に届き、イゼルローン要塞に向けて出動した。
だがルッツの思惑に反して、イゼルローン要塞は、ヤン一党がトゥールハンマーの射程距離に入った時点で、バグダッシュが発した「健康と美容のために、食後に一杯の紅茶」という通信を受領し、要塞の制御システムをつかさどるコンピュータが機能を停止していた。これは「第9次イゼルローン攻防戦」でヤンが要塞を放棄した時に仕掛けた罠であり、これによってゲートの開閉も防御システムの稼動も不可能となった。
ヤン一党の突入部隊は要塞の軍港に強行着陸し、白兵戦の末、23時20分にAS28ブロックの第4予備制御室を占拠した。ユリアンが制御卓から「ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくママレードでもなく蜂蜜で」と回路に入力してシステムの制御を掌握し、23時25分、帰還途上のルッツ艦隊にトゥールハンマーを発射。これに気づいたルッツは急遽散開行動を命じたものの、艦隊の1割を失った。そしてその光景を見た要塞守備隊の戦意も失われ、守備隊は次々と潰走・降伏していった。
14日0時45分、帝国軍の守将ヴェーラー中将が、部下の安全な退去と引き換えに要塞の放棄に応じる事を打診。意思決定を委ねられたユリアンは7分後に条件を受諾する返答を送り、戦闘は終了した。要塞内の帝国軍、及び損害を被ったルッツ艦隊は撤退した。なお、0時59分に、ピストル自殺を遂げたヴェーラー中将の遺体が執務室で発見された。
マル・アデッタ星域会戦
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年1月16日。 大親征にて再度侵攻してきた、皇帝ラインハルト率いる新銀河帝国軍を自由惑星同盟軍最後の正規の宇宙艦隊が迎え撃った戦い。
マル・アデッタ星域会戦 | |
---|---|
戦争:大親征 | |
年月日:宇宙暦800年/新帝国暦002年1月16日 | |
場所:マル・アデッタ星域 | |
結果:新銀河帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
新銀河帝国 | 自由惑星同盟 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ |
アレクサンドル・ビュコック † |
戦力 | |
艦艇約10万隻及び補助艦艇多数 | 艦艇約2万~2万2000隻 将兵230~250万人 |
損害 | |
2万5000隻 | 1万6000隻 |
バーラト星系に侵攻を続ける帝国艦隊と、それに対抗しようとする同盟艦隊の交戦。1月8日、ミッターマイヤー艦隊の前方に1,000隻以上の艦艇が出現。同10日、同盟軍が20,000隻以上の戦力を有している事が判明。同13日、帝国軍の前方、恒星マル・アデッタ付近に同盟軍が布陣。同16日に戦闘開始。
マル・アデッタは不安定な状態の恒星で周囲に無数の小惑星を従えており、同盟軍はその小惑星帯内の狭い回廊の中に「篭城」していた。マル・アデッタ星域の戦略上の価値は前年に両軍が対峙したランテマリオ星域より低いとされていたが、戦術的には遥かに難所とされていた。そのため、数で勝る帝国軍には「一隊が同盟軍を抑えて、本隊がその隙に同盟首都ハイネセンを陥とす」策もあり、「常識的な事を言わなければならない」という見地で幹部を代表してシュトライトがそれを述べた。しかし、それは文字通り「言ってみただけ」であり、ラインハルトは「老将の死を覚悟の挑戦、受けねば非礼にあたる」とマル・アデッタで戦う事を選び、もともと乗り気だった幹部たちもそれに同意した。その為、会戦当初の地の利は同盟軍に傾くことになった。
同盟の艦隊司令官はビュコック。参謀長はチュン。分艦隊司令官はカールセン。参加幕僚はザーニアル少将/マリネッティ少将(この二人はOVA版のみ登場)など。戦力は推定で艦艇20,000~22,000隻/将兵230万~250万人(自由惑星同盟がこの後滅亡するなどの事情で、正確な記録が無いと設定されている)。なお、副官のスールは別の命令を受けてムライ達に同行してヤンの元に向った。
戦闘態勢に入った帝国軍の陣容は、中央部がラインハルトの直属艦隊。左翼がミッターマイヤー艦隊、右翼がアイゼナッハ艦隊、後衛がミュラー艦隊、予備兵力がファーレンハイト艦隊、前衛はクナップシュタイン/グリルパルツァーの両艦隊。なお、先行したビッテンフェルト艦隊は連絡が取れず、戦闘開始時には参戦出来なかった。
16日10時30分、正面からの砲撃戦開始。第1撃の後、同盟軍が小惑星帯に撤退。グリルパルツァー艦隊が追撃したが逆撃され、3割の損害を出して撤退。ラインハルトはファーレンハイト艦隊を同盟軍の背後に差し向け、同時にクナップシュタイン艦隊に陽動を命じた。13時にクナップシュタイン艦隊が攻撃を開始したが、逆に多くの損害を出して苦戦に陥る。15時40分にファーレンハイト艦隊が同盟軍背後にまわり込む事に成功したが、16時20分、左側背からカールセンの分艦隊が攻撃を開始。ファーレンハイト艦隊は後退を余儀なくされた。20時30分、カールセン艦隊は迂回して帝国軍本隊の背後に回り込み、ミュラー艦隊と戦闘を開始。その背後にはファーレンハイト艦隊が、さらにその背後にはクナップシュタイン艦隊を機雷で足止めしたビュコックの同盟本隊が続いた。その後、2つの同盟艦隊は連携を以って帝国軍本隊攻撃を試みたが、ミュラー艦隊とファーレンハイト艦隊、21時18分に右翼から迂回して戦いに加わったアイゼナッハ艦隊の抵抗に遭い、進軍を止められていた。22時、恒星風の影響で帝国軍の艦列が乱れたのを機に、同盟軍は一気に進撃を試みたが、側面からミッターマイヤー艦隊が突入したためまたも進撃を止められた。そして22時50分、先行していたビッテンフェルト艦隊が戦域に到着し、攻勢が限界に来ていた同盟軍に攻撃を加えた。23時10分、カールセンが乗艦ディオメデスと共に戦死。この時点で8割が失われた同盟軍は敗走を開始したが(OVA版ではビュコックが全鑑に対し戦線離脱を許可している)、艦隊旗艦のリオ・グランデと、その意を汲んだ100隻程度の艦艇が、味方の退路を確保するため戦闘を継続した。
23時30分、(ヒルダに説得された)ラインハルトの意を受けたミッターマイヤーが降伏を勧告したが、ビュコックは勧告を拒否。ラインハルトは砲撃を命じ、リオ・グランデは破壊され、ビュコックとチュン、艦長のエマーソンは乾杯しながら消滅した。
この会戦の後、自由惑星同盟は国家としては滅亡を遂げ、「銀河帝国軍対自由惑星同盟軍」という戦いの図式はこれを以って終了した。
一方ヤンは、ビュコック戦死の凶報を聞いて、己の判断の甘さを心から悔いた。もしヤンが、ビュコックが残存艦隊を率いてラインハルトと戦う事を要塞攻略戦時に知らされていたら、ヤンはおそらく(ビュコックとともに)生涯で初めて勝算なき戦いに身を投じたであろう、という見方も存在する。
自由惑星同盟の終焉
[編集]帝国軍はマル・アデッタ星域の会戦で最後の同盟軍艦隊を撃破したが、その直後の祝宴のさなかにイゼルローン要塞が再奪取された事を知った。状況の変化に帝国軍は愕然としたが、作戦に変更は無く、そのままハイネセンに向って再発進した。ラインハルトは急行する事を考えていたが、ヒルダの助言によってゆっくりと進行し、同盟の動揺を誘った。意図は的中し、2月2日に同盟元首のジョアン・レベロが統合作戦本部長のロックウェル大将とその部下たちに射殺され、自由惑星同盟は降伏を宣言した。帝国軍はハイネセンを無血開城し、ラインハルトは手始めにロックウェルら裏切者の売国奴たちを許すことなく銃殺に処した。しかし、ラインハルトは彼ら以外の同盟市民には一切危害や処罰を加えず、その予想外の寛大さに同盟の世論は反抗心をくじかれ、帝国支配を暗黙の是とした。
そして宇宙暦800年/新帝国暦2年2月20日、ラインハルトは冬バラ園の勅令(正式名称は宇宙暦800年2月20日の勅令)で、一貫して辺境の叛徒扱いだった自由惑星同盟を国家として公認し、同時に同盟の消滅を宣言した。
回廊の戦い
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年4月20日~5月18日。ヤン一党(エル・ファシル革命予備軍)と帝国軍の戦い。ヤン・ウェンリー最後の戦いであり、ラインハルトが一度に動員した戦力としては最大級のものとなった。
回廊の戦い | |
---|---|
戦争:大親政 | |
年月日:宇宙暦800年/新帝国暦002年4月20日~5月18日 | |
場所:イゼルローン回廊 | |
結果:エル・ファシル独立革命予備軍(実質的にヤン艦隊)の勝利 | |
交戦勢力 | |
新銀河帝国 | エル・ファシル独立革命予備軍 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム オスカー・フォン・ロイエンタール |
ヤン・ウェンリー ダスティ・アッテンボロー |
戦力 | |
艦艇約17万隻以上補助艦艇多数 将兵1620万人以上 | 艦艇約2万隻以上,将兵254万人 |
損害 | |
前哨戦(4月27日~4月30日),完全破壊艦艇ビッテンフェルト艦隊6220隻,ファーレンハイト艦隊8490隻合計1万4710隻, 将兵ビッテンフェルト艦隊69万5700,ファーレンハイト艦隊109万5400,計179万1100人, 本戦(5月3日~5月18日)完全破壊艦艇数2万4440隻,将兵200万,前哨戦との完全破壊艦艇合計約3万9150隻, |
前哨戦(4月27日~4月30日)~1万隻未満, 本戦(5月3日~5月18日),~1万隻弱 |
元よりこの戦いは、言ってみればラインハルトの私戦の性格が強いものであった。あえて多大な犠牲を払ってイゼルローン要塞を攻略する意味は無く、回廊の出入り口を封鎖しておけば、ヤン一党はいずれ衰退を余儀なくされる。あくまでヤンと勝負してみたいというラインハルトの欲求こそが、戦いの最大の動機であった。ロイエンタール、ミッターマイヤーともにこの戦いにラインハルトが親征することに反対しており、ヒルダに至っては面と向かってラインハルトに反対の意を表明していた。しかしラインハルトは、それを承知で戦いに臨んだ。
4月20日の時点で、ヤン一党の兵力は艦艇28,800隻(うち3割近くが修理や整備を必要とする傷物とされている。実戦参加した隻数は記述が無いが、OVAではメックリンガー艦隊を牽制するに当たって2万隻以上を投入して、ナレーションがヤン艦隊のほぼ全軍と解説している)/将兵254万7400人。ヤンは流浪時に乗艦としたユリシーズをそのまま旗艦とし、ヒューベリオンはメルカッツが乗艦とした。アッテンボローはマサソイト、フィッシャーはシヴァ、マリノは引き続きムフウエセを乗艦にしている。
前哨戦
[編集]初戦で対決したのは、先発したビッテンフェルト艦隊15,900隻とファーレンハイト艦隊15,200隻、加えて帝国領からイゼルローンに接近したメックリンガー艦隊15,900隻。
戦いに先立って、ビッテンフェルトはヤンに挑発的な降伏勧告を送り、ヤンはそれを利用してメルカッツの裏切りという虚偽の通信を送り返した。ビッテンフェルトとファーレンハイトは信用しなかったが、相手の出方を待つ必要に迫られ、結果として受動的な立場に追い込まれた。この策謀で2艦隊の足を止めたヤンは、20,000隻以上を率いてメックリンガー艦隊に向かった。自分の艦隊より大きな兵力の接近により、メックリンガーはヤン艦隊は全体として5万隻以上存在するものと判断し慎重に後退し、それを確認したヤンは反転してビッテンフェルト/ファーレンハイト艦隊に向かい、4月27日、アッテンボローの擬態で回廊に引きずりこまれたビッテンフェルトと交戦状態に突入、平行してファーレンハイトも攻撃を開始した。
戦いは消耗戦となったが、狭い回廊のために身動きがとれず、さらにフィッシャーの巧みな運用によってヤン艦隊に包囲される形となり、帝国軍がより多くの損害を出していた。ビッテンフェルトは正面突破に活路を得ようとしたが、ヤンの包囲は崩れず、一旦後退した。代って前線に突出したファーレンハイト艦隊は、おとり役を演じたアッテンボローの艦隊に砲火を集中し、一旦はヤンの本隊に肉薄したが、突出したため反撃を受ける事となった。この時再編成を済ませたビッテンフェルト艦隊が合流したが、一箇所に集まったため逆に集中砲火を浴びる結果となり、ファーレンハイト艦隊は右翼のメルカッツ艦隊に追い込まれた(この時右翼艦隊に所属していたカリンが初めてスパルタニアンで実戦に出陣し、一機を撃墜して無事に生還している)。
4月30日23時15分、回廊から脱出する僚艦の援護射撃をしていたアースグリムの艦橋が被弾した。ファーレンハイトは瀕死の重傷を負い、幕僚も死亡した。ファーレンハイトは従卒の幼年学校生に遺言を伝えて死亡。アースグリムは同25分に撃沈した。2艦隊は回廊から撤退し、ラインハルトの本隊に合流に向った。ビッテンフェルト艦隊の損害は艦船15,900隻中6220隻、人員190万8000人中69万5700人、ファーレンハイト艦隊の損害は艦船15200隻中8490隻、人員185万7600人中109万5400人。戦死したファーレンハイトは元帥に昇進し、メルカッツは3日間の喪に服し作戦会議に代理出席したシュナイダーも喪章を胸につけて席に着いた。
本戦
[編集]帝国軍本隊はビッテンフェルト/ファーレンハイト艦隊の残存部隊と合流し、5月3日に回廊に侵攻した。この時点での帝国軍本隊の兵力は艦艇14万6600隻/将兵1620万余人。対するヤン一党の兵力は2万隻を切っていた。
アッテンボローが回廊の入り口に500万個の連鎖式爆発機雷を敷設しており、帝国軍はこれを排除しなければ回廊に突入出来なかった。帝国軍はこれに対して統帥本部総長ロイエンタールの案を採用し、まずブラウヒッチ大将の艦隊が半日をかけて機雷原にトンネル状の通路を穿ち、ヤン艦隊に攻撃を開始、ブラウヒッチがヤン艦隊の耳目を集めている間に指向性ゼッフル粒子を使って同時に5箇所のトンネルを開け、そこから各艦隊を侵攻させる、ヤン艦隊が分散する隙に最初にブラウヒッチが開けたトンネルから本隊が突入した。この作戦によって帝国軍は回廊内に橋頭堡を築くに至った。
5月4日12時0分、総旗艦ブリュンヒルトが回廊に突入。分艦隊を指揮するアッテンボローは集中砲火によって対抗し、そこから砲撃戦が展開される。だが狭い回廊内では混乱も多く、ミッターマイヤーの立てた半包囲作戦も通信状態も十分とは言えず、大部隊が行動する空間的余裕も乏しかったため味方が作戦通りに動いてくれず失敗した。これを問題としたミッターマイヤーは、後方では戦場の様子が把握しにくいとして20時15分に総旗艦ブリュンヒルトから自らの旗艦ベイオウルフに移乗して陣頭指揮を執り始めた。疾風ウォルフの戦線参加で帝国軍は勢いづいたが、戦闘自体は膠着したままだった。バイエルラインの部隊約6000隻を突出させてヤン艦隊の一角を突き崩そうとした作戦が失敗に終わった後、ミッターマイヤーは戦力を火力重視と機動力重視の部隊を1000隻程に細分化してヤン艦隊の戦力を削り取る作戦を使ったが、これも遊兵を作り出す結果となった。
5月6日、ヤン艦隊はメルカッツの作戦で帝国軍の左翼を集中砲火し、帝国軍本隊が左翼に移動した瞬間を狙ってマリノの分艦隊がブリュンヒルトに向った。シュタインメッツがこれに気づいて防御陣を敷いたが、そのためヤン本隊に向う事が出来ず、ヤンとメルカッツの艦隊の集中砲火を浴びた。11時50分、艦隊旗艦フォンケルが被弾し艦橋が大破、シュタインメッツは破壊された船体の下敷きになり、親しくしていた女性の名前を呼んだ後に絶命した。報告を受けたラインハルトは、シュタインメッツに代ってヒルダを大本営幕僚総監に任じたが、帝国軍の混乱は収まらなかった。
戦線崩壊の危機を感じたロイエンタールは、バルトハウザー艦隊に側面攻撃をさせてヤン艦隊の足を止め、その間に本隊を後退させて体勢を整える作戦を献じたが、各艦隊がロイエンタールの思い通りに動かず、逆にヤン艦隊につけ入る隙を与えた。あと一歩でブリュンヒルトを討ち取るという時、ラインハルトが瞬時にヤン艦隊の艦列の攻撃ポイント(OVAでは、俯角30度・2時方向)を見抜き、自ら砲撃を指揮した。効果的に損害を与えられたヤン艦隊は撤退し、ロイエンタールは改めてラインハルトの天才ぶりを認識したが、この時ラインハルトの身体に異変が起こっていた。
5月7日23時、一旦要塞に撤収して態勢を整えたヤン艦隊は再び戦闘を開始した。ミュラー艦隊が前線に出て交戦を開始、さらに帝国軍の各艦隊もヤン艦隊に攻撃を加えたが、数が多いゆえに回廊の地形を有効に利用出来ず、戦線は混乱を極めた。8日になっても状況は変化しなかったが、そんな中、ベイオウルフが被弾し、一時はミッターマイヤー戦死の報が帝国を駆け巡った。本人みずから虚報である事を報告したが、この事がきっかけとなり、ラインハルトは戦法の変更を決意。9日の御前会議で作戦の変更が告げられ、10日に戦闘が再開された。一艦隊が縦列突撃しつつ最後の一発まで撃ちまくってから反転し、その直後に次の艦隊が、そして次の次の艦隊も続けて突入し続けるという、単純だが最も効果的なタックマッチ戦法であった。
この手段を選ばない物量作戦に直面したヤンは、慎重に艦隊を運用して対抗し、第1陣のミュラー艦隊、第2陣のアイゼナッハ艦隊、第3陣のミッターマイヤー傘下の提督たちが指揮する艦隊(ミッターマイヤー自身は、旗艦ベイオウルフの損傷もあってラインハルトに出撃を禁止された)、15日19時20分の第4陣の黒色槍騎兵艦隊(ビッテンフェルト艦隊に旧ファーレンハイト艦隊を含む)の後退までは持ちこたえた。だがこの時フィッシャーが戦死し、ヤン艦隊は艦隊運用の要を失ってしまう(フィッシャーの艦隊運用に依存する所が大であったヤン艦隊にとっては致命傷であった)。しかし、同時に帝国軍も多大な犠牲を出し、純戦術的には帝国軍の猛攻をヤン艦隊が耐え抜き、帝国軍が一時撤退を余儀なくされたという状況であった。
ヤンは意気消沈しつつ機雷を敷設しなおし、帝国軍の撤退を見て、イゼルローンに一時戻る事を決めたが、その途中である18日、ラインハルトから停戦と会見を呼びかける通信文が届き、戦闘は終了した。帝国艦隊と異なり連戦を強いられたヤン艦隊のメンバーは、出番のなかったローゼンリッターのメンバーを除き、過度の睡眠不足となっており、フィッシャーを失ったことによる艦隊運用の困難とあいまって、これ以上戦闘を継続するのは不可能といえる状態まで追い込まれており、この時に帝国軍がさらなる攻撃を行っていれば、ヤン艦隊の敗北は必至の状況(もちろん帝国軍はその事実を正確に把握していないが)であった。この時、帝国軍は200万の将兵と2万4400隻を失った。
なお、ラインハルトが圧倒的に有利な状況にありながら停戦と会見を呼びかけたことに対し、ヒルダは、ヤンに対する敬愛、多大な犠牲を出した事への自責の念、戦況の推移に対しての苛立ち、そして戦闘以外で状況を打開できないかというラインハルトの総合的な判断によるものであると推察した。しかし、ラインハルト自身はあくまでも「キルヒアイスが夢に出てきて、これ以上の流血は無用と諌めた」と主張した。そして、帝国軍の誰もがそれで納得した。
ヤン・ウェンリー暗殺事件
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年6月1日2時55分。
5月20日、イゼルローン軍はラインハルトからの通信文を討議した上で、会見に応じる事を決定し、5月25日、ヤン及び随員のパトリチェフ、ブルームハルト、スール、加えてロムスキーとその側近達がラインハルトとの会見に応じるため巡航艦のレダIIで出発した。なお、ヤンの副官であるフレデリカは風邪で同行出来なかった。また、明確な理由は不明ながら、ヤンはユリアンを同行させなかった。
レダIIが出発して3日後、ボリス・コーネフ達がイゼルローンとの通信可能宙域に到着し、アンドリュー・フォークがヤンの暗殺を謀っているという情報をもたらした。ユリアンやシェーンコップ達は直ちにレダIIの後を追った。
5月31日23時50分、3次元チェスを終えたヤンは、自室に向かってシャワーを浴び、翌6月1日0時25分にベッドに入ったが、寝付けないため睡眠導入剤を服用して怪奇小説を読み始めた。0時45分、眠ろうとしたヤンの元に「帝国軍(の内部に浸透していた地球教の暗殺部隊)からフォークの暗殺計画と武装商船の奪取に関する通信が届いたため艦橋に来て欲しい」と連絡が入った。薬のため半分寝ぼけた状態のヤンが艦橋に出向いたのと前後して、フォークが乗っ取った武装商船を帝国軍の駆逐艦が破壊したと通信が入った。挨拶のため移乗したいという駆逐艦からの要請にスールは疑問を口にしたが、ロムスキーやその側近は要請を受諾した。レダIIに移乗した途端に本来の姿を現した地球教徒達は、ロムスキー達を射殺してヤンを探し始めた。事態の急変に気が付いたヤンの随員達は、ヤンを逃がす一方で応撃を開始したが、ヤンを奥の扉に押し込んだパトリチェフが射殺され、続いてスールが負傷した。
2時4分、レダIIと帝国軍の駆逐艦がいる宙域にユリシーズが到着し、ユリアンとマシュンゴ、そしてシェーンコップが率いるローゼンリッターの隊員達がレタIIに乗り込んで来た。ユリアン達は敵を倒しながらヤンを探し始めた。
2時40分、一人で船内を歩いていたヤンの前に、帝国軍の軍服を来た男が現れ、ヤンを銃撃してそのまま逃走した。太ももの動脈叢(そう)を撃ち抜かれたヤンは、多量の出血によって立っていられなくなり、通路の壁ぎわに座り込んで、そのまま意識を失くし、2時55分に死亡した。33歳であった。
3時5分、ユリアンがヤンの遺体を発見した。直後に現れた帝国軍の軍服を着た数名がユリアンの狂乱によって殴り殺された後、マシュンゴが死体を抱きかかえてシェーンコップ達の元に戻った。ブルームハルトの死を見届けたシェーンコップは、続いてヤンの死を知り、震える手で敬礼を施した後、ユリアンに敵が地球教徒である事を知らせた。ヤン達の遺体と生け捕りにした地球教徒をユリシーズに移した後、3時30分、ユリアン達はその場を離れた。
6月3日11時30分、ユリシーズがイゼルローンに帰還した。ユリアンはキャゼルヌ夫人に促されて自分でフレデリカに報告し、6日、司令官代行としてヤンの葬儀を行った。同日19時10分、イゼルローンから発せられたヤンの死を知らせる通信文を帝国軍が受信し、25分、ヒルダによってラインハルトの元に届けられた。ラインハルトは憤激にかられてヒルダに八つ当たりした後落ち着きを取り戻し、ミュラーを弔問の使者に指名した。
結局ラインハルトは喪中の敵を討つを潔しとせず、またミッターマイヤーはイゼルローン攻略に元より反対だった事から、帝国軍は撤退する事になった。ロイエンタールはヤン存命中の(採るべき)戦略が死後においてもそうとは限らない(ヤンがいたからこそイゼルローン攻略はすべきではなかったのであり、ヤンがいない今は攻略の好機)という事から撤退には賛成では無かったのだが、ラインハルトとミッターマイヤー双方が攻略に反対しているなら自分のほうが折れるべきという事で、撤退に賛成する事になる。翌7日、帝国全軍に撤退命令が発令され、各提督達は戦後処理に奔走する事となった。
ウルヴァシー事件
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年10月7日。ガンダルヴァ星系の惑星ウルヴァシーで発生したラインハルト暗殺未遂事件。
9月9日、新領土の総督となったロイエンタールがラインハルトに行幸を求めた。これと前後してロイエンタールの叛意が帝都で噂になっており、それに基づいてオーベルシュタインが自制を求めたが、ラインハルトはそれを却下し、一個艦隊の護衛も拒絶した。だが今回は、ミッターマイヤー以外の提督達も不安を拭い切れず、ラインハルトに指名されたミュラーに加え、ルッツも、ハイネセンにいる妹とその夫の話を持ち出して同行を志願した。ラインハルトはこれを認め、さらにミッターマイヤーの提案によって50~100隻の護衛が認められた。なお、これに先立って私的な問題が生じていたヒルダはフェザーンに残留した。
10月7日、ハイネセンに先立って戦没者慰霊のためにウルヴァシーに立ち寄り、21時10分に司令部に隣接した迎賓館に入った一行は、23時30分になって、ヴィンクラー中将率いる駐留軍50万の動向に不審な様子がある事を知り、とりあえず総旗艦ブリュンヒルトに戻る事を決めた。だが軍事宇宙港に向かう途中で車が襲撃され、さらに通信でブリュンヒルトが攻撃を受けている事が判明したため、一行は近隣の人造湖でブリュンヒルトと合流する事にした。車を捨てて人造湖に向かう途中で、虚報でおびき出されていたリュッケとも合流したが、その直後にラインハルトを狙う帝国軍人達と遭遇した(その上官の言葉でラインハルトに賞金10億帝国マルクがかけられている事が判明している)。その一人が寝返って仲間を撃ち、謝罪の後に同行を許されたが、直後に後続の追撃者に射殺されてしまい、このままでは追撃されると判断したルッツが、居残って退路を守る事を申し出た。ミュラーは反対し、更にミュラーに加えてキスリングも残ると申し出たが、ルッツの決意が固いと察し、苦渋の思いで銃のエネルギー・パックを渡して先を急いだ。ラインハルトはルッツに、最後は降伏しろと命じたが、ルッツはそれに反してブリュンヒルトが離水するまで抵抗を続け、最後は左胸部と側頭部を撃ち抜かれて絶命した。
この事件は、グリルパルツァーの調査によって地球教の仕業と判明したが、背後でラングとルビンスキーが暗躍し、ロイエンタールが叛するように仕向けていた様子がうかがえる。しかし、自分の立場を強化することを考えたグリルパルツァーにより、地球教によるものという情報が隠匿され、ルッツの死も重なってロイエンタールは叛逆せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。この2つの要素が無ければこの謀略は成功していなかった可能性があるとも言われている。なお、後になってメックリンガーによる再調査が行われ、事件の真相が明らかになった。
第2次ランテマリオ会戦
[編集]宇宙暦800年/新帝国暦2年11月24日~。叛乱を起こしたロイエンタールと、討伐を命じられたミッターマイヤーの戦い。「双璧の争覇戦」とも。
第二次ランテマリオ星域会戦(双璧の争覇戦) | |
---|---|
戦争:新銀河帝国の内戦 | |
年月日:宇宙暦800年新帝国暦002年11月24日~12月7日 | |
場所:ランテマリオ星域 | |
結果:新銀河帝国軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
新銀河帝国 | ロイエンタール軍 |
指導者・指揮官 | |
ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥 |
オスカー・フォン・ロイエンタール元帥 アルフレッド・グリルパルツァー |
戦力 | |
ミッターマイヤー艦隊 ワーレン艦隊 |
ロイエンタール艦隊 3万5000隻 将兵520万人 |
損害 | |
少数 | 損失艦艇数3万420隻 戦死/行方不明,降伏・捕虜454万1100人(ハイネセン帰着時のロイエンタール艦隊の兵力である艦艇4580隻,将兵65万8900名[61],からの宇宙暦800年11月24日時点との単純比較。この内将兵は半数が降伏、又は捕虜となり少数の行方不明者が出た。) |
きっかけとなったウルヴァシー事件が発生したのは10月7日、叛乱発生の日時は明確な宣戦布告が無いため不明だが、行方不明だったブリュンヒルトが発見された10月29日には、既に叛乱が既成事実となっていた。ラインハルトがミッターマイヤーに(拒否権付きで)討伐を命じたのは11月1日、ミッターマイヤー艦隊及び配下に加わったビッテンフェルト、ワーレン艦隊が影の城付近に集結したのは同4日、ラインハルトがロイエンタールの新領土総督の地位と元帥号を剥奪したのは同16日(会戦後に元帥号剥奪は撤回されている)、同日ロイエンタールはミッターマイヤーと最後の交信を行ったが、交渉は決裂している。
ロイエンタール側の兵力は艦艇35,800隻/522万6400人(ただしこれは新領土総督に任じられた時の兵力。その後の損害や脱落は不明だが、開戦時に約520万と記述されている)。配下のグリルパルツァーは、派遣されていたウルヴァシーの捜査から戻ってきた時点で裏切りを企んでいたが、表面上は叛乱に同調し、クナップシュタインもグリルパルツァーに説得されてロイエンタールに協力を約束した。
ミッターマイヤー側の兵力はビッテンフェルト、ワーレン両艦隊を合わせて艦艇42,770隻/将兵460万8900人。これに加えてメックリンガー艦隊11,900隻がイゼルローン方面から侵攻している。ただし開戦時はミッターマイヤー艦隊(将兵259万人)のみであり、ビッテンフェルト、ワーレンは遅れて戦場に到達する。
11月24日9時50分。対峙した両艦隊は正面から砲撃戦を開始した。当初は戦力差からミッターマイヤーが不利だったが、機動能力を最大限活用して戦況を拮抗させていた。25日8時30分、ビッテンフェルト艦隊の内脱落を免れた約1万隻が戦場に到着し、ロイエンタール軍の左翼に攻撃を開始した。同日19時、ワーレン艦隊が到着し、戦力比はほぼ対等となった。だがその直後、バイエルラインの分艦隊がロイエンタールの策略で包囲網に引きずり込まれて損害を出し、副司令官のレマー中将は戦死した。
ミッターマイヤーはロイエンタール軍の弱点が、配下になって間もないクナップシュタインやグリルパルツァーにあると考え、攻撃を集中した。29日6時9分、クナップシュタインが乗艦もろとも戦死。そのためクナップシュタイン艦隊は指揮系統を失い戦力を低下させたが、ロイエンタールは巧緻を極めて不利な戦況を転換し、旧ファーレンハイト艦隊と合併したばかりで統合がまだスムーズでないビッテンフェルト艦隊に打撃を与えた。ビッテンフェルト艦隊の各艦艇は後退の気配を見せたが、「退く奴は砲撃する」というビッテンフェルトの暴言をオイゲンが通信で流したため、かろうじて踏みとどまり、シュワルツ・ランツェンレイターと旧ファーレンハイト艦隊との反目も逆に好作用して猛反撃に転じた。30日16時、そのビッテンフェルト艦隊が後退してロイエンタール軍が一時優勢となり、火力と機動力を駆使して左側面から反包囲しようと試みたが、ワーレン艦隊の奮闘で阻止された。
戦闘はその後も続いたが、12月3日、メックリンガー艦隊がイゼルローン回廊を通過してハイネセンに向っているという報告を受けたロイエンタールは、戦闘継続を断念して後退に転じた。ミッターマイヤーはなおも追撃したが、12月7日、反転迎撃を始めようとしたロイエンタール軍に、その一艦隊であるグリルパルツァー艦隊が攻撃を加え始めた。裏切りに気がついたロイエンタールは反撃に転じたが、乗艦のトリスタンが被弾し、吹き飛ばされた艦の建材の一部がロイエンタールの左胸部を貫いた。また、グリルパルツァー艦隊の裏切り行為に対して、最も反撃を試みたのは戦闘中裏切るつもりであったことを知らなかったクナップシュタインの残存艦隊であったのは皮肉といえる。彼らは上官であるクナップシュタインが最後までロイエンタールに忠節を尽くした末に戦死したと思い込んでいた為、それを嘲笑うかのように土壇場でロイエンタールを裏切ったグリルパルツァーの背信行為に怒り狂い、自発的に猛反撃を敢行した。一方のグリルパルツァーの部下たちもまた、上官の背信行為を知らされていなかった為、突然味方を裏切れという命令に困惑し、躊躇している間に反撃を受けて爆沈される艦が相次いだ。最終的にグリルパルツァーは返り討ちにされ、ロイエンタール艦隊主力は指揮系統の潰乱により烏合の衆と化したが、ディッタースドルフ分艦隊が殿軍として残り、ロイエンタールは戦場を脱出してハイネセンに撤収、戦闘は終了した。
ロイエンタールは瀕死の身ながらなお毅然としてハイネセンに帰り着き、民事長官エルスハイマーの軟禁を解いて政務と軍務の全権を掌握してほしいと頼みこれを承諾させる。そして、ヨブ・トリューニヒトを呼び出すが、席上ラインハルトに対する侮辱の言葉を吐いたトリューニヒトを射殺する。次にエルフリーデ・フォン・コールラウシュが初めてロイエンタールとの子を連れて現れる。ロイエンタールはミッターマイヤーにその子を託せと言って殺すなら自分の銃を使えと言うが、エルフリーデ・フォン・コールラウシュは子供を置いていずこかに消えてしまう。酒盃を前にミッターマイヤーを待ったが、ミッターマイヤーは親友の死に際に間に合わなかった。また、副司令であったベルゲングリューンも直後にロイエンタールの後を追う形で自ら命を絶った。
第11次イゼルローン攻防戦
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年2月12日~14日。イゼルローン(共和政府)革命軍と帝国軍艦隊との交戦。ユリアンが初めて作戦を立案し、艦隊指揮を執った作戦でもある。この年の初頭からハイネセンで頻発したテロや暴動に関連して、イゼルローン共和政府の立場を明確にしなければならないという政略的配慮が必要になり、ユリアンが戦う事を決断した。
第11次イゼルローン要塞攻防戦 | |
---|---|
戦争:新銀河帝国とイゼルローン共和政府の戦い | |
年月日:宇宙暦801年/新帝国暦3年2月12日~14日 | |
場所:イゼルローン要塞 | |
結果:イゼルローン革命軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
新銀河帝国 | イゼルローン革命軍 |
指導者・指揮官 | |
アウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将 |
ユリアン・ミンツ ダスティ・アッテンボロー |
戦力 | |
ワーレン艦隊 15600隻 ヴァーゲンザイル艦隊8500隻 |
イゼルローン革命軍(ユリアン・ミンツ直卒約6600隻) 他メルカッツ指揮下艦隊 |
損害 | |
戦死/行方不明者40万人 | 帝国軍以下 |
イゼルローン軍が進発したのは2月7日。回廊の帝国本土方面の警備を担当していたヴァーゲンザイル艦隊に向かい、それを知ったワーレン艦隊は後背を突くため2月8日に進発した。この時点で、ヴァーゲンザイル艦隊は8,500隻、旧同盟領に駐留するワーレン艦隊は15,600隻。対するイゼルローン軍はユリアン率いる本隊が6,600隻、これに加えてメルカッツが率いる別働隊が本隊に先発して出撃し旧同盟領方面に布陣した。
戦闘開始は2月12日4時35分、帝国本土方面の出口に近い宙域で、イゼルローン軍本隊とヴァーゲンザイル艦隊が交戦を始めた。砲撃戦に加えて単座式戦闘艇どうしの空中戦が展開され、ポプラン率いるスパルタニアンのチームが損失16機に対してワルキューレ104機撃墜という戦史に残る戦果をあげた。イゼルローン要塞に近づけてトゥールハンマーを使うというのがイゼルローン軍の作戦であったため、全体としては帝国軍が進み、イゼルローン軍は後退した。ヴァーゲンザイルはこの作戦に気がついていたが、平行追撃に持ち込めばトゥールハンマーを無力化出来ると考え、前進を続けた。
2日間の退却戦の後、イゼルローン軍はヴァーゲンザイル艦隊をトゥールハンマーの射程に引きずり込んだ。それに気がついたヴァーゲンザイルは退却を始めたが、トゥールハンマーの一撃を受けて混乱状態に陥った。一方のユリアンは逆方向から進撃するワーレン艦隊に向った。この時点でヴァーゲンザイル艦隊はメルカッツの別働隊を認識出来る位置にあったが、自分達が逃げるのに精一杯でワーレン艦隊にその報告をしなかった。
一方ワーレン艦隊はヴァーゲンザイル艦隊の援護のために危険宙域に留まり、トゥールハンマーのエネルギー充填までの時間を見計らってイゼルローン本隊と交戦に移った。時間的にも数的にも勝算はあったが、それまでワーレン艦隊の死角に潜んでいたメルカッツの別働隊が左側面から攻撃を開始し、結果としてワーレン艦隊はトゥールハンマーの直前で立往生する形となった。艦隊運用の目論みが外れたワーレンは態勢を整えつつ撤退を始めようとしたが、20時15分エネルギー充填を完了したトゥールハンマーの砲撃を受け、さらに200秒後に第2撃を受けた。多数の艦艇が破壊もしくは戦闘不能となったワーレンは、ヴァーゲンザイル艦隊の撤退を確認した上で、20時45分に撤退命令を出した。
21時40分に帝国軍の完全撤退を確認したユリアンはイゼルローン要塞へ帰還。帝国軍の戦死者は推定40万とささやかなものではあったが、ヤンの死後民主共和勢力が初めて帝国軍に勝利したという意味で政治的に大きな勝利となった。
オーベルシュタインの草刈り
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年3月21日~5月20日。 第11次イゼルローン攻防戦での敗退や新領土で発生している混乱に対して、帝国は2月18日に皇帝親征を行う事を発表した。だが翌19日になってラインハルトが高熱を発し、3日間も下がらないという状態になったため、親征は延期され、その代わりに軍務尚書のオーベルシュタインが全権代理として派遣された。
3月20日にハイネセンに到着したオーベルシュタインは、翌日から直属の陸戦部隊を使って「危険人物」とされる旧同盟の要人[62]を始めとして五千人以上を連行/収監し、4月10日、イゼルローン共和政府及び軍に対して、彼らの解放を欲するのならハイネセンに出頭せよと通達した。
これに先立つ4月1日、オーベルシュタインに同行していたビッテンフェルトとミュラー、及びガンダルヴァ星域から到着していたワーレンが、その方法を良しとせずオーベルシュタインに談判を持ちかけたが、論争の過程でオーベルシュタインが帝国の実戦部隊に対する誹謗(言われた側はそう受けとった)を口にしたため、ビッテンフェルトがオーベルシュタインにつかみかかるという事態が発生した。ビッテンフェルトは謹慎を命じられ、ミュラーとワーレンも退去を命じられた。4月4日、この経緯がラインハルトに知らされ、ラインハルトはヒルダと相談の上、延期になっていた皇帝親征を行う事を決めた。なお、ビッテンフェルトの処分に対する黒色槍騎兵艦隊の反発は大きく、4月6日にはダウンディング街において黒色槍騎兵艦隊の兵士がオーベルシュタイン指揮下の憲兵隊と乱闘に発展。乱闘は発生わずか30分で1個分隊規模から1個連隊規模へ拡大し双方に多数の重軽傷者を出した挙句、最終的には双方ともバリケードを挟んで互いに銃を向けあう騒ぎとなり、ワーレンやミュラーがこの事態の解決に奔走することとなった。
イゼルローン側は議論の末、政府代表のフレデリカと軍代表のユリアン、及び軍幹部のシェーンコップやアッテンボローがハイネセンに向かう事になった、また「佐官は残れ」というシェーンコップの提案をリンツやスールは不承不承ながら受諾したが、ポプランは無視して強引に同行した。なお、キャゼルヌは、名目上は留守のイゼルローン要塞を管理運営する責任から(ただし本当は家族がいるため)、メルカッツはユリアンの懇請によって艦隊運用のために残留した。
4月16日、旧同盟要人を収監したラグプール刑務所での暴動をきっかけにハイネセン各所でテロ事件が発生、騒乱状態となる。4月17日、乗艦のユリシーズ及び護衛部隊が回廊を出て帝国の哨戒域に入った時点でハイネセンの状況が届き、彼らは様子を見るため一旦引き上げる事となった。しかし18日、随行する巡航艦の故障がきっかけとなり、百隻ほどの帝国艦隊に追撃される事態が生じた。アッテンボローの艦隊運用によって回廊に逃げ込む事に成功し、さらにメルカッツの救援によって回廊内で安全を確保したが、ユリアンは今後の展開を見越してフレデリカのみをイゼルローン要塞に戻し、そのまま回廊の出口付近に艦隊を展開させた。
一方、騒乱事件の報はハイネセンに向かっているラインハルトにもたらされ、ラインハルトはオーベルシュタインの不手際を責めた。オーベルシュタインはその叱咤を受けながらも、4月29日にはルビンスキーを逮捕している。5月2日、ハイネセンに到着したラインハルトは、御前会議の席でビッテンフェルトによる謝罪と告発を処理した後、収監していた者たちを5月20日に解放する事を公表し、同時に、改めてイゼルローン共和政府に対して出頭を呼びかけた。これによってラインハルトは旧同盟人民より賞賛を受け、オーベルシュタインへの反感はラインハルトへの好感へと変わった。そして政治的に不利になった事を悟ったユリアンは出頭する事を考え始めていたが、実行する前にシヴァ星域会戦が発生した。
柊館(シュテッヒパルム・シュロス)炎上事件
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年5月14日。フェザーンで発生したテロ事件。
11時15分、憲兵本部に「地球教のテロ」を予告する匿名の電話があり、その15分後にローフテン地区の油脂貯蔵庫で爆発が発生、さらに市外との通信システムの一部が破壊されるなど各所で連続して異変が生じたため、憲兵隊と首都防衛部隊は戦力を分散させて対処した。これがテロを起こした犯人の目的だった事が後に判明したが、この日、ケスラーが視察のため帝国中心地区を離れていたため、当初この目論見に気が付くものはいなかった。15時になってようやくケスラーが事情を知り、目的がヒルダとそのお腹の子供である事を察知して兵力をヒルダ達のいる柊館(柊宮)に向かわせたが、既に暗殺犯たちは柊館に入っていた。
この日、アンネローゼが柊館を訪ねてきており、暗殺犯たちが次々に二人を狙ってきた。ケスラー達は館の外までたどり着いていたが、館に火事が発生しており、探査システムが役に立たないため動きがとれなかった。だが、その時外出先から戻ってきた近侍のマリーカ・フォン・フォイエルバッハがヒルダ達の所在をケスラーに教え、ケスラーは単身乗り込んで暗殺犯を射殺し、ヒルダとアンネローゼを救い出した。だがその時、ヒルダに陣痛が発生しており、アンネローゼやマリーカに付き添われて病院に搬送された。19時40分、柊館が焼け落ち、事件は一応終息した。一方、22時50分、ヒルダが(後にアレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムと名づけられる)男児を産んだ。
なお、この事件を通じて知り合ったケスラーとマリーカは、ヒルダが取り持つ形で交際を始め、2年後に結婚している。
エフライム街の戦闘
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年5月17日~18日。憲兵隊による地球教の活動根拠地の制圧。
柊館事件で逮捕した地球教徒に対し、憲兵隊は自白剤を使った尋問を行い、フェザーンでの活動根拠地がエフライム街40番地にある事、ヒルダと皇子のいるフェザーン医科大学付属病院の襲撃を企てていることを突き止めた。ケスラーが率いる武装憲兵10個中隊が包囲し、17日22時に戦闘が開始され、18日1時30分に戦闘が終了した。ケスラーいわく「美の一分子もない」死闘の果て、地球教徒224名のうち死亡221名(うち29名が服毒自殺)、重傷3名。憲兵隊側も27名の死亡者を出している。
シヴァ星域会戦
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年5月29日~6月1日。 民間宇宙船ニュー・センチュリー号に端を発する遭遇戦によって始まったイゼルローン革命軍と帝国軍本隊との戦闘。物語上の帝国側対共和主義者という図式の戦いはこれが最後となる。この戦いの後、イゼルローン共和政府とローエングラム王朝との間で和平交渉が行われ、イゼルローン要塞の明け渡しやバーラト星系の自治などが合意に至った。また、帝国側の主人公ラインハルトの生涯最後の戦いでもある。
シヴァ星域の会戦 | |
---|---|
戦争:新銀河帝国とイゼルローン共和政府との戦い | |
年月日:宇宙暦801年新帝国暦5月29日~6月1日 | |
場所:シヴァ星域 | |
結果:イゼルローン革命軍の勝利 | |
交戦勢力 | |
新銀河帝国 | イゼルローン革命軍 |
指導者・指揮官 | |
ラインハルト・フォン・ローエングラム ウォルフガング・ミッターマイヤー |
ユリアン・ミンツ ダスティ・アッテンボロー |
戦力 | |
艦艇約5万1700隻、将兵584万2400([63]) | 艦艇9800隻、将兵56万7200([63]) |
損害 | |
詳細不明。主要提督に戦死者なし | 将兵20万人戦死 戦死率40%[64] 重軽傷者ローゼンリッター連隊生存者204名全員(会戦開始時の人員は不明。「5年前のイゼルローン攻略時には1960名」)他多数[64] |
前哨戦
[編集]5月末、亡命者900名を乗せた民間宇宙船ニュー・センチュリー号がイゼルローン回廊に入る直前、動力部に異常が発生して救援信号を発した。信号は両軍を呼び寄せ、結果として戦闘が開始された。
当初はイゼルローン軍約2,000隻と、それより少ない帝国軍の警備部隊との小競り合いで始まったが、ドロイゼン艦隊数千隻が援軍に駆けつけ、一方のイゼルローン軍も要塞に援軍を求めた。戦闘開始2時間後にドロイゼンは戦略的価値を見出せない事を悟って艦隊を撤退させたが、イゼルローン軍が反転撤退出来ないように追撃の姿勢を解かなかったため、イゼルローン軍はその場に留まらざるをえなかった。一方、ハイネセンに駐留していた帝国本隊にこの戦いが報告され、ラインハルトは自ら進発する事を宣言した。
本戦
[編集]戦闘開始は5月29日8時50分。帝国軍の兵力は艦艇5万1700隻/将兵584万2400人、イゼルローン軍は9,800隻/56万7200人。戦闘開始15分後にイゼルローン軍は撤退を開始したが、帝国軍はそれはトゥールハンマーの射程に引きずり込む罠だと承知しており、戦局は一進一退を繰り返す形となった。
イゼルローン軍はヤン亡き後に多数の脱落者が発生したダメージから脱却しきっておらず、人手不足に陥っていた。そのため、相当な数の艦艇を無人操作による形だけの運用を行わざるを得ない状況で、実戦力はさらに乏しかった。しかし帝国軍の方も、この時点で総指揮官のラインハルトが体調不良に陥っており、軍の動きが鈍重になっていたため、かろうじて戦線が保たれていた。この状態に限界を感じていたビッテンフェルトは、30日23時30分に猛進を開始し、イゼルローン軍左翼のアッテンボロー分艦隊に損害を与えた。これにより、イゼルローン軍は一旦撤退する様子を見せ、ビッテンフェルトは31日2時40分にラインハルトに追撃を具申した。仮眠中だったラインハルトはベッドから起きたが、艦橋に入った途端に昏倒してしまうほど、病状は深刻だった。
大本営幕僚総監のメックリンガーは事の重大性を踏まえて事態の秘匿を謀ったが、艦隊司令長官のミッターマイヤーが乗りこんでいるベイオウルフだけには報告を入れた。ミッターマイヤーは通信の封鎖を大本営に要請した。
だが、すでにポプランがスパルタニアンの通信回路に入ってきた「皇帝、不予(貴人の病気を指す雅語)」の報をユリアンに知らせていた。ユリアンもまた愕然としつつ、知らせて来たポプランとシェーンコップ、メルカッツ、アッテンボローを集めて会議を開いた。ユリアンはこのまま撤退しても帝国艦隊は追撃して来ないだろう(すなわちトゥールハンマーの射程に誘い込むのは不可能)、そして再戦の機会があってもその時も状況は今より不利になるであろうとして、「この機に乗じて強襲揚陸艦でブリュンヒルトに乗り込み、ラインハルトを倒す」というシェーンコップの提案を採択した。そしてユリアンは自らも乗り込んでラインハルトに直談判する事を決め、ポプランとマシュンゴが同行した。
6月1日1時、イゼルローン軍はメルカッツとアッテンボローによる艦隊運用と、ユリアンによる無人艦隊の自爆撹乱というヤン直伝の奇策で帝国軍前衛部隊の態勢を崩し、そこから強襲揚陸艦イストリアを突入させ、1時55分、ブリュンヒルトにユリアン達とローゼンリッターを送り込んだ。
この時ユリアンの顔を知っていたミュラーが、敵主将自らの突入という非常事態に気づいたが、ラインハルトは「そのミンツなる者に予の元まで自力でたどり着くだけの力があるのなら、会談に応じてもよい。それだけの力もないのなら、何を要求する資格もない」と一切の手出しを禁じた。
一方、ブリュンヒルトを巻き添えにすることを恐れて手出しも救援もできない帝国艦隊は、その腹いせにイゼルローン軍への総攻撃を開始。その砲火はついにメルカッツの乗艦ヒューベリオンを捕らえ、メルカッツはついに望んでいた死に場所を得た。そしてブリュンヒルト艦内ではユリアンとポプラン、マシュンゴはラインハルトの元に向かい、ローゼンリッターが居残って追撃を防ぐことになった。だがその追撃は激烈を極め、屍山血河の中で一瞬の油断を突かれたシェーンコップもまたこの世を去った。さらにマシュンゴがユリアンを庇って銃撃を受け戦死し、ポプランは立ちはだかる親衛隊長キスリングと一騎討ちをしながらユリアンに前進を促した。
そしてユリアンはついにただ一人となり、それでもなお吶喊してラインハルトの居室に進み入り、ミッターマイヤーとミュラーが見守る中、ラインハルトに交渉の用意がある事を告げつつ失神した。ラインハルトはミッターマイヤーに戦闘停止を告げさせ、戦闘は終結した。結局、シェーンコップ、メルカッツ、マシュンゴらを含めてイゼルローン軍は参加者52万人の内20万人余の戦死者を出した(なお、この6月1日はヤン・ウェンリーの命日でもある)。帝国軍は主要提督の戦死は無かったが、ラインハルトが不治の病に侵されている事が知らされた。
ルビンスキーの火祭り
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年6月13日~3日間。ハイネセン・ポリスで発生した爆破炎上事件。後日判明した犯人の名前から、一般的な俗称として広まった。
13日20時に、脳腫瘍で市内の病院に入院していたアドリアン・ルビンスキーが、自ら生命維持装置を外して死に至った。その途端、地下で大規模な爆発が発生、旧同盟の最高評議会ビルが崩壊したのを始め多くのビルが倒壊した。同時に市内各処で火災が発生し、3日間に渡って炎上が続いた。市街地の30パーセントが焼失し、死者及び行方不明者は5000人をこえた。また、仮設大本営が置かれていた国立美術館も火災をまぬがれず、ビッテンフェルト達が避難を嫌がるラインハルトを無理やり救出したが、美術品の搬出には全く関心を示さなかったため、その後、メックリンガーから暗に非難された。
一方、オーベルシュタインが憲兵隊に不審人物を検挙させたが、その中にドミニク・サン・ピエールがいたため尋問を始めた。ドミニクは、この事件がルビンスキーによるラインハルトの殺害を狙ったテロである事を白状し、事件の真相が明白になった。
仮皇宮の戦闘
[編集]宇宙暦801年/新帝国暦3年7月26日、フェザーンのヴェルゼーデ仮皇宮で発生したテロ事件。この日、ラインハルトが危篤状態に陥っており、アンネローゼ、帝国の提督達、及びユリアン一行が仮皇宮に集められていた。なお、ミッターマイヤーだけは、家族を連れてきて欲しいというラインハルトとヒルダの頼みにより、仮皇宮を離れていた。
7月8日に正体が発覚したレオポルド・シューマッハの証言から、地球教徒の残党グループ約30名がラインハルトの命を狙っている事が判明し、オーベルシュタインに報告された。オーベルシュタインはそれを逆用して、偽情報を流して残党グループがヴェルゼーデ仮皇宮を襲撃するように仕向け、一網打尽にする事を謀った。ラインハルトを囮にするという方策を聞かされた提督達は(それでなくてもラインハルトの病状に精神状態が不安定だった事もあって)激高したが、既に事態は動いており、まず襲撃に対処する必要があった。
20時15分、ケスラーの部下が最初の一人を射殺し、同時にユリアン達も動き始めた。当初、彼らは武器を持っていなかったが、射殺された地球教徒を発見してアッテンボローがブラスターを手に入れ、さらにそれで別の地球教徒を撃退して武器を手に入れた(OVA版では、この地球教徒が2丁の銃を持っていたので、ここでユリアンとポプランも武器を手にしている)。
20時25分、ある一室が爆破され、在室していたオーベルシュタインが死に至る重傷を負った(後日の証言によると、地球教徒はこの部屋にラインハルトがいると信じ込んでいた。オーベルシュタインが自ら囮になったのかどうかは不明)。この直後、地球教徒の1グループが逃げようとする所をユリアン達が追撃し、足止めした一人を除いて射殺したが、その一人がド・ヴィリエだった。相手がヤンの仇だと気が付いたユリアンは、乱心した様子でド・ヴィリエを射殺したが、その直後に帝国軍の兵士達が現れたため、ユリアン達は武器を放棄して戦闘継続を断念した(OVA版では、ワーレンがこの帝国軍の兵士達を引き連れており、ユリアン達とは早急な意思の疎通が成立している)。
戦闘後、ミッターマイヤーが家族を伴って仮皇宮に戻ってきた。そして23時29分、ラインハルトが崩御し、直後、ミッターマイヤー夫妻は深夜の仮皇宮の庭に出て、エヴァンゼリンに抱きかかえられたフェリックスが繚乱たる星空に向かって手を上げ自覚せず星を掴み取る動作をし、それは作者によって、紛れもなくこの作品全体が示した「人類全体の歴史を貫流する」情感の一つの表れの動作として読者に明示されて、宇宙暦801年/新帝国暦3年7月27日午前0時(トクマ・ノベルズ版作者あとがき[65]による)、3人は仮皇宮に戻り、かくして宇宙暦796年/帝国暦487年2月のアスターテ会戦からおよそ5年半にわたった本篇は壮麗に締めくくられる。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 本伝, 第6巻序章.
- ^ a b 本伝, 第2巻6章.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 本伝, 第1巻序章.
- ^ a b c d e 本伝, 第4巻4章.
- ^ a b 外伝, 第1巻2章.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 外伝, ダゴン星域会戦記.
- ^ a b c d e f g h i j 外伝, 汚名.
- ^ a b c d e f g h i j k 本伝, 第1巻1章.
- ^ a b c d e f g h i j 外伝, 第1巻7章.
- ^ 本伝, 第7巻1章.
- ^ a b c 外伝, 第4巻9章.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 外伝, 第4巻3章.
- ^ 外伝, 第4巻1章.
- ^ a b c 外伝, 第4巻8章.
- ^ a b 外伝, 第4巻4章.
- ^ 本伝, 第1巻5章.
- ^ 本伝, 第7巻4章.
- ^ 本伝, 第2巻2章.
- ^ a b c 外伝, 第4巻6章.
- ^ a b c d 外伝, 第4巻7章.
- ^ a b c 外伝, 白銀の谷.
- ^ a b c d e f g 外伝, 黄金の翼.
- ^ a b c d OVA外伝, 叛乱者2話.
- ^ a b c OVA外伝, 叛乱者3話.
- ^ a b c OVA外伝, 叛乱者4話.
- ^ 本伝, 第10巻2章.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 外伝, 第3巻7章.
- ^ OVA外伝, 奪還者1話.
- ^ OVA外伝, 奪還者2話.
- ^ OVA外伝, 奪還者3話.
- ^ a b c OVA外伝, 奪還者4話.
- ^ a b c d e f g 外伝, 第3巻1章.
- ^ a b c d 外伝, 第3巻2章.
- ^ a b c d e 外伝, 第3巻3章.
- ^ a b c d e f 外伝, 第3巻4章.
- ^ 外伝, 第3巻6章.
- ^ a b c d e f 外伝, 第3巻8章.
- ^ 外伝, 第3巻9章.
- ^ a b c d e f g h i j 外伝, 第1巻1章.
- ^ OVA外伝, 第三次ティアマト会戦1話.
- ^ a b c d e 外伝, 第1巻3章.
- ^ a b c d 外伝, 第1巻4章.
- ^ 外伝, 第1巻5章.
- ^ OVA本伝, 第9話.
- ^ OVA本伝, 第87話.
- ^ 会戦途中のグリーンヒルの弁。会戦途中での計算のため最終的な損害はより多かった。
- ^ 彼らと思しき人物が作戦会議に参加しているのが確認できるものの、容姿はOVA本編と大きく異なっている。
- ^ ただし、戦闘終了後に謝罪をしに来たパエッタが飲みに誘ったのをヤンは無碍に断っており、それによって心証を害されたことが示唆されている。
- ^ STORY銀河英雄伝説公式サイト
- ^ コミックス新書版第1巻P148を参照
- ^ 機械は同盟側が用意した偽造IDを認証したが、フォン・ラーケン艦長(シェーンコップ)を不審に思った警備主任レムラー少佐が認証されなかったように装い揺さぶりをかけた。
- ^ なお、この作戦の成功によって同盟はイゼルローン要塞を得るのと引き換えに、要塞内にいた50万人という数の帝国軍将兵を捕虜として抱え込むことになり、結果捕虜に対する財政面での負担も増すという負の側面もあった。
- ^ もともとシャンタウ星域は作戦全体に不可欠な星域ではなく、勢力拡大にともなって確保しただけの場所であった。
- ^ 本節では原作小説と道原版コミック、OVA、「Die Neue These」を指す。
- ^ 一例として、他メディアでは最後の攻防戦前にブラウンシュヴァイク公爵が現実逃避のための宴会を催しており、その中で「金髪の儒子を倒して、その頭蓋骨で杯を作ってやる」などとうそぶき、フレーゲル男爵を中心とした取り巻きが同調する描写があったが、藤崎版ではそのような空元気すら出せないほどにやつれ果てていた。
- ^ 他メディアでもそのような考えを持つ人物がいたことは描写されていたが、未遂を含めて実行に移されることはなかった。
- ^ 他メディアではアンスバッハの役目である。
- ^ 戦闘序盤、作戦が順調に進んでいる際にミュラーに対し、「イゼルローン攻防戦で勝利すれば、この場所は"ケンプ・ミュラー回廊"になるかもしれない」といった冗談にならない冗談を語り、一転して陰りが見え始めると、本国に「我が軍有利」とだけ状況報告したり、ミュラーの救援を指示する際には司令官席に当たるなどしていた。同様の疑念はアイヘンドルフ/パトリッケンらも感じている。
- ^ STORY・本編3期アニメ版公式サイト
- ^ “銀河英雄伝説 ON THE WEB - ストーリー紹介 本伝 第3期”. www.ginei.jp. 2019年11月12日閲覧。
- ^ 本伝, 第9巻207頁.
- ^ 例として、旧同盟政府で人的資源委員会委員長を務めたホワン・ルイ、ヤン艦隊の参謀長を務めていたムライ元中将、旧同盟軍において第2艦隊司令官や第1艦隊司令官を歴任したパエッタ元中将、旧同盟の歴代政権のブレーンとなった元同盟自治大学学長のエンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ博士が挙げられる。
- ^ a b 本伝, 第10巻152頁.
- ^ a b 本伝, 第10巻191頁.
- ^ 本伝, 第10巻240頁.