選抜射手

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アメリカ海兵隊員選抜射手(マークスマン)

選抜射手(せんばつしゃしゅ、: Designated marksman, DM)はマークスマンとも呼ばれ、米陸軍の歩兵小隊に属し、主として800メートル以内の標的に対してより正確な射撃をするために訓練された歩兵のことを指す。正確な射撃だけではなく素早く攻撃を加えることが求められ、一般の歩兵と狙撃手の中間の存在といえる。

他国軍隊にもこれに相当する兵士が配属されている。一例としてロシアではドラグノフ狙撃銃を装備した兵士が一般小隊に配置されている。またイスラエル軍に於いては分隊狙撃手と呼ばれる兵士が同様の役割を担っている。

狙撃手との違い

軍隊において、分隊小隊規模で運用される選抜射手に対し、狙撃手は観測手や通信手などの少人数で行動する。任務も通常の歩兵運用とは異なり、戦術、サバイバル技能や射撃面などで、より専門的技能を必要とする。服装も敵に発見されないようによく偽装され、ギリースーツを着こむこともある。逆にヘルメットは重く、シルエットが目立つため着用しない。狙撃銃も通常のアサルトライフルとは異なる高倍率照準器付きの精密射撃専用ライフルを装備する。

選抜射手の射程は部隊火力射程の800m前後であるが、狙撃手は場合によって1.5km以上の長距離から狙撃することさえある。また射撃ごとに要求される精度も高いため、狙撃手は独自に火薬を調合したり、弾頭の材質を変えたりするなど、特殊な弾薬を使用することが多い。そのような特殊な弾薬や、大口径の弾薬を使って精密射撃をするために、軍の狙撃部隊では構造が単純であり信頼性が高く、精密射撃向きであるボルトアクション式ライフルを利用することが多い。

対して選抜射手は、歩兵分隊と行動を共にする。弾薬は小銃手と共通のものを使うと補給の便がよく、目標が多数でも対応できるようにオートマチック式のライフルであることが望ましい。そのため、歩兵の小銃を狙撃銃化したマークスマン・ライフルを装備することが多い。

マークスマン・ライフル

選抜射手はマークスマン・ライフル(Designated Marksman Rifle-DMR)と呼ばれる種の小銃を装備することが多い。500メートル程度までは弾道学的に有効な射程と精度を持つ。

これは光学照準器とバイポッドを持つセミオートマチック式の小銃で、装弾数は10-30発程度。7.62mm NATO弾や7.62 x 54 mm Rなど、やや強力な弾丸を使用するものもある。

選抜射手が用いるマークスマンライフルは近接戦闘も意識したオートマチック式であることがほとんどである。弾薬も補給に負担をかけない汎用的なものを用いることが多く、可能なら小銃手や機銃手と共通の弾薬を使用する。

バトルライフルをベースとしたもの

M14FN FALH&K G3などの大口径の小銃(バトルライフル)は、マークスマン・ライフルのベースとするのに特に適している。

バトルライフルをベースとしたマークスマン・ライフルの例

M14をマークスマン・ライフルとして改良したモデル
M14をマークスマン・ライフルとして改良したモデル
AR-10を基にしたマークスマン・ライフル。
H&K G3を基にしたマークスマン・ライフル。ただし、マークスマン・ライフルという概念が確立する以前から存在するため、SG/1の「SG」はShützengewehr(狙撃銃)の略称であるなど、一般的に狙撃銃と扱われる。
64式7.62mm小銃を基にしたマークスマン・ライフル。

アサルトライフルをベースとしたもの

一般兵士用のアサルトライフルに光学照準器を取り付けただけのものでも十分な効果があるが、一部の国ではさらに改良を加えたマークスマン・ライフルを開発している。一般射手と弾薬に互換性がある事は補給上の大きな利点であるが、弾丸重量が軽く長距離狙撃に向いていない。

アサルトライフルをベースとしたマークスマン・ライフルの例

M16からの派生型。アメリカ陸軍マークスマン・ライフル(US Army Squad Designated Marksman Rifle)
M16からの派生型。アメリカ海兵隊分隊上級射手マークスマン・ライフル(US Marine Corps Squad Advanced Marksman Rifle)。
  • M16A2E3
M16の派生型
M16を大幅に改良した狙撃銃。
当初はイギリス陸軍に分隊支援用として導入されたが、FN MiniMiの導入後、DMRとして使用されることとなった。元々分隊支援用の銃であり、どの点をとってもDMRとして申し分なく、既存のスコープを使用すれば非常に精確な銃である。
ユーゴスラビアのツァスタバ社がAK-47を基に製造したツァスタバ M70を、イラクが狙撃銃に改良したモデル。ドラグノフ狙撃銃の影響もみられる。

アサルトライフルの弾薬を変更した例

IMI ガリルの派生型。
ツァスタバ M70の派生形。弾薬は7.92x57mm弾を使用する

マークスマン・ライフルとして設計されたもの

当初よりマークスマン・ライフルとして運用されることを前提に設計された。
外見はドラグノフ狙撃銃、内部構造はAK-47をそれぞれ参考に設計されている。
H&K XM8のバリエーションの1つ。通常のアサルトライフル仕様(XM8 Baseline Carbine)から数点の部品交換でマークスマン・ライフルとなるよう設計されている。

世界各国での役割

イスラエル国防軍 (IDF)

長い間狙撃能力の不足に悩まされたイスラエル国防軍(IDF)は、1990年代に狙撃ドクトリンの大きな改変を実施した。訓練、教育課程は一新され、狙撃手達はM14に代わってM24を装備した。その中でも大きな変化は新しい役割である選抜射手(ヘブライ語で"kala saar") の導入であり, これは歩兵小隊と狙撃手の間の溝を埋めるために導入された。その役割を説明するため、一般的に「分隊の狙撃手」と呼ばれる。この新たな試みは、後年の第2次インティファーダにおいて、大成功であることが示された。選抜射手が多数の敵兵を殺傷した事で、選抜射手が歩兵小隊において重要な位置を占めることが分かった。一例として2005年、ヒズボライスラエル北国境のRagharのDruze村に攻勢を掛けようとしているのを、一人の選抜射手が阻止し、RPG射手を含む4人の敵兵を殺傷した。

アメリカ陸軍

アメリカ合衆国陸軍はM16を改良したSPR Mk12を使用している。これはアメリカ海兵隊の分隊上級射手ライフル(Squad Advanced Marksman-Rifle,SAM-R)と類似の改良をM16に加えた物である。

ソ連の狙撃手

ソ連とその同盟国は第二次世界大戦以来、分隊ごとの交戦距離を伸ばすため(600メートル前後まで)、分隊レベルで精密射撃ができる兵士を育成し、特別な訓練と装備をしてきた。名称こそ狙撃手と呼ばれるものの、この訓練された兵士はまさに最初の選抜射手そのものであった。

1963年から彼らは典型的なマークスマン・ライフルであるドラグノフ狙撃銃を装備した。この銃はスコープ型照準器、セミオートマチック機構、標準的な中口径弾薬を使用している。

関連項目