盗撮

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街角で身を潜めながらカメラを構える男の鋳像(スロバキアブラチスラバ

盗撮(とうさつ)とは、被写体、または対象物の管理者に了解を得ずにひそかに撮影を行うこと。あるいは撮影を禁じられた美術品などでの撮影や、映画館などで上映中の映画をビデオカメラなどで撮影すること。隠し撮りとも言う。

日本における盗撮

わいせつ目的で盗撮した場合各都道府県の迷惑行為防止条例において『何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる行為を禁止する』定められており犯罪となる。

法廷に提出するための証拠写真として「盗撮」を使用した場合、刑事法廷では違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定される。一方で監視カメラなど「犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合」において、被撮影者の許諾なく、あらかじめ証拠保全の手段・方法をとっておく必要性があり、社会通念に照らして相当と認められる方法で行われる場合、証拠能力は認められるとするのが判例の立場である(山谷監視カメラ事件)。

報道機関が報道内容として後ろ姿やトルソフレーミングで街なかや海岸などでの人物映像を利用することがあり、このような場合は公の報道の利益を考量したうえでの相当に慎重な画像利用が原則(相当性の法理[1])であり、気象報道や事件報道などの際に、海岸や街中でのスナップなどは被写体の承諾を特に取り付けることは一般に行われない。バラエティー番組などで芸能人の楽屋や打ち合わせ現場などに隠しカメラを設置し、芸能人の癖などを撮影するものがあるが、これは企画演出されたものであれ過渡的に不法行為に及ぶものであれ[2]民事上の肖像権(及びプライバシー権)の範囲であり、他の違法性に抵触しない場合、許容されたものを放映されているものと見られる。公益性の高いニュース報道などにおける隠し撮りや隠しマイクについては[3]、通常の取材では認められず「身分を隠しての取材」と同様に慎重な運用が必要と見られる。この場合も公然の取材では映像等が得られず、映像や音声なしでは報道目的が達成できず、報道目的が公益にかなう場合は許される場合もあり、とくに非合法・反社会的対象への取材の場合には例外もあり得るとのガイドラインを規定するメディアも存在する[4]

テレビ番組などで、素人参加企画や街角どっきり企画などが成立しにくくなっている事情に、肖像権の取り扱いの厳格化(適正化)が影響しているとの指摘がある[5]

街の人肖像権侵害事件(東京地裁平成17年9月27日)では、財団法人「日本ファッション協会」がウェブサイトに被写体の原告の一般人の女性に無断で掲載した写真について330万円の賠償を求めた訴訟が提起され、「無断掲載は肖像権の侵害」として慰謝料など35万円の支払いを被告側が命じられた。

事件と判例

事件

更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所やスカート内への卑猥目的に盗撮行為が発生している。女性が協力者となり公衆浴場などでの隠し撮りを行い逮捕される事例[6]

猥褻行為以外の例では、2003年以降に、ゴルフ場健康ランド銭湯の貴重品ロッカーの暗証番号を設定する操作パネルを撮影するように小型隠しカメラを取り付け、記録した暗証番号でロッカーを開けて客の貴重品を盗む事件が発生した。またその番号を記録し、盗み出した財布などに入っているキャッシュカードクレジットカードから、暗証番号としてこの番号を入力し現金などを騙し取る試みも行われたとの報道もあった。多くの人間が、複数のカードの暗証番号を同じにして使っている心理を突いた犯行である。

2005年には、銀行などの金融機関現金自動預け払い機(ATM)の上部に小型隠しカメラを取り付け、キャッシュカードに記載された口座番号や、操作パネルで入力する暗証番号を撮影、記録したうえでキャッシュカードやクレジットカードを偽造し、現金が引き出される被害が発生した。いずれも無線式カメラで、別の場所で映像を記録していたもの。

法律

卑猥目的の盗撮行為は、軽犯罪法の「更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき」で取り締まりの対象となっている。

地方自治体迷惑防止条例の公共の場所[7]や公共の乗物[8](一部の自治体では「公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所[9]」も対象)において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影(一部自治体では「撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置」や「写真機その他の機器で透視する方法」も対象)」について正当な理由なく人を著しく羞恥させ又は人に不安を覚えさせる場合は刑事罰規定で取り締まりの対象となっている。2008年11月10日の最高裁判所は迷惑防止条例の「卑わいな言動」を「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」と定義した上で、2006年に旭川市のショッピングセンターで女性(当時27歳)の後ろを執拗に付け狙い、カメラ付き携帯電話ズボンを着用した同女性の臀部を背後から1~3メートルと至近距離から11回気づかれずに撮影した盗撮行為について、「公共の場所で正当な理由なく被害者を著しく羞恥させ、被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に該当するとして有罪を維持する判決[10]が出され、下着や裸体ではなく着衣の姿の盗撮を含む撮影行為であっても迷惑防止条例が禁止する「卑わいな言動」として取り締まりが可能となる判例が出た。2014年4月12日までの迷惑防止条例は公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所に該当しない場合は公共の場所又は公共の乗物でしか卑猥目的の盗撮を取り締まる事は出来なかったが[11]、京都府では2014年3月25日に迷惑防止条例を改正して「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影」について「公共の場所若しくは公共の乗物」だけでなく「公衆の目に触れるような場所[12]」も追加し、4月13日に施行された。迷惑防止条例は、上空を都道府県間を越えて高速で移動する旅客飛行機内で卑猥目的の盗撮する行為の場合(例として日本航空1402便客室乗務員スカート内盗撮事件)において、どの都道府県の自治体の迷惑防止条例を適用するかが不明確となるため起訴しづらいという問題点がある。2014年7月に大阪市で恐喝する口実を握るために女性がミニスカートにハイヒールを履いて前かがみを繰り返す行為をしてスカート内を盗撮された事件では、女性が盗撮されることを承知で行動していたため「著しく羞恥させ又は不安を覚えさせる場合」ではないとして盗撮者は迷惑防止条例違反には該当しないとして立件されなかった[13][14]

1999年の児童ポルノ禁止法が成立して以降は、18歳未満の児童を卑猥な対象として提供目的で盗撮する行為については「性欲を興奮させ又は刺激させ、衣服の全部又は一部を着けない18歳未満児童の姿態」と定義する児童ポルノの製造に該当するとして、児童ポルノ禁止法違反で刑事罰の対象となっている。2014年6月18日には「ひそかに児童ポルノに係る児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写すること」に該当すれば、提供目的に該当しなくても18歳未満の児童を卑猥な対象として盗撮する行為を児童ポルノ製造として、児童ポルノ禁止法違反で刑事罰の対象となるように法改正が行われ、7月15日に施行された。

一方で、盗撮行為に対して各都道府県で適用される規制にバラつきがあり、16の県において、例えば鉄道車両内での隠し撮りは違法となっても、トイレだと立件できないなどの事例が生じていることが明らかになっている[15]

自分の土地ではない場所での卑猥盗撮や部外者がATMや貴重品ロッカーを盗撮する行為について、建造物等侵入罪で取り締まりの対象となることがある。

なお、映画館において新作映画作品を盗撮することは、知的財産権の観点から映画の盗撮の防止に関する法律違反で刑事罰の対象となっている。

芸能人の権利の制限と商用における権利

有名人はもともと自己の氏名や肖像が大衆の前に公開されることを包括的に許諾したものであって、右のような人格的利益の保護は大幅に制限されると解し得る余地がある。よって俳優等が自己の氏名や肖像の権限なき使用により精神的苦痛を被ったことを理由として損害賠償を求め得るのは、その使用方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定されるものというべきである。その一方で俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有しているのである。ここでは、氏名や肖像が人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することになり(右利益は、当然に不法行為法によって保護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、右経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられる場合が多いといわなければならない[16]

ドキュメンタリーの撮影手法としての隠し撮り

ドキュメンタリー映画においては、軍事政権などは盗撮でしか撮影しえないため、社会に見せる公共性を伴う映像の撮影の為に、隠し撮りを一概に否定出来ないとする見方もある[17]。何かと非難の多い『ザ・コーヴ』の「イルカ漁シーン」自体も、フリージャーナリスト綿井健陽は、社会に見せる公共性があり、隠し撮り以外で撮れないだろうとしている。また、映画監督森達也は、ドキュメンタリーは盗撮の要素を否定してはありえない、通常の報道においても、群集を撮影するのに一々説明しない手前、盗撮的な要素は入るものであるという見方もある[18]

脚注

  1. ^ たとえば「報道の自由と名誉保護との調和」坪井明典(日本弁護士連合会「自由と正義」2005.9)[1]
  2. ^ 「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・最高裁判所刑事判例集23巻12号1625頁
  3. ^ 「関西テレビ放送番組制作ガイドライン」[2]63-64頁
  4. ^ 関西テレビ放送番組制作ガイドライン63-64頁
  5. ^ 「一般人を巻き込むドッキリ企画は100%無理? 素人参加番組が減った裏事情」ネタりか:日刊サイゾー[3][4]2010/10/13 11:48配信
  6. ^ 「公衆浴場の女湯を盗撮、20歳の女子学生逮捕」岐阜新聞 2008年9月2日
  7. ^ 多くの自治体では「道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所」と列挙している。
  8. ^ 多くの自治体では「汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物」と列挙している。
  9. ^ 条例では「公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室」と列挙されている。
  10. ^ なお、最高裁判所第三小法廷では4人の裁判官の多数意見の有罪判決に対し、1人の裁判官の反対意見として「卑わいな言動は迷惑防止条例の他条項に定める行為に匹敵する内容の卑わい性が認められなければならない」「被害者たる女性のズボンをはいた臀部は、同人が通行している周辺の何人もが視ることができる状態にあり、その点では他条項「衣服等で覆われている部分をのぞき見」行為とは全く質的に異なる性質である」として、被告人の行為は「卑わいな言動」にあたらず無罪としている。
  11. ^ 奈良県警の警察官が救急車内で女性の下着を盗撮したが、「救急車内は公共の場所では無い」という理由から立件されなかった。2008年2月、三重県警の巡査がトイレにビデオカメラを設置して盗撮したことが発覚した際には、「飲食店のトイレは迷惑防止条例適用の条件となる『公共の場所』には入らない」(本部生活環境課)との見解が示され、罪が軽い軽犯罪法が適用された。
  12. ^ 京都府警は「屋内、屋外を問わず、多数の人が集まったり、利用したりできる場所」を意味するとしている。
  13. ^ ミニスカの妻をおとりに…、「盗撮」男性恐喝の疑いで3人逮捕 日本経済新聞 2014年9月11日
  14. ^ ミニスカ女、前かがみで誘惑…盗撮に当たらず 読売新聞 2014年9月19日
  15. ^ 盗撮規制 都道府県に差 スマホ普及で事件増、条例改正の動き 毎日新聞 2016年1月22日
  16. ^ [マークレスター事件判決 http://www.translan.com/practice03-03e.html]
  17. ^ 『創』2010年9・10月号「映画「ザ・コーヴ」とドキュメンタリーを論ず」 ASIN B003XNGJOW
  18. ^ 『創』2010年6月号「上映禁止が懸念されるドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」を論じる!」ASIN B003IK408C 綿井は撮影手法として肯定してはいるが、『ザ・コーヴ』の製作者の被写体となった漁師たちに対する傲慢さは批判している。

関連項目