滑車

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船で使われている滑車。このような滑車は一般に「ブロック」と呼ばれている。

滑車(かっしゃ)は、中央に1本のをもつ円盤で構成される機構。ブロック(block)、タックル(tackle)、シーブ(sheave)、プーリー(pulley)ともいう。円盤には周長に沿って2つのフランジがあり、その間に溝がある場合もある[1]ロープケーブルベルト、あるいはを円盤の周囲またはその溝にかけて使う。の方向を変える機械であり、回転力をそれらの線に伝えるのに使う場合もあるし、機械的倍率を向上させるのに使うこともある。5種類ある単純機械の1つである。英語では複数の滑車を組み合わせた装置を "block and tackle" と呼ぶが、日本語では「滑車装置」あるいは「複滑車」などと呼ぶ。

ベルトドライブ

平ベルトとドラム
ベルトと滑車の滑車装置

ベルトと滑車のシステムは1つのベルトに2つ以上の滑車が対応していることを特徴とする。これにより滑車の軸と軸の間で回転力・トルク速さを伝達でき、それぞれの滑車の径が異なる場合は機械的倍率も変化させることができる。

ベルトドライブはチェーンドライブに似ているが、この場合の滑車は表面が滑らかで、滑車と滑車の径の比率が機械的倍率にほぼ相当し、チェーンドライブのように歯車の歯数の比のように正確に倍率を設定できない(チェーンドライブでは歯車とチェーンをかみ合わせるため、離散的に歯車の1歯ずつ動かすといったことが可能だが、ベルトドライブは一般にそれができない)。

フランジと溝を持たないドラム型滑車の場合、平ベルトをその中央に保つためにやや凸面にしておくことが多い。これを「クラウンプーリ」と呼ぶ。これは例えば、アップライト型掃除機でブラシを回転させるのに使われている。

ロープと滑車の滑車装置

ロープと滑車を使った滑車装置はロープを引っ張る線形な力(張力)を何らかの負荷に伝達して、その負荷を(重力に対抗して)引っ張ることを目的とする。単純機械の1つに数えられることが多い。

単純な滑車装置では、摩擦を無視すれば機械的倍率を滑車の個数から計算できる。一方の端が固定されていないロープにかかる張力は一定であり、滑車と滑車の間に張っているロープをそれぞれ1本と数えると、機械的倍率は負荷を引っ張っているロープの本数に等しい。例えば下の図3では、ロープの一端が負荷に繋がっていて、そのロープで支えられた滑車も負荷に繋がっている。そのため、全部で3本のロープで負荷を支えていることになる。ロープの固定されていない端に100kgの張力をかければ、3本のロープそれぞれが100kgの力を発揮し、全体として300kgの負荷を支えることができる。つまり機械的倍率は3である。

負荷にかかる力は機械的倍率によって増加する。しかし、その負荷を移動させる場合、ロープの固定されていない端を引っ張った距離に対して負荷自体が移動する距離は逆に短くなる。大きな負荷を支えられるロープよりも細いケーブルの方が扱いやすいことから、ウィンチで物を引っ張る際に滑車装置による機械的倍率を適用することがよくある(例えば、クレーンに見られる)。

滑車装置は機械的倍率が整数になる唯一の単純機械である。

実際には滑車の数が増えると装置全体の効率は低下する。これは装置内でケーブルと滑車の間や滑車の回転機構に生じる摩擦が主な原因である。

滑車を誰がどこで発明したのかは分かっていない。滑車装置(複滑車)を初めて開発したのはアルキメデスだとプルタルコスが記している。プルタルコスによれば、アルキメデスは人を大勢乗せた戦艦を複滑車と自分の腕力だけで動かしたという。

種類

定滑車
動滑車

滑車にはいくつかの種類がある。

定滑車(ていかっしゃ)
滑車の軸が固定されている。すなわち、軸はその場に固定されているか、何らかの形で繋ぎとめられている。定滑車はロープにかかる力の方向を変えるのに使われる。ロープの重さを考えない場合、定滑車の機械的倍率は1である。すなわち、ロープの両端にかかる力は同じである。
動滑車(どうかっしゃ)
滑車の軸は固定されていない。すなわち、その軸は自由に移動できる。滑車とロープの重さを考えない場合、動滑車は機械的倍率を2にする。ロープの一端が固定されており、もう一方の端を引っ張るとその力の2倍の重さの物体を持ち上げることができる。
複滑車
定滑車と動滑車を組み合わせた滑車装置。それぞれの軸に複数の滑車があるものを block and tackle と呼び、さらに機械的に有利である。複合滑車で物を持ち上げる際の機械的倍率は2より大きい。

動作原理

滑車装置の最も単純な理論では、滑車と線(ロープ)に重さがないと仮定し、摩擦によるエネルギー損失もないと仮定する。また、引っ張っても線は伸びないと仮定する。

平衡状態では、動滑車にかかる力はゼロとする。すなわち、動滑車の軸にかかる力は両側の線に等しく分散して伝わることを意味する。これを示したのが図1である。線が平行でない場合でもそれぞれの線の張力は等しいが、方向が異なるためベクトルとして表した力の総和がゼロになる。

次に、錘(負荷)の重量とそれが移動した距離の積は、線を引っ張る力(張力)と引っ張った長さの積に等しい。持ち上げた重さを引っ張った力で割った値が滑車装置の機械的倍率である。

このように、滑車装置はなされる仕事の量を変化させない。仕事は力と距離の積である。滑車は力が少なくて済む代わりに距離を犠牲にしている。少ない力で負荷を持ち上げることができるが、所定の高さまで持ち上げるにはより長く引っ張る必要がある。

図2では、動滑車によって重量 W を半分の力で持ち上げることを可能にする。力(図1の赤い矢印)は線の両側に等しくかかり、その一方は天井に固定されている。この単純な装置では、力の方向と重量が移動する方向は同じである。この場合の機械的倍率は2である。重量を引き上げるのに必要な力は W/2 だが、所定の高さまで引き上げるのに2倍の長さの線を引き上げる必要がある。したがって、全体としてなされる仕事(力×距離)は同じである。

図2aでは2つ目の滑車(定滑車)が追加されており、単に力の方向を反転させている。機械的倍率は変化しない。

定滑車を追加することで機械的倍率を向上させることもできる。図3では、定滑車を追加することで機械的倍率が3になっている。それぞれの線の張力は W/3 で、それぞれの滑車の軸にかかる力は 2W/3 である。図2aのようにさらに定滑車を追加することで力の方向を反転させることができるが、機械的倍率は変わらない。それを図3aに示す。

このように理想的な滑車を追加していけば、機械的倍率をどんどん向上させることができる。実際には滑車を増やせばその重量もかかるし、摩擦も増大する。したがって、現実の滑車装置には使用可能な滑車数の限界がある。図4aには機械的倍率が4の滑車装置を示している。天井への固定箇所がまとめられ、動滑車が1つの軸でまとめられた実用的な実装を図4bに示す。

滑車がすくない方が効率がよい場合もある。複滑車ではそれぞれの滑車やロープにかかる力が分散される点が最大の利点であり、それによって滑車やロープの耐えられる荷重を抑えつつ、大重量を持ち上げることができる。組み合わせ方によっては、滑車やロープにかかる力がそれぞれの場所で異なることもある。block and tackle では基本的にロープは1本であり、定滑車と動滑車をそれぞれ同じ軸に実装可能という利点がある。

代表的な応用例

滑車はあくまでも歯車とは違い、円周部分にベルト)状のものがはめ込まれる溝があるのが特徴で有る。

古くから世界各地の汲み上げ式の比較的浅い水位の井戸の上屋に取り付けられ、釣瓶をそこに通すことで釣瓶を引き上げやすくするなどに使われている。その他は釣り上げ式の城門跳ね橋などにも利用されてきた。近年ではレコードプレーヤーターンテーブルゴムベルトによる駆動回転させており、このターンテーブル自体も滑車とみなせる。また自動車に備えつけられている各種コンプレッサーオルタネーターも、エンジンからの動力を滑車とベルトを使って伝えている場合もある。

近年ではコグドベルトというベルトにの付いたものが開発され、それを受ける円盤は歯車と滑車の中間に位置する形状のものもある。また、の幅を機械制御可変することにより、回転数を自由に変化させる滑車と、その動力を伝える金属製の状のベルトの開発により、ある程度の回転数やトルクの幅しか持たない動力を、電気モーターのように使うことのできるものも開発されている(無段変速機も参照)。

脚注・出典

  1. ^ Oxford English Dictionary. Oxford University Press. (1989). "A wheel with a groove round its rim, a sheave. A wheel or drum fixed on a shaft and turned by a belt, cable, etc.," 

関連項目