コンテンツにスキップ

活性酸素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Sweeper tamonten (会話 | 投稿記録) による 2011年12月17日 (土) 09:39個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (参考文献の節用意、導入部に加筆、(出典を明確にする作業に向かう))であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

活性酸素(かっせいさんそ、: reactive oxygen species)は、大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称である[1]。一般的にスーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシド)、ヒドロキシルラジカル過酸化水素一重項酸素の4種類とされる[1]。スーパーオキシドは酸素分子から生成される最初の還元体であり、他の活性酸素の前駆体であり、生体にとって重要な役割を持つ一酸化窒素と反応してその作用を消滅させる[2]。活性酸素の中でもヒドロキシルラジカルはきわめて反応性が高いラジカルであり、活性酸素による多くの生体損傷はヒドロキシルラジカルによるものとされている[3]。過酸化水素の反応性はそれほど高くなく、生体温度では安定しているが金属イオンや光により容易に分解してヒドロキシルラジカルを生成する[4]。活性酸素のうちスーパーオキシドアニオンラジカルおよび一重項酸素は、酸素原子のみでできており、その分子構造は普通の酸素分子とそれほど大きく違わないが電子配置が異なっている[要出典]

活性酸素の種類

一般に活性酸素とフリーラジカルは混同されることが多いが、活性酸素にはフリーラジカルとそうでないものがある。スーパーオキシドアニオンラジカルやヒドロキシルラジカルはフリーラジカルである。過酸化水素や一重項酸素はフリーラジカルではない。広義の活性酸素には一酸化窒素二酸化窒素オゾン過酸化脂質などを含む。

活性酸素と人体の関係

多くの好気性生物は、生命維持に必要なエネルギーを得るため、ミトコンドリアで絶えず酸素を消費している。これらの酸素の一部は、代謝過程において活性酸素と呼ばれる反応性が高い状態に変換されることがある[5][6]。 発生した活性酸素・フリーラジカルは様々な物質に対して非特異的な化学反応をもたらし、細胞に損傷を与え得るために、その有害性が指摘されている。

それを防ぐために各組織には抗酸化酵素と呼ばれる、活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素が存在する。その抗酸化酵素としてカタラーゼスーパーオキシドディスムターゼペルオキシダーゼなど、活性酸素を無害化する酵素がある。

細胞内の酵素で分解しきれない余分な活性酸素は癌や生活習慣病老化等、さまざまな病気の原因であるといわれており、遺伝子操作によって活性酸素を生じやすくした筋萎縮性側索硬化症のモデル動物も存在するが、因果関係がはっきりとしていないものも多い。

なお、喫煙による活性酸素の増加が、細胞を傷つけ癌を増加させるのみでなく、ビタミンCの破壊を促進し、しみ、くすみなどの原因となるメラニンを増加させてしまうことが知られている[7]

従来、活性酸素を老化の有力な原因の一つとするのが定説であったが、2005年7月、東京大学食品工学研究室の染谷慎一をはじめとする東京大学・ウィスコンシン大学フロリダ大学の共同研究チームは活性酸素は老化に関与していないとする研究結果を発表した。

活性酸素は高い反応活性を持つため、外部から入り込んできた異物(微生物)を排除することが出来るのがわかってきた。これらを応用して病気治療や新薬の開発が期待される。

白血球などの好中球マクロファージが体内の異物や毒物を認識し取り込み分解することは知られているがこの時に細菌などを分解するのに活性酸素が働いている。白血球好中球)は、体内に細菌が侵入してくると捕獲(貪食)し、白血球はNAD(P)Hオキシダーゼを使ってNADHNADPH)とH+と酸素を反応させて、過酸化水素を生成し、貪食されてもまだ増殖しようとする細菌を殺菌し感染から守る生体防御メカニズムを有する[8]

体内で取り込まれた酸素から発生する活性酸素以外に外的な要因で発生する活性酸素もある。紫外線放射線などが細胞に照射されると細胞内に活性酸素が発生するのが知られている。これを利用したものに、治療として放射線治療などが有名である。

その他に活性酸素は内因性に増殖の細胞内シグナルとして働く事が以前から知られていた。血管内皮細胞でも様々な生理的刺激下で、活性酸素が情報伝達物質(シグナル伝達)として働いているという報告が増えている。この様に体と活性酸素の関係において良い面の研究も進んでいる。

抗酸化物質と酵素

抗酸化物質にはビタミンCビタミンEベータ・カロチンビタミンAグルタチオンなどがある。 活性酸素を除去する酵素には上述のスーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼなどがある。

近年アメリカでは、食材や健康食品の抗酸化能力の指標としてORACを採用する傾向にある。

ビタミンEは、フリーラジカルを消失させることにより自らがビタミンEラジカルとなり、フリーラジカルによる脂質の連鎖的酸化を阻止する。発生したビタミンEラジカルは、ビタミンCなどの抗酸化物質によりビタミンEに再生される[9][10]。 このように各種ビタミンによる抗酸化作用酸化ストレスを抑制できる、と言われていたが、この定説を覆す研究が2006年Daniele Versari氏らによって報告された[11][12]。それによれば、正常なブタに抗酸化ビタミンを投与すると、動脈壁における酸化ストレスを高め、心筋血流・内皮機能を損なうことがわかった。また、喫煙者によるβカロチンの過剰摂取は、癌や心血管死のリスクを増す可能性が指摘されている。非喫煙者に対してはリスクが増す結果はあらわれていない。

脚注

参考文献

  • 吉川敏一『フリーラジカルの科学』講談社、1997年。ISBN 4-06-153650-8