抗力
抗力(こうりょく、英語:drag)は、流体(液体や気体)中を移動する、あるいは流れ中におかれた物体にはたらく力のうち、流れの速度方向に平行で逆向きの成分のことである。流れの速度方向に垂直な成分は揚力と呼ばれる。
追い風で水面をかき分けて進んでいる帆船は、空気から進行方向の抗力を、それより弱い抗力を水から受けている。また、レーシングカー等では揚力でダウンフォースを発生させている。効力も揚力も学問的定義が語源から連想する方向通りではない事もあるので注意が要る。
数式
抗力は、抗力係数 を用いて、以下のような数式モデルで表されるのが一般的である。 係数が異なるだけで揚力と同形式である。
- D は、発生する抗力(drag)
- ρ は流体の密度(海面高度の大気中なら、気温15℃で 1.2250 kg/m3)
- V は物体と流体の相対速度(velocity)
- S は物体の代表面積(surface area)
- は抗力係数(次項で解説)(drag coefficient)
物体の相似比の二乗と流体の密度と流速の二乗に比例する。
抗力係数
抗力係数 は、抗力を動圧 と代表面積 S で無次元化したもので、物体の形状・流体の粘性・流れの速さ(レイノルズ数)、マッハ数、そして迎え角によって変化する。
抗力の成分
抗力(ないし抗力係数)を以下のような成分に分けて考えることがある。誘導抗力については、翼端のある三次元翼ないしは翼を含む構造物(固定翼機、回転翼機など)、あるいはリフティング・ボディのように、揚力を発生する物体について考える。
物理的要因による分類
- 誘導抗力(lift-induced drag, induced drag, drag due to lift)
- 翼端を持つ三次元翼(つまり、一般の翼)において、揚力の発生に伴って発生する抗力。
- 揚力が生じているとき、翼上面は下面よりも圧力が低くなっているため、翼端では下から上へと回り込む渦(翼端渦)が発生している。この渦の持つ下向きの速度(吹きおろし downwash)によって、一様流は翼付近で下向きに傾いているため、流れに垂直に生じる揚力も下流方向に傾くことになる。この、局所流によって生じた傾いた揚力の、一様流に平行な成分が誘導抗力となるのである。[1][2].
- 翼がより細長く、つまりアスペクト比が大きくなる(二次元翼に近づく)につれて、翼全体に対して翼端が占める割合は小さくなり、吹き下ろしの影響も小さくなる。したがって、誘導抗力を低減することができる。亜音速の飛翔体では、十分に流線形をしている限り圧力抗力は小さく、一方で摩擦抗力の大幅な低減は難しい。そこで、誘導抗力を減らすためにアスペクト比 (AR) を大きく(翼を細長く)する努力が払われることが多い。この極端な例がルータン ボイジャーやヘリオス、あるいはグライダーや人力飛行機といった機体であり、AR = 40 近いものまで存在する。
- 有害抗力(parastic drag, parasite drag)
- 揚力の有無には無関係に存在する抗力。干渉抗力と形状抗力とに大別される。
- 造波抗力(wave drag)
- 衝撃波による抗力。
力の向きによる分類
- 圧力抗力
- 物体表面に垂直な力に起因する抗力。せん断力による形状抗力以外の抗力はすべて圧力抗力である。
- 摩擦抗力
- 物体表面に沿った力に起因する抗力。せん断力による形状抗力に等しい。
脚注
- ^ 東昭『流体力学』朝倉書店、1993年、pp. 103-104頁。ISBN 4-254-23623-9。
- ^ Anderson, Jr., John D. (2001). Fundamentals of Aerodynamics, 3rd International ed.. New York: McGraw-Hill. pp. pp. 354-355. ISBN 0-07-118146-6