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国民総幸福量

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国民総幸福量(こくみんそうこうふくりょう、: Gross National Happiness, GNH)または国民総幸福感(こくみんそうこうふくかん)とは、1972年に、ブータン国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクが提唱した「国民全体の幸福度」を示す“尺度”である。国民総生産 (Gross National Product, GNP) で示されるような、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれたものである。現在、ブータン政府は国民総幸福量の増加を政策の中心としている。政府が具体的な政策を実施し、その成果を客観的に判断するための基準にするのが主な用途で、1990年代からの急速な国際化に伴って、ブータンで当たり前であった価値観を改めてシステム化する必要があったという。

2005年5月末に初めて行われたブータン政府による国勢調査では、「あなたは今幸せか」という問いに対し、45.1%が「とても幸福」、51.6%が「幸福」と回答した[1] [2]

概要

2年ごとに聞き取り調査を実施し、人口67万人のうち、合計72項目の指標に1人あたり5時間の面談を行い、8000人のデータを集める。これを数値化して、歴年変化や地域ごとの特徴、年齢層の違いを把握する。国内総生産(GDP)が個人消費設備投資から成り立つように、GNHは 1.心理的幸福、2.健康、3.教育、4.文化、5.環境、6.コミュニティー、7.良い統治、8.生活水準、9.自分の時間の使い方の9つの構成要素がある。GDPで計測できない項目の代表例として、心理的幸福が挙げられる。この場合は正・負の感情(正の感情が 1.寛容、2.満足、3.慈愛、負の感情が 1.怒り、2.不満、3.嫉妬)を心に抱いた頻度を地域別に聞き、国民の感情を示す地図を作るという。どの地域のどんな立場の人が怒っているか、慈愛に満ちているのか、一目でわかるという[3]


国民総幸福量


展望

ブータン国立研究所所長である、カルマ・ウラはGNHについて次のように述べている。

「経済成長率が高い国や医療が高度な国、消費や所得が多い国の人々は本当に幸せだろうか。先進国でうつ病に悩む人が多いのはなぜか。地球環境を破壊しながら成長を遂げて、豊かな社会は訪れるのか。他者とのつながり、自由な時間、自然とのふれあいは人間が安心して暮らす中で欠かせない要素だ。金融危機の中、関心が一段と高まり、GNHの考えに基づく政策が欧米では浸透しつつある。GDPの巨大な幻想に気づく時が来ているのではないか[4]。」

また、本項と直接関係はないが、中国の地方政府が2011年から始まった5カ年計画で、「幸福指数」を政策目標にかかげるケースが相次いでいる。GDP偏重になるあまりに、過剰投資や貧富の格差などの社会問題を生みだしていたとの認識が広がっているためで、重慶市北京市広東省貴州省などが具体案を掲げている[5]

脚注

  1. ^ 外務省 Vol.79 ブータン~国民総幸福量(GNH)を尊重する国
  2. ^ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「季刊 政策・経営研究」2008 Vol.1(通巻第5号)
  3. ^ 日本経済新聞 2010年10月18日付朝刊より
  4. ^ 日本経済新聞 2010年10月18日付朝刊より
  5. ^ 日本経済新聞 2011年3月8日付朝刊より

参考文献

  • 「豊かさの経済を求めて:ブータン王国に思うこと : In Search of Abundance : The Case of Bhutan's Gross National Happiness 」(青木寛子、石戸光、川嶋香菜著、『千葉大学人文社会科学研究』20号、2010年)PDF

関連項目

外部リンク