国民投票
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国民投票(こくみんとうひょう)は、一般国民を対象として、特定の事案に対し投票をもっての意思表示を求める制度である。
概要
現代の民主主義国家においては、間接民主制が原則とされているが、議会と一般国民との間に意見の乖離が見られること等を理由として、国民投票を補完的に採用する国が存在する。国民投票の対象としては、憲法改正などの他に国政上重要な課題について投票を行う国、また、一定の署名を集めると国民投票を行うことができるようになっている国などもある。また、国民投票の実施に当たり、投票結果が法的拘束力を持つ場合と、法的拘束力を持たない諮問的な投票が行われる場合がある。
民主主義のルールとして
ノーベル賞経済学者アマルティア・センは、為政者は政策に大幅な変更をする前に有権者の意思表示を求める必要があると論じる。例えば民主主義国家において、政府が緊縮財政政策を国民に強いる前には、その政策を施行する前に国民投票などで以って国民がその緊縮政策を容認するかどうかを確かめる必要があるのだ。民主的な社会に住みたいと考える人々は公衆の倫理的・政治的ルールの運用を回避すべきではないということである[1]。
各国の状況
アメリカには国民投票制度そのものが存在しない。スイス、フランスやイタリアなどでは一般の国政上の課題も国民投票の対象となっている。
日本
日本国憲法においては、憲法改正の際の国民投票のみが予定されており、かかる国民投票については、日本国憲法の改正手続に関する法律が規定している。また地方自治制度においては、自治体の住民を対象として一定の住民投票の制度が設けられている。
フランス
フランスでは、為政者により、自身の統治を正当化することを目的とした国民投票が多用され、投票行為が人気投票・信任投票と化した国民投票を「プレビシット」と呼び、危険視している。通常の国民投票とプレビシットは、差別化して考えるべきであるという議論がある[2]。
ドイツ
歴史
ドイツでは、第一次世界大戦後に制定されたヴァイマル憲法下で直接民主制の要素が部分的に採用され、国民の請願や国会の議決で発議できる国民投票が制度化されていたが、ドイツ帝国構成諸国旧君主の財産接収やヤング案受け入れ問題など野党が国民投票を利用し、政局に大きな影響を与えた。
ナチス・ドイツ体制期の1933年7月14日には「民族投票法」が制定され、民族投票制度が導入されたが、これは従来の国民投票と異なり、政府にしか発議権が存在しなかった[3]。民族投票はヒトラーの国家元首就任(総統)や国際連盟脱退、ラインラント進駐、アンシュルスの際に行われた。これらはいずれも高い賛成票を得、ヒトラー政権の政策の正当性をアピールしたが、すべて事後に行われた投票であり、法的には信任投票程度の意味しか持たなかった。
現在
第二次世界大戦後のドイツ連邦共和国基本法にも国民投票の規定はあるが、国土の変更や憲法改正のみが対象となっている。
参考文献
- 南利明『〈論説〉指導者‐国家‐憲法体制の構成』静岡大学法政研究第7巻3号
脚注
- ^ Austerity-hit Europe has democratic deficit, says Nobel winner Amartya SenB. Ginns, The Yorkshire Post, Business News, 11 June 2015
- ^ 衆議院 欧州各国国民投票制度調査議員団 報告書 277頁 「2 プレビシット」 (出典:辻村みよ子 「レフェレンダムと議会の役割」 『ジュリスト1022号』(1993年)124頁
- ^ 南利明 & 指導者-国家-憲法体制における立法(一), pp. 82–83.