中折式

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典型的な水平二連式散弾銃に於ける中折方式の動作。薬室開放に伴い、エキストラクターが目視出来る。薬室開閉レバー及び安全装置(セーフティ)も明瞭に判別出来る。写真の銃は引金が1本で内装式の撃鉄の為、単引無鶏頭と分類される。
1860年代に製造された水平二連銃。撃鉄が外部に露出し、左右の銃身を撃ち分ける為に引金を2本持つ構造。両引有鶏頭と分類される。
中折式回転拳銃の一例、二十六年式拳銃

中折式(なかおれしき、ブレイクアクション、:break-action)とは、銃身ヒンジを有するを示す方式であり、尾栓(ブリーチ)を銃腔の中心軸に対して垂直に回転させる事で弾薬の装填及び排莢を行うものである。銃によってはこの動作とは別に撃鉄を起こす操作(コッキング)が次弾発射前に必要となる場合がある[注釈 1]。中折式は二連散弾銃英語版二連小銃英語版複合銃英語版に於いて普遍的な方式であり、更には単発小銃拳銃散弾銃や、信号拳銃グレネードランチャー空気銃のほか、いくつかの旧式の回転式拳銃の設計にも見られる。日本語では元折式(もとおれしき)と称する場合もあり、英語ではブレイクオープンブレイクバレルブレイクトップ、または古い回転式拳銃ではトップブレイクアクションとも呼ばれる。

概要

典型的な上下二連式散弾銃に於ける中折方式のフィールドストリップ。銃身、先台(ハンドガード)、機関部の3点に分解が可能である事が一般的であり、先台を付けていない状態では撃鉄のコッキングが行えない為、日本では先台を銃身・機関部と別保管する事が防犯上推奨されている。

この型式の小銃や散弾銃は、本質的にはヒンジピンにより2つの部位が連結されている。一つは銃床と撃発機構が内蔵された機関部(レシーバー)、もう一つは銃身であり、多くの場合弾薬は銃身側に穿たれた薬室に保持される。設計によっては銃をコンパクト且つ安全に格納する為にヒンジピン自体が容易に脱着可能な場合があり、別の設計ではヒンジがピンとフック[要曖昧さ回避]により構成されていて、補助ラッチを開放する[注釈 2]事で、フックをピンから分離出来る場合がある。こうした構造により、全長の長い銃で中折式を採用するものは、多くの場合銃身と機関部を分離して携行出来るテイクダウン方式英語版の体裁が採られる事になる。なお、拳銃などの全長が短い銃や一部の散弾銃[注釈 3]では、テイクダウン方式を採らない代わりにヒンジピンを支点に完全に折り畳む事で携行を容易とする方式が採られる場合もある。

典型的な中折方式の撃鉄機構。銃身を折った際に撃鉄がコッキングされる。

開閉レバーなどの主となるラッチは、尾栓を開く(薬室を開放する)時や銃を二つに分解する際に解除される。実包は尾栓を開いた状態で(二連散弾銃の場合は2発、回転式拳銃の場合は6発から8発)挿入され、その後に再び尾栓を閉鎖して開閉レバーを閉じる事でラッチが掛けられる。銃器使用者がオープンハンマーを親指で起こすか、薬室開放の際に機関部が自動でインナーハンマーを起こす事により、下がっている撃鉄を引き起こして逆鈎(シアー)に固定される事で、銃器は引金(引鉄、トリガー)を引いて発射する準備が整う。

幾つかの実包を発射した後、ラッチを解除すると銃身とフォアアームは前方下部に垂れ下がる。その際にエキストラクター(抽筒子)は空薬莢を薬室外へ排出し、地面に廃棄する。そして銃は新しい発射サイクルを行う準備が整うのである。なお、散弾銃では設計により薬室開放と同時に抽筒子がバネの力で薬室外に勢いよく空薬莢を蹴り出す場合と、単に空薬莢のリム(起縁)を持ち上げて銃器使用者が手で直接排莢する操作を補助するのみの場合がある。前者のような構造はエジェクター(蹴子)、後者はエキストラクター(抽筒子)と呼ばれて区別され、一般には後者の方がより高級な機構として認知されているが、銃器使用者によっては農地内での狩猟などで空薬莢を外部環境に撒き散らす事を忌避したり、真鍮薬莢などハンドロードで再使用する事が前提の薬莢の紛失を予防するなどの目的で、前者の構造を好んで使用する向きもしばしば見受けられる。

長所

中折式単身銃の一例、ハミルトン・モデル27。

中折式は最も頑丈且つ最も小型な火器の作動構造英語版の一つである。中折式は往復運動する部位が無いので連発銃英語版よりも機構が遙かに短く、フォーリングブロック・アクションローリングブロック・アクション英語版等の他の単発銃の作動構造と比較してもコンパクトである。この機構の緊密さは、より大きな作動構造と比較して重量と大きさを縮小できることを意味しており、同じ全長の火器と比較してより長い銃身を有する事が可能ともなる。

中折式は薬莢の蹴子や抽筒子が銃身側に装備される為、尾栓の正面(包底面)は単なる平面で、撃針が通る穴が開けられているのみである。これは銃身を交換する用途には理想的な構造で、トンプソン/センター・アームズ英語版社のコンテンダー及びアンコール・ピストルで中折式の利点を生かした交換銃身システムが採用されている。中折式の構造は単純であり、有鶏頭を採用する事で更に製造コストを下げる事が可能である。多くの会社で中折式が採用されているが、H&Rファイアーアームズ英語版社の場合、ボルトアクション小銃よりも遙かに安価な価格で中折式小銃が生産されている。

多くの火器は右利き射手の為に設計されているが、中折式はどちらの肩で構えても同じように操作できる。また、開閉レバー周りの部品を左右反転させて生産する必要最低限の仕様変更だけでも、容易に左利き射手専用の火器を生産出来る利点がある。

中折式のもう一つの利点は、非常に全長の長い実包を薬室内に装填可能な点である。中折式は口径変換器英語版が容易に利用可能であると同時に、他の作動形式では凡そ不可能な程非現実的な長さの薬莢が使用出来る。多くの二連式散弾銃では口径変換器を用いる事でより小さなゲージ(番径)の実包、例えば12番径の場合は20番、28番及び410番の実包が装填出来るようになる[1]

日本では2014年現在、銃砲刀剣類所持等取締法により猟銃の最大装填数はガス圧作動方式反動利用方式、イナーシャ・オペレーション方式の半自動散弾銃やポンプアクション式連発散弾銃でも3発までとされており、二連式散弾銃は装填数の面では前者の連発銃よりも不利である。しかし、中折式の操作に熟練した射手の場合、「3連射は連発銃の方が速いが、4発目の発射は二連銃の方が速い」連射速度を実現出来る場合がある。散弾銃においては起縁式(リムド)の薬莢しか存在しない関係で、無起縁式(リムレス)薬莢に向いている着脱式箱弾倉(ボックスマガジン)が採用しがたく、多くの場合銃身と平行に固定式管状弾倉(チューブマガジン)が装備されるに留まり、中折式の再装填に比較して連発銃の再装填は操作が複雑で時間が掛かる為である[注釈 4]。なお、中折式回転拳銃でも月型又は半月型の挿弾子(ムーン/ハーフムーン・クリップ)やスピードローダーを併用する事で、箱弾倉を採用する半自動拳銃英語版に匹敵する再装填速度を実現する事が可能である。

短所

中折式で2本以上の銃身を持つ複合銃の一例、ブレイザー・BD98

中折式は単発銃に最適な構造であり、複数の実包を装填する為には複数の銃身を持つか、回転式シリンダーを有する必要がある。散弾銃では二連式散弾銃が非常に一般的な存在であり、端的な例としてはファーマス社のファーマス・ロンボー英語版の様な四連式の構造のものも存在する。しかし、複数の銃身を持つ事はそれだけ火器の重量の面では不利になる為、機関部が簡素で軽量な中折式の長所を損なってしまう恐れがあり、回転式シリンダーも一部を除きシリンダーと銃身の間に一定以上の隙間(シリンダーギャップ)が存在する事が避けられない為、発射ガスがそこから放射状に飛散してエネルギーのロスが生じて命中精度が低下し、発砲音も高くなる欠点が生じる。また、二連式小銃は左右の銃身から発射された弾丸を同じ目標に命中させる為に非常に正確な銃身の位置調整が必要となる。結果として、二連式散弾銃と比較して高度な製造技術や精度管理が必要となり、製造時の歩留まりも悪くなりがちな為に現代の二連式小銃は非常に高価であり、長距離の目標になればなるほど同一点に弾着させる事が原理的に難しくなる故に、ライフルの特性としては一見相反するように見える短距離での使用を前提に設計せざるを得なくなる。しかし、撃鉄ばねの折損などを除いては作動構造の致命的な動作不良が極めて発生しにくい(≒2発を確実に発射出来る)中折式の信頼性の高さを生かし、大物猟英語版の中でも特に危険度の高いライオンアフリカゾウバッファローヒョウサイ(この5種を総称してビッグファイブ・ゲーム英語版と呼ぶ)を獲物とする狩猟の際には、大口径のダブルアクション型回転式拳銃をサイドアーム[要曖昧さ回避]とするセットで二連式小銃が選択される事が多い。こうした二連式小銃の銃身は、概ね100ヤード(91メートル)以下の距離から危険な獲物を狙撃する用途で、40口径以上の大口径弾頭や、多量の装薬が可能なマグナム薬莢を組み合わせた、ストッピングパワーが極めて大きい実包を採用しつつ、前述の射距離以内で左右銃身が同一弾着となるようにして設計される。

上下二連銃のロッキングラグの一例。銃身下部の突起に横方向からロッキングラグが噛み合わされる構造で、ウインチェスターや日本の晃電社(ニッコー)がこれとほぼ同様の構造である。

中折式は、機構上ラッチの小さな接触面に応力が集中する為、この部分が摩耗しやすい。加えて、ラッチの摩耗により尾栓の密閉性を保つのが難しくなってくる。トンプソン/センター・アームズ製の銃のように、ラッチが着脱できる為に摩耗した際に交換が可能なものもある。構造上ラッチの交換が不可能な場合には、摩耗したラッチの部材に溶接機で肉盛り修正を施した後に、元と同一の形状になるまで摺り合わせ加工を行う。

上記写真の上下二連銃の機関部側の構造。開閉レバーと連動して機関部底部からロッキングラグが飛び出し、銃身側の突起と噛み合う。ヒンジはウインチェスターやニッコーと異なり、一本のピンではなく、機関部左右の突起に銃身側の溝を引っ掛ける構造となっている。このようなヒンジは、部品点数は少なくなるが、耐久性には劣るとされる。

中折式は他の作動形式と比較して構造が単純である為に、経年劣化による破損や作動不良はしにくいものの、本質的な強度が高い訳ではない。中折式は単身銃であっても二連銃であっても、通常は単一のロッキングラグによって尾栓の閉鎖が保持される。この単一のロッキングラグに発射圧力の全てが集中する為に、比較的低圧な発射圧力英語版にしか堪える事が出来ない。散弾銃の場合は発射圧力が比較的低い為、この短所は通常余り問題にはならない。

クロスボルトを持つ水平二連銃の一例。ドイツのメルケルや、日本の新SKB工業などがこのような構造を持つメーカーとして著名である。

しかし、幾つかのセンターファイア英語版のライフル実包においては、単一のロッキングラグでは大きすぎるかもしれない発射圧力を生成する場合がある。トンプソン/センター・コンテンダーでは使用実包が.30-30 ウインチェスター弾英語版級までに限定されており、より強力な実包を使用するトンプソン/センター・アンコールでは、より巨大なロッキングラグが装備される。ボルトアクションを例に取ると、同形式の散弾銃では単一のロッキングラグを使用する場合でも、小銃では遙かに高い固有強度を与え、発射圧力をより均等に分布させる為に、ボルト周囲には複数のロッキングラグが配置される。ボルトアクションよりも一般的に安価なH&R製等の中折式小銃では、より強力な圧力に耐える為に、元々の散弾銃よりも機構全体が非常に重く設計され、高い発射圧力に堪えうる大きな機関部が組み合わされる。特に、.300 ウインチェスター・マグナム弾英語版を用いるような、非常に高価な中折式ダブルライフルの場合には、一般的に最高の品質と強度が求められる。

水平二連式ダブルライフルの一例。クロスボルトの装備と極めて分厚い銃身が特徴であるが、その分中折式の利点の一つである軽量さは犠牲となっている。

こうしたダブルライフルや、一部の高級な二連散弾銃で用いられるのが、機関部の上部に横向きの閂を設けて銃身の上部を固定するクロスボルト構造[2]である。通常の中折式はヒンジピンが設けられる機関部の下部に銃身との嵌め合い部([要曖昧さ回避])を設け、ここに差し込まれる銃身側の突起に開閉レバーと連動するロッキングラグを噛み合わせる事で閉鎖機構を構成しており、廉価な銃では枘が一つ、高価な銃では枘を二つ以上とする事で閉鎖の強化を図っているが、実包の発射圧力はヒンジピンを支点に固定がされていない銃身と尾栓の上部側を押し開く方向に力が作用する為、機関部の下部側のみでの固定では、極めて強力な発射圧力の実包の発射においては強度が不足する懸念が生じる。クロスボルト構造やベレッタのロッキングピン構造[3]などの機関部の上部側に閂を持つ構造は、発射圧力が最も強く作用する箇所にロッキングラグが追加される形となる為、より強力な発射圧力に堪える事が可能となるのである。

中折式は起縁(リム)を持つリムド実包の使用が最も適した構造であり、抽筒子は中実構造のものが用いられる。無起縁(リムレス)実包を使用する場合には、凹状のリムに適合するように、装填時にのみ横にスライドするスプリングを内蔵した構造の抽筒子を用いなければならない。安価なモデルでもこのような抽筒子が用いられているが、スプリング内蔵型は中実型ほど強固ではなく、排莢不良を起こす可能性も高くなる。

その他の長物銃の作動形式

関連項目

脚注・注釈

脚注

  1. ^ Briely Shotgun Conversion Sleeves
  2. ^ メルケル303 銃器のコラム - ファーイーストガンセールス
  3. ^ 徹底的に説明します( ベレッタ S682ゴールド) - ファーイーストガンセールス

注釈

  1. ^ 散弾銃に於いては撃鉄を手動で操作するものは必然的に撃鉄が機関部の外に露出する為に有鶏頭(ゆうけいとう、アウターハンマー)と呼ばれ、逆に開放と同時に自動でコッキングされるものは撃鉄が機関部内に収納される為無鶏頭(むけいとう、インナーハンマー)と呼ばれ区別される。稀に有鶏頭の構造でも開放と同時に自動でコッキングされるものもあり、不発の際の撃鉄の手動操作を意識した構造とされているものも存在する。
  2. ^ 散弾銃では先台(ハンドガード)を銃身から取り外す操作がこれに相当する。
  3. ^ イタリアのファルコ社製410ゲージ元折単身散弾銃など
  4. ^ 管状弾倉用のスピードローダーも一応存在するが、日本では普及しておらず、使用に際しては装填口を上に向けてローダーを差し込む形となる。多くの半自動散弾銃は機関部の底面に装填口が存在する為、銃を肩から降ろして仰向けにして使用する必要があり、結局は中折式の再装填速度には一歩及ばない。