ライ症候群

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ライ症候群(ライしょうこうぐん、Reye's syndrome)とは、インフルエンザ水痘などの感染後、特にアスピリンを服用している小児に、急性脳症、肝臓の脂肪浸潤を引き起こし、生命にもかかわる原因不明で稀な病気である。名前は後述の通り研究者の人名に由来する。かつて、らい病(癩病)とも呼ばれたハンセン病とは全く異なる。

原因

ライ症候群の正確な原因はいまだ不明である。内科医が診断に用いる臨床症状が単一の障害であることはほとんどないのでこの重篤な病気は「症候群」と呼ばれる。しかしながらアメリカ合衆国で報告されるライ症候群の形態は主にインフルエンザもしくは水痘によってもたらされる。多くの研究はこれらウイルス性疾患へのアスピリン投与とライ症候群との強い相関を示している。いくつかの研究では、特に最若年者層において、かなりの割合の症例がのちに他の疾患へ再分類されており、その割合は、イギリスで25%、オーストラリアでは50%に上る。これらの再分類された症例は、ライ症候群に特徴的な、アスピリン暴露との相関が比較的弱い。

アメリカの医学雑誌 (Motier, 1987) において印刷されたアスピリン会社 (Forsyth, 1989) によって資金援助を受けた1つの論文を含む少なくとも5つの疫学的論文はライ症候群の進行とインフルエンザ状の病気もしくは水疱瘡に対するアスピリンサリチル酸化合物)使用の関係を確かめた (Mortimer, 1987)。アメリカ疾病予防管理センター (CDC)、アメリカの軍医総監アメリカ小児科学会 (AAP)、およびアメリカ食品医薬品局 (FDA) はアスピリンおよびそれを含む製品を熱の出た19歳未満の子供に与えることは推奨されないとしている。アセチルサリチル酸はアスピリンの言い換えであり、いくつかの薬品のラベルにはアセチルサリチル酸の名前をアスピリンの名前の代わりに用いている。CDCの調査官はいくつかのサリチル酸およびサリチル酸化合物を含む吐き気を抑える薬を含む薬の使用に対し警告も行った。19歳未満のいかなるティーンエイジャーに対しいかなるアスピリン含有薬品を処方するときは医師もしくは薬剤師に相談すべきである。

大多数の子供は、水疱瘡やインフルエンザの罹患中にアスピリンを投与されてもライ症候群を発症しない。その一方、いくらかのライ症候群発症者はアスピリンまたはサリチル酸化合物を投与されていない可能性もある。ライ症候群に似た症状を示す代謝障害との混同、患者が申告しなかったアスピリン摂取など、他の要素が、サリチル酸への暴露がない患者のライ症候群をしばしば説明する。

重篤なライ症候群の症状は少なくとも肝臓ミトコンドリアへの損傷により引き起こされるように見え、アスピリン投与がミトコンドリア損傷の発生および悪化を引き起こしうる多数の要因となる。ライ症候群縮約のリスクの増加は重篤な影響の継続をもたらすリスクがもっとも高い年齢層である子供および10代へのアスピリン使用が推奨されなかった主な理由の1つである。

歴史

ライ症候群はオーストラリア人の特別研究員Dr. Graeme MorganとDr. Jim Baralとともに1963年Lancet (2:749-52) に最初に投稿出版したDr R. Douglas Reyeにちなんで名づけられた。振り返ると、この症候群の発生は1929年に初めて報告されていたかもしれない。1963年にも、Dr. George Johnsonおよびその同僚は神経学的問題の進行した16名の子供(うち4名は異常にライ症候群に酷似した症状を抱えた)について記述されているB型インフルエンザの勃発についての調査を出版した。より多くこの症候群はライ症候群と呼ばれるけれど、数名の調査官はライ・ジョンソン症候群と呼ぶことがある。1970年代後半から1980年代前半にかけて、オハイオ州ミシガン州、およびアリゾナ州での研究 (Mortimer, 1987) はこの症候群の引き金となりうる上部呼吸器系または水疱瘡感染の間のアスピリン使用を指摘した。1980年初頭、CDCはライ症候群と水疱瘡やウイルス性の病気にかかった子供および10代に対するサリチル酸化合物の関係について内科医と親たちに注意喚起した。1982年アメリカ軍医総監は状況報告を出版し、そして1986年、FDAはすべてのアスピリン含有薬品にライ症候群に関係する警告のラベル貼付を義務付けた。

概略

症状

  • 第一期
    • 持続的かつ重度な食事によって緩和されない嘔吐
    • 全身の無気力
    • 一般的な精神症状、例えば混乱
    • 悪夢
  • 第二期
    • 小脳の炎症に伴う麻痺
    • 過呼吸
    • 脂肪肝(生検で発見)
    • 過度の反射作用
  • 第三期
  • 第四期
    • 深くなる昏睡
    • 光に対する最小反応を伴う瞳孔の散大
    • 最小だがいまだ存在する肝機能不全
  • 第五期

予後

成人のライ症候群の報告例は非常にまれである。大人のこの症候群についての回復はほぼ完全であり、肝機能および脳機能は発病後2週間程度で元に戻る。しかしながら子供の場合、軽度から重度の永続的脳障害が、特に幼児に起こりうる。1981年から1997年にアメリカで報告された事例の30%は死亡した。

他と異なる診断

似た症状を引き起こす原因として次のものが挙げられる。

疫学

成人にも起こると報告されたことはあるけれども、ライ症候群はほぼ子供にのみ起こる。しかしながら、成人は子供ほど神経および肝臓の機能に永続的障害を受けるほど攻撃されやすくないように見える。イギリスやオーストラリアと違い、アメリカでのライ症候群への監視は18歳未満の患者に焦点を当てている。

1980年、CDCがライ症候群と水疱瘡やウイルス性の病気にかかった子供および10代に対するサリチル酸化合物の関係について内科医と親たちに注意喚起しはじめて以後、アメリカでのライ症候群発生率は減少した。アメリカでは1980年から1997年にかけて、ライ症候群の報告症例数は1980年の555例から1994年以降のおよそ年2例程度まで減少した。この期間人種データが利用可能な報告された事例の93%は白人に発生し、年齢の中央値は6歳であった。ウイルス性の病気が先立つ3週間に93%の事例で発生していた。1991年から1994年にかけての、アメリカ合衆国におけるライ症候群に起因する年間入院率は18歳未満人口20万人から110万人に1人であろうと見積もられた。

1980年代の間、イギリスで行われたケースコントロールスタディもまたライ症候群とアスピリン暴露の関係を示した (Hall, 1988) 。1986年6月、イギリス薬品安全委員会は12歳未満のアスピリン使用に対する警告を発行し、アスピリン使用薬品の警告ラベルを導入した。イギリスのライ症候群に対する監視は1986年以降のライ症候群の発生率減少を記述した。ライ症候群の報告された発生率は1983年から1984年の12歳未満人口100,000人あたり0.63人から1990年から1991年の0.11人に減少した。

1995年11月から1996年11月にかけてフランスでは、説明されていない脳障害と3重以上の漿液におけるアミノ基転移酵素の増加、アンモニアを伴った15歳未満の子供のための小児科部局の国家的調査は9例の明らかなライ症候群患者(100万人につき0.79人)に導いた。ライ症候群を伴った9人の子供のうち8人はアスピリンを投与されていたことがわかった。一部調査結果なので、フランス薬品代理局はアスピリンとライ症候群との関係への国際的注意を自身のこの関係についての公開の専門的な警告を発行することによって強化した (Autret-Leca, 2001) 。

病理

脳浮腫と、肝組織の脂肪変性ミトコンドリア変性が特徴である。ライ症候群の本質は、薬剤によるミトコンドリア障害・ミトコンドリア機能不全である。ミトコンドリアを障害するアスピリン、バルプロ酸ナトリウムテトラサイクリン系の薬剤によって誘発される。[1]

脚注

  1. ^ 木村昭彦: 肝疾患-ライ症候群, 肝・胆・膵 55:229-235, 2007.

参考文献

  • Autret-Leca E, Jonville-Bera AP, Llau ME, et al. Incidence of Reye’s syndrome in France: a hospital-based survey. J Clin Eoidemiolo 2001; 54:857-862.
  • Belay ED, Bresee JS, Holman RC, et al. Reye’s syndrome in the United States from 1981 through 1997. NEJM 1999;340(18)1377-1382.
  • Forsyth BW, Horwitz RI, Acampora D, et al. New epidemiologic evidence confirming that bias does not explain the aspirin/Reye’s syndrome association. JAMA. 1989;261:2517-2524.
  • Hall SM, Plaster PA, Glasgow JFT, Hancock P. Preadmission antipyretics in Reye’s syndrome. Arch Dis Child 1988;63:857-866.
  • Hurwitz ES, Barrett MJ, Bergman D, et al. Public Health Service study of Reye’s syndrome and medications: Report of the main study. JAMA 1987;257:1905-1911.
  • Johnson GM, Scurletis TD, Carroll NB. A study of sixteen fatal cases of encephalitis-like disease in North Carolina children. N C Med J 1963;24:464-73.
  • Kauffman RE. (Reye's syndrome and salicylate use, by Karen M. Starko, MD, et al, Pediatrics, 1980;66:859-864; and National patterns of aspirin use and Reye syndrome reporting, United States, 1980 to 1985, by Janet B. Arrowsmith et al, Pediatrics, 1987;79:858-863.) 1998. Pediatrics 102:259-262.
  • “Labeling for oral and rectal over-the-counter drug products containing aspirin and nonaspirin salicylates; Reye’s syndrome warning, Final Rule.” Federal Register 68 (17 April 2003):18861-18869.
  • Mortimer EA. Reye’s syndrome, salicylates, epidemiology, and public health policy. JAMA 1987;257(14):1941.
  • Reye RDK, Morgan G, Basal J. Encephalopathy and fatty degeneration of the viscera. A disease entity in childhood. Lancet 1963;2:749-52.
  • Sullivan KM, Belay ED, Durbin RE, et al. Epidemiology of Reye’s syndrome, United States, 1991-1994: Comparison of CDC surveillance and hospital admission data. Neruoepidemiology 2000;19:338-344.
  • Surgeon General’s advisory on the use of salicylates and Reye syndrome. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1982;31:289-90.

関連項目

外部リンク