ヨーロッパ中心主義

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ヨーロッパ中心主義(ヨーロッパちゅうしんしゅぎ)とは、本来は地球上に数ある諸文明の一つに過ぎない欧州文明(特に西欧)を格別のものとしてみなす考え。欧米文明を西洋としこれ以外の文明を全て東洋とすることなどはその一例とされる。

ヨーロッパ中心主義の発生

ヨーロッパ中心主義は、15世紀から17世紀大航海時代に始まる。西欧諸国は大洋に乗り出し、アメリカ大陸東南アジア島嶼部北アジアなどの植民地化を進め、文化が世界各地に伝播する。ただし、トルコ支配下の東欧・中東・インド・東アジア・東南アジア大陸部においては在来文明の勢力が強く、当時は西欧文化があまり浸透しなかった。

当時の西欧は戦乱が相次いでいる有様であったが、18世紀から19世紀にかけて西欧の経済発展および技術革新の速度は、他の地域のレベルや学問レベルの発展を大きく上回り、技術的、軍事的な西欧の優位が確立した。中国やインド及びその周辺にも列強の勢力が浸透し、西欧文明は世界を席巻する。この過程で植民地になった諸国や、西欧にならった近代化を目指した地域では、自国の歴史、技術、文化を劣ったものとみなし、西欧文明を普遍のものとする価値観が広まった。

現代のヨーロッパ中心主義

第二次大戦以降も欧米の技術的、政治的、経済的優位はしばらく変わらなかったものの、二度の世界大戦でヨーロッパは疲弊し、ドイツ語圏やフランス語圏はかつての影響力を失い、東欧はソ連が強大な勢力を有したものの経済政策に失敗し、1970年代のソ連の停滞以降は英語圏、特にアメリカ合衆国が圧倒的な影響力を持ち、西洋文明の代表を自認するようになった。このため、「欧米」とひとくくりにされているが実際はそれがアメリカ文化であることも多い。

20世紀後半以降東アジア諸国、21世紀以降はそれに加えインドラテンアメリカの経済発展が著しく、欧米の経済的・政治的な地位は低下しつつあるが、これらの国々でも日常的にアルファベット外来語が使われるなど文化的・技術的な影響力は今なお大きい。

現在では欧米の大衆文化にも非欧州発祥の文化的要素が少なからず取り入れられているが、ヨーロッパ中心主義の下での文化の盗用とする見方もできる。

ヨーロッパ中心主義の内容

  • 哲学の始まりをギリシャからとし、それ以外の地域の哲学は傍系のものとする。
  • 欧州文明を西洋として、それ以外の文明を東洋としてひとまとめにする。
  • 欧州の技術、科学が全時代にわたって他文明のそれに対して優位にあったと見なす(必然的にイスラーム黄金時代は過小評価されている)。
  • 欧州文明は合理的であるとし、それ以外の文明は非合理的であるとする。

日本におけるヨーロッパ中心主義

戦前

日本の近代化の過程は、他の非欧米文明圏とは大いに異なっていた。日本は直接欧州列強の支配下に入らなかったにもかかわらず、欧州文明を急速に大々的に取り入れ、欧州諸国と並ぶ列強の一員となった。しかしこれは反面日本の自己植民地化を強く推し進める結果となり、本来は自文化と対立的な欧州至上主義を内部に抱え込む矛盾を招くことになる。近代日本の知識人たちは欧州文明を至上とする考えを受け入れながらも、天皇制を自国の独自性の中心に据えることでこの矛盾を回避しようとした。

第一次世界大戦後から第二次世界大戦開戦前の戦間期において、日本の中上流階級の人々の文化はかなりの程度欧州化する。日本でもアメリカ合衆国の大衆文化の浸透が進み、モダニズムが知識人の支持を得、またロシア革命を契機に共産主義の浸透が進むといった動きは、当時の世界的な文化動向とも一致したものであった。一方でその反動として民族主義国粋主義ないし反近代主義の思潮も活発であり、日本の古典文化を再評価する動きも常に存在していた。

極端な欧米崇拝と極端な国粋主義の矛盾は解決できないまま、「第1位は西洋だが、自分たちは第2位」という卑屈な自己意識となり、他のアジア諸国など非西洋への蔑視感情につながる一方[1]大アジア主義のようなさらに矛盾した思想も生まれ、結局第二次大戦による破綻を迎える。

戦後

第二次世界大戦敗戦後は、アメリカ合衆国の強い政治的、文化的影響力の下に日本は再出発することとなり、アメリカ文化は戦前とは比較にならないほど大衆化し、日本の文化はアメリカ的なものに根こそぎ変わった。

とはいえ、戦後の大衆文化はアメリカを単純に模倣したものではなく、そこには日本独自の要素が多く含まれていることも事実である。現在ではアジア・ラテンアメリカなど非欧米の文化も広く知られ盛んに輸入されるようになり、また、欧米文化を日本化した大衆文化が世界に発信されてもいる。

脚注

  1. ^ 2013年9月8日 日経新聞「日曜に考える」

関連項目