シュコダ・プッシュプル・トレインセット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ドイツ鉄道770.0形客車
ドイツ鉄道790.0形客車
ドイツ鉄道790.1形客車
イノトランスに展示された車両(2018年撮影)
基本情報
運用者 DBレギオドイツ鉄道
製造所 シュコダ・トランスポーテーション
製造年 2016年 -
運用開始 2020年11月16日
主要諸元
編成 6両編成
軌間 1,435 mm
最高運転速度 189 km/h
設計最高速度 200 km/h
編成定員 674人(着席)
712人(立席)
自転車37台
車椅子2台
備考 車両ごとの主要数値は下記も参照[1][2][3][4][5][6][7]
テンプレートを表示

この項目では、チェコの鉄道車両メーカーであるシュコダ・トランスポーテーションドイツ鉄道DBレギオへ向けて製造した2階建て客車列車について解説する。最高時速200 km/hに対応したプッシュプル列車として開発されたが、技術的な問題を始めとした様々な要因から営業運転開始は最初の車両の製造から4年が経過した2020年となった。この項目では他国に導入される予定の同型車両についても解説する[1][2][3][4][5]

概要[編集]

ドイツ鉄道の子会社であるDBレギオは、ニュルンベルクからインゴルシュタットを経由しミュンヘンへ向かう高速鉄道ニュルンベルク-インゴルシュタット-ミュンヘン高速線で、地域間輸送を目的としたレギオナルエクスプレス快速列車)のミュンヘン・ニュルンベルク・エクスプレス(München-Nürnberg-Express)を運行している。2013年8月、DBレギオはこの列車で使用され老朽化が進んでいた1階建て客車に代わる新型車両として、チェコシュコダ・トランスポーテーションとの間に電気機関車102形英語版、6両)と共に6両編成を組む2階建て客車・36両分の導入に関する契約を結んだ[注釈 1][1][2][3][4][8][9]

編成は電気機関車と連結する客車(Endwagen、790.1形)と中間に挟まれる4両の客車(Mittelwagen、790.0形)、運転台が備わる制御車(Steuerwagen、770.0形)、計6両で構成されており、編成前後の客車(790.1形、770.0形)は2階部分に1等座席が設置されている合造車である。座席はクロスシートで、1等座席が1 + 2列、2等座席が2 + 2列のクロスシートを基本とする。これらに加えて、制御車と中間客車の1階部分には自転車ベビーカーが設置可能なフリースペースが設けられており、未使用時は折り畳み座席(ロングシート)の展開が可能である他、制御車の1階部分には2人分の車椅子用座席や親子連れ用座席も設置されている。6両編成時の座席定員数は674人で、従来の1階建て客車を用いた列車と比べ20 %多い[1][4][10][11]

乗降扉は片開き式のプラグドアが用いられ、車端の平屋部分よりも低い場所に設置する事で床上高さを760 mmに抑え、プラットホームとの段差を無くしている。一方で制御車と中間客車については扉から1階部分までスロープが存在しており、段差なく往来する事が可能となっている[注釈 2][1][11][4]

車体は欧州連合における鉄道規格に基づいて設計が行われている他、ニュルンベルク-インゴルシュタット-ミュンヘン高速線上で最高速度300 km/hのICEトンネルですれ違う場合に備えた強度が確保されている。営業最高速度は189 km/hだが、200 km/hでの運転にも対応する[1][2][4][8]

運用[編集]

最初の車両は2017年に完成し[注釈 3]、102形電気機関車と共にチェコヴェリム鉄道試験線やニュルンベルク-インゴルシュタット-ミュンヘン高速線で試運転が実施された。その後、2018年には欧州連合が定めた鉄道車両の技術仕様「TSI(Technical Specification for Interoperability)」の認証を取得し、2019年にはドイツ連邦鉄道局から部分的な運行の許可が下りたものの、ドイツ鉄道側は完全な形での承認を求めており、技術的な問題も指摘されたため、営業運転はおろかニュルンベルク-インゴルシュタット-ミュンヘン高速線での試運転すら行われていない状態が長く続く事となった。だが、その後は2020年7月以降試運転が再開され、同年11月からミュンヘン - トロイヒトリンゲン間で営業運転を開始した。高速線での本格的な営業運転には12月以降導入されており、旧型客車の置き換えが進行する事になっている[3][5][2][6][12][13]

主要諸元[編集]

シュコダ・プッシュプル・トレインセット 編成表
(ドイツ鉄道向け)
編成 基本編成
形式・種別 機関車 790.1 790.0 790.0 790.0 790.0 770.0
形式凡例
プッシュプル列車 主要諸元[3][4][10][11][14]
形式 770.0 790.0 790.1
車種 制御車
(DABpbzf)
客車
(DBpz)
客車
(DABpz)
日本国有鉄道の付与方法に基づく形式 カクロハ カハ カロハ
軌間 1,435mm
最高速度 営業 189km/h
設計 200km/h
全長 26,950mm 26,400mm 26,410mm
全幅 2,800mm
全高 4,630mm
車輪径 920mm
固定軸距 2,400mm
台車間距離 19,500mm
重量 56.2t 54.3t 54.0t
軸重 19.5t
定員 1等座席 17人 9人
2等座席 62人 104人 119人
折り畳み座席 13人分 16人分
車椅子対応座席 有(2人分)
フリースペース

他国への導入[編集]

2019年3月チェコ鉄道(ČD)はシュコダ・トランスポーテーションとの間に新型車両の導入に関する契約を交わした。そのうち15両の導入が決定した客車はドイツ鉄道向けの車両を基にした3両編成の2階建て車両で、制御車を含めた着席定員は1等・2等合わせて356人を想定している。ドイツ鉄道向け車両と比べて最高速度は160 km/hに抑えられているが、両開き式の乗降扉の高さは550 mmに抑えられており、よりバリアフリーに対応した構造となっている。また車内には最大30台の自転車やベビーカー、スキー板が搭載可能なフリースペースが設置される他、wi-fiにも対応する。これらの車両はオストラヴァ - フリードラント・ナト・オストラヴィツィー英語版 - フレンシュタート・ポト・ラドホシュチェム英語版間の電化計画に基づくものであり、2021年からの納入開始を予定している[15][16]

関連項目[編集]

951系客車(2014年撮影)

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ DBレギオを始めとしたドイツ鉄道の路線にはボンバルディア・トランスポーテーションが展開する2階建て客車が継続的に導入されていたが、同社は契約からの遅延が頻繁に生じており、これがシュコダと契約を結ぶ要因となった[5]
  2. ^ 高床式プラットホームに対応した位置に乗降扉を有する2階建て列車のうち、車内を段差なく往来可能なバリアフリーに対応した車両はシュコダ製の2階建て客車が初の事例となる[1]
  3. ^ 契約時点では2016年までに納入が完了する予定だった。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g PUSH-PULL TRAINSET GERMANY”. Škoda Transportation. 2020年10月22日閲覧。
  2. ^ a b c d e 橋爪智之 (2020年9月1日). “納期遅れ相次ぐ「欧州式」鉄道車両開発の弊害”. 東洋経済. 2020年10月22日閲覧。
  3. ^ a b c d e Škoda double-deck push-pull set for DB on test”. Railway Gazette International (2017年1月31日). 2020年10月22日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g Skoda: Doppelstock-Wendezüge für DB Regio in Velim”. Eisenbahn Kurier. 2020年10月22日閲覧。
  5. ^ a b c d Arno Stoffels (2020年4月24日). “Rekord-Verspätung: Deutsche Bahn will neue Züge nicht abnehmen”. Verlag Nürnberger Presse. 2020年10月22日閲覧。
  6. ^ a b Oliver Cuenca (2020年11月11日). “IRJ In-Brief – Fleet: Skoda trains finally authorised in Germany; Perm to purchase 15 LRVs; New EMUs on their way to Israel”. International Railway Journal. 2020年11月26日閲覧。
  7. ^ VLAK TYPU PUSH-PULL NĚMECKO DOUBLE-DECK PUSH-PULL TRAINSET GERMANY”. Škoda Transportation. 2020年10月22日閲覧。
  8. ^ a b Jiri Hofman & Daniel Schambach 2015, p. 34.
  9. ^ Jiri Hofman & Daniel Schambach 2015, p. 43.
  10. ^ a b Jiri Hofman & Daniel Schambach 2015, p. 36-37.
  11. ^ a b c Jiri Hofman & Daniel Schambach 2015, p. 38-40.
  12. ^ München-Nürnberg-Express: DB führt Test- und Versuchsfahrten mit neuer Zuggarnitur durch”. Bahnblogstelle.net/.de (2017年7月8日). 2020年10月22日閲覧。
  13. ^ NIMimum delay: New Škoda Express trains enter service in Bavaria in 2020?”. RailcolorNews (2020年1月8日). 2020年11月26日閲覧。
  14. ^ “客車”. 客車・貨車. 学研の図鑑. 学研. (1981-8-10). pp. 8-9. ISBN 4-05-004290-8 
  15. ^ DIE NEUEN PUSH-PULL GARNITUREN FÜR DIE MÄHRISCH-SCHLESISCHE REGION WERDEN VON ŠKODA GELIEFERT”. Škoda Transportation (2019年3月29日). 2020年10月22日閲覧。
  16. ^ ČD orders push-pull sets and EMUs”. Railway Gazette International (2019年3月29日). 2020年10月22日閲覧。
  17. ^ PUSH-PULL TRAINSET SLOVAKIA”. Škoda Transportation. 2020年10月22日閲覧。

参考資料[編集]

外部リンク[編集]