アセトアルデヒド脱水素酵素

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アセトアルデヒド脱水素酵素
Pseudomonas sp.のアセトアルデヒド脱水素酵素の結晶学的構造.[1]
識別子
EC番号 1.2.1.10
CAS登録番号 9028-91-5
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / QuickGO
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アセトアルデヒド脱水素酵素(アセトアルデヒドだっすいそこうそ、ALDH; EC 1.2.1.10)は、摂取したエチルアルコール代謝によって生じるアセトアルデヒドを、酢酸に分解する代謝酵素アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼとも。アルデヒド脱水素酵素の一種。

飲酒により体内に入ったエチルアルコールは、胃や小腸から吸収され肝臓内のアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドへと分解される(式1)。アセトアルデヒド脱水素酵素は肝臓内においてアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素である(式2)。

CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+ …… (1)
NAD+ : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型
NADH : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型
CH3CHO + NAD+ CoA → + acetyl-CoA + NADH + H+ …… (2)
CoA : 補酵素A
acetyl-CoA :アセチル補酵素A、補酵素Aと酢酸が結合した物質

こののち、酢酸はさらに二酸化炭素と水に分解され、最終的に体外へと排出される。

遺伝子多型

アセトアルデヒド脱水素酵素 (ALDH) は、517個のアミノ酸から構成されるたんぱく質である。このうち487番目のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、3つの遺伝子多型に分かれる。グアニンを2つ持っているGGタイプ(遺伝子対が両方ともGタイプ:ホモ)と、グアニンの1つがアデニンに変化したAGタイプ(遺伝子対のうち片方がAタイプで他方がGタイプ:ヘテロ)、2つともアデニンになったAAタイプである。GGタイプのアセトアルデヒド脱水素酵素に対し、AGタイプは約1/16の代謝能力しかなく、AAタイプにいたっては代謝能力を失っている。AGの活性が1/16であるのはアセトアルデヒド脱水素酵素が4量体を形成し、Aタイプが優性に活性を無力化してしまうために起こってしまうものである。

アセトアルデヒドは毒性が強く、悪酔い・二日酔いの原因となる。つまりアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱いということは、毒性の強いアセトアルデヒドが体内で分解され難く、体内に長く留まるということであり、AGタイプ・AAタイプは、アセトアルデヒドの毒性の影響を受けやすい体質である。そのため、一般的にこのタイプの人は、酒に弱い人、もしくは酒を飲めない人と言う事になる。

ALDHの遺伝子多型は生まれつきの体質であるが人種によってその出現率は異なり、AGタイプ(酒に弱いタイプ)・AAタイプ(酒が飲めないタイプ)はモンゴロイドにのみ、それぞれ約45%、約5%認められる。

オーストラロイドに属するアボリジニはモンゴロイド以上にアルコールに対する耐性が低く、オーストラリアではアボリジニ居住区への酒類持込および飲酒を勧めることは法律で規制されている

これに対しコーカソイド(白人)・ネグロイド(黒人)は全てGGタイプ(酒に強いタイプ)である。

筑波大学原田勝二らは、ALDHのひとつALDH2を作る遺伝子によって酒の強さが体質的に異なるとされることに注目して、全都道府県の5255人を対象に、酒に強いとされる遺伝子の型NN型を持つ人の割合を調査、順位づけた。その結果NN型の人は中部、近畿、北陸、北九州など西日本を中心に少なく、東西に向かうにつれて増加し、東北、関東、南九州、沖縄で多くなる傾向があった。全体的にNN型の遺伝子を持つ者は東日本に多かった。すなわち、秋田県が最多で77%、鹿児島県と岩手県が71%でこれに続き、最小は三重県の40%、次に少ないのは愛知県の41%であった(原田勝二インタビュー)。

ALDHのタイプ別飲酒の注意点

  • GGタイプ(酒に強いタイプ)
    このタイプは一般に酒に強いと言われる人々である。しかしそれは、アルコールが体内で代謝された後に生じる、毒性の強いアセトアルデヒドを速やかに分解できるためである。つまりアセトアルデヒドによる影響をほとんど受けないのである(アセトアルデヒドは頭痛、悪心・嘔吐、二日酔いなどを引き起こす)。しかし、摂取したアルコールの濃度に応じて、実際には脳が麻痺しており、アルコールによる本来の酔いに変わりがあるわけではない(酔いとはエチルアルコールによる脳の麻痺であり、アルコールが分解された後に生成されたアセトアルデヒドの分解能力とは関係がないため)。つまり悪酔いをしにくいタイプである。GGタイプがアルコール依存症になるリスクはAGタイプの6倍と言われており、事実、日本のアルコール依存症患者の9割弱はこのGGタイプである。さらに、GGタイプしか存在しない白人・黒人の社会である欧米では、アルコール依存症が深刻な社会問題となっている。
  • AGタイプ(酒に弱いタイプ)
    このタイプは、アルコールが体内で代謝された後に生じる、毒性の高いアセトアルデヒドを分解する能力が弱い。そのためアセトアルデヒドの毒性に長時間さらされ、飲酒に関連する病気を罹患しやすいと考えられている。事実、各種疫学調査により、同じ量の飲酒を継続した場合で、咽頭がん・大腸がんなどの飲酒習慣と関連すると考えられている疾患の発症率が高いことが知られている(AGタイプがアルコール性のガンを罹患するリスクは、GGタイプの1.6倍と言われている)。AGタイプがアルコール依存症になる可能性は低いが、同じ量の飲酒を継続した場合、GGタイプよりも短期間でアルコール依存症になることが知られている。
  • AAタイプ(酒が飲めないタイプ)
    いわゆる下戸タイプで、アセトアルデヒドを分解する能力がほとんどなく、アセトアルデヒドが長時間・大量に体内に蓄積することになるため、アルコール類を一切受け付けない。したがって飲酒は厳禁であり、これを訓練などによって克服することは絶対に不可能である。また消毒用アルコールや、栄養ドリンクなどに含まれる少量のアルコール分(エチルアルコール)を含むものに対しても、赤くなるなど敏感に反応する人もこのタイプである。

なお近年の研究により、ALDHのタイプだけではなくアルコールデヒドロゲナーゼ (ADH) のタイプでも、アルコール依存症や各種アルコール性疾患に罹患する確率が変わってくることが分かってきた。ALDH2 欠損型と ADH1B 低活性型が最も酒に弱い組み合わせであり、日本人の2-3%がこのタイプであるといわれている。

脚注

  1. ^ PDB: 1NVM​; Manjasetty BA, Powlowski J, Vrielink A (June 2003). “Crystal structure of a bifunctional aldolase-dehydrogenase: sequestering a reactive and volatile intermediate”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100 (12): 6992–7. doi:10.1073/pnas.1236794100. PMC 165818. PMID 12764229. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC165818/. 

外部リンク

  • 遺伝子が教えるアルコール依存症のリスク Seeking the Connections: Alcoholism and Our Genes (SCIENTIFIC AMERICAN April 2007) [1]
  • ALDHとADHの組み合わせによるリスク(情報ボックス アルコール 2.飲酒と健康問題 アルコールとがん:国立病院機構久里浜医療センター)[2]
  • フラッシング反応(情報ボックス アルコール 1. アルコールの基礎知識 フラッシング反応について):国立病院機構久里浜医療センター)[3]

関連項目