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わんぱく王子の大蛇退治

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わんぱく王子の大蛇退治』(わんぱくおうじのおろちたいじ)は、1963年に公開された東映動画製作の劇場用アニメ映画(長編漫画映画)。86分。カラーワイド版。封切1963年3月24日

解説

東映動画の長編アニメ第6作。日本神話天岩戸説話、素盞嗚尊八岐大蛇退治に材を採り、子供向けの明快なファンタジー映画となっている。

製作費7,000万円、スタッフ180人、作画枚数25万枚、絵具1トンを使用。これまで東映長編の監督を担当してきた藪下泰司に代わって、新東宝出身の新人の芹川有吾が監督に初登板。従来、東映動画内では演出家はコーディネーター的立場だったが、アニメーター出身でない芹川は東映動画に本格的な演出を持ち込み、監督という職制を確立[1][2]。さらに本作では、作画の絵柄統一を図る日本独特の作画監督制度が初めて採用された[3]。その他にも美術監督小山礼司の提案による平面的なグラフィカルなデザインなど、様々な新機軸が採用された意欲作であり、東映動画と日本のアニメ映画史に残る作品という評価が下されている。

白蛇伝』『安寿と厨子王丸』など、当時の東映動画でよく使われていたライブアクションも、天岩戸のエピソードのアメノウズメの岩戸神楽や、クシナダ姫のアクションシーンで、作画の参考に撮影されている。

大塚康生月岡貞夫が半年かけて作画した八叉の大蛇と天早駒(アメノハヤコマ)にまたがるスサノオの空中戦は300カット、動画1万枚を超える日本アニメーション史上に残る名場面として、評価が高い[4][5][6]

日本国外の配給はコロムビア映画が担当した、アメリカでは1964年に『The Little Prince and The Eight-Headed Dragon』の題名で公開[7]

DVDは2002年11月21日発売。

音楽

音楽担当の伊福部昭は日本クラシック音楽界の第一人者であり、東宝特撮をはじめとする映画の劇伴音楽(BGM)を数多く作曲したことでも知られるが、同じく日本神話に題材をとり、須佐之男命の大蛇退治が描かれた1959年の東宝映画『日本誕生』の音楽などを受けて、音楽担当として起用された。ここでの伊福部の仕事は単なるBGMにとどまらず、作画、演出と完全に一体化して作品の流れを澱みなくリズミカルに紡ぎだしてゆく優れたものであり、楽器によって表現する効果音の領域にまで踏み込んでいる。[8]

演出の芹川有吾は、本作の製作に当たって、伊福部の音楽に非常に感銘を受けたと語っていて、1972年に同じく東映動画によるテレビアニメ、『マジンガーZ』第1話の演出を担当した際の、巨大ロボット「マジンガーZ」が初始動するシーンにも、本作の音楽の一部を使用している。また本作の音楽は、作曲者・伊福部昭により、2003年に同名の交響組曲として纏められている。

スタッフ

  • 製作:大川博
  • 企画:吉田信高橋勇飯島敬
  • 脚本:池田一朗、飯島敬
  • 音楽:伊福部昭
  • 作画監督:森康二
  • 原画:古沢日出夫、熊川正雄、大塚康生、楠部大吉郎、永沢詢、勝井千賀雄、奥山玲子、喜多真佐武
  • 動画監修:山本早苗
  • 動画:月岡貞夫小田部羊一、竹内留吉、彦根範夫、小田克也、生野徹太、堰合昇、大田朱美、中谷恭子、小林和子、吉田茂承、勝田稔男、児玉喬夫、相磯嘉雄、菊池貞雄、斎藤賢、福島信行、森英樹、平田敏夫、笠井晴子、斎藤智、花田玲子、小林敏明、柴田圭子、香西隆男、飯田〓一、田村真也、勝田稔男、木村圭市郎、小泉謙三、森下圭介、長尾雅子、赤堀幹治、上口照人、松原明徳、金山通弘、平川謹之介、我妻宏、窪田勝子、斎藤英子、菊地勝子、杉山一美、尾崎茂雄、岡迫亘弘、黒沢隆夫、坂野隆雄、木野達児、橋本隆範、永木龍博、浅田清隆、阿久津文雄、細田暉雄、草間信之助、阿部隆、村松錦三郎、羽根章悦、池原昭治、小川明弘、薄田嘉信、林静一、堀池義治、竹内大三、藤野八州雄、藤本芳弘、正井融、倉橋孝治、向中野義雄、新井才夫、辻忠直、上村栄司、的場茂夫
  • 美術:小山礼司
  • 考証:蕗谷虹児
  • 舞踏振付:旗野恵美
  • 撮影:石川光明、菅原英明
  • 背景:福本智雄、杉本英子、影山 勇、千葉秀雄
  • 色彩設計:横井三郎
  • トレース:進藤みつ子、坂本洋子、刈屋貞子、湯沢加代子
  • 彩色:中村富美子、戸塚房江、関一江、伊藤滋子
  • 編集:稲葉郁三
  • 録音:森武、石井幸夫
  • 音響効果:岩藤竜三
  • 演出助手:高畑勲、矢吹公郎
  • 進行:松下秀民
  • 演出:芹川有吾
  • 主題歌:「母のない子の子守歌」
作詞 もりしまたかし / 作曲 伊福部昭 / 歌 渡部節子

声の出演

ストーリー


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


王子スサノオは両親イザナギイザナミのもと、オノゴロ島で楽しく暮らしていた。トラのタロウですら打ち負かしてしまう元気な少年である。ところがある日、母イザナミが亡くなってしまう。幼さゆえに母の死の意味を理解できず、泣きつかれて浜辺で寝てしまったスサノオの幻想の中に、母イザナミが現れ、勾玉を与えスサノオを励ます。スサノオは母が去った黄泉の国に母を訪ねていくことを決意。舟を作り、ウサギのアカハナを供に船出する。

大海原で暴れる怪魚アクルを退治して、海の神ワダツミに感謝され、兄ツクヨミが治める夜の国(ヨルノオスクニ)へと案内される。ツクヨミに黄泉の国への道を尋ねるが、教えてもらえず、火の国を訪ねる。火の国は、火の神が暴れる荒廃した土地だった。スサノオは火の神と戦い、兄ツクヨミが餞別にアカハナに渡していた「氷の玉」の助けを借りて、火の神を打ち負かす。移住できる豊かな土地を探したいと望む火の国の住民の代表・タイタン坊を供に加え、スサノオは姉アマテラスが治める高天原に行く。

姉の勧めもあり、スサノオは高天原で働き始めたものの、いくつもの失敗が重なり、アマテラスは岩戸に隠れてしまう。日の神アマテラスが隠れてしまい、世界が真っ暗になってしまったため、オモイカネを始めとする高天原の住人たちは、一計を案じ、アマテラスを岩戸から連れ出すのに成功する。一連の騒動の責任を感じたスサノオの反省の様子を見て、姉アマテラスはスサノオを励まし、出雲の国に送り出す。

出雲の国は、荒廃し、悲しみに満ちた土地だった。母イザナミの面影を思わせる少女・クシナダ姫が怪物・八叉の大蛇(ヤマタノオロチ)の生贄にされてしまうのだという。クシナダ姫と両親の嘆きを見たスサノオはヤマタノオロチを退治することを申し出る。

ヤマタノオロチはその名のとおり、八つの頭を持つ凄まじい怪物だった。スサノオは天馬・天早駒(アメノハヤコマ)の力と、アカハナとタイタン坊らの助力も借り、果敢に立ち向かうが、ヤマタノオロチの最後の頭を前に剣を折られ、追い詰められる。その時、母イザナミから贈られた勾玉のお守りが剣に変じた。死闘を終え、気を失ってクシナダ姫に発見されたスサノオは、誇らしげに勝利を告げる。そして、彼らの目の前でヤマタノオロチの亡骸は緑の山々や水の流れに変わっていった。やがて、遥か彼方の青空に虹がかかり、母イザナミの幻がスサノオたちを祝福した。「この土地こそが母なる幸せの国だ」と。

受賞

出典

  1. ^ 「アニメーション座談会 根性ある人は150本すべてみなさい!」『世界と日本のアニメーションベスト150』ふゅーじょんぷろだくと編、ふゅーじょんぷろだくと、2003年、p81。
  2. ^ 大塚康生、森遊机『大塚康生インタビュー アニメーション縦横無尽』実業之日本社、2006年、p245.
  3. ^ 高畑勲「60年代頃の東映動画が日本のアニメーションにもたらしたもの」『作画汗まみれ 増補改訂版』大塚康生、徳間書店、2001年、p252.
  4. ^ 大地丙太郎「わんぱく王子の大蛇退治 単純にワクワクできて、やさしさを素直に表現している良質のアニメーション」『世界と日本のアニメーションベスト150』p23。
  5. ^ おかだえみこ『ディズニー、手塚からジブリ、ピクサーへ 歴史をつくったアニメ・キャラクターたち』キネマ旬報社、2006年、p134。
  6. ^ 氷川竜介「アニメーション表現の歴史」『SFアニメが面白い』EYECOM Files編、アスキー、1997年、p168。
  7. ^ 草薙聡志『アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?』徳間書店、2003年、p60.
  8. ^ 特に「アメノウズメの踊り」の場面は、伊福部と作画スタッフの綿密な打ち合わせの後、作画以前に録音され、旗野恵美バレエ団によるライブアクション撮影後、その映像をもとに作画された。このシーンの原画は、今はイラストレーターとして活躍している永沢詢(現・永沢まこと)が担当した。

参考資料

  • アニメージュ編集部編『劇場アニメ70年史』徳間書店、1989年、p43
  • 「「わんぱく王子の大蛇退治」と作画体制の確立」『日本アニメの飛翔期』細菅敦編集、読売新聞社、美術館連絡協議会、2000年、pp81-98.
  • 大塚康生『作画汗まみれ 増補改訂版』徳間書店、2001年、pp86-94
  • 『東映アニメーション50年史 1956-2006 ~走りだす夢の先に~』東映アニメーション、2006年、p31、p36
  • 日本コロムビア 「オリジナルBGMコレクション わんぱく王子の大蛇退治」解説

外部リンク