OTTサービス
OTTサービス(Over-the-Top media service:オーバー・ザ・トップ・メディアサービス)は、インターネットを介して視聴者に直接提供されるメディアサービスのことである。日本では一般的に動画配信サービス、ストリーミングサービスと呼ばれるものの多くがこれに当てはまるが、それらに限らず音声通話やメッセージングなども含む広い概念を指す[1]。
OTTは、ケーブルテレビやブロードキャスト(地上波)、衛星放送など、従来コンテンツの管理者や配信者として機能していた企業を経由せずに提供される[2]。
映画やテレビのコンテンツ(他の制作者から取得した既存のコンテンツや、提供者が制作するオリジナルコンテンツを含む)へのアクセスを提供するサブスクリプションのビデオ・オン・デマンド(SVoD)サービスはOTTの形態の一つである。
OTTは、従来の衛星放送やケーブルテレビとは異なり、セットトップボックスなどの専用機器を必要とせず、一般のインターネット回線を利用する。視聴者が自由に選んで契約できるパッケージ形式で提供する企業も存在する。
OTTサービスは、通常、パソコン上のウェブサイトや、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器、ゲーム機などのデジタルメディアプレーヤー、スマートテレビプラットフォームを搭載したテレビなどのアプリを介して利用される。
定義
[編集]2011年、カナダの電気通信規制機関であるカナダラジオテレビ通信委員会は、「(ケーブルや衛星などの)配信専用の施設やネットワークに依存しない番組へのインターネットアクセスが、'OTT' サービスと呼ばれるものの特徴であると考える」と述べた[3]。
ケーブルテレビやIPTVが提供するビデオ・オン・デマンドの映像配信システムは、チャンネルを瞬時に変更できる厳重な管理のネットワークであるのに対し、iTunesなどのOTTサービスでは、映像を先にダウンロードしてから再生する必要があり、Netflix、Hulu、Disney+、Amazon Prime VideoなどのOTTプレーヤーでは、映画のダウンロードが完了する前に再生を開始するもの(ストリーミング)もある[4]。
米国の連邦通信委員会は、OTTサービスをMVPD(多チャンネル映像配信サービス)とOVD(オンラインビデオ配信サービス)の2つのグループに分類している[5]。
バーチャルMVPDには、「AT&T TV」「fuboTV」「Sling TV」「Hulu + Live TV」「YouTube TV」など、さまざまなサービスがある。
背景
[編集]放送において、OTTコンテンツとは、インターネット上で配信される音声、映像、その他のメディアコンテンツのことで、コンテンツの制御や配信にMSO(Multiple-System Operator)が関与しないものである。 インターネットプロバイダーは、IPパケットの内容は知っていても、コンテンツの視聴能力、著作権、その他の再配布については責任を負わず、コントロールすることもできない。このモデルは、有料テレビ、ビデオ・オン・デマンド、インターネット・プロトコル・テレビ(IPTV)のように、インターネットサービスプロバイダ(ISP)から映像や音声のコンテンツを購入またはレンタルする場合とは対照的である[6]。OTTとは、第三者が提供するコンテンツをエンドユーザーに配信するもので、ISPは単にIPパケットを伝送するだけである[7][8][9][10]。
コンテンツの種類
[編集]OTTテレビ
[編集]一般的にインターネットテレビなどと呼ばれる。この信号は、地上波や衛星からテレビ信号を受信するのではなく、インターネットや携帯電話のネットワークを介して受信する。アクセスは、アプリまたは別個のOTTドングルやボックスを使って、携帯電話、PC、スマートテレビに接続し、映像配信事業者がコントロールする。 2017年半ばには、米国の家庭の58%が1カ月に1回、OTTチャンネルにアクセスするようになり、OTTチャンネルの広告収入は、ウェブブラウザのプラグインによるものを上回った[11]。
OTTイベント
[編集]同時視聴者数の記録は、ディズニーが運営するインドのビデオストリーミングプラットフォーム「Hotstar」の1,860万人だった[12]。
OTTメッセージング
[編集]モバイルネットワーク事業者が提供するテキストメッセージングサービスの代わりに、第三者が提供するインスタントメッセージングサービスやオンラインチャットを指す[13][14]。例えば、Facebookが運営するWhatsAppは、インターネットに接続されたスマートフォンでテキストメッセージングを代替する役割を果たしている[15][16]。OTTメッセージングを提供するサービスには、LINE、iMessage、Skype、などがある[17]。
OTT音声通話機能
[編集]一般的にVoIPと呼ばれる。例えばLINE、FaceTime、Skype、Zoomなどで提供されているオープンなインターネット通信プロトコルを使用しており、携帯電話事業者が提供する既存の事業者管理下のサービスを置き換えたり、時には強化したりしている。
アクセス手段とユーザー統計
[編集]消費者は、携帯電話、スマートテレビ(Google TVなど)、セットトップボックス(Apple TV、Fire TV、Rokuなど)、ゲーム機、タブレット、デスクトップおよびラップトップパソコンなど、インターネットに接続されたデバイスを介してOTTコンテンツにアクセスすることができる。
2019年時点で、OTTコンテンツのストリーミング視聴者全体の45%以上をAndroidとiOSのユーザーが占めており、39%のユーザーがウェブを利用してOTTコンテンツにアクセスしている[18]。
2023年の調査では、日本国内のOTTサービスの視聴者数は4,000万人に達し、そのうち約6割が広告付き動画を利用していることが報告された。OTTコンテンツの視聴に使用したデバイスのトップ3は「PC(52%)」「スマートフォン(44%)」「コネクテッドTV(33%)」であった[19]。
脚注
[編集]- ^ “最新ITキーワード:OTT(オーバー・ザ・トップ)”. BP Navigator to GO. 2024年7月14日閲覧。
- ^ Jarvey, Natalie (15 September 2017). “Can CBS Change the Streaming Game With 'Star Trek: Discovery'?”. The Holywood Reporter. 2017年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。27 October 2017閲覧。
- ^ (CRTC), Government of Canada, Canadian Radio-television and Telecommunications Commission. “Results of the fact-finding exercise on the over-the-top programming services”. www.crtc.gc.ca. 2017年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。30 May 2017閲覧。
- ^ Cansado, Jose Miguel (13 October 2008). “Will Internet TV Kill IPTV?”. 2017年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。30 May 2017閲覧。
- ^ “FCC Officially Launches OVD Definition NPRM” (英語). Broadcasting & Cable. 2017年8月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月22日閲覧。
- ^ IPTV is the delivery of television content using signals based on the logical Internet protocol (IP), rather than through traditional terrestrial, satellite signal, and cable television formats.
- ^ Hansell, Saul (3 March 2009). “Time Warner Goes Over the Top”. The New York Times. 2011年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2016閲覧。
- ^ Hansell, Saul (3 March 2009). “Time Warner Goes Over the Top”. The New York Times. 2011年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2016閲覧。
- ^ Hansell, Saul (3 March 2009). “Time Warner Goes Over the Top”. The New York Times. 2011年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2016閲覧。
- ^ “Who Is Playing The OTT Game And How To Win It”. Business Insider (30 December 2010). 2016年4月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2016閲覧。
- ^ Andrew Orlowski; Can the last person watching desktop video please turn out the light? Archived 2017-08-08 at the Wayback Machine., The Register, 8 Aug 2017 (retrieved 8 Aug 2017).
- ^ Manish Singh; Disney’s Indian streaming service, sets new global record for live viewership, Techcrunch, 12 May 2019 (retrieved 12 May 2019).
- ^ “Chart of the Day: Mobile Messaging”. Business Insider (17 May 2013). 2014年2月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。10 February 2014閲覧。
- ^ Maytom, Tim (4 August 2014). “Over-The-Top Messaging Apps Overtake SMS Messaging”. Mobile Marketing Magazine. 2015年9月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。28 August 2015閲覧。
- ^ Albergotti, Reed; MacMillan, Douglas; Rusli, Evelyn (20 February 2014). “Facebook's $18 Billion Deal Sets High Bar”. The Wall Street Journal
- ^ Rao, Leena (4 September 2015). “WhatsApp hits 900 million users”. Fortune. 2016年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。27 January 2016閲覧。
- ^ “Apps Roundup: Best Messaging Apps”. Tom's Guide (4 Oct 2016). 2017年2月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年2月14日閲覧。
- ^ Johnson, James (2019年1月24日). “OTT Content: What We Learned From 1.1 Million Subscribers” (英語). Uscreen. 2019年11月1日閲覧。
- ^ “国内OTT視聴者、4,000万人に到達/6割が広告付き動画を利用【The Trade Desk調査】”. MarkeZine (2023年5月17日). 2024年7月27日閲覧。
参考文献
[編集]- “FCC Adopts 15th Report On Video Competition”. U.S. Federal Communications Commission (22 July 2013). 7 March 2014閲覧。 Announcement of release Report.
- “User Interface Holds the Key to OTT Success”. Pay OTT TV (11 March 2011). 18 June 2011時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2016閲覧。