英国式ブラスバンド

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英国式ブラスバンド(えいこくしきブラスバンド、: British-style brass band)とは、サクソルン属の金管楽器と直管楽器のトロンボーン打楽器で構成される金管バンドである。日本では吹奏楽の事をさして「ブラスバンド」と言うことがあるが、イギリスでは吹奏楽はウィンド・バンド (wind band) として明確に区別されている。

歴史[編集]

その歴史は古く、19世紀後半にイギリスで確立された。始まりは、救世軍が街角で募金などを募るために演奏していた小規模な金管バンドだったようである。救世軍の世界各地のブラスバンドは世界的にも有名である。後に炭鉱労働者の息抜きや安らぎのために結成された金管バンドが各地に普及し、現在のような形に発展した。その過程で重要となったのが、1851年ロンドン万国博覧会でもたらされた、機能性と音色の統一に優れたサクソルンであった。その後、コンテスト(後述)の継続的な開催によって編成の統一や演奏水準の向上、レパートリーの拡充が進み、現在に至る。

現在の英国では町に1つはバンドがある、というほど普及しており、2000程の団体が活動しているといわれている。地域に密着した存在となっているようで、企業がバンドのスポンサーになるのも通例である。他にも米国豪州欧州各地でブラスバンドは盛んであり、日本でも徐々に定着しつつある。

使用楽器・編成[編集]

ブラスバンドの編成

代表的な編成は以下の通りである。多くの楽曲はレギュレーションされた以下の28人編成を前提に作曲、編曲されている。

コルネット・セクション[編集]

コルネット・セクションは、通常10名と最も人数が多いセクションである。多くの場合前列と後列に分かれ、前列はフロント・ロー・コルネット (Front Row Cornet) と呼ばれ、ソロ・コルネットと呼ばれるパートが配置される。後列はバック・ロー・コルネット (Back Row Cornet) と呼ばれ、ソプラノ・コルネット、リピアノ・コルネット、セカンド・コルネット、サード・コルネットと各パートが配置される。ソプラノ・コルネットはE♭の調性を持ち、実音に対し短3度低い音で記譜される(いわゆるin E♭)。それ以外のコルネットはB♭の調性を持ち、実音に対し長2度高い音で記譜される(いわゆるin B♭)。いずれもト音譜表で記譜される。

ソロ・コルネット (Solo Cornet)
通常4名。主に主旋律を担当する。ソロ・コルネットの首席奏者はプリンシパル・ソロ・コルネット (Principal Solo Cornet) と呼び、コンサートマスターのような扱いを受け、単独ソロを担当することが多く音楽性の豊かな奏者が担当することが多い。その補佐をする奏者1名をアシスタント・プリンシパル・ソロ・コルネット (Assistant Principal Solo Cornet)、残りの2名をトゥッティ・ソロ・コルネット (Tutti Solo Cornet) と呼ぶ。
ソプラノ・コルネット (Soprano Cornet)
通常1名。主旋律の最高音を担当したり、ソロを担当したりする。ブラスバンドの華やかさの決め手となる重要なポジション。管の長さが短いために安定した音程をとりにくい楽器とされる。楽器の改良がB♭管のコルネットに比べ進んでいないことも困難さに拍車をかけている。
リピアノ・コルネット (Repiano Cornet)
1番目の伴奏パート。通常1名。副旋律を担当したり、ハーモニーを構成していたりするなど、さまざまな役割の演奏を要求される。
セカンド・コルネット (Second Cornet)
2番目の伴奏パート。通常2名。主にハーモニーや打ち込みを担当し、サード・コルネットとともにホーンセクションとの音色の融和も求められる。
サード・コルネット (Third Cornet)
3番目の伴奏パート。通常2名。主にハーモニーや打ち込みを担当し、セカンド・コルネットとともにホーンセクションとの音色の融和も求められる。

ホーン・セクション[編集]

ホーン・セクションは、英国式ブラスバンドにおいて特徴的なパートであり、英国式ブラスバンドとしてのサウンドを決定付ける。

フリューゲルホルン (Flugelhorn)
通常1名。コルネットと同じB♭の調性を持つ。柔らかな音色のため、ゆったりとした場面でソロを担当することが多い。コルネットに比べて高音域の演奏が難しい。実音に対し長2度高い音にてト音譜表で記譜される。
テナーホーン (Tenor Horn)
日本ではアルトホルン (Alto Horn) とも呼ばれていた。通常3名で、ソロ、ファースト、セカンドの3パートに分かれていることが多い。E♭の調性を持ち、ソプラノ・コルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。通常ハーモニーを担当する。あまり楽器の改良が進んでおらず、高音域や低音域の演奏が他の楽器に比べ難しい。実音に対し長6度高い音にてト音譜表で記譜される。
バリトン (Baritone)
バリトンホーンと呼ばれることもまれにある。通常2名でファースト、セカンドに分かれていることが多い。B♭の調性を持ち、コルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。ユーフォニアムよりも若干細めの管である。あまり目立たないパートではあるが、音楽的にも座席でもテナーホーン、トロンボーン、ユーフォニアムの間に位置するため、各パートとの連携が多く重要である。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。

トロンボーン・セクション[編集]

トロンボーン・セクションは、B♭の調性を持ち、バリトン、ユーフォニアムと同じくコルネットの1オクターブ下の音域を担当する。円錐管主体の英国式ブラスバンドの中で唯一の円筒管楽器として、ピストンではなくスライドという柔軟な音程調節機構を持つ楽器として極めて重要である。鋭く硬い音形でサウンドにメリハリを持たせたり、完全な和音を構成し他の楽器とハーモニーを組んだりする。

トロンボーン
通常2名で、ファースト、セカンドに分かれている。まれにソロ・トロンボーン奏者のいるバンドもある。ファースト・トロンボーンはテナー・トロンボーンを、セカンド・トロンボーンはテナーバス・トロンボーンを使用することが主流である。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。
バス・トロンボーン (Bass Trombone)
通常1名。トロンボーンセクションの3番目として、またベース・セクションのトップとして活躍する重要なパート。太い独特の音色からソロを担当することもよくある。英国式ブラスバンドでは唯一、ヘ音譜表で実音にて記譜される。
ユーフォニアム (Euphonium)
通常2名。B♭の調性を持ち、バリトン、トロンボーンと同様にコルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。ソロ・コルネットと同様、主にメロディーラインを受け持つ。柔らかい音を持ち機動性に富み、ソロ楽器として活躍する。バリトンとセクションを構成したり、ベースセクションと連携することもあるが、比較的独立したセクションと考えられていることが多い。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。

ベース・セクション[編集]

チューバ/バス

ベース・セクションは、低音域を支えるセクション。典型的にはアップライト式のバス(バス・チューバ)を使用するのが主流である。他の演奏形態ではめったにみられないミュートを使用する機会が多いのも特徴的である。

E♭バス
E♭の調性を持つバスを使用し、通常2名。日本国内では「エスバス」と呼ばれることが多い。管の長さの割に大きいベルを持ち、豊かで柔らかな音色がする。演奏が容易で広い音域を持ち、機動性に富むのでソロを受け持つことがある。実音に対し長13度高い音にてト音譜表で記譜される。
B♭バス
B♭の調性を持つバスを使用し、通常2名。日本国内では「ベーバス」と呼ばれることが多い。最低音域を担当し、太く安定したサウンドを生み出す。見た目は鈍重な楽器だがE♭バス同様に音域が広く、想像以上の機動性を持つ。他の演奏形態のチューバの譜面に比べて平均的に1オクターブ前後低い音域を担当するため、高度な基礎能力が奏者に要求される。実音に対し長16度高い音にてト音譜表で記譜される。

パーカッション・セクション[編集]

パーカッション・セクションは、打楽器全般を通常3名で担当する。典型的編成としてはティンパニ1名、ドラムセット1名、グロッケンシュピールシロフォンといった音階打楽器1名というのが多い。3名という人数を最大限に活用するため、楽器の持ち替えが多用される。

サウンド[編集]

他の演奏形態では金管楽器には鋭く刺激的な音色が要求されるが、英国式ブラスバンドではパイプオルガンのような荘厳でやわらかく落ち着いたサウンドがする。これは、楽器のベルが観客に向くことなく配置され、サラウンド感のあるほどよく調和された間接音を聴衆が聞くことになるからである。他の編成に比べビブラートを多用することも、特有のサウンドを生み出す要因の一つとなっている。そのため、賛美歌のような美しいハーモニーを持つ楽曲の演奏に適しており、救世軍の布教活動に極めて効果をもたらした。一般に座席配置は『コの字型』と言われるが、実際には馬蹄形に配置することが多く、実際その方がよりよい音がすることが多い。

楽曲[編集]

ブラスバンドは金管楽器と打楽器で演奏するため、それぞれの楽器の扱われ方も他のジャンルと異なる。休符が少ないことからも、耐久性・持久性が要求される。

ブラスバンドのオリジナル作品というのは多くあり、古くはエルガーヴォーン・ウィリアムズホルストなどの大作曲家も作曲している。またブラスバンド作品を中心とする作曲家が他ジャンルからブラスバンドへのアレンジを積極的に行ってもいる。

主な作・編曲家[編集]

コンテスト[編集]

ブラスバンドのコンテストは、より向上心を煽るためイギリスでは昔から盛んに行われていたが、近年になってヨーロッパ選手権などが催されるようになり、徐々に広がりを見せている。

代表的なものには以下がある。

  • National Brass Band Championship of Great Britain(全英選手権、1900年から)
  • European Brass Band Championship(ヨーロッパ選手権、1978年から)
  • All England Masters Brass Band Championship(全英マスターズ、1989年から)
  • British Open Brass Band Championship(ブリティッシュオープン、1853年から)

ブリティッシュオープンはプロ・アマ混合の大会であるが、ほとんどアマチュアの大会である。上位のアマチュアの団体は比較的ハイレベルである。

内容はセクション毎に階層分けされ、演奏レベルで区分される(詳細はグレード制 (イギリスのブラスバンド)を参照)。ほとんどが課題曲(他に自由曲など)で審査され、審査はブラインド審査といって、予め渡されたスコアによって減点方法で評価する。

また、コンテストの開催はブラスバンドのレパートリーの形成にも大きく貢献している。全英選手権を立ち上げたジョン・ヘンリー・アイルズ(John Henry Iles)が1913年パーシー・フレッチャー英語版に委嘱した『労働と愛』(Labour And Love)は、管弦楽作品やオペラからの編曲を専ら演奏していた当時のブラスバンド界において貴重なオリジナル作品だった。その後毎年、課題曲(Set Test Piece)として新作が書き下ろされるようになり、上述のエルガー、ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズらも、アイルズの依頼でブラスバンドのために筆を執っている[1]。現代においても、上述のスパーク、ウィルビー、エレビーなどの代表作の多くがコンテストにおける委嘱から生まれている。

主要なバンド[編集]

イギリスの主要なバンド[編集]

スポンサーによって名前が変わることがあるが、100年以上も続くバンドもある。

日本の主要なバンド[編集]

救世軍関西ディビジョナルバンド(救世軍
代表は前田徳晴。西日本連隊に属する小隊の士官・下士官・特務大尉・兵士等で構成されたバンドの最高責任者。職業は救世軍社会福祉事業団施設である希望館(児童福祉施設)の施設長を務める。
Japan Staff Band(救世軍
代表は引地正樹。鈴木肇の定年退職にあたり引地正樹が後任。スタッフバンドはその国の本部(本営)に所属し、日本では各方面からメンバーが集まっている。本来は本営に所属する士官・下士官・特務大尉・兵士等で構成される。世界レベルでは小隊(教会)バンドや連隊(連合)バンドを含むと約10万人のプレーヤーが在籍し、救世軍の礼拝には欠かせない。「歩く銀色のパイプオルガン」とも呼ばれている。
Tokyo Brass Society
代表は山本武雄。日本のブラスバンドとしては最古参となる。
BREEZE BRASS BAND
大阪で活動する、日本を代表するプロのブラスバンド。代表・指揮は上村和義。1996年のヨーロッパツアーで高い評価を受け、日本でもっとも有名なブラスバンドの一つとして英国でも評価される。多くの作品を日本に紹介し、ブラスバンドを知らしめた功績は大きい。
VIVID BRASS TOKYO
関東で活動するプロのブラスバンド。ブラスバンドの新しいサウンドを求めて活動中。
The Band of the Black Colt (BBC)
1976年に初声を上げた、市民バンドでは最も日本で古い歴史を持つ、英国スタイル金管バンド。
宇都宮ブラスソサエティ
1977年発足の老舗バンド。
東京シティコンサートブラス
2000年3月発足。指揮者にリチャード・エヴァンス(Richard Evans)を招いて精力的に活動中。
大阪コンサートブラス
2008年に発足した、音楽専攻生や専攻出身者を中心に構成されたバンド。
OSAKA HARMONY BRASS
2000年6月発足。2003年にオーストラリア・チャンピオンシップにて6位入賞。指揮者は岡本篤彦。日本を代表するバンドのひとつ。
BRIGHT BRASS ☆ STORM
1997年4月発足。大阪初のアマチュア・ブラスバンド。旧名BRASS BAND☆SAKAI。指揮は上村和義。マスバンド形式をとる、日本ではまだ珍しい形式のバンド。
洗足学園音楽大学ブリティッシュ・ブラス
日本国内の音楽大学で初めて結成されたブラスバンド。主に金管楽器専攻の学生で結成。従来のオリジナル曲の他、多方面の奏者との競演や邦人作品などを取り上げている。
国立音楽大学金管バンド(くにたち・ブラスクワイヤー)
2002年、管打楽器専攻生の有志によって結成。ブリティッシュスタイルの追求の傍ら、新しい可能性を求めて、オーケストラ曲の編曲などにも挑戦している[2]
ALL☆STAR BRASS BAND
1998年発足。くらしき作陽大学のサークルとして活動中。毎年行われる定期演奏会では、ブラスバンドオリジナル曲を始め、クラシックやポップスなど幅広いジャンルを演奏し、高い評価を受けている。地域との関わりも深いバンドである。
GREST BRASS BAND(グリストブラスバンド)
1999年に創設された京都府宇治田原町に本拠を置くブラスバンド。代表・指揮者は福永隆至。京都府下では2つしかないブリティッシュブラスバンドのひとつということもあり、このスタイルを広めるために積極的に演奏活動を繰り広げている。また、近年は地域密着型のスタイルに加えて国際的な視野も持って活動範囲を広げている。
Art Freedom Brassband(アートフリーダム・ブラスバンド)Webサイト
2005年発足。略称はAFB。横浜市随一のアマチュアバンド。指揮および音楽監督は、VIVID BRASS TOKYOの金子敦則。年1回の定期演奏会のほか、毎年秋に、楽団の垣根を超えた有志ブラスバンド奏者による、東日本大震災向けのチャリティイベントを実施している。[3]
ブリティッシュブラスちば(BBCb) Webサイト
千葉県の県庁所在地における唯一の英国式金管バンドで2010年6月発足。

主要なブラスバンド奏者・指導者[編集]

日本の主要なブラスバンド奏者・指導者[編集]

  • 鈴木肇(指揮者/旧国内最高音楽権威者)- Japan Staff Bandの旧楽長と音楽における国内最大権威を持っていた。
  • 山本武雄(指揮者/指導者)- 日本のブラスバンド黎明期を支えた指導者。東京ブラスソサエティ代表。
  • 上村和義(指揮者/指導者)- BREEZE BRASS BAND代表。日本でブラスバンドを普及させた功労者。
  • 岡本篤彦(コルネット奏者/指揮者/指導者)- 日本で唯一のブラスバンドのプロ・コルネット奏者。英国にて研鑽を積んだ。

脚注[編集]

  1. ^ Grimethorpe Colliery Band "Brass from the Masters, Vol. 2" (Chandos, CHAN4553) 解説 (Peter Parkes, 1999)
  2. ^ 国立音楽大学金管バンド KUNITACHI BRASS CHOIR”. 2011年3月22日閲覧。
  3. ^ アートフリーダム・ブラスバンド(英国式金管バンド)”. 2011年3月22日閲覧。

関連項目 [編集]

外部リンク[編集]