法の下の平等

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法の下の平等(ほうのもとのびょうどう)とは、国民1人1人が国家との法的権利義務の関係において等しく扱われなければならないという観念。平等則(びょうどうそく)または平等原則(びょうどうげんそく)と呼ばれることもある。近代憲法では「平等」は基本的な原則であり、多くの国でこのような規定が見られる。ただし、平等原則の規定・用語については国や時代により微妙に差異があり[1]、法の前の平等として規定されている場合もある[2]

歴史[編集]

平等思想そのものの淵源は古代ギリシャ思想あるいは中世キリスト教の教説(神の前の平等)にまで遡る[3]

しかし、平等原則が国家と人間の在り方として捉えられるようになったのは近代以後である[3]アメリカ独立宣言フランス人権宣言は法の下の平等の保障について述べている。

1945年国連総会決議で採択された世界人権宣言の法的保障と違反に対する法的救済を目的に欧州評議会により採択された人権と基本的自由の保護のための条約や国連総会による市民的及び政治的権利に関する国際規約第26条は『法の下の平等』を明記し、第2条で如何なる差別なしに規約の保障する自由権の享受の保障を明記し、同時に採択された経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の弟2条も同規約の定める社会権を差別なく享受することを保障している。

平等の概念[編集]

相対的平等と絶対的平等[編集]

  • 絶対的平等
個々の条件にかかわらず機械的に均等に扱う。
  • 相対的平等
同一条件のもとにおいて均等に扱う。

形式的平等と実質的平等[編集]

  • 形式的平等(機会平等主義)
すべての国民に対して経済活動等の行為の機会を平等に与えようとする機会の平等を意味する。
  • 実質的平等(結果平等主義)
すべての国民の経済活動等の行為の結果を平等にしていこうとする結果の平等を意味する。

日本国憲法における平等原則[編集]

概説[編集]

日本国憲法においては14条に規定がある。

日本国憲法第14条

  1. すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
  2. 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
  3. 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

なお、明治憲法は平等原則について公務就任権についてのみ規定を置いており[4]、公務就任能力以外の事項には原則として平等は及ばず[5]、憲法上の機会の平等は限定されたものであった[2]

大日本帝国憲法第19条
日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得

明治憲法が模範とした1850年プロイセン憲法では「プロイセン人は、法律の前に平等である。階級の特権は、これを認めない。法律に定める条件を備えた有資格者は、均しく公務に就くことができる」と定めていたが、明治憲法は公務就任能力の規定だけを置くにとどめている[5]。明治憲法下では男女間の不平等も「均ク」の原理に反するとは考えられておらず、女性は民法、刑法、国籍法など広汎な領域において著しく不利な状態に置かれていた[5]

憲法14条の解釈[編集]

法の下の平等は、平等原則として国民一人一人への平等な取り扱いを国家に対して要求したものである。もっとも、法の下の平等の意味については、その文言と関連していくつかの問題がある。

「法の下」の意義
憲法上の「法の下」という文言は、法適用の平等のみを意味するとも考えられるが(法適用平等説・立法者非拘束説)、内容が不平等であれば平等に適用しても適正な結果は得られないため一般的には法内容も平等であることを意味すると考えられている(法内容平等説・立法者拘束説)。
「平等」の意義
憲法上の「平等」という文言は、近代法の大原則である個人間の平等を保障したもので、基本的には形式的平等(機会平等主義)を意味すると考えられている。実質的平等の観点については日本国憲法25条以下の社会権によるべきで、14条ではそれによる格差是正のための措置が一定程度まで受容されているにすぎないとみる。ただし、現実に存在する不平等を解消するためには形式的平等を謳うのみでは不十分で実質的平等の観点についても14条で考慮すべきとする有力な見解もある。

平等権[編集]

法の下の平等には平等原則だけでなく平等を権利として主張すること(平等権)も保障する趣旨なのか問題になるが、平等権として権利性を認めるのが通説であり、判例もそれを認めている。

違憲審査基準[編集]

平等原則又は平等権に違反するような行為の違憲性の判断基準につき、判例は具体的に制約される権利にもよるが一般には合理的な理由があればよいとしているが、学説はより厳格な基準を用いるべきと主張している。また、憲法第14条に列挙されている事由とそうでない事由とで違憲性の判断基準に強弱をつけるべき(列挙事由に抵触する行為は違憲性を推定すべき、など)と主張する見解もある。

憲法14条1項後段列挙事由[編集]

14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等」を前段、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」を後段とし、後段に列挙されている「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」という差別の具体例を後段列挙事由と言う。

列挙の意味[編集]

学説には大きく分けて次の3つがある。

  • 限定列挙説
差別は絶対的に禁止されるが、後段列挙事由のみが禁止される差別とされる。
  • 特別意味説
差別は原則的に禁止されるが、後段列挙事由は、このうち特に重要なものが記されているとして、より厳格な基準で審査する。
  • 例示説(判例)
後段列挙事由は、法の下の平等を、単に例示しただけのものであって、他の差別と同様に原則禁止されると解する。

具体的内容[編集]

  • 人種
人類学上の種別を意味する。
  • 信条
広く個人の世界観を意味する。
  • 性別
男女の別を意味する。男女差別も参照。
  • 社会的身分
広く人が社会において一時的ではなく占めている地位を意味する(反対説あり)。
  • 門地
家柄などを意味する。

平等原則の具体化[編集]

日本国憲法での平等原則の具体化として次のような条文がある。

日本における主な判例[編集]

尊属殺重罰規定違憲判決[編集]

刑法200条の尊属殺人の法定刑が重きに過ぎるとした事件。

投票価値の平等[編集]

国政選挙の選挙区の決め方で実質的な投票価値に地域ごとに差がつくことから問題になる。

非嫡出子の相続不平等[編集]

非嫡出子相続分嫡出子より低く定めた民法900条4号の規定の合憲性が問題になったが、最高裁は、合憲であると判断した[6]

しかし、最高裁は2013年9月4日、この規定について家族に関する考え方は時代と共に変わるものであり、現在の非嫡出子に対する法定相続分に関する差別は合理的な理由に欠け、法の下の平等に反するとして違憲判決を下した[7]。 これを受け、国会は民法900条4号の但書前半部を削除した。

国籍法規定違憲判決[編集]

準正による国籍取得の要件を定めた国籍法3条1項の規定が不合理な差別にあたるとした。

注釈[編集]

  1. ^ 『憲法 2 基本的人権(1)』 阿部照哉、有斐閣〈有斐閣双書〉、1975年、111頁。
  2. ^ a b 『憲法 2 基本的人権(1)』 阿部照哉、有斐閣〈有斐閣双書〉、1975年、110頁。
  3. ^ a b 『憲法 2 基本的人権(1)』 阿部照哉、有斐閣〈有斐閣双書〉、1975年、108頁。
  4. ^ 『憲法 2 基本的人権(1)』 阿部照哉、有斐閣〈有斐閣双書〉、1975年、109頁。
  5. ^ a b c 芦部信喜 『憲法学III人権各論(1)増補版』 有斐閣、2000年、12頁。
  6. ^ 最高裁判所 平成7年7月5日大法廷決定
  7. ^ 最高裁判所 平成25年9月4日大法廷決定

関連項目[編集]