岡上淑子

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岡上 淑子(おかのうえ としこ、1928年1月3日 - )は日本の写真家コラージュ作家[1]高知県生まれ・在住。

経歴[編集]

1928年 (昭和3年)、高知県高知市に生まれる。翌年、東京に転居し1945年 (昭和20年) に終戦を挟み高知に疎開した一時期を経て、東洋英和女学院を卒業。恵泉学園に進み、武満浅香(旧姓・若山浅香)と同じクラスになるのは1946年 (昭和21年) である。この人物は、芸術家集団「実験工房」のメンバーだった作曲家の武満徹の後の妻であり、岡上を武満へ繋ぐことになる。

岡上は1950年 (昭和25年)、文化学院カネコデザイン科に入学すると[2]、カラーコーディネートの授業で、雑誌を切り貼りする課題をきっかけにコラージュの面白さに目覚め[要出典]、「ヴォーグ」や「ライフ」などのファッション誌やグラフ誌を切り抜いて貼付けたコラージュ作品の制作を始める[3]。武満浅香を通じて武満徹に、さらに瀧口修造にそれらのコラージュ作品を見てもらい、瀧口より激賞される。作品の評価を受けに通った瀧口邸で、マックス・エルンストのコラージュ作品に初めて触れ、衝撃を受ける[1]

1952年 (昭和27年)、文化学院デザイン科を卒業。コラージュ作家としてデビュー、100点以上の作品を制作する[3]。画家の藤野一友(別名、中川彩子。折口信夫門下の中国文学者藤野岩友の子)と出会い、1957年 (昭和32年) に結婚すると創作活動から遠のく。第一子が誕生する1959年 (昭和34年) 頃から創作活動はほぼ中止している。1967年 (昭和42年)、高知県に転居。

展覧会[編集]

岡上を高く評価した瀧口修造の熱心な勧めもあり、文化学院卒業の翌1953年 (昭和28年)、初の個展をタケミヤ画廊で開く[2][注釈 1]と、東京国立近代美術館の「抽象と幻想」展にも出品[5][6]。2度目の個展もタケミヤ画廊を会場に1956年 (昭和31年) に催し[2]、コラージュ作品とともにモノクロ写真も約50点出品している。その後、生まれ故郷の高知県へ帰る。2000年 (平成12年) にふたたび個展「岡上淑子 フォト・コラージュ-夢のしずく-」(第一生命ギャラリー)を開催する[7][8]まで、まとまった点数の作品を展示することはなかった。

岡上は美術界から忘れかけられた長いブランクを経て、1996年 (平成8年) に写真史家の金子隆一 (東京写真美術館) によって再発見され[3]、「ライトアップ-新しい戦後美術像が見えてきた」展(目黒区美術館)に出品された作品が注目を集める。2002年は2000年の「夢のしずく」(The Third Gallery Aya、大阪)につぐ個展「Okanoue Toshiko: Collages」(ヒューストン美術館)を催し、海外初の作品集 Drop of Dreams: Toshiko Okanoue (Nazraeli Press) が出された。2008年、個展「変容」(The Third Gallery Aya)開催。

初の大規模な回顧展「岡上淑子コラージュ展--はるかなる旅」が2018年、高知県立美術館で催される。 東京都庭園美術館は2019年3月から4月にわたり、個展「フォトコラージュ—岡上淑子 沈黙の奇蹟」を開いた[1]

出品した展覧会 (1996年以降)[編集]

目黒区美術館に出品した1996年から、活動が再開される。

  • 2001年10月21日–同年12月9日「奔る女たち 女性画家の戦前・戦後1930-1950年代」展(栃木県立美術館)[9]
  • 2002年個展「夢のしずく」(The Third Gallery Aya)開催。
  • 2003年「The History of Japanese Photography」(ヒューストン美術館)
  • 2004年12月「コレクション展 平成16年度 新収蔵作品を中心に」(高知県立美術館)
  • 2005年「滝口修造 夢の漂流物」展(世田谷美術館)[10]
瀧口修造とタケミヤ画廊/佐谷画廊企画」展(お茶の水画廊)
  • 2006年3月11日–同年5月21日「現代の版画-写真の活用とイメージの変容」展(東京国立近代美術館)[11]
2006年11月3日–同年12月17日「コラージュとフォトモンタージュ展」(東京都写真美術館)[12]
  • 2008年個展「変容」(The Third Gallery Aya)開催。
「シュルレアリスムと写真-痙攣する美」展(東京都写真美術館)
「Paris Photo (カルーゼル・デュ・ルーヴル/The Third Gallery Aya Booth)
  • 2009年1月20日–同年3月8日「コラージュ—切断と再構成による創造」展(東京都国立近代美術館)[13]
  • 2010年個展「TOSHIKO OKANOUE:DROP OF DREAMS」(Charles A.Hartman Fine Art, アメリカ・ポートランド)開催
「Pictures by Women / A History of Modern Photography」(ニューヨーク近代美術館)
個展「夜間訪問」(Librarie6)開催
  • 2011年「女性シュルレアリスト」展(Librarie6)
「シュルレアリスムとコラージュ」展(高知県立美術館)
  • 2018年1月20日–2018年3月25日「岡上淑子コラージュ展―はるかな旅」展(高知県立美術館)[14]2019年1月26日-2019年4月7日「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」東京都庭園美術館[15]
  • 2021年1月30日–2021年3月13日岡上淑子「呼び声」展(The Third Gallery Aya)

画集[編集]

出版年順

  • 岡上淑子、金子隆一『岡上淑子フォト・コラージュ : 夢のしずく』第一生命保険、2000年。OCLC 168904071 
  • Okanoue, Toshiko (2002). Drop of Dreams: Toshiko Okanoue. Nazraeli Press. ISBN 1590050355 [16]
  • 神保京子(著)、東京都写真美術館(編)「岡上淑子とコラージュの世界--日本のシュルレアリスムにおける位置と活動 (含 英語文)」『東京都写真美術館紀要』第6号、2007年、49-64, 15-18。 
  • . Martina Sauter, Myoung Ho LeeFoam (アムステルダム: Foam Magazine) (15, Summer 2008). (2008). ISBN 9789070516109. OCLC 870163978. 
  • Nakamori, Yasufumi; Graham Bader (2012). Utopia/dystopia: construction and destruction in photography and collage. ヒューストン: Museum of Fine Arts, Houston. ISBN 9780300179606. OCLC 939928765 
  • 岡上淑子『はるかな旅 : 岡上淑子作品集 = A long journey : the works of Toshiko Okanoue』河出書房新社、2015年。ISBN 9784309275611OCLC 905837687 新装版2020年
  • 「岡上淑子 作品集」『ユリイカ』第48巻第10号、2016年8月、ISSN 1342-5641OCLC 7009633671、通号: 684臨増。 
  • 神保京子「岡上淑子 : 優美さとグロテスクの臨界」『ユリイカ』第48巻第10号、2016年8月、233-246頁、ISSN 1342-5641OCLC 7009634474、通号: 684臨増。 
  • 岡上淑子『岡上淑子全作品』河出書房新社、2018年、184頁。 川浪千鶴序、池上裕子解説。高知県立美術館「岡上淑子コラージュ展ーはるかな旅」図録
  • 岡上淑子『岡上淑子フォトコラージュ沈黙の奇蹟』青幻舎、京都、2019年。ISBN 9784861527142OCLC 1084501789 神保京子解説。東京都庭園美術館「岡上淑子フォトコラージュー沈黙の奇蹟」図録[17]
  • 岡上淑子『美しき瞬間 : The Essence of Toshiko Okanoue』河出書房新社、2019年。ISBN 9784309256207OCLC 1088410802 
  • 『岡上淑子・藤野一友の世界』河出書房新社、2022年、藤野可織大瀧啓裕東雅夫解説。福岡市美術館「藤野一友と岡上淑子展」図録

参考文献[編集]

  • 岡上淑子経歴 The Third Gallery Aya、2021年-[18]

関連文献[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ タケミヤ画廊 (1951年–1957年) は、戦前は画材店であった竹見屋が業務を再開した第二次世界大戦後、店内を売場と半分ずつ当てた展示空間。瀧口修造はどの作家の作品をかけるか託されていた[4]

出典[編集]

  1. ^ a b c フォトコラージュ—岡上淑子 沈黙の奇蹟”. 東京都庭園美術館. 2019年3月31日閲覧。
  2. ^ a b c Toshiko Okanoue - Surrealism Today” (英語). surrealismtoday.com (2019年2月26日). 2019年3月16日閲覧。
  3. ^ a b c Toshiko Okanoue | Collection | Ibasho” (英語). www.ibashogallery.com. 2019年3月16日閲覧。
  4. ^ アート・アーカイヴ展X1 タケミヤからの招待状—Takemiya Invitations (慶應義塾大学アート・スペース)”. Tokyo Art Beat. 2019年3月31日閲覧。
  5. ^ 岡上淑子「私とコラージュ」『机』第4巻、紀伊国屋書店、1953年4月5日、12-13頁、doi:10.11501/11006291全国書誌番号:00015507 
  6. ^ 岡上淑子 1928(昭和3)年-”. 高知県立美術館. 2019年3月31日閲覧。
  7. ^ Toshiko Okanoue | amanasalto”. amanasalto.com. 2019年3月16日閲覧。
  8. ^ 岡上淑子のお嬢さんコラージュ」『芸術新潮』第51巻12 (612)、2000年12月、76-79頁、doi:10.11501/6048865ISSN 0435-1657 
  9. ^ 奔る女たち 女性画家の戦前・戦後1930-1950年代”. 栃木県立美術館. 2019年3月31日閲覧。
  10. ^ これまでの企画展:2005.02.05 - 04.10 瀧口修造:夢の漂流物—同時代・前衛美術家たちの贈物 1950s~1970s”. 2019年3月31日閲覧。
  11. ^ 現代の版画-写真の活用とイメージの変容:出品作品リスト—写真コーナー:岡上淑子”. 2019年3月31日閲覧。
  12. ^ 3F コラージュとフォトモンタージュ展2006.11.3(金・祝)—12.17(日)”. 主催:財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館/読売新聞東京本社/美術館連絡協議会■協賛:花王株式会社. 2019年3月31日閲覧。
  13. ^ 「コラージュ - 切断と再構築による創造」展 東京国立近代美術館”. Tokyo Art Beat. 2019年3月31日閲覧。
  14. ^ 高知県立美術館プレスリリース” (2017年12月11日). 2019年4月1日閲覧。
  15. ^ 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟”. 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟. 2020年4月6日閲覧。
  16. ^ Dykstra, Jean (2003). “Book Review: DROP OF DREAMS. Works 1951-1956”. Art on Paper 7 (4): 89. 
  17. ^ アメリカ版 Okanoue, Toshiko. (2007). Miracle of silence. アリゾナ州ツーソン: Nazraeli 
  18. ^ The Third Gallery Aya - Artists 岡上淑子 BIOGRAPHY”. 2021年7月4日閲覧。

外部リンク[編集]

収蔵作品

インタビュー

関連項目[編集]